エリート男子、女子ともに、長年トップに君臨する王者の圧勝だった。「砂地獄」と畏怖されるビワコマイアミランドの難コースを、先頭で駆け抜けた辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)と豊岡英子(パナソニックレディース)。辻浦が9連覇、豊岡が6連覇という揺るぎない記録を打ち立てた。

丸山と竹之内を置き去りにしたチャンピオン辻浦

エリート男子 スタート1分10秒後にはすでに先頭争いが始まるエリート男子 スタート1分10秒後にはすでに先頭争いが始まる photo:Hideaki.TAKAGI琵琶湖東岸、湖岸沿いのビワコマイアミランドで開催されたシクロクロス全日本選手権。2.9kmの周回コースには4カ所の砂セクションや、松林セクションが設定されている。深い砂を踏み抜くパワーとテクニックが要求される難コースだ。

72名がエントリーしたエリートレースは、曇り空の下、気温10度前後の肌寒いコンディションの中スタートした。

エリート男子 竹之内悠(Team Eurasia Museeuw Bikes)が追いつき、先頭は3名にエリート男子 竹之内悠(Team Eurasia Museeuw Bikes)が追いつき、先頭は3名に photo:Kei Tsuji砂セクションのラインの少なさと参加人数の多さから、スタート直後の直線的な舗装路では、集団スプリントさながらのダッシュが繰り広げられる。第一コーナーを抜け、最初の長い砂セクションに先頭で入ってきたのは、辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)と丸山厚(MASSA-FOCUS-OUTDOORPRODUCTS)。後続選手たちが渋滞の影響でで送れる中、辻浦と丸山が並んで砂セクションを駆け抜けた。

その後ろには、少し距離を置いて竹之内悠(Team Eurasia Museeuw Bikes)と小坂光(宇都宮ブリッツェン)が続く。更にその後ろに山本聖吾(スワコレーシング)と小坂正則(スワコレーシング)、池本真也(和光機器タムラクラブ)、大塚潤(GRUPPO ACQUA TAMA)、筧五郎(イナーメ信濃山形)という展開。

エリート男子 辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)と丸山厚(MASSA-FOCUS-OUTDOORPRODUCTS)の距離が開くエリート男子 辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)と丸山厚(MASSA-FOCUS-OUTDOORPRODUCTS)の距離が開く photo:Kei Tsuji先頭で競り合う辻浦と丸山には竹之内が合流し、時折ミスで隊列が乱れながらも、3名でパックを形成して周回する。やがて竹之内が脱落し、先頭は2人に絞られた。

7分40秒台という驚異的なラップタイムを刻む辻浦と丸山。平均22.4km/hというスピードを維持する辻浦が徐々にリードし、丸山がミスで後退しては挽回するを繰り返す。

エリート男子 独走で最終周回に突入した辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)エリート男子 独走で最終周回に突入した辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー) photo:Kei Tsujiこの頃には多くの選手が「80%ルール」により降車を指示される。10番前後で走行していた畑中勇介(シマノレーシング)はパンクによってペースを落とし、辻浦にラップされてしまう。シマノレーシングの村上純平や、同チームの野寺秀徳監督も砂に苦しめられ、見せ場を作れないままレースを終えた。「80%ルール」による降車を免れ、最終周回に入ることが出来たのは僅かに12名だった。

やがて、ゴールまで4周回を残して先頭の辻浦と丸山の距離が10秒、20秒と広がり始める。力強いペダリングで砂セクションを踏み抜き、巧みなハンドルさばきで松林セクションを抜ける辻浦。その勢いは最後まで衰えず、最終的に後続を35秒引き離してゴールへ。沿道の観客たちとハイタッチしながら満面の笑みでゴールした。

エリート男子 ガッツポーズでゴールする辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)エリート男子 ガッツポーズでゴールする辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー) photo:Kei Tsuji

エリート男子 劇的な2位争いを演じた丸山厚(MASSA-FOCUS-OUTDOORPRODUCTS)と竹之内悠(Team Eurasia Museeuw Bikes)エリート男子 劇的な2位争いを演じた丸山厚(MASSA-FOCUS-OUTDOORPRODUCTS)と竹之内悠(Team Eurasia Museeuw Bikes) photo:Kei Tsuji大きなサプライズは2位争いの行方。ずっと3番手を走行していた竹之内は最終周回後半の松林セクションで追い上げ、最終ストレートで前の丸山をキャッチ。スプリントで抜き去り、2位の座を射止めた。

エリート男子 表彰エリート男子 表彰 photo:Hideaki.TAKAGI下馬評通りの、辻浦の9連覇。しかし今年の全日本は、決して万全の体制で挑めていたわけではない。シーズン序盤の体調不良の影響もあり、シーズン前半はその圧倒的な力が影を潜めた。それは本人も認めるところ。「今年は9連覇ということで、周りの期待に反して、プレッシャーによって自分で自分を苦しめていた。シーズンが始まってからも、トレーニングが上手く進まなかったり、コンディションが整わずに苦しい時期もあった。気持ちが折れてしまいそうな時も」。

1週間前の信州シクロクロス霧ヶ峰はDNF。しかしレース当日までに気持ちを立て直し、晴れやかな顔でスタートラインに並んだ。「自分にプレッシャーをかけているのは自分で、周りの人は期待をかけてくれているということに気が付いた。期待に応えようと思い始めたのが切っ掛けで、昨日、気持ちが切り替わった」。

