12月7日、サイパン島を走るロードレース「ヘル・オブ・マリアナ」が開催された。最上位カテゴリーの100kmプロ/エリートには日本から4人が出場し、井上亮(Magellan Systems Japan)が史上最速の走りで優勝。鈴木道也(さいたま佐渡サンブレイブ)が2位となり、昨年に続き日本人1-2フィニッシュを飾った。女子は鈴木友佳子(MIVRO)が2位となった。



空が明るくなり始め、スタートラインに向かう photo:Satoru Kato
セルフィーしながらスタートを待つ100km参加者 photo:Satoru Kato


日本の南、約2500kmの太平洋上に浮かぶサイパン島。飛行機で約3時間半ほどで到達する常夏の島は、アメリカ合衆国の自治領である北マリアナ諸島の中心的な島。12月でも平均気温が27℃以上あり、日中は日本の真夏日(30℃)に迫る常夏の島で行われるロードレースが「ヘル・オブ・マリアナ」だ。

UCIレースではないローカルレースではあるが、日本をはじめ韓国やアメリカ、フィリピンやグアムなど近隣の島々など多彩な地域から参加者が集まる。参加者のレベルはサイクリングとして走る人から地元のホビーレーサー、さらにはUCIコンチネンタルチーム所属の選手まで幅広い。特にプロ/エリートクラスは優勝賞金1,000ドル(約15万円)、2位800ドル(約12万円)が用意されることもあり、激しい優勝争いが展開される。

ヘル・オブ・マリアナのコース図 100km(左)と50km(右) ©︎Hell of the Marianas

コースは100kmと50kmの2つが設定される。100kmは観光名所であるバードアイランドやスーサイドクリフなどをくまなく巡ってサイパン島を1周する。コース後半は斜度きつめの登りを何度も登って下ってを繰り返すため、獲得標高は1500m以上に達するというハードさだ。「ツール・ド・おきなわ」の半分の距離とあなどるなかれ、そこには大会名の通り「マリアナの地獄」が待っている。一方、50kmは100kmのハードな登り区間をカットし、サイパン島南部をぐるっと回るイージーな設定だ(でもそれなりの登り下りはある)。

100kmプロ/エリートに出場したさいたま佐渡サンブレイブの3名と、井上亮(Magellan Systems Japan)。後方には女子の鈴木友佳子(MIVRO)の姿も photo:Satoru Kato

昨年大会では、さいたま那須サンブレイブ(現さいたま佐渡サンブレイブ)の藤田涼平が優勝、重田倫一郎が2位でワン・ツーフィニッシュを決めたほか、過去には2015年に中村龍太郎が優勝、2016年は森本誠が準優勝と、日本人選手が好成績を挙げている。今回は100kmプロ/エリートにさいたま佐渡サンブレイブから藤田、重田、鈴木道也の3名で出場。さらに2023年ツール・ド・おきなわ市民200km優勝の井上亮(Magellan Systems Japan)が初参戦した。

老若男女様々な参加者がスタートしていく photo:Satoru Kato
女子100kmにエントリーした鈴木友佳子(MIVRO)がスタート photo:Satoru Kato


スタート直後から100kmプロ/エリートの選手を中心に先頭集団が形成される photo:Satoru Kato

午前6時15分、夜が開け始めてまだ薄暗い中スタートしたレースは、サイパンの中心都市であるガラパン市内の大通りを抜けて一路南下。10名ほどの先頭集団では、ツール・ド・熊野に出場したこともあると言うオランダのRik Nobel(ユニバースサイクリングチーム)がペースを上げていく。20km付近にある短距離の登りでは、日本人選手が「一番キツかった」と口を揃えるほど強烈なペースアップを見せた。

「今回はチームメイトのサポートに回った」と言う藤田涼平(さいたま佐渡サンブレイブ) photo:Satoru Kato

20km付近、最初の登りを先頭で行くのはかつて梅丹本舗エキップアサダで走ったSeo Joonyong photo:Satoru Kato

100km一般の部の集団は男女混合 photo:Satoru Kato
サムズアップしながら行く地元チームの参加者 photo:Satoru Kato


30km過ぎから単独先行したMark John Lexer Galedo(セブンイレブン・クリック・ロードバイク・フィリピン) photo:Satoru Kato

教会前を通過する100kmのメイン集団 photo:Satoru Kato

スタートから30kmほどを経過したところで、Mark John Lexer Galedo(セブンイレブン・クリック・ロードバイク・フィリピン)が単独先行。藤田、重田、鈴木、井上らのいる集団におよそ1分差をつける。

早朝の海を背に登る選手 photo:Satoru Kato

60km過ぎ、降り出した雨の中、井上亮(Magellan Systems Japan)と鈴木道也(さいたま佐渡サンブレイブ)が先行していた選手に追いつく photo:Satoru Kato

コース後半に入り、登りと下りが繰り返される区間に入ると、先行するGaledoとのタイム差は徐々に縮まり始める。同時に追走メンバーも鈴木、井上、Nobelの3名に絞られる。そして60kmを経過して急に降り出した雨の中、レーダーサイトに向かう登りに入る前で井上と鈴木がGaledを捕まえる。

スーサードクリフをバックに走る井上亮(Magellan Systems Japan) photo:Satoru Kato

サポートスタッフから補給を受け取る鈴木道也(さいたま佐渡サンブレイブ) photo:Satoru Kato

その直後、「登りの途中でペースを上げたら他の2人が離れたので、そのまま行くことにした」と言う井上が単独先行し、差は2分以上まで開く。メカトラブルでギア固定となってしまったと言うNobelはさらに遅れ、鈴木1人が井上を追走。しかし終盤に入ってもペースが落ちない井上との差はその後も広がり続けた。

椰子の木並木の道を独走する井上亮(Magellan Systems Japan) photo:Satoru Kato

後続を大きく引き離してフィニッシュした井上亮(Magellan Systems Japan) photo:Satoru Kato

井上は最終的に2位以下に6分差をつけ、独走でフィニッシュ。タイムは史上最速の2時間58分12秒をマークした。そのハイペースぶりに大会MCも驚きの声を上げるほどだった(昨年大会優勝の藤田のタイムは3時間17分)。

「ツール・ド・おきなわに向けて仕上げた身体の行き場を失っていたところ、ヘル・オブ・マリアナの開催を知って出場してみようと思いました」と言う井上。フィニッシュ後、SNSに優勝報告と共に「昨年おきなわ覇者に恥じぬ走りは出来たはず」と投稿した。

現地メディアの取材を受ける井上亮(Magellan Systems Japan) photo:Satoru Kato

井上は、「セブンイレブンの選手(=Galedo)が序盤に飛び出していたけれど、1人で逃げ切るのはさすがに厳しいだろうと思って気にしていませんでしたが、終盤まで追いつけなかったので強い選手だったなと感じました(後で2017年大会の優勝者と判明)。以前の大会に出場した人のレポートなどを読んで、沖縄の比じゃないほど道路がめちゃくちゃ滑ると聞いていたので、かなり慎重に走りました。途中雨が降ってきてかなりヤバい感じになって、実際後輪がスリップするような感覚があり、下りコーナーはかなり減速してゆっくり走りました。

優勝した井上亮と2位の鈴木道也が握手 photo:Satoru Kato

登り下りが激しくてハードなコースでしたが、序盤の登りでオランダの選手(Nobel)が一気にペースを上げたのがとてもキツく、どのくらいの力があるのかも分からなかったから、このペースアップを何発も打てるのか?と、ちょっと絶望しましたね。彼は最後はメカトラで遅れていましたが、それが無ければどうだったろうと思います。

距離はおきなわの半分ですが、凝縮したような厳しさがありました。登りは斜度もふくめてツール・ド・おきなわよりもキツいかな、と感じました。

100km上位3名がフィニッシュ後の談笑「メカトラで変速できなかった」と言うRik Nobel(写真右) photo:Satoru Kato

今回は急遽出場を決めましたが、通常であれば11月のおきなわで終わって12月はオフシーズンになるのでコンディション的に厳しい気もしますが、最初から出場を予定していれば勝負しにいけると思います。来年もぜひ都合をつけて出場してみたいと思います」と、初出場のヘル・オブ・マリアナを振り返った。



女子は鈴木友佳子(MIVRO)が2位に

男子100kmプロ/エリートの集団に混じって走る鈴木友佳子(MIVRO) photo:Satoru Kato

一方、100kmプロ/エリートの女子の部には、2024年JBCFフェミニンツアー総合優勝の鈴木友佳子(MIVRO)が出場。序盤は男子の先頭集団に混じって走り、昨年大会優勝のKim Miso(韓国)との競り合いとなったものの、終盤に遅れて2位でフィニッシュした。

女子100km 鈴木友佳子(MIVRO)が2位 photo:Satoru Kato

鈴木は、「サイパンに来てみたら想像以上に暑くて、暑さ対策が出来ていなかったところが反省点ですね。途中で補給食を落とし、足りなくなってしまいました。慣れない右側通行の道路で、コーナーが分からず、見えづらかったりして難しいところもありました。ヘル・オブ・マリアナは今回初めての出場で、前から決めていたので合わせるように準備はしてきたつもりでしたが、長距離の練習がちょっと足りてなかった気がします。70kmあたりで遅れてしまい、体がいっぱいいっぱいになって一度止まってボトルに水を入れてもらいました。この反省点を活かして、来年のヘル・オブ・マリアナに再チャレンジしてみたいと思います。

フィニッシュ後の井上亮から補給食をもらう鈴木友佳子(MIVRO) photo:Satoru Kato
女子100kmで優勝したKim Misoと話す鈴木友佳子(MIVRO) photo:Satoru Kato


1位の韓国のKim Miso選手とゴール後に話をして、韓国のレース事情を聞きましたが、女子だけのレースは少ないらしく、日本国内は恵まれているなとも思いました。来年はグランフォンド世界選手権に出場してみたいですね。そのうえで2026年のニセコでの世界選手権に出場したいと思っています」と、反省を交えながら語ってくれた。

100km一般の部&年代別で倉垣龍星(MIVRO)が優勝

100kmの一般の部(プロ/エリート以外のカテゴリー)では、倉垣龍星(MIVRO)が優勝。途中まではプロ/エリートの集団に混じって走っていたが、遅れてフィニッシュ。「40kmあたりでで体調が悪くなってしまい、どんどん遅れてしまいました。終盤のバンザイクリフ(サイパン北端部)あたりで同じカテゴリーの人を抜いて、最後までなんとか頑張って逃げ切りました」と振り返る。

100km一般の部 倉垣龍星(MIVRO)がトップでフィニッシュ photo:Satoru Kato

「昨年はブルベのパリ〜ブレスト〜パリに参加しましたが、海外のロードレースを走ってみたいと思ってヘル・オブ・マリアナ出場を決めました。思ったよりも登りが厳しく、暑かったり急に雨が降ってきたりと大変でしたが、参加するだけでも楽しめる大会だと思います。豪華なアフターパーティーもあるし、参加料以上に戻ってくるものが多い大会だと感じました」と、初出場の感想を語ってくれた。



レース後はアフターパーティーで楽しむ

レース終了後、夕方から表彰式を兼ねたアフターパーティが催された photo:Satoru Kato

レースで消費したエネルギーを補給する美味しい食事が用意された photo:Satoru Kato
日本式のお刺身は参加者に人気 photo:Satoru Kato


アフターパーティーのテーブルを囲む日本チーム photo:Satoru Kato

午前中には全てのレースが終わり、夕方からは参加者全員が出席できるアフターパーティーを兼ねての表彰式。美味しい食事でテーブルを囲みながら、ポリネシアンダンスなどのパフォーマンスを楽しんだ。

炎のダンスアトラクションも披露された photo:Satoru Kato
井上亮もダンスコンテストに(無理矢理)参加 photo:Satoru Kato


100kmプロ/エリートの部 表彰式 photo:Satoru Kato

女子100km表彰式 昨年に続きKim Misoが優勝 photo:Satoru Kato

優勝した井上亮(右)、2位の鈴木道也が賞金を手にした photo:Satoru Kato
女子100kmで2位の鈴木友佳子がメダルと賞金を手に笑顔 photo:Satoru Kato


100km一般の部と年代別で優勝した倉垣龍星(MIVRO) photo:Satoru Kato

表彰は距離別、カテゴリー別の他に、年代別の表彰も行われた。今大会の最高齢は50kmに出場した70代の方。先頭は勝負のかかったロードレースをする一方、後方はサイクリングを楽しむ参加者が多いのもヘル・オブ・マリアナの特徴。100kmでは6時間以上、50kmでは4時間かけて完走した参加者もいる。スタート後7時間の時間制限があるが、トラブルが無ければマイペースで走っても完走できるだろう。

女子は韓国からの参加者が目立った photo:Satoru Kato
今大会最高齢の60代、70代の参加者 photo:Satoru Kato


日本から参加したメンバーで記念撮影 photo:Satoru Kato

2024ヘル・オブ・マリアナ参加者が揃って記念撮影 photo:Satoru Kato


photo&text:Satoru Kato