2010年9月2日、ブエルタ・ア・エスパーニャ(UCIヒストリカル)第6ステージが行なわれ、ゴール17km手前の2級山岳でメイン集団が縮小。最後はスプリント勝負に持ち込まれ、トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)が優勝を飾った。

逃げるマークス・アイヒラー(ドイツ、チームミルラム)、フレディ・ビショ(フランス、Bboxブイグテレコム)、フアンハビエル・エストラダ(スペイン、アンダルシア・カハスール)逃げるマークス・アイヒラー(ドイツ、チームミルラム)、フレディ・ビショ(フランス、Bboxブイグテレコム)、フアンハビエル・エストラダ(スペイン、アンダルシア・カハスール) photo:Unipublic昨年のブエルタ第10ステージでも登場し、レースの行方を大きく左右した2級山岳クレスタ・デル・ガージョ(登坂距離7km・平均勾配4.4%)。ゴールの17km手前で登場し、上り区間よりも下り区間でタイム差が付きやすいとも言われるこの上りを攻略出来るかが勝負の鍵を握った。

レースはフレディ・ビショ(フランス、Bboxブイグテレコム)のアタックが動き始めた。同じく積極的に動いたマークス・アイヒラー(ドイツ、チームミルラム)とフアンハビエル・エストラダ(スペイン、アンダルシア・カハスール)がビショに合流。アンダルシア・カハスールは5日連続で逃げに選手を送り込むことに成功した。

メイン集団をコントロールするコフィディスメイン集団をコントロールするコフィディス photo:Unipublic先頭3名とメイン集団のタイム差は最大9分17秒に。しかしコフィディスやカチューシャ、サクソバンク、リクイガスの集団牽引によってタイム差は縮小して行く。

この日一番の勝負どころである2級山岳クレスタ・デル・ガージョの上り口でタイム差は僅かに1分。逃げ切りが絶望視される中、独走で対抗したビショも、上りの中腹でメイン集団に飲み込まれてしまう。

2級山岳クレスタ・デル・ガージョに向けてペースを上げるカチューシャ2級山岳クレスタ・デル・ガージョに向けてペースを上げるカチューシャ photo:Unipublicスプリンターたちを脱落させるべく懸命にメイン集団のペースを上げたのはカチューシャ。アレクサンドル・コロブネフ(ロシア)とウラディミール・カルペツ(ロシア)の2人がハイペースを刻むと、メイン集団は見る見るうちに縮小。マイヨロホのフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)は落ち着いてポジションをキープしたが、多くのスプリンターたちがここで勝機を失った。

カルペツの献身的な牽きによって、メイン集団は数を減らした状態で2級山岳をクリア。するとテクニカルな下りでフィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)が飛び出し、これにマイヨロホのジルベールが合流するという白熱の展開に。

しかしポッツァートとジルベールはゴールまで14kmを残してメイン集団に引き戻され、続いてカウンターアタックを仕掛けたデミトリ・フォフォノフ(カザフスタン、アスタナ)も数キロの独走の末に吸収されてしまう。

2級山岳クレスタ・デル・ガージョで独走するフレディ・ビショ(フランス、Bboxブイグテレコム)2級山岳クレスタ・デル・ガージョで独走するフレディ・ビショ(フランス、Bboxブイグテレコム) photo:Unipublicマイヨロホを着て走るフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)マイヨロホを着て走るフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Unipublicラスト14km地点から独走したデミトリ・フォフォノフ(カザフスタン、アスタナ)ラスト14km地点から独走したデミトリ・フォフォノフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Unipublic


スプリントを繰り広げるトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)やダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)スプリントを繰り広げるトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)やダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス) photo:Unipublic70名ほどに絞られたメイン集団はサーヴェロ・テストチームが牽引してゴールへ。やがてラスト1kmでオメガファーマ・ロットがトレインを組んで主導権を握ると、ラスト300mでフレフ・ファンアフェルマート(ベルギー)がジルベールを発射。しかしハイスピードからの加速力に長けたダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)がジルベールを抜きさって行く。

ノルウェーチャンピオンジャージのフースホフトがベンナーティに対抗し、そのまま先頭へ。ポッツァートやアラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)の追撃も届かず、フースホフトがガッツポーズでゴールラインを駆け抜けた。

集団スプリントを制したトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)集団スプリントを制したトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム) photo:Unipublic

トップスプリンターの中では最も山岳力があるとされるフースホフト。近年はその山岳力を更に向上させ、グランツールでは山岳ステージで逃げを打つ走りも見せている。しかしその一方で、山岳力と相反するスプリント力が低下しているのは自他ともに認める事実だ。

