2010年9月10日、ブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIヒストリカル)第13ステージが行なわれ、連日のマシュー・ゴスの完璧なリードアウトを得たマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)が連勝。ライバルたちの付け入る隙を与えない圧勝だった。

逃げグループを形成するオリヴィエ・カイセン(ベルギー、オメガファーマ・ロット)やジャンパオロ・ケウラ(イタリア、フットオン・セルヴェット)逃げグループを形成するオリヴィエ・カイセン(ベルギー、オメガファーマ・ロット)やジャンパオロ・ケウラ(イタリア、フットオン・セルヴェット) photo:Unipublicブエルタはラ・リオハ州のリンコン・デ・ソトからカスティーリャ・イ・レオン州のブルゴスへ。196kmの行程には2つの3級山岳が設定されているが、スプリンターの活躍を阻止するほどの難易度ではない。

翌日から本格的な山岳決戦が始まるため、総合狙いの選手たちが力を温存する言わば“箸休め的”なステージ。集団を分裂させるような風も吹かず、マイヨロホのイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)を含め、総合上位陣は集団内で平穏な一日を送った。

レースはラ・リオハ州からカスティーリャ・イ・レオン州へレースはラ・リオハ州からカスティーリャ・イ・レオン州へ photo:Cor Vos初日に行なわれたチームタイムトライアルのスタート前に落車し、怪我を負いながらも12ステージを戦い続けたジュリアン・ディーン(ニュージーランド、ガーミン・トランジションズ)がスタートせず。同じニュージーランド出身のヘイデン・ロールストン(チームHTC・コロンビア)も膝の故障により22km地点でレースを去った。

この日最初のスプリントポイントはタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)が穫り、カヴェンディッシュのポイント賞ジャージを奪い取りたいという意思を表示。メイン集団ではアタックが繰り返された。

やがて30km地点で5名のアタックが決まると、メイン集団はペースダウン。マヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ)、ニキ・テルプストラ(オランダ、チームミルラム)、ジャンパオロ・ケウラ(イタリア、フットオン・セルヴェット)、アラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)、オリヴィエ・カイセン(ベルギー、オメガファーマ・ロット)の5名は53km地点で最大7分58秒のリードを得た。

難易度の低い山岳地帯を抜けてブルゴスへ難易度の低い山岳地帯を抜けてブルゴスへ photo:Unipublic

しかしスプリンターチームが逃げを放置しておくはずがない。翌日から山岳ステージが始まるため、この日を逃すと第18ステージまでチャンスが回って来ない。ガーミン・トランジションズ、クイックステップ、チームHTC・コロンビアの3チームは協力して集団を率い、逃げグループのリードを奪い取って行った。

逃げグループを形成するニキ・テルプストラ(オランダ、チームミルラム)やマヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ)逃げグループを形成するニキ・テルプストラ(オランダ、チームミルラム)やマヌエーレ・モーリ(イタリア、ランプレ) photo:Unipublicレース後半のパドリージャ峠とバルマラ峠(いずれもカテゴリー3級)も集団のスピードを弱める要因にはならず、ゴールまで40kmを残してタイム差は2分に。そしてゴール16km手前でタイム差は1分。ここから先頭5名が粘りを見せた。

追い風基調の平坦路を60km/h近いスピードで走り続ける逃げグループ。追い風が逃げグループに有利に働いたが、メイン集団を率いるスプリンターチームの猛烈な勢いがタイム差を詰める。

スプリンターチームを先頭に3級山岳を進むメイン集団スプリンターチームを先頭に3級山岳を進むメイン集団 photo:Unipublicゴールまで6kmを残してテルプストラが独走開始。しかし結局はラスト4kmで全ての逃げは吸収されてしまう。フランセーズデジューやガーミン、リクイガス、クイックステップ、カチューシャが主導権を争いながら、ラスト1kmのアーチを駆け抜けた。

前日に引き続き、この日も最終コーナーでの位置取りが勝敗を分けた。先頭に立っていたカチューシャ勢はラスト500mの右コーナーで体勢を崩し、代わりにマシュー・ゴスが先頭に。もちろん後ろにはポイント賞ジャージのカヴェンディッシュ。再びゴスとカヴェンディッシュが優位に立った。

ジワリとトップスピードに持ち込むゴス。その後ろから、ラスト170mでカヴェンディッシュがスプリント開始。番手に付けていたトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)を引き離すほどの加速力を見せたカヴェンディッシュが余裕のジャンピングフィニッシュを決めた。

ドクターに薬を処方してもらうヘイデン・ロールストン(ニュージーランド、チームHTC・コロンビア)、しかしこの後リタイアドクターに薬を処方してもらうヘイデン・ロールストン(ニュージーランド、チームHTC・コロンビア)、しかしこの後リタイア photo:Unipublicマイヨロホを着て走るイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)マイヨロホを着て走るイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Unipublic山岳賞ジャージが板についたダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)山岳賞ジャージが板についたダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス) photo:Unipublic


逃げ吸収に向けてペースが上がるメイン集団逃げ吸収に向けてペースが上がるメイン集団 photo:Cor Vosカヴェンディッシュ2連勝。しかも前日同様ゴスと一緒に先頭で最終コーナーを抜け、そのまま先頭をキープしての勝利。ファラーがステージ6位に沈んだので、ポイント賞争いでもトップを快走中だ。

