6年ぶりに木祖村のコースに「2days」が帰ってきた。自然災害やコロナ禍を乗り越え、6年ぶりに開催された「2days RACE in 木祖村」の模様を、届いたレポートで振り返ります。



日本で多く開催されている「ワンデーレース」と異なり、2日以上、複数ステージに渡って開催されるステージレース。同時期に開催されているジロ・デ・イタリアやツアー・オブ・ジャパンもステージレースであり、日本のアマチュアレーサーにもその経験を積んでもらうべく「2days RACE in 木祖村」が長野県木曽郡木祖村の味噌川ダム周回コースで5月14日・15日の2日に渡って開催された。

ステージ1A、個人タイムトライアル 第一走者から1分間隔でスタートステージ1A、個人タイムトライアル 第一走者から1分間隔でスタート
「日本一小さなステージレース」を名乗りつつも、総合上位の選手には全日本選手権出場権が与えられるなど、日本の頂点、世界への挑戦への足掛かりとなる魅力ある大会だ。

「ロードレースは個人競技に見えるが、実はチーム競技」ということを認識してもらいたいと主催者は強く想っている。そのため「2days RACE in 木祖村」にはエントリーの時点から、チーム内の選手の役割分担を意識させる仕掛けがある。申込用紙のチーム編成にエース、サブエース、水運び、キャプテンの役割が割り当てられているのだ。もちろん役割分担は絶対的なものではなく、レースの展開次第で方針変更もあるだろうが、チームは選手たちの脚質や、コースとの相性を考えて作戦を練ってレースに臨むことになるだろう。また今回国内初の試みとして取り入れられた「団体総合チームへリーダーの証、イエローゼッケン授与」もチーム力を目に見える形で評価してもらう仕組みだ。

また、U-23(23歳以下部門)やO-40(40歳以上部門)の選手の頑張りにスポットライトを当てるべくホワイトジャージ、ピンクジャージで表彰したり、地元の特産品を賞品に入れて、地域貢献をアピールするなど、コースや表彰対象、賞品の設定も主催者の想いが詰まっている。

なお「2days RACE in 木祖村」は2016年の大会以後、自然災害により味噌川ダム周回道路の一部が崩落しコースが使用できない状態となってしまった。その後は場所を長野県木島平村に移して2days RACE の開催を続けていたが、2020年、2021年はコロナ禍で、大会開催を断念した経緯がある。



5月14日(土) 大会1日目:神村泰輝(早稲田大学)が個人TTを制し、リーダージャージ確保

レースは地元の部、で開幕。参加枠を地元長野県の子供、大人に限定して、周回コースの一部を使って個人タイムトライアルを実施。家族の応援を受けての力走する地元選手たち。表彰には唐澤一寛木祖村村長が駆けつけてくれた。地元の方々も参加していただき、コースの過酷さ、自転車で走ることの爽快感、トップ選手の実力への理解が深まったことだろう。地元の理解、応援があってのレースだと痛感した。この中から将来の名選手が誕生してくれることを期待したい。

続いて、ステージ1Aとなる約9kmのタイムトライアル。スタート台から、1分間隔で35チームの選手が順番に出走していく。スペアバイク、スペアホイールを積んだチームカーが選手を追走する本格的なスタイル。メカトラブルでのタイムロスを最小限に抑えるため、万が一に備えて予備機材を準備して選手を追う。

個人タイムトライアル BREZZA-KAMIHAGI チームカー車内より個人タイムトライアル BREZZA-KAMIHAGI チームカー車内より シャンパン初体験の神村に高岡が栓の開け方を伝授シャンパン初体験の神村に高岡が栓の開け方を伝授

ステージ1A後、総合リーダージャージを手にした神村泰輝(早稲田大学)ステージ1A後、総合リーダージャージを手にした神村泰輝(早稲田大学)
今回筆者はチームカーに同乗取材の機会を得た。チームカーの中から見ると、コーナー、下り、上りで、ロードバイクと自動車の走行特性の違いを痛感する。下りコーナーをひらりひらりと曲がっていくロードバイクを、必死で追ったかと思えば、上りで失速する選手を邪魔しないようなドライブテクニックも重要になってくる。

