2010年7月19日、ツール・ド・フランス第15ステージでトマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム)が独走勝利。自身2度目のステージ優勝を飾った。終盤の超級山岳バレ峠でマイヨジョーヌのアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)はメカトラに見舞われ、先行したアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)がマイヨジョーヌを手にした。

フランスチャンピオンの飛揚

2級山岳ポルテ・ダスペ峠にあるファビオ・カサルテッリの石碑2級山岳ポルテ・ダスペ峠にあるファビオ・カサルテッリの石碑 photo:Cor Vosピレネー2日目はパミエからバニエール・ド・ルションまでの187.5km。途中4つのカテゴリー山岳が設定されており、ゴール21km手前の超級山岳バレ峠(標高1755m・登坂距離19.3km・平均勾配6.1%・最大勾配11.2%)が勝負の行方を大きく左右した。

パヴェル・ブラット(ロシア、カチューシャ)のファーストアタックを皮切りに、この日は2時間に渡ってアタック合戦が繰り広げられた。

神秘的な洞窟を駆け抜ける神秘的な洞窟を駆け抜ける photo:Makoto Ayano山岳賞2位のジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)が飛び出すと、Bboxブイグテレコムが集団を率いて吸収。90km地点で10名が飛び出すと、ようやくアタック合戦に終止符が打たれた。

逃げグループを形成したのは、総合31位・29分27秒遅れのヨハン・ファンスーメレン(ベルギー、ガーミン・トランジションズ)やフランスチャンピオンのトマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム)、元世界チャンピオンのアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)ら10名。

独走で超級山岳バレ峠を駆け上がるトマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム)独走で超級山岳バレ峠を駆け上がるトマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム) photo:Cor Vos逃げグループを見送ったメイン集団はペースを落とし、1995年にファビオ・カサルテッリ(イタリア)が不慮の死を遂げた105km地点の2級山岳ポルテ・ダスペ峠を6分30秒遅れで通過。カサルテッリの石碑の前を通過する際、選手たちは胸で十字を切った。

結局逃げグループとメイン集団のタイム差は最大11分まで拡大。逃げ切りが濃厚となった先頭10名は10分以上のリードを保ったまま超級山岳バレ峠(ゴール40km手前)に突入した。

超級山岳バレ峠で先頭ヴォクレールを追うアイトール・ペレス(スペイン、フットオン・セルヴェット)とアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)超級山岳バレ峠で先頭ヴォクレールを追うアイトール・ペレス(スペイン、フットオン・セルヴェット)とアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム) photo:Makoto Ayanoやがてセルゲイ・イワノフ(ロシア、カチューシャ)のアタックをきっかけに逃げグループは細分化し、先頭はイワノフ、ファンスーメレン、ヴォクレール、バッラン、アイトール・ペレス(スペイン、フットオン・セルヴェット)の5名まで減少。すると頂上まで8kmを残した急勾配区間でフランスチャンピオンが飛び立った。

序盤からチームメイトのセバスティアン・テュルゴー(フランス)の献身的なアシストを受けていたヴォクレールは、一発のアタックで独走態勢を築き、追いすがるバッランやペレスを振り切ってバレ峠単独登頂を成功させた。

観客が詰めかけた超級山岳バレ峠を上る観客が詰めかけた超級山岳バレ峠を上る photo:Makoto Ayanoそのままの勢いで下り区間を攻め続けたヴォクレールは、後続とのタイム差を保ったままゴールへ。フランスチャンピオンジャージにキスし、両手を広げてゴールに飛び込んだ。

フランスチャンピオンによるステージ優勝は1994年のジャッキー・デュラン以来の快挙。連日アタックを仕掛けていたBboxブイグテレコムに、念願のステージ優勝をもたらした。ヴォクレール自身は2年連続のステージ優勝だ。

両手を広げてゴールに飛び込むトマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム)両手を広げてゴールに飛び込むトマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム) photo:Cor Vos「フランス選手権で優勝したときは非常に感動したけど、そこで手にしたトリコロール(フランスチャンピオンジャージ)を着てステージ優勝を飾るなんて驚きの結果。今日の走りを誇りに思う。これまで苦しい山岳ステージを乗り越えてきた。リタイアしてしまいそうな日もあった。でも12回のツール出場で、中にはダメな日も有ることを心得ていた。それをチームの若い選手にも言い続けていたんだ」

Bboxブイグテレコムはシャルトーのマイヨアポワを同時にキープ。この日だけで60ポイント(最後の超級だけで40ポイント)を獲得したヴォクレールが山岳賞3位に浮上しており、Bboxブイグテレコムはシャルトーとヴォクレールの二枚看板でマイヨアポワキープに力を尽くすことになる。チームメイトの新城幸也(Bboxブイグテレコム)は28分49秒遅れのステージ142位でゴールした。


物議を醸したコンタドールのアタック

超級山岳バレ峠でメイン集団のペースを上げるアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)超級山岳バレ峠でメイン集団のペースを上げるアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:Cor Vosメイン集団はサクソバンクが捨て身のペースアップを図り、ハイスピードで超級山岳バレ峠の上りに突入。チームメイトたちが力つきると、マイヨジョーヌのアンディが満を持してアタックを仕掛けた。

