ヴィスマ・リースアバイクに8年ぶりの復帰を果たしたヴィクトル・カンペナールツ。タイムトライアルスペシャリストから逃げの名手へ、そして2025年シーズンからはヴィンゲゴーを支えるルーラーに挑戦する。移籍の背景やツールでのステージ優勝について聞いた。



決めポーズであるピースサインを披露するカンペナールツ photo: Yuichiro Hosoda

カンペナールツの動向を見ていれば、自転車ロードレース界での最先端トレーニングがわかる。あるいは彼を真似れば、空気抵抗を極限まで抑えたウェアや機材セッティング、ライディングフォームが手に入る。それほどカンペナールツは、純粋に”速さ”を追い求める選手だ。

レースではタイムトライアル用のスキンスーツを着用し、シューズはボアダイヤルが「エアロじゃないから」という理由でシューレースモデルを使用。低酸素トレーニングや個人での高地合宿、最近ではボート競技の動きができるローイングマシンも取り入れている。

しかしそんな徹底ぶりの一方で、譲れない部分もある。雨の降った2024年のさいたまクリテリウムでも「顔になにか触れているのがたまらなく嫌だから」と、アイウェアはしない。それは2024年のツール・ド・フランス期間中、インスタライブでタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)に「危険だからアイウェアをしてくれ」と懇願されても、そのスタイルは崩さなかった。

2024年11月に行われたさいたまクリテリウムに出場したカンペナールツ photo: Yuichiro Hosoda

父になって掴んだツール初勝利

昨年11月にインタビューしたカンペナールツに、2024年シーズンの総括を頼むとこう答えた。「ツール・ド・フランスでステージ優勝できたんだ、良いシーズンだったに決まっている。選手キャリアのハイライトになるかもしれない勝利だ。とても満足しているよ」

アルプス山脈を舞台に行われたツール第18ステージ。残り35kmでカンペナールツを含む3名が先頭集団を形成。そのまま勝負はスプリントに持ち込まれ、最終ストレートで最後尾からカンペナールツが踏み込み、ツール初勝利を手に入れた。

ツール初勝利を飾ったカンペナールツ photo:CorVos

「戦術をうまく利用した勝利だった。スプリントに入る前、すでに脚は限界に達していた。だが彼(クフィアトコフスキ)の方が、逃げ切るために僕よりも力を使っていた。自転車レースは戦術も重要。もちろん強さも大事だが、賢さで勝つこともできる」

2023年のツールでは、幾度となく逃げても掴めなかったステージ優勝。今年成功した要因を聞くと「(6月に)子どもが生まれ、父親になったことが大きい。父になると選手はレベルが一つ上がるものなんだ」と答えてくれた。

古巣ヴィスマへの復帰

ロットNLユンボ時代のカンペナールツ(ベルギー) photo:Kei Tsuji / TDWsport

2014年にプロデビューしたカンペナールツは、2016年にロットNLユンボに加入した。その後ロット・スーダルからNTTプロサイクリングを経て、再びロット・デスティニーに復帰。そして2025年シーズンから、8年振りにヴィスマ・リースアバイクへと戻ってきた。

ロット退団については、「チームに残りたかったんだけど、スポンサー問題で資金的に難しい状態となった。だから僕に契約延長のオファーをすることができなかったんだ」とカンペナールツは説明する。

そのため首脳陣に旧知の人物がいたヴィスマと、33歳という年齢ながら3年契約を結んだ。「契約期間について僕から提案したところ、二つ返事で了承してくれたよ」

逃げ屋からルーラーとしての新たな挑戦

2018年、ロット・フィックスオール時代のカンペナールツ photo:Kei Tsuji

2019年にアワーレコードの世界新記録を達成。2度のヨーロッパTT選手権(2018、19年)とベルギーTT選手権(2016、18年)を制し、TTスペシャリストであったカンペナールツ。しかし近年はTTバイクでの練習は減り、逃げから勝利を狙うアグレッシブな走りを見せていた。

そして新天地ヴィスマで求められる役割は、本人が語るように「集団先頭で牽引すること」。グランツールなどステージレースで、エースのヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)を最終山岳まで運ぶルーラーとしての役割を任される。

「だからいままでのように短時間で高出力の練習ではなく、持久力向上を目的とする(乳酸)閾値を意識したトレーニングが主になる。それによってスプリント能力は衰えるだろうが、レースで必要とされる高い出力を2〜3時間出し続ける力は伸びるだろう」

2025年シーズンへの展望

昨年2月に行ったトレーニング合宿での取材にも、快く応じてくれたカンペナールツ photo:CorVos

カンペナールツの他にサイモン・イェーツ(イギリス)やアクセル・ジングレ(フランス)など大型補強を実施したヴィスマ。チーム最大の目標はもちろん、ヴィンゲゴーによるツール総合優勝の奪還だ。プロ14年目を迎えるベテランに、新シーズンの目標を尋ねた。

「ツール・ド・フランスで総合優勝するチームの一員になることだ」

2025年のシーズンは、ルーラーという新たな役割に臨む、プロフェッショナルなカンペナールツにも注目だ。

text:Sotaro.Arakawa
photo:Yuichiro Hosoda