最終チームの第一走者がスタートを終えると、引き続き、最初のチームの第二走者が出走。天候の変化を予測したり、チームカーに乗ってメンバーの走りとコースを確認し、自分の走りのイメージを膨らませたり、と出走順序を考えるのもチームの作戦だ。

今回は、会場レイアウトの都合上、チーム駐車場、選手待機場所、スタート位置が離れていた。スタート時刻に間に合うように準備・移動するスケジュール管理もチームとして大事。情報伝達など、チームとしての統制力が必要だと感じた。

タイムトライアル終盤となると、暫定だが上位選手が呼ばれてインタビューが始まる。最終走者がゴールするまで、トップの座に残れるかドキドキしながらレースを見守るのだ。以前は上位選手がレース中に待機するホットシートがあったが、今回は感染対策で無しに。ちょっと残念だ。

最終走者がゴールして順位が確定。タイムトライアル優勝は早稲田大学の神村泰輝。2位はRoppongi Expressの高岡亮寛で、3位も早稲田大学大仲凛功となった。フィニッシュ後は早速表彰式。シャンパンセレモニーが各ステージごとにしっかり行われるのも、このレースの見どころ。多くの人に表彰台での振る舞いを学んでほしいとの想いからだ。そしてステージレースの醍醐味、リーダージャージの授与。優勝した神村選手は各賞のジャージを着たり脱いだりと忙しい。



午後はステージ1Bとなる81kmのロードレース。今年hが出走サインシート代わりにチーム写真を撮影することとなり、グランツールのチームプレゼンテーションを思わせる雰囲気だ。チームで統一した決めポーズを持っていたり、舞台上でのパフォーマンスでアピールする選手も。

ステージ1Bのスタートライン、4賞ジャージが最前列に並ぶステージ1Bのスタートライン、4賞ジャージが最前列に並ぶ
木祖村村長と味噌川ダム管理所所長代理の挨拶の中では、ダムを活かした集客の仕掛けや、まちづくりのためにダム周回道路の復旧は悲願だった、という思いも。レースは走力の大きく異なる選手の混走は危険という主催者判断から個人TTの成績に応じて、出走グループを分けてのスタートとなった。

レースは途中逃げが生まれ、リーダーチームは逃して良い選手かをタイム差を考えることに。リーダーとそのアシストが協調してリーダーの成績を守るべく逃げを許さない。これぞステージレースだ。今年は大学生チームが厳しいペースを刻み、例年よりも厳しいレース展開が繰り広げられることに。

ステージ1B序盤戦ステージ1B序盤戦
ステージ1Bでの表彰 1位 篠﨑、2位 中里、3位 高岡ステージ1Bでの表彰 1位 篠﨑、2位 中里、3位 高岡 比嘉祐貴(日本体育大学)が周回賞のワインを続けてゲット。チームスタッフもニッコリ。比嘉祐貴(日本体育大学)が周回賞のワインを続けてゲット。チームスタッフもニッコリ。


最終周に入り、8名の逃げの中から多摩学連の篠﨑蒼平がトップでゴールしステージ優勝。後続のメイン集団もゴール直前に追いつき、39位までは同タイム。リーダージャージの神村もこの中に残りタイム差は変わらなかった。

成績上位の選手だけでなく、下位選手もステージレースのルールを知った走りが重要になってくる。
ジロもツアー・オブ・ジャパンも、この「2days RACE in 木祖村」も、次のステージの出走の条件は制限時間内での完走。集団ゴールにはグループ全員に同タイムが与えられる。下位グループ内での順位争いは無意味だ。

1日目の夜は、周回賞で獲得したワインで乾杯するチーム、明日に備えて宿のお風呂で体力回復に備えるチーム、今日の結果をうけて作戦を練り直すチームなどなど。こうした時を経て、チームも団結力が更に上がることになるだろう。



5月15日(日) 大会2日目:神村が首位を守り総合優勝、2位は高岡亮寛 (Roppongi Express)

2日目の午前は、ジュニアレース兼高校生の長野県インターハイ予選と、昨日リタイヤした選手たちの「残念レース」を兼ねる。9km×8周=72kmのロードレース。

ジュニアの大会にはギア比チェックあり。規定で重いギアは使用できない。ルールを守ってイコールコンディションで競走に臨む意識づけはキッズレースの頃から大事にしたいところ。未経験で自転車競技部に入った1年生にとってはデビューレースであり、水の準備、上着を脱ぐタイミング、先輩たちがレース前の準備を優しくレクチャーしていた。

ジュニアのレースにボンシャンスを率いて、福島晋一がスタート地点にやってきた。南信州、長野県飯田市周辺を拠点にスポーツサイクルの活用に取り組んでいる。ボンシャンスがステージレースに参戦する日も近いか?



