ツール2010を特徴づける第3ステージはパヴェが総合を争う選手の明暗を分けた。先頭グループのスプリントを制したトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)がステージ優勝し、ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)がマイヨジョーヌを取り戻した。

スタート前の新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)スタート前の新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Makoto Ayano「パヴェで総合優勝者は決まらないが、パヴェで総合優勝を失うことはあり得る」。総合狙いの選手が口を揃えたこの言葉は、見事に核心をつくものになるかもしれない。この日のレースはやはりパヴェが選手の明暗を分けた。

レースは11km地点で7名の逃げグループが形成。スティーブ・クミングス(イギリス、チームスカイ)、ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ)、パヴェル・ブラット(ロシア、カチューシャ)、ロジェ・クルーゲ(ドイツ、チームミルラム)、ピエール・ロラン(フランス、Bboxブイグテレコム)、イマノル・エルビーティ(スペイン、ケスデパーニュ)、ステファヌ・オジェ(フランス、コフィディス)と逃げを得意とする選手が揃った。

この日逃げたピエール・ロラン(フランス、Bboxブイグテレコム)ら7人この日逃げたピエール・ロラン(フランス、Bboxブイグテレコム)ら7人 photo:Makoto Ayanoこの7人は差を広げるべく逃げるものの、後半に控えたパヴェを見据えるメイン集団が必要以上のタイム差を許さない。78km地点で3分30秒差に抑え込む。

128km地点でこの日最初のパヴェが登場。計7つあるパヴェの、まずは脚試し。ここは逃げる7人も、1分53秒遅れでパヴェに入ったメイン集団も大きなトラブルなく通過。まだまだレースは動く気配を見せない。

ゴールまで50kmを切ると、サクソバンクが積極的なコントロールを見せていた集団では位置取りが厳しくなってくる。残り44kmでこの日2つめのパヴェに突入。ここからレースは本格化。土埃を上げて集団が縦に伸びながら、所々中切れを起こしながら石畳を行く。

メイン集団はリーダーチームのクイックステップがコントロールメイン集団はリーダーチームのクイックステップがコントロール photo:Makoto Ayano

この石畳を出たところで落車が発生。ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ)が昨日に引き続き落車に巻き込まれた。

独走を開始したライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ)独走を開始したライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ) photo:Makoto Ayano残り27.5km地点から始まるこの日4つめのパヴェ区間、サル・エ・ロジエールで先頭の7人も崩壊。ヘジダルが飛び出し、単独で先頭に躍り出る。勢いの上がったメイン集団では大きな落車が発生。激しく石畳に叩き付けられたのはルクセンブルグチャンピオンジャージを着るフランク・シュレク(サクソバンク)。

フランクは立ち上がることができず、完全にストップ。昨年総合5位のフランクは鎖骨骨折で無念のリタイヤを喫することとなった。

フランクを失いはしたものの、パヴェ区間で完璧な走りを見せたサクソバンクフランクを失いはしたものの、パヴェ区間で完璧な走りを見せたサクソバンク photo:Makoto Ayano悲運の兄に代わって、弟アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)にはこのパヴェがチャンスを呼び込んだ。チームメイトでパヴェのスペシャリストのファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)のアシストを受け、ヘジダルに続く2位集団に入った。

この集団にはカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)が入ったものの、アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)やランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)を後方の集団に置き去りにすることに成功した。

フースホフト、カンチェラーラ、アンディ、トーマスらがヘジダルに続く2位集団を形成フースホフト、カンチェラーラ、アンディ、トーマスらがヘジダルに続く2位集団を形成 photo:Cor Vosこのアンディ集団には他にトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)、ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)らが入った。アンディ、エヴァンス、カンチェラーラは利害が一致。全力でゴールを目指す。

後方集団はアームストロングとコンタドールを含む50人ほどで6つめのパヴェに突入。ここでアームストロングが痛恨のパンク。ヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、レディオシャック)だけがアシストにつくが、ホイールを交換するとすでにコンタドールははるか前方。

パンクしたアームストロングを懸命に引くヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、レディオシャック)パンクしたアームストロングを懸命に引くヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、レディオシャック) photo:Cor Vosここからアームストロングとポポヴィッチの2人旅が始まる。コンタドール集団ではブラッドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)を擁するチームスカイがペースを上げたため、アームストロングは追いつくどころか差が開いていく状況に追い込まれた。

このパヴェではマイヨジョーヌのシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)がパンクでストップ。アームストロング達からも更に遅れて走る。