アンディのアタックにはコンタドール、サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)、デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)、ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)の4名、つまり総合5位までの選手が追いつき、5名でメイングループを形成。

超級山岳バレ峠でマシントラブルに見舞われたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)超級山岳バレ峠でマシントラブルに見舞われたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:Cor Vos前日のアクス・トロワ・ドメーヌではコンタドールのマークに徹したアンディだったが、逆にこの日は自らアタックを仕掛け、コンタドールがアンディをマークする展開。しかし5名のメイングループは牽制によってペースが落ち、遅れていた総合6位以下のリーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)らが復帰した。

アンディは攻撃の手を緩めなかった。頂上まで4kmを残して再びアクセル全開で飛び出したアンディ。

アンディを置き去りにして超級山岳バレ峠を走るアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)アンディを置き去りにして超級山岳バレ峠を走るアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ) photo:Cor Vosコンタドールは反応が遅れ、アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)だけがアンディに追従する展開。しかしその刹那、アンディのバイクが異常を来し、ペダリングが止まってしまう。アンディはチェーン落ちでストップしてしまった。

立ち止まるアンディを追い抜いたメイングループからアタックしたのは総合2位のコンタドール。すぐさま総合3位のサンチェスと総合4位メンショフがコンタドールに合流し、3名でグループを形成してバレ峠の頂上をクリアした。マシントラブルで30秒を失ったアンディは猛烈な勢いで追い上げるも、頂上通過時でコンタドールに20秒届かず。

コンタドールらから39秒遅れでゴールしたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)コンタドールらから39秒遅れでゴールしたアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク) photo:Cor Vos上りで飛び出したコンタドールはダウンヒルスペシャリストとして知られるサンチェスの力を借りてハイスピードダウンヒル。総合5位のファンデンブロックと手を組んで走るアンディを引き離した。

最終的にコンタドールはアンディから39秒先行してゴール。アンディとの総合タイム差31秒をひっくり返し、マイヨジョーヌに袖を通した。

マイヨジョーヌに袖を通したアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)マイヨジョーヌに袖を通したアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ) photo:Cor Vosライバルのトラブル発生時にアタック。ロードレースの不文律に背くコンタドールの走りは物議を醸した。コンタドールはレース後の会見で「アンディのトラブルは知らなかった。彼がアタック後にスローダウンしたのは見たけど、バイクにトラブルを抱えているとは知らなかったんだ」と言い逃れたが、ホテル帰着後に撮影された公式ムービーの中でコンタドールは「レースは活性化していた。間違いを犯したかも知れない。申し訳なかった」と謝罪している。

マイヨジョーヌを失ったアンディは「怒りに溢れている。でも怒り散らしたところで結果は変わらない。トゥールマレーではバイクから崩れ落ちるまで攻めてみせる」とコメント。残るピレネー2ステージでサクソバンクは全開で攻撃を仕掛けてくるだろう。コンタドールvsアンディの闘いは今後ますますヒートアップする。

選手コメントはレース公式サイトより。


ツール・ド・フランス2010第15ステージ結果
1位 トマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム)    4h44'51"
2位 アレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)  +1'20"
3位 アイトール・ペレス(スペイン、フットオン・セルヴェット)
4位 ロイド・モンドリー(フランス、アージェードゥーゼル)     +2'50"
5位 ルーク・ロバーツ(オーストラリア、チームミルラム)
6位 フランチェスコ・レーダ(イタリア、クイックステップ)
7位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)
8位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)
9位 デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)
10位 ブリアン・ヴァントボルグ(デンマーク、リクイガス)
12位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)     +3'29"
13位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
14位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)
15位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)        +3'55"
17位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)
19位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)        +4'08"
21位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
23位 ランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)
24位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)
32位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)          +5'44"
48位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)      +9'35"
142位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)           +28'49"

第15ステージ敢闘賞
トマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム)

マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)        72h50'42"
2位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)         +08"
3位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)         +2'00"
4位 デニス・メンショフ(ロシア、ラボバンク)             +2'13"
5位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット) +3'39"
6位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)           +5'01"
7位 リーヴァイ・ライプハイマー(アメリカ、レディオシャック)     +5'25"
8位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)          +5'45"
9位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)      +7'12"
10位 ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ)    +7'51"
11位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)          +7'58"
13位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)    +9'02"
14位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)            +9'15"
22位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)   +16'16"
23位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)        +17'44"
105位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)            +2h13'36"

マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ)        187pts
2位 トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)  185pts
3位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)162pts

マイヨアポワ(山岳賞)
1位 アントニー・シャルトー(フランス、Bboxブイグテレコム)115pts
2位 ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)    92pts
3位 トマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム)   82pts

マイヨブラン(新人賞)
1位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)    72h50'50"
2位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)        +4'53"
3位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)        +7'50"

チーム総合成績
1位 レディオシャック   218h42'52"
2位 ケースデパーニュ      +4'27"
3位 ラボバンク        +17'23"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Makoto Ayano