男女エリートはともに新王者が誕生。3年後のパリ五輪を視界に捉えるU23勢など、新勢力や若い力が躍動したMTB全日本選手権XCO。各カテゴリーを制した選手たちの言葉でレースを振り返るとともに、今後の展望も語ってもらった。



男子エリート優勝:沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)

独走態勢を築き上げた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が高らかにナンバーワンポーズ独走態勢を築き上げた沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)が高らかにナンバーワンポーズ photo:Syunsuke FUKUMITSU
自転車競技の入口がマウンテンバイクで、小学生の頃から日本チャンピオンにあこがれていて、人生で初めて抱いた夢でした。過去にはシクロクロスで日本一になり、今年からはロードレースにも参戦しましたが、やっぱりこのレースで勝ってこその2021年シーズンだと思っていたので、狙い通りの結果に最高の気分です。

竹内選手や宮津選手が粘り強くついてきていて、特に竹内選手は僕のアタックにもたびたび反応していたので、「これはどこかで突き放さないと勝てないな」と思っていました。狙いとしては残り2周での仕掛けでしたが、気が付いたら2人が後ろにいた…というのが4周目のことでした。「もうここしかない」と思って、独走を狙ってペースアップしていきました。

フィニッシュ直後にマイクを渡された沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)。開口一番「小学生の頃からの夢がかなった」 フィニッシュ直後にマイクを渡された沢田時(TEAM BRIDGESTONE Cycling)。開口一番「小学生の頃からの夢がかなった」  photo:Syunsuke FUKUMITSU
それでも宮津選手との差が15秒程度で変わらず、最終周回に入ってからも勝利を確信できるところまではいきませんでした。パンクのリスクもあるコースなので、下りで攻めつつも慎重さは失うことなく走りました。

今年ロードレースにも本格参戦するようになりましたが、マウンテンバイクへの取り組み方の変化や調整方法の工夫というのは特にありませんでした。あくまで今年はこの競技で勝つことだけを見据えていましたし、ロードレースでは結果的に走れたという部分もありましたが、比重的にはマウンテンバイクが一番でした。

マウンテンバイク、シクロクロス、ロードレース、この3つを極めたい、というのが僕の目標です。それぞれで日本一になりたいと思っているので、シクロクロス、マウンテンバイクときて、来年はロードレースでも全日本のタイトルを狙ってみたいなと考えています。それでも、フォーカスするのは3種目すべて。このスタンスは変わらないですね。



女子エリート優勝:橋口陽子(AX MTB team)

最後まで集中を切らすことなく走った橋口陽子(AX MTB team)最後まで集中を切らすことなく走った橋口陽子(AX MTB team) photo:Syunsuke FUKUMITSU
このような素晴らしい大会を開いてくださった関係者の方々にまずはお礼を言いたいと思います。今回の優勝はラッキーな部分もあったと感じていますが、競技を続けてきて良かったなという気持ちですね。

昨年の1位と2位の選手がいなかったということで、私自身チャンスがあるとは思っていましたが、レース中は落車に巻き込まれたりもあって思い通りの展開とはなりませんでした。それでも落ち着いて走ることはできたかなと思います。単独走になりましたけど、集中を切らすことはなかったですし、落車に巻き込まれた直後も「落ち着け、落ち着け」と自分に言い聞かせながら、その通りに走ることができました。

女子エリートの表彰式 女子エリートの表彰式  photo:Syunsuke FUKUMITSU
普段は接客業に就いていて、トレーニングは朝練か夜練という感じです。仲間と一緒に走って、私が鍛えてもらっている感じです。新型コロナ禍にあってはローラーでのトレーニング時間を増やしたり、少人数でのライドに切り替えたり、あとは筋トレも取り入れて効率よく取り組んでいます。今日はその成果も出ましたし、直前の調整も上手くいったように思います。

来年はU23の強い選手たちがエリートに上がってくるので、今ある差をどこまで縮めていけるかにチャレンジしながら、前向きに走っていけたらと思っています。



男子U23 優勝:北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)

男子U23で圧勝した北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM)男子U23で圧勝した北林力(DREAM SEEKER MTB RACING TEAM) photo:Syunsuke FUKUMITSU
U23のタイトルを獲ることは予定通りでしたが、目標としていた「エリートの選手たちを全員追い抜く」というのができなかったので満足とまではいきませんね。ただ、タイトルを守るという最低限の結果は残すことができました。

3周目には先頭パックに入るイメージをして臨んでいたのですが、1周目でエリートの選手をパスすることに力を使ってしまって2周目、3周目とペースを上げられませんでした。何とか踏み直そうとは思っていたのですが、なかなか上げられず、レース後半は前との差が縮まったり広がったりを繰り返す感じでムラのある走りになってしまいました。途中から単独走になったので、そこで気持ちを奮い立たせるのも難しかったですね。

新型コロナ禍で海外遠征も難しく、今年のヨーロッパでの活動も現地ライダーとの差を感じたりして苦しいところもあったのですが、どうにか耐えて走り続けました。山本幸平さんからは「ヨーロッパをベースに走らないといけない」と言われ続けていますが、幸平さんがこれまでやっていたことや、自分で自分を管理することの難しさなどは今年の遠征で強く実感する部分でした。幸平さんが普段から背中で見せてくれていたことや、東京五輪での走りから感じることも多くて、そのあたりは自分をマネージしていくうえで役立てられるのではないかと思っています。

男子U23 表彰式男子U23 表彰式 photo:Syunsuke FUKUMITSU
幸平さんが現役を退いて、関係性そのものは変わっていませんが、今まで以上に自分の走りを見てくれるようになってとても心強いですし、アドバイスひとつひとつがプラスになっているので、それを自分の力にしていかないといけないですね。

長期的な目標としては3年後のパリ五輪ですね。それまでにアジアでナンバーワンにならないといけないと思っていますし、今の力ではまだまだ。幸平さんが現役時代に残してきた実績を参考にしながら、ワールドカップで日本人最高成績を残したり、世界の舞台で活躍できるような選手になることを常に意識しながら取り組んでいきたいと思っています。



女子U23 優勝:川口うらら(日本体育大学)

ロード、XCE、XCCとタイトルを獲ってきたので、本命のXCOは絶対に勝たないといけないレースだと思っていました。優勝できた喜びとともに、今シーズン最後のレースをうまく締めくくることができて一安心といったところです。

2連覇を決めた川口うらら(日本体育大学)2連覇を決めた川口うらら(日本体育大学) photo:Syunsuke FUKUMITSU
全日本ロードを終えてから少し調子を崩してしまったのと、シーズンが長かったことで気持ちの面で疲れていたところもあったのですが、XCEとXCCでうまくまとめることができたので、今日に向けては「今ある状態で最大限の走りができるように」という気持ちで調整を進めてきました。

常に先頭で走りたいと思ってスタートしましたが、序盤は呼吸が苦しかったのと思ったように踏めていなかったこともあって、小林選手に差を広げられる形になってしまいました。全開で踏んでいてその状態だったので正直焦りましたが、2周目後半の急坂区間で前との差が縮まっていることが分かったので、自分が得意としている勾配が急な箇所でのプッシュで一気に追い抜こうとトライしました。独走に持ち込むことができれば勝ちパターンなので、そこへ向けてあえて自らに苦しい状況を課したような流れでした。3周目以降はギアが1枚上がって、呼吸も楽に走ることができました。

世界を見据える女子U23優勝の川口うらら(日本体育大学)世界を見据える女子U23優勝の川口うらら(日本体育大学) photo:Syunsuke FUKUMITSU
今年は世界選手権とワールドカップを転戦しましたが、日本のレースとは比べものにならないくらいの経験をしました。世界選手権の後にワールドカップを走ったのですが、徐々にワールドクラスのレースに対する感覚がつかめていきました。前にも後ろにもたくさんの選手がいるようなレース展開はほとんど経験したことがなく、とても刺激的でした。世界を目指すのであれば、あの舞台で走らないといけないと強く思うようになりましたね。

今後はワールドカップや世界選手権で一桁フィニッシュができるような選手を目指していきたいです。それが常にできるようになれば、自然とパリ五輪のスタートラインに立つイメージもできるようになると思います。



男子ジュニア優勝:副島達海(Limited Team 846)

大きなタイトルを獲った経験がなく、優勝者インタビューを受けるのが初めてで…(笑)

中学2年生から本格的にマウンテンバイクに取り組むようになって、それなりの走りはできていたと思うのですが、全日本クラスでの勝利がなかったので本当にうれしいです。このレースに今年は賭けていたので、目標達成できました。

初のビッグタイトルを獲得した副島達海(Limited Team 846)初のビッグタイトルを獲得した副島達海(Limited Team 846) photo:Syunsuke FUKUMITSU
ジュニアのレースでは柚木くんといつも競り合っていて、今日も彼をマークしていたのですが、気が付くと違うジャージが後ろにいてびっくりしました。急坂区間でユースの高橋くんがついてきたので、「ここから2人で進むことになるな」と思いながら走っていました。高橋くんには負けたことがないですし、ユースのライダーにはさすがに負けられないぞという気持ちでした。全体のトップでフィニッシュしないと意味がないと思っていたくらいなので、それを果たせて良かったです。

普段は通学ライドで峠越えをするのですが、勉強道具を背負っているので2~3kgの重りを持って走っているような感覚です。それをしながらタイム計測も行っていて、高校1年生の時から走っている道ではあるのですが、3年生になった今年は特に本気で取り組むようになりました。その甲斐あって調子も上がってきましたし、出力も高まっている感覚があります。

男子ジュニアを制しスタッフと抱き合う副島達海(Limited Team 846)男子ジュニアを制しスタッフと抱き合う副島達海(Limited Team 846) photo:Syunsuke FUKUMITSU
ロードでベースを作るのが基本的な取り組み方ですが、今年はマウンテンバイクのレース数が少なかったこともあって不安もありました。なので、マウンテンでのトレーニング量を増やしたり、この1週間前からは通学ライドをロードからマウンテンに切り替えたりして走り方を身体に染み込ませました。その成果が今日のレースでは出たと思います。

シクロクロスにも取り組んでいますが、走り込みが足りていないことを実感していますし、力を出すべきところでしっかり走ることができればエリートの沢田選手やU23の北林選手に近づけると思うので、もっともっと強い選手になりたいですね。もちろん世界の大会にも出たいので、テクニカルなコースレイアウトに対応できるようなバイクのスキルアップも自分には必要だと感じています。

text:Syunsuke FUKUMITSU