午後には9km×14周=126kmを走る最終ステージ「ステージ2」が開催。 この日も出走サイン代わりのチームプレゼンが行われ、メンバーが少なくなってしまったチームも、出走選手が全員そろって写真撮影。ここで日本初の試みとして、団体総合成績のトップチームに対してイエローゼッケンの授与式が行われた。

ステージ2、スタート前プレゼンテーション、早稲田大学、イエローゼッケンは団体総合1位の証ステージ2、スタート前プレゼンテーション、早稲田大学、イエローゼッケンは団体総合1位の証 高岡のステムにはライバルのゼッケンとタイム差が記されていた高岡のステムにはライバルのゼッケンとタイム差が記されていた

ステージ2のスタート前。前日には各リーダージャージと同色のバーテープが授与されジャージを彩ったステージ2のスタート前。前日には各リーダージャージと同色のバーテープが授与されジャージを彩った
上位3人のタイムの合計で競う団体総合部門は現時点で早稲田大学がトップだ。2位には日本大学が数秒差と、逆転が狙える位置にいる。ステージ後にどう変わっているか、目が離せない。

スタートラインには各賞のリーダージャージの着用者が先頭に並ぶ。グランツールのリーダージャージカラーのバイクには及ばないけれど、「2days RACE in 木祖村」でもリーダージャージと同色のバーテープも授与して、特別感を演出している。前日授与されたバーテープをすぐに仕上げるメカニックの腕の見せ所だ。Roppongi Expressの高岡亮寛のステムを見ると、上位選手のタイム差がチェックできるようになっていた。トップ選手は力走中に頭もフル回転でレースを組み立てているのだ。

補給ポイント、水を受け取ってチームメイトに渡すのも大事な仕事だ補給ポイント、水を受け取ってチームメイトに渡すのも大事な仕事だ
ステージ2、奥木曽大橋を渡る逃げ5名ステージ2、奥木曽大橋を渡る逃げ5名
レースは4人の逃げが35秒差まで広がり、途中のスプリント賞のボーナスタイムも加わって、バーチャルリーダーが何度も入れ替わる展開に。審判もアナウンサーも大忙し。しかし、最終周に集団が追いつき、集団ゴールで同タイムとなる。こうして個人総合優勝は神村の手に。リーダー自ら脚を使って逃げを追い、吸収した走りは評価されるだろう。初日の表彰台では初々しさを隠せなかったものの、最終日には、走りも、表彰式の振る舞いも「立場が人を育てる」を体現していた。

しかし一方、団体総合の面では早稲田大学は残り3周の時点で3人目の選手もリタイアし、団体総合成績を失ってしまう。2ステージを制した京都産業大学Aチームが逆転で団体総合優勝に輝いた。

学生のチームの積極的な活躍が目立った木祖村。翌月6/11、12には同じコースを使って「全日本学生選手権個人ロードレース大会」が開催される。コースの攻略ポイントをつかんだ今大会に参加したチームの活躍が予想される。

そして「2days RACE」の次回は、10月に長野県北部、木島平村で開催。上位チームには来年の「2days RACE in 木祖村」へのシード権が与えられ、全日本選手権参加へと道筋がつながっている。ステージレースの走り方を予習して、チーム力を鍛えて、参戦してみてはいかがだろう?7月中旬に要項掲載予定のオフィシャルサイトのチェックをお忘れなく。

個人総合成績表彰台個人総合成績表彰台
団体総合を決めた京都産業大学Aチーム団体総合を決めた京都産業大学Aチーム

TEXT&PHOTO ITSUSHI KANBE