斬新なジャンピングフィニッシュを決めるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)斬新なジャンピングフィニッシュを決めるマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) photo:Cor Vos「今日もチームは完璧に課題をこなした。最終コーナーで他の選手がブレーキする中、ゴスと僕はハイスピードでインコーナーに突っ込んだ。コーナーを抜けてからゴスのスピードが凄く速くて、付いていくのに必死。限界ギリギリだった。彼がそのままステージ優勝してもおかしくない走りだったよ。彼があまりにも速いので、普段はラスト250mからスプリントを開始するところを、今回はラスト170mまで待ったんだ」。グランツールで初めてタッグを組む相棒ゴスの活躍に大満足の様子。

「今日はアイゼルに続いてロールストンを失った。2つのビッグエンジンを失ったのは痛いよ。彼の膝が回復することを願っている。チームに残っているのは気合いの入った若手ばかり。彼らを誇りに思う」。

マイヨロホを守ったイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)マイヨロホを守ったイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル) photo:Unipublicこの日、カヴはゴールラインでバニーホップを決める余裕っぷり。これはスポンサーへのアピールだったと言う。カヴは昨年のツールで電話ポーズを見せたり、サングラスを手に取ってゴールしている。「ゴールラインでジャンプしたのは、素晴らしい製品をチームに供給しているスポンサーに敬意を表したかったから。過去にHTCやオークリーにしたのと同じように、コンポーネントを供給しているシマノやタイヤメーカーに向けてアピールしたんだ」。独創的なフィニッシュはいまだ健在だ。

2日連続で勝利に大きく貢献したゴスは、今やカヴに欠かせないリードアウトマン。ハイスピードを維持し続けるレンショーよりも加速力に秀でている。「昨日のデジャヴだったね。昨日よりもチームは集団牽引に力を使って、しかもメンバーが一人減った。でも結果は同じだった。最終コーナーはゴールから遠かったけど、カチューシャの選手の隙を突いて先頭に出た。すぐ後ろでコーナーを抜けるカヴの姿を確認したので、そこから踏んで行ったんだ。昨日の勝利が“単発”にならずに済んで良かったよ」。安堵の表情を浮かべた。

ステージ2位に入ったのはトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)。「悪くない結果だ。ツール・ド・フランスではスピード不足に苦しんでいたけど、徐々にスプリント力が戻ってきている。昨日は最終コーナーでポジションを失いながらも5位だった。今日はカヴェンディッシュの番手を取ったけど、速すぎて追い抜くのは不可能だった。でも感触は良いよ」。フースホフトは今大会すでに小集団スプリントで勝利している。

カヴ最大のライバルと目されたファラーはステージ6位。「ラスト500mの最終コーナーまではパーフェクトだった。チームメイトたちの働きに応えることが出来ずに残念だ。今はロード世界選手権よりもこのブエルタに集中してる。少なくともステージ1勝して、グリーンジャージを手に入れたい。まだまだ諦めていない」。ポイント賞争いではカヴと21ポイント差の2位に付けている。

翌第14ステージは最大勾配19%のペーニャ・カバルガにゴールする山岳コース。この第14ステージから3日連続で頂上ゴールが設定されている。イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)は危なげなくマイヨロホを守ったが、個人タイムトライアルまでに総合リードを広げる必要があるだろう。いよいよ総合争いは後半戦に突入する。

選手コメントはレース公式リリースより。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2010第13ステージ結果
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) 4h50'18"
2位 トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)
3位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)
4位 ヤウヘニ・フタロヴィッチ(ベラルーシ、フランセーズデジュー)
5位 マヌエル・カルドソ(ポルトガル、フットオン・セルヴェット)
6位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)
7位 デニス・ガリムジャノフ(ロシア、カチューシャ)
8位 コルド・フェルナンデス(スペイン、エウスカルテル)
9位 テオ・ボス(オランダ、サーヴェロ・テストチーム)
10位 ジョニー・ウォーカー(オーストラリア、フットオン・セルヴェット)

個人総合成績(マイヨロホ)
1位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)         56h28'03"
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)         +45"
3位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)     +1'04"
4位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)          +1'17"
5位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)      +1'29"
6位 マルツィオ・ブルセギン(イタリア、ケースデパーニュ)       +1'57"
7位 ルーベン・プラサ(スペイン、ケースデパーニュ)          +2'07"
8位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、ケースデパーニュ)        +2'13"
9位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)     +2'30"
10位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)

ポイント賞(プントス)
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)  111pts
2位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)    90pts
3位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)          75pts

山岳賞(モンターニャ)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)          41pts
2位 セラフィン・マルティネス(スペイン、シャコベオ・ガリシア)    36pts
3位 ゴンサロ・ラブニャル(スペイン、シャコベオ・ガリシア)      25pts

複合賞(コンビナーダ)
1位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)          8pts
2位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)     24pts
3位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)      27pts

チーム総合成績
1位 ケースデパーニュ      168h52'16"
2位 カチューシャ          +6'46"
3位 エウスカルテル         +8'49"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic