瀬戸内海全域をサイクリングのメッカにするSetouchi Véloムーブメントの可能性を探るトライアルライド2日目は、山口県柳井市から「サイクリングアイランド」を名乗る周防大島へと渡り、海路で愛媛へ向かう。行政区の異るエリアでサイクリストを迎える適正を調べつつ走った。Setouchi Véloの今後についても考察する。(前編はこちら



本四高速のメンバーが加わって10人に増えて2日目の旅に出発!本四高速のメンバーが加わって10人に増えて2日目の旅に出発! photo:Makoto AYANO
山口県の柳井市で一夜を過ごしたSetouchi Véloトライアルライド一行は、2日目の進路に周防大島〜松山の渡海ルートを選んだ。橋とサイクリングロード、そしてフェリーで山口から愛媛までをつなぐ周遊ルートだ。しまなみ海道などに比べて全国的にはポピュラーとは言い難いが、近隣の多くのサイクリストが走ってきた島の道であり、愛媛県側とは違った発展をしてきたエリアだ。通常は島を一周してまた山口へと戻るのが一般的だが、今回は旅するサイクリストのように愛媛側へと渡ってみる。

白壁が残る柳井市内の古い町並みを散策白壁が残る柳井市内の古い町並みを散策 photo:Makoto AYANO
柳井駅前のホテルを出発した一行は、まず柳井市内の古い町並みを散策した。江戸時代中期(18世紀後半)に建造された白壁の町並みに軒を並べた商家の典型的な家造りが今もそのまま残っており、なんとも風情がある。甘露醤油の生産や、可愛らしい民芸品の『金魚ちょうちん』でも知られる柳井の旧市街は、自転車で散策するには手軽なサイズだった。

『金魚ちょうちん』でも知られる柳井。市街地の軒先あちこちで見られる『金魚ちょうちん』でも知られる柳井。市街地の軒先あちこちで見られる グリコ牛乳の宅配ポストなんて初めて見たグリコ牛乳の宅配ポストなんて初めて見た


白壁の町並みに軒を並べた商家の典型的な家造りが今もそのまま残っている柳井旧市街白壁の町並みに軒を並べた商家の典型的な家造りが今もそのまま残っている柳井旧市街 photo:Makoto AYANO
その後一行は大島大橋を渡り、周防大島(すおうおおしま)へと向かう。橋の自転車走行帯は狭く、すれ違いと追い抜きがギリギリできる程度なのでスピードの出し過ぎに気をつけたい。島へ渡った対岸では大きな「SUO OSHIMA」の文字モニュメントが歓迎してくれる。この前ですかさずV・E・L・Oの人文字を決める(笑)。

道路上には次の主要目的地までの距離を標した路面標示が引かれる道路上には次の主要目的地までの距離を標した路面標示が引かれる この日のおもな目的地、周防大島が見えてきたこの日のおもな目的地、周防大島が見えてきた photo:Makoto AYANO


柳井から周防大島を目指して海岸線ルートを走る柳井から周防大島を目指して海岸線ルートを走る photo:Makoto AYANO
周防大島は瀬戸内海では3番めに大きな島であり、冬でも温暖な気候で、柑橘類の栽培が盛んなことで「みかんの島」とも呼ばれる。「周防大島サイクルアイランド推進協議会」によるスオウオオシマ・ドットコムなどによりサイクリングで島を観光する情報が豊富で、ひとたび島へと渡ればサイクリスト大歓迎の雰囲気を感じることができる。島一周のサイクルイベント「シマクル」も人気だ。

大島大橋を渡り、周防大島へ。ここからはサイクリングアイランドを謳う島の道だ大島大橋を渡り、周防大島へ。ここからはサイクリングアイランドを謳う島の道だ photo:Makoto AYANO
そして「瀬戸内のハワイ」とも言われるのは、明治時代にサトウキビ畑や製糖工場で働くために約4,000人の島民が政策移民としてハワイへと渡ったことに由来する。移民の方々が出稼ぎを終えて日本へと戻る際、ハワイで触れた文化や風習を島へ持ち帰ったというのがそのいわれだとか。道路沿いのヤシの木や流れるアロハミュージックなど、島のあちこちでハワイの気配を感じることができる。夏になれば毎週土曜日にはフラダンスの祭典「サタデーフラ」も開催されるとか。

島へ渡ると大きな「SUO OSHIMA」の文字モニュメントが歓迎してくれた島へ渡ると大きな「SUO OSHIMA」の文字モニュメントが歓迎してくれた photo:Makoto AYANO
周防大島を東西に横断する国道437号線を中心に走るが、クルマの交通量は少なく、道にはブルーラインが引かれている。交通量が少なくサイクリングに勧められる県道や農道(オレンジロード)の案内図も島内に多く見ることができ、しまなみ海道の島々と同じぐらい自転車で走りやすい島と言えそうだ。

穏やかな海を横目に島の道・国道437号線を走る穏やかな海を横目に島の道・国道437号線を走る photo:Makoto AYANO
オレンジ色のガードレールが続くシーサイドラインの国道437号線はアップダウンも少なく、常に海を感じて走れる開放感いっぱいの道。今回は437号線を中心に走ったが、島を一周する外周道路もあるし、島内部を縦横無尽につなぐ細道もあるので、滞在時間が取れる人はぜひ走ってみてほしい。ちなみに島一周は90km・獲得標高差1,000m。この日は一般サイクリストの姿を多く見かけた。

国道437号線はアップダウンはわずかにあるがシーサイドで走りやすい国道437号線はアップダウンはわずかにあるがシーサイドで走りやすい photo:Makoto AYANO
国道437号線を道の駅サザンセトとうわへと向かう国道437号線を道の駅サザンセトとうわへと向かう photo:Makoto AYANO
周防大島一周サイクリングイベント「シマクル」のスタート/フィニッシュ地点になっている「道の駅サザンセトとうわ」でランチタイム。瀬戸内の郷土料理に加えて、テラスのフードコートにはO-KUN(オークン)という名のカンボジア料理店があり、日本語ペラペラのオーナー、ピセイさんが作るクイティウ(カンボジアの米麺)やサイチュル丼などが楽しめた。ピセイさんは今や島の人気者だそうだ。周防大島はハワイだけでなくカンボジアの味も楽しめる島なのだった。

ハワイアンミュージックが流れる道の駅サザンセトとうわハワイアンミュージックが流れる道の駅サザンセトとうわ O-KUNでクイティウ(カンボジアの米麺)やサイチュル丼をいただいたO-KUNでクイティウ(カンボジアの米麺)やサイチュル丼をいただいた


ヤシの木にハワイの雰囲気を感じる周防大島一周道路ヤシの木にハワイの雰囲気を感じる周防大島一周道路 photo:Makoto AYANO
周防大島の海沿いの道は走りやすい周防大島の海沿いの道は走りやすい photo:Makoto AYANO
お腹を満たした一行は伊保田港へ。ここで愛媛県松山市の三津浜港行きのフェリーに乗ることにする。料金はおとな一人2,570円(片道)、自転車料金が1,150円。今回は伴走のワンボックスカーがあったので、自転車を車内に積み込んで搬送料金を節約するのだった(笑)。

ワンボックスカーに自転車を積み、運賃を節約するワンボックスカーに自転車を積み、運賃を節約する 愛媛・松山の三津浜港に到着し、今治を目指して走り出す愛媛・松山の三津浜港に到着し、今治を目指して走り出す

松山の三津浜港で四国に上陸、今治を目指す。走り出してさっそく道路にブルーラインのピクトが現れ、サイクリストに安心感を与えてくれる。四国一周ルートや次の道の駅までの距離数などを明快に示してくれるのだ。

伊予鉄道高浜線・梅津寺駅は、ホームのすぐ脇が海と砂浜という最高のロケーション伊予鉄道高浜線・梅津寺駅は、ホームのすぐ脇が海と砂浜という最高のロケーション photo:Makoto AYANO
「みきゃんパーク」が駅前に建つ伊予鉄道高浜線・梅津寺(ばいしんじ)駅は、ホームのすぐ脇が海と砂浜という最高のロケーション。1991年に大ヒットしたテレビドラマ「東京ラブストーリー」の最終回のロケ地として有名で、主人公の赤名リカがハンカチを結びつけた柵がある。ホームの柵にはロケ地であったことを示す案内看板が設置されており、今も主人公を真似てハンカチを残していく来訪者がいる。ここでも一行はお約束のVELOの人文字を決めたのだった(笑)。

駅の柵には東京ラブストーリーの赤名リカが結びつけたハンカチがある駅の柵には東京ラブストーリーの赤名リカが結びつけたハンカチがある 東京ラブストーリーで一躍有名になった梅津寺駅東京ラブストーリーで一躍有名になった梅津寺駅 photo:Makoto AYANO

平日の交通量の多い時間帯だったこともあり、一行は道幅の広いバイパス196号線を選んで走った。

道の駅 風早の郷・風和里(ふわり)は、松山から四国一周サイクリングをスタートさせた場合の最初に立ち寄る道の駅だ。この先からのどかな海沿いの道「はまかぜ海道」は瀬戸内海の穏やかさを満喫できる雰囲気たっぷりの道。山側にはJR予讃線の可愛い電車が走っている。

瀬戸内海の穏やかさを感じながら今治を目指す瀬戸内海の穏やかさを感じながら今治を目指す photo:Makoto AYANO
のどかな「はまかぜ海道」は瀬戸内海の穏やかさを満喫できる道のどかな「はまかぜ海道」は瀬戸内海の穏やかさを満喫できる道 photo:Makoto AYANO
瓦の生産で有名な菊間町を通過瓦の生産で有名な菊間町を通過 photo:Makoto AYANO
瓦の生産で有名な菊間町、星の浦海浜公園を経て今回のライドのフィニッシュ地点である今治駅へ。今治駅は駅構内にジャイアントストア今治があり、本格的スポーツバイクのレンタルが可能。そして駅前にはサイクリングターミナルのi.i.imabari! Cycle Station (アイアイ今治サイクルステーション)があり、自転車組み立てスペースや洗車スペース、更衣室(シャワー含む)、多目的スペースなどが充実している。今治駅は尾道行きのバスなどの発着駅にもなっており、まさにしまなみ海道サイクリングへのゲートウェイとしての機能をふんだんに備えているのだ。

松山〜今治間のブルーラインは四国一周サイクリングにも対応したものだ松山〜今治間のブルーラインは四国一周サイクリングにも対応したものだ 今治駅前に到着したSetouchi Véloメンバーたち今治駅前に到着したSetouchi Véloメンバーたち photo:Makoto AYANO

それにしても愛媛県は「愛媛マルゴト自転車道」や四国一周サイクリング、しまなみ海道サイクリングで自転車を使った観光をリードする「自転車先進県」なので、サイクリストを迎え入れる体制の充実度はさすがとしか言いようがない。今回の旅の終盤にそれが垣間見えて、メンバーにとっては改めて学ぶものが多かった。

今治駅構内にあるジャイアントストア今治今治駅構内にあるジャイアントストア今治 photo:Makoto AYANO
ジャイアントストア今治にはレンタサイクルも豊富に揃うジャイアントストア今治にはレンタサイクルも豊富に揃う 今治駅前のi.i.imabari! Cycle Station (アイアイ今治サイクルステーション)今治駅前のi.i.imabari! Cycle Station (アイアイ今治サイクルステーション) photo:Makoto AYANO

2日間のSetouchi Véloトライアルライドで、瀬戸内海に沿って広島〜山口〜周防大島〜愛媛を走ることができた。実際に走ることで、この地がサイクリングパラダイスとなるための様々な課題点が見えた。Setouchi Velo推進委員会では、ライドを通じたリサーチを、この地での今後のサイクリング環境の向上に役立てるべく今日も動いている。

Setouchi Vélo トライアルライドDay2
柳井クルーズホテル〜柳井市内の白壁の町並み散策〜大島大橋〜周防大島〜道の駅サザンセトとうわ〜伊保田港〜フェリー〜三津浜港〜道の駅風早の郷・風和里〜星の浦海浜公園〜今治駅 約114km



本四高速が後押しするSetouchi Vélo 「瀬戸内海全域をサイクリングの聖地に」

本州四国連絡高速道路株式会社のSetouchiVeloプロジェクト推進チーム本州四国連絡高速道路株式会社のSetouchiVeloプロジェクト推進チーム photo:Makoto AYANO
2回に渡って紹介してきたSetouchi Vélo。しまなみ海道などすでに定評あるエリアに加えて瀬戸内海全域のサイクリングロードをつなぎ、県や行政という枠組みを超えた連携によって自転車ツーリズムの環境を整備して向上させていこうというムーブメントだ。

サイクリング推奨ルートのブルーラインなどの整備も目指すことになるサイクリング推奨ルートのブルーラインなどの整備も目指すことになる photo:Makoto AYANOチェックポイントとして指定したエリアについて、「走行環境」「コースの魅力」「サイクリストへのサポート」という観点でチェックシートにより点数化・評価し、改善点を挙げていく。そうした実走調査をもとにサイクリング環境の向上につなげるのが今回のSetouchi Véloトライアルライドの趣旨だ。こうしたライドを瀬戸内海を囲むエリア全域で定期的に実施し、各地域の自治体や自転車推進団体とともに協力しあってサイクリング推奨ルートの完成を目指しているのだ。

門田基志選手(ジャイアント)をスーパーバイザーとする愛媛県と力を合わせながらSetouchi Vélo を推し進めるのが本州四国連絡高速道路株式会社(以下「本四高速」)だ。今回のSetouchi Véloトライアルライドには、本四高速の社員6人を含む10人のメンバーが参加。実走によって得られたデータをルートづくりに役立てていくという。

では、そもそもなぜ橋梁を管理する会社がサイクリングの推進を目指すのか? その理由を本四高速の取締役・常務執行役員・地域連携事業推進本部長である森毅彦さんが語ってくれた。

森さん:まずSetouchi Véloが目指すもの、それは瀬戸内をサイクリングのテーマパークにすることです。サイクリングで盛り上げることで瀬戸内の人の交流・対流を増し、活性化する。それが目標です。

弊社「本四高速」は、世界最大級の明石海峡大橋をはじめとした長大橋梁群の、神戸淡路鳴門自動車道、瀬戸大橋、瀬戸内しまなみ海道の3つのルートの運営・管理をおもな業務としていますが、民営化以来、「瀬戸内企業」を掲げて地域に立脚する企業としての取組をしています。地域との関係を深め、「インフラ経営」のリーディングカンパニーを目指して新たな行動計画を策定し、国民の重要な資産である本四高速道路の潜在力を引き出しつつ、新たな価値を創造し、瀬戸内圏の持続的な発展に貢献していくことを目指しています。

サイクリングによって瀬戸内の魅力を引き出し、人の対流を促進することがSetouchi Veloの目標サイクリングによって瀬戸内の魅力を引き出し、人の対流を促進することがSetouchi Veloの目標 photo:Makoto AYANO
本四高速は瀬戸内圏全体に立脚する数少ない企業主体です。その貴重な立場を活かし、多様な団体等と連携して瀬戸内を元気にする取組を発展させていきます。「瀬戸内企業」として、国の各機関、地方公共団体、経済連合会、商工会議所、観光協会、地元企業などと連携して「瀬戸内の未来」を創出することが役割だと考えています。

瀬戸内サイクリングの発展をデザインしたSetouchi Veloオフィシャルジャージ瀬戸内サイクリングの発展をデザインしたSetouchi Veloオフィシャルジャージ photo:MakotoAYANO弊社はすでに来島海峡大橋の主塔に登る塔頂体験ツアーの推進や、サービスエリアを拠点とした「瀬戸内魅力発見キャンペーン」の展開、瀬戸内圏の81美術館を結ぶ「せとうち美術館ネットワーク」の活動などを展開していますが、サイクリングによって瀬戸内圏の魅力を創出し、人の対流を促進する取組みがSetouchi Vélo構想なのです。

瀬戸内圏全体に点在する多数のサイクリングルートを広くネットワーク化し、瀬戸内圏全体をサイクリングで自在に周遊できる世界に誇るサイクリングのメッカ(聖地)とするためのプラットフォームの立ち上げを愛媛県とともに提案します。それが瀬戸内圏の県や中国・四国の経済連合会、地方整備局や地方運輸局等とともに今秋に設立する「Setouchi Vélo 協議会」です。

Setouchi Vélo協議会には瀬戸内圏のサイクリングルートに関わる地方公共団体や団体等にも参画していただきます。その活動の最大の特色は、行政境界を越えて魅力的なサイクリングルートをつなげることなのです。瀬戸内をサイクリングのメッカにするSetouchi Véloのこれからに期待してください。

text&photo:Makoto AYANO