チャンピオンゆえの苦しさを乗り越えて手にした9連覇。辻浦は全日本チャンピオンのタイトルを引っさげ、ドイツで開催される世界選手権に向けて闘って行く。

経験の差を見せた豊岡が6連覇 沢田がジュニア圧勝

エリート女子 片山を引き離す豊岡英子(パナソニックレディース)エリート女子 片山を引き離す豊岡英子(パナソニックレディース) photo:Kei Tsujiエリート女子には2人のチャンピオンが出場した。目下シクロクロス全日本選手権で5連覇中の豊岡英子(パナソニックレディース)と、MTBクロスカントリー全日本選手権で7連覇中の片山梨絵(SPECIALIZED)だ。

レースは1周目から豊岡が前に出る。少し出遅れた片山が追い上げて2番手を走行し、その後方に宮内佐季子(CLUB viento)と福本千佳(Ready Go JAPAN大阪履正社)が続く展開。豊岡と片山のタイム差は15〜20秒。一つのミスも許されないタイム差だ。

エリート女子 声援を受けて砂セクションを走る片山梨絵(SPECIALIZED)エリート女子 声援を受けて砂セクションを走る片山梨絵(SPECIALIZED) photo:Kei Tsuji最終周回に入って豊岡がペースを上げると、それまで縮まりも広がりもしなかったタイム差が拡大傾向に。安定した走りの豊岡は、追いかける片山を23秒引き離して最終ストレートへ。天を仰ぎ、両手を挙げてゴール。終始落ち着いた走りで、40分の間に全てを出し尽くした豊岡が、6連覇を達成した。表彰台が懸かった3位争いは、福本を振り切った宮内が制している。

シクロクロスバイクでの初めての砂地走行に挑んだ片山。敗れはしたものの、その表情は明るい。「来年はスケジュールが合えば狙いたい」と語る。MTBチャンピオンが、女子シクロクロス界に新たな風を吹き込むかも知れない。

ジュニア 圧勝の沢田時(ENDLESS/Pro Ride)ジュニア 圧勝の沢田時(ENDLESS/Pro Ride) photo:Hideaki.TAKAGIこの日最初のレースである1993年・1994年生まれの男子が対象のジュニアカテゴリーには15人がエントリー。ジュニアクラスは今年から初めてJCF公認で設けられたクラスだ。ジュニア世代からの育成強化を考える関係者の努力が実ったものだ。

出走者の中では沢田時(ENDLESS/Pro Ride)が有力候補。関西シクロクロスではC1にエントリー、40分でレースを終えるが常にC1の上位で走る。

コースの1周目だけはショートカットしてすぐに名物の長い砂浜区間に出る。スタート後1分ほどで、すでに後続を大きく引き離してこの区間に現れた沢田。力と技の両方で差を広げる。後方は中井路雅(瀬田工業高校)が追う。中井は11月21日のマキノ大会C2で後続を1分以上離して優勝した実力者。さらに後方は日野林雄大(松山工業高校)と大野宏樹(広島城北高校)が競り合う。結局沢田は3分36秒の差をつけて圧勝。2位には中井、そして3位争いは大野が制した。

ジュニア優勝 沢田時(ENDLESS/Pro Ride)のコメント
今日のレースは力を出し尽くしました。いつもC1のレースで120%の力を出していたので、今日もそれが目標でした。これからもC1の強い選手と一緒に走って、上の世界を目指したいです。

併催された関西シクロクロスの模様は別記事でお伝えします。

レースの模様はフォトギャラリーで!


エリート男子
1位 辻浦圭一(チームブリヂストン・アンカー)  1h09'04"
2位 竹之内悠(Team Eurasia Museeuw Bikes)   +35"
3位 丸山厚(MASSA-FOCUS-OUTDOORPRODUCTS) +40"
4位 小坂光(宇都宮ブリッツェン)          +3'04"
5位 小坂正則(スワコレーシング)          +3'18"
6位 山本聖吾(スワコレーシング)          +4'09"
7位 池本真也(和光機器タムラクラブ)        +5'00"
8位 筧五郎(イナーメ信濃山形)           +5'19"
9位 大塚潤(GRUPPO ACQUA TAMA)       +5'53"
10位 中間森太郎(チーム埼玉県人)         +6'12"
11位 合田正之(サイクルクラブ3up)        +7'41"
12位 松井正史(シマノドリンキング)        +9'53"

エリート女子
1位 豊岡英子(パナソニックレディース)       36'56"
2位 片山梨絵(SPECIALIZED)            +23"
3位 宮内佐季子(CLUB viento)          +2'50"
4位 福本千佳(Ready Go JAPAN大阪履正社)     +3'06"
5位 齋藤麿実(TEAM-MASA+/BOMA)         +4'40"
6位 武田和佳(ARAI MURACA)           +4'49"

ジュニア
1位 沢田時(ENDLESS/Pro Ride)          41'09"
2位 中井路雅(瀬田工業高校)            +3'36"
3位 大野宏樹(広島城北高校)            +4'16"
4位 日野林雄大(松山工業高校)           +4'56"
5位 帖地森(北桑田高校)              +5'37"
6位 後呂有哉(岩井商会レーシングチーム)      +6'24"

エリート男子ムービー


text:Kei Tsuji, Hideaki Takagi
photo:Kei Tsuji, Hideaki Takagi