パヴェに苦しむアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)パヴェに苦しむアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ) photo:Cor Vos先頭を行くヘジダルを追うアンディ集団では、カンチェラーラが気迫の牽引。残り10km地点、最後のパヴェ区間となるアヴルイでもカンチェラーラはその力を遺憾なく発揮。一気に先頭のヘジダルとの差を縮めていく。

こうなると辛いのはコンタドールだ。20人ほどと数では有利だが、相手が2度のパリ〜ルーベ覇者とあっては分が悪い。この最後のパヴェを抜けてコンタドール集団はアンディ集団に40秒差。アームストロングに至っては1分44秒もの差を負った。

2度のパンクで窮地に立たされたマイヨジョーヌのシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)2度のパンクで窮地に立たされたマイヨジョーヌのシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ) photo:Cor Vos粘ったヘジダルは残り6kmでアンディ集団に吸収。ステージ優勝よりもタイム差を稼ぎたいアンディ、エヴァンス、カンチェラーラの後ろでフースホフトが虎視眈々とステージ優勝を見据える。

アームストロングはコンタドール集団から切れた30名ほどの選手の小集団に合流。しかしコンタドールはそのさらに1分先を行っている状況。

少人数のスプリントを制したトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)少人数のスプリントを制したトル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム) photo:Makoto Ayanoエヴァンスが牽引して残り1kmを切った先頭グループはスプリント勝負に。思い切って本日の敢闘賞ヘジダルがアタックをかけるが、冷静に対処したフースホフトが余裕のスプリント勝利を挙げた。昨日のニュートラリゼーションに不満を表明していたフースホフトにとって、嬉しい勝利となった。

コンタドール集団はアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)を先頭にラストスパート。しかしこのペースアップに肝心のエース、コンタドールがついていけず千切れてしまう。コンタドールはホイールのトラブルで失速し、ヴィノクロフに先に行かせることを選択したのだった。ヴィノ集団はフースホフトから53秒遅れ。

結果としてコンタドールだけがひとり遅れてゴールラインに1分13秒遅れでゴール。失望を隠さないジェスチャーでのゴールとなった。

アームストロングは2分8秒遅れの集団でゴール。総合争いの本命選手の中で、最もパヴェに苦しめられる結果になってしまった。新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)はその後ろの大集団で2分25秒遅れの72位でこの日を終えている。


ヴィノクロフを先に行かせたアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)が失望をあらわにゴールヴィノクロフを先に行かせたアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)が失望をあらわにゴール photo:Makoto Ayanoパンクにより2分8秒遅れをとったランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック)パンクにより2分8秒遅れをとったランス・アームストロング(アメリカ、レディオシャック) photo:Makoto Ayano

もうひとり、パヴェの犠牲となったのはシャヴァネルだ。2度のバイク交換に見舞われ、最後までペースを上げられなかったシャヴァネルは3分58秒遅れてゴール。昨日手に入れたマイヨジョーヌを失ってしまった。

マイヨジョーヌは再びカンチェラーラの手元へ戻った。サクソバンクとしてはフランクを失う手痛い損失はあったものの、アンディの総合上位へむけての好走と、マイジヨジョーヌ奪還で良い形をつくり出すことに成功した。

翌第4ステージはスプリンターのための平坦ステージ。しかし起伏があるためにパンチャーにもチャンスはあるかもしれない。この日のパヴェで疲弊した選手も多いことから、予想外の展開が見られる可能性は高い。

ツール・ド・フランス2010第3ステージ結果
1位 トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)4h49'38"
2位 ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)
4位 ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ)
5位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)
6位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)
7位 ヨハン・ファンスーメレン(ベルギー、ガーミン・トランジションズ)+53"
8位 ブラッドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)
9位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
10位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)
72位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)            +2'25"

マイヨジョーヌ(個人総合成績)
1位 ファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)       14h54'00
2位 ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)          +23"
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)        +39"
4位 ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ)      +46"
5位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)      +1'01"
6位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)        +1'09"
7位 トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)    +1'19"
8位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)      +1'31"
9位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)          +1'40"
10位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)+1'42"
73位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)            +3'47"

マイヨヴェール(ポイント賞)
1位 トル・フースホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)63pts
2位 ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)49pts
3位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)44pts

マイヨアポワ(山岳賞)
1位 ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)13pts
2位 シルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)8pts
3位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)8pt

マイヨブラン(新人賞)
1位 ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)14h54'23"
2位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)+46"
3位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス・ドイモ)+2'01"

チーム総合成績
1位 サクソバンク 44h45'55"
2位 ガーミン・トランジションズ+0'11"
3位 チームスカイ +0'25"


※コンタドールの遅れた理由について加筆修正を行いました(2010.7.8)


text:Yufta Omata
photo:Makoto Ayano,Kei Tsuji,Cor Vos

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