今大会初勝利を飾ったトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)今大会初勝利を飾ったトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム) photo:Cor Vosこの日、フースホフトはその山岳力を見せつけるとともに、久々のスプリント勝利を飾った。スプリント力が低下しているとは言え、小集団でのスプリントに持ち込まれた場合はめっぽう強い。

「今日のような上り(2級山岳)はカヴェンディッシュのようなスプリンター向きではないと確信していた。上りではジルベールとポッツァートの後ろ、集団先頭から5番手あたりでずっと走っていたんだ。頂上の1.5km手前で20番手あたりにポジションを落としたけど、チームメイトのおかげでポジションを戻した。スプリントではベンナーティやジルベール、ポッツァートに警戒した」。

マイヨロホに袖を通すフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)マイヨロホに袖を通すフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Unipublicフースホフトは2005年のブエルタでステージ初優勝、2006年大会ステージ1勝&ポイント賞獲得。これが自身3度目のステージ優勝だ。

フースホフトはノルウェー代表としてロード世界選手権に出場予定。メルボルン大会のコースはスプリンター向きの平坦コースと言われているが、実際には2つの上りが設定された難コース。タフな展開になり、この日のような小集団のスプリント勝負に持ち込まれた場合はフースホフトにチャンスだ。

「このブエルタでの第一目標はレースのリズムを取り戻すこと。第二目標がステージ優勝だった。その2つを達成した今、これからのステージで更なる勝利を目指したい。でも集団スプリントではテオ・ボスがエースだ。かと言ってツールのときのように山岳ステージで逃げようとは思っていない」。

サーヴェロ・テストチームはこれが今シーズン13勝目。ワールドランキングのチーム成績ではプロコンチネンタルチームながら13位に付けている。しかしサーヴェロ社は今シーズン限りでスポンサー活動の撤退を決めており、来シーズンはアメリカのプロツアーチーム、ガーミン・トランジションズと実質的に合併。フースホフトはそのガーミン・サーヴェロへの移籍が決まっている。「サーヴェロがスポンサーを撤退することを知ったときは困惑したけど、すぐにガーミン・サーヴェロへの道が開けた。その安心感のおかげで今日のステージ優勝に集中することが出来たよ」。

チームとしてまとまりのある走りを見せながらもステージ5位に終わったポッツァートは「落胆している。このブエルタにはステージ優勝を狙って出場していた。今朝チームカーでコースを下見したとき、今日こそがチャンスだと思ったんだ。チームメイトたちの働きに応えるために下りで飛び出したけど、ゴールが遠すぎた。スプリント勝負ではボーレに前を閉じられ、他の有力選手たちが先行した。ステージ5位は望んでいた結果ではない」とコメント。フースホフトと同様、ポッツァートもロード世界選手権での活躍が期待されている。

ステージ6位に入ったジルベールはマイヨロホを守るとともに、ポイント賞と複合賞でもトップに。翌日の第7ステージではイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)がポイント賞ジャージ、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)が複合賞ジャージを着ることになる。

選手コメントはレース公式リリースより。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2010第6ステージ結果
1位 トール・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)  3h36'20"
2位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)
3位 グレガ・ボーレ(スロベニア、ランプレ)
4位 アラン・デーヴィス(オーストラリア、アスタナ)
5位 フィリッポ・ポッツァート(イタリア、カチューシャ)
6位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) 
7位 ピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)
8位 パブロ・ウルタスン(スペイン、エウスカルテル)
9位 サミュエル・ドゥムラン(フランス、コフィディス)
10位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)

個人総合成績(マイヨロホ)
1位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) 22h36'26"
2位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)          +10"
3位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
4位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)        +12"
5位 ピーター・ベリトス(スロバキア、チームHTC・コロンビア)     +16"
6位 タジェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、チームHTC・コロンビア)  +29"
7位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)     +49"
8位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)        +50"
9位 ルーベン・プラサ(スペイン、ケースデパーニュ)          +54"
10位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)      +55"

ポイント賞(プントス)
1位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)   47pts
2位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)         41pts
3位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)   41pts

山岳賞(モンターニャ)
1位 セラフィン・マルティネス(スペイン、シャコベオ・ガリシア)   13pts
2位 ダリオ・カタルド(イタリア、クイックステップ)         8pts
3位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)         6pts

複合賞(コンビナーダ)
1位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)   12pts
2位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)       25pts
3位 シャビエル・トンド(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)    50pts

チーム総合成績
1位 ケースデパーニュ    67h23'12"
2位 カチューシャ       +1'05"
3位 オメガファーマ・ロット  +1'18"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic