全日本大学対抗選手権自転車競技大会(通称インカレ)のロードレースが、長野県大町市で開催された。女子は小林あか里(信州大学)が、残り2周を独走して優勝。男子は日本大学が終盤まで数的優位を維持し、阿部源が優勝した。



4年ぶりに美麻の集落を駆け抜ける集団 photo:Satoru Kato

千葉県で開催されたインカレのトラック競技から1週間のインターバルをはさみ、ロードレースは長野県大町市に舞台を移しての開催。大町市美麻地区でのインカレ開催は、コロナ禍前の2019年以来4年ぶりだ。

稲穂が首を垂れる水田の中を行く集団 photo:Satoru Kato

長野市の西、車で1時間ほどの場所に位置する大町市の美麻地区に設定された1周13.4km、高低差226mの周回コースは、かつてJプロツアーが開催されたこともある。前半は下り基調、後半は登りと下りを繰り返しながら高度を上げていくレイアウトで、過去のレースでは自力のある選手が残る展開となり、時にはサバイバルレースになることもある。

9月最初の日曜日、朝の気温は15℃未満まで下がった美麻地区だが、日中は晴れて30℃前後まで上昇。それでも日陰に入るとそれほど暑さを感じず、建物の中なら冷房が無くてもしのげるほど。とは言え、補給所では氷の袋を用意したり選手に水をかけるなど、真夏のレース同様の対応が見られた。

スタート前、昨年のインカレロードで亡くなった法政大学の塩谷真一朗さんに黙祷 photo:Satoru Kato



女子 小林あか里が残り30km以上を独走して優勝

朝から青空が広がった大町市の美麻地区 photo:Satoru Kato

女子 1周目から小林あか里(信州大学)がペースアップ photo:Satoru Kato

女子のレースは5周67km。リアルスタート直後から小林あか里(信州大学)や渡部春雅(明治大学)らがペースを上げ、集団の人数を絞っていく。1周目完了時点で先頭集団に残ったのは4名。メンバーは、小林、渡部、大蔵こころ(早稲田大学)、大関奏音(日本体育大学)。2周目に入ると小林がさらにペースアップし、大蔵と大関が遅れて渡部とのマッチレースに。そして3周目の登り区間で渡部を振り切ると、独走態勢を確立させる。

女子 1周目を終えて残った4名 photo:Satoru Kato

女子 3周目、コース半ばの登り区間でアタックする小林あか里(信州大学) photo:Satoru Kato

「厳しいレースにしたかった」と言う小林は、2位以下との差を広げながら残り2周を逃げ切り、最初で最後のインカレロード優勝を決めた。

女子 残り2周半を独走した小林あか里(信州大学) photo:Satoru Kato

女子 小林あか里(信州大学)が最初で最後のインカレ優勝 photo:Satoru Kato


小林あか里 コメント
「インカレは大学生しか出られない特別な大会で、今年4年生なので最初で最後のインカレ。しかも地元開催の大会で優勝出来たので、特別な気持ちで嬉しい。

先日世界選手権に行って世界との差を痛感して、日本で走る時は常に追い込むレースをしようと思っていたから、そのようなレースが出来たと思う。このコースは登りが緩くて、渡部さんと2人になってから最初に仕掛けた時は思ったより離せなくて、コーナーが連続してちょっとキツいところで仕掛けた。それで渡部さんについて来られても慌てることは無かったと思うが、2人で走っていてペースが落ちてきて、200w以下に落とすことはしたくなかったので、あそこで踏んでいった。

女子ロードレース 表彰式 photo:Satoru Kato
高木秀彰賞・女子 信州大学 photo:Satoru Kato


独走したいというワケではないけれど、他のレースでも仕掛けると独走になってしまうことが多く、出来れば何人かと回して行けるようになって欲しいと思っているが、やはり世界で戦おうと思うならもっと強くならないといけないので、レースであっても自分を追い込む走りをしたいと思っている。

信州大学の女子としてインカレ優勝は初なので、地元開催の優勝でアピール出来たと思う。次は10月末のMTBアジア選手権で優勝して、パリ五輪の切符を掴みたい」
女子個人ロードレース 結果
1位 小林あか里(信州大学) 1時間46分21秒
2位 渡部春雅(明治大学) +5分21秒
3位 大蔵こころ(早稲田大学) +9分14秒
4位 大関奏音(日本体育大学) +14分56秒
5位 宮本奏穂(立命館大学) +15分15秒
6位 川本莉子(鹿屋体育大学) +15分27秒
高木秀彰賞 信州大学



男子 日本大学が圧倒 1年生の阿部源が優勝

男子 スタート photo:Satoru Kato

男子 スタート直後に形成された8名の先頭集団 photo:Satoru Kato

男子のレースは13周174.2km。リアルスタート直後の飛び出しをきっかけに8名の先頭集団が形成される。メンバーは、北宅柊麻、北嶋桂大、森本凛太郎(以上日本大学)、永野昇海、小泉響貴(以上明治大学)、小森継心(明星大学)、天野壮悠(同志社大学)、藤田黎明(関西大学)。5周目までに藤田が遅れて7名となるものの、追走の動きがまとまらないメイン集団との差は2分以上まで広がる。

男子 7周目、数名の飛び出しをチェックに入る阿部源(日本大学) photo:Satoru Kato

男子 7周目に形成された追走集団 photo:Satoru Kato

7周目、2分30秒以上まで差が開いたメイン集団から、4名が抜け出して追走集団を形成する。メンバーは、阿部源(日本大学)、初川弘浩(中京大学)、加藤辰之介(皇學館大学)、松井丈治(立命館大学)。追走の4名は先行する7名との差を一気に詰め、8周目に追いつく。ここで先頭集団は新たに8名に再構成され、10周目までに2名が遅れて6名となる。

男子 8周目、追走集団が先頭集団に合流 photo:Satoru Kato


残ったメンバーは、北宅柊麻、北嶋桂大、阿部源(以上日本大学)、初川弘浩(中京大学)、天野壮悠(同志社大学)、松井丈治(立命館大学)。

男子 メイン集団では日本大学の鎌田晃輝と岡本勝哉が他校の動きをチェック photo:Satoru Kato
男子 レース後半、京都産業大学や鹿屋体育大学がメイン集団のペースを上げる photo:Satoru Kato


メイン集団は3分差まで開くものの、京都産業大学や鹿屋体育大学のメンバーがペースアップさせて、一時2分未満まで差を縮める。しかし、U23全日本チャンピオンの鎌田晃輝や岡本勝哉ら日本大学のメンバーが集団のペースを抑えにかかり、差を2分以上まで戻す。

男子 残り2周、阿部源(日本大学)が先頭集団をペースアップさせる photo:Satoru Kato

男子 残り2周、日本大学の3名が交互にアタック photo:Satoru Kato

残り2周となる12周目、先頭集団では日本大学の3名が攻撃を開始。松井と初川が遅れ、天野が残る。3対1となって俄然有利となった日本大学は、天野に波状攻撃を仕掛けて切り離し、3名揃って最終周回に入っていく。

男子 最終周回 日本大学の3名が揃ってフィニッシュを目指す photo:Satoru Kato

男子 阿部源を先頭に日本大学が1-2フィニッシュ photo:Satoru Kato

この時点で後方のメイン集団との差は2分あったものの、最終周回で1分ほどまで縮まる。残り1kmまで3名揃ってきたが、「後ろに追いつかれそうになったら自分で行こうと思った」と言う阿部が先行。阿部、北宅の順でフィニッシュし、日本大学が1-2フィニッシュを決めた。1分後まで迫ったメイン集団は、遅れた北嶋を飲み込んでフィニッシュ。スプリントを制した上野颯斗(京都産業大学)が3位に食い込んだ。

男子 3位争いのスプリントは上野颯斗(京都産業大学、写真右)が獲る photo:Satoru Kato

阿部源 コメント
「前半は逃げにメンバーが乗り、自分は最後の着順を狙っていく役目だった。逃げに乗りたい他校の選手の動きをチェックした流れで先頭集団に追いついた。チェックに入った時点では集団に連れ戻そうと考えていたが、他の選手が強くてどんどん回して行ったので、2分以上差があったけれど追いついてしまった。そこからは、スプリント力には自信があるので、最後まで残れたら自分が行こうと考えていた。

最後まで残った同志社の天野選手が強いことは知っていたので、3人で交互にアタックして体力を削っていこうとなった。自分が追いついた時はまだ余裕があるようだったけれど、周回重ねるごとにだんだんキツそうになっていたので、これは行けると思った。

男子ロードレース 表彰式 photo:Satoru Kato
高木秀彰賞・男子 日本大学 photo:Satoru Kato


最後は4年生の北宅さんに勝って欲しかったので、北嶋さんもそのつもりでいたけれど、後ろとの差が縮まっていたので登り入ったら自分から行こうと考えた。大学1年目で優勝出来てすごく嬉しい。監督からは、1年目だから自分の思うように動いて総合優勝のことは考えずに自分で挑戦していきなさいと、スタート前に言われていた。それが実践出来たかなと思う。

同じ大学の鎌田晃輝が今年U23の全日本チャンピオンになったので、来年の全日本U23で走ることがあれば勝ちたい」
男子個人ロードレース 結果
1位 阿部 源(日本大学) 4時間32分3秒
2位 北宅柊麻(日本大学) +2秒
3位 上野颯斗(京都産業大学) +11秒
4位 北嶋桂大(日本大学)
5位 鎌田晃輝(日本大学)
6位 川野碧己(慶應義塾大学) +12秒
7位 村上裕二郎(明治大学) +14秒
8位 渡邉和貴(順天堂大学) +16秒
9位 比嘉祐貴(日本体育大学) +19秒
10位 五十嵐洸太(中央大学) +24秒


男子は日本大学、女子は鹿屋体育大学が総合優勝

男子総合成績 表彰式 photo:Satoru Kato
女子総合成績 表彰式 photo:Satoru Kato


ロードレースの結果をもって、大学対抗の総合成績が確定。男子は日本大学、女子は鹿屋体育大学が総合優勝を決めた。

日本大学はトラックで築いた大きなリードをさらに拡大。最終的に2位の中央大学にダブルスコアに近いポイント差をつけて総合3連覇を決めた。日本大学は今大会で1年生や2年生の活躍も見られ、この強さは来年以降も継続しそうな予感をさせる。

女子は鹿屋体育大学が2年ぶりに総合優勝を奪回した。2位に順天堂大学、3位に日本体育大学と、女子競技をリードする3校が上位を占める一方、ロードレースでは信州大学や明治大学など女子部員が少ない大学が上位を争った。今後さらなる女子競技者数の増加を期待したい。
総合成績
男子 女子
1位 日本大学 131p 鹿屋体育大学 33p
2位 中央大学 69p 順天堂大学 25p
3位 明治大学 54p 日本体育大学 25p
4位 鹿屋体育大学 51p 明治大学 22p
5位 京都産業大学 34p 早稲田大学 15p
6位 朝日大学 33p 八戸学院大学 13p

text&phoro:Satoru Kato