個人TT3連覇を含む4度の世界チャンピオンに輝いたトニー・マルティン(ドイツ、ユンボ・ヴィスマ)が引退を発表した。9月22日に行われる世界選手権ミックスリレーが現役最後のレースとなる。



世界選手権を4度制したトニー・マルティン(ドイツ)世界選手権を4度制したトニー・マルティン(ドイツ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
世界選手権男子エリート個人タイムトライアルを翌日に控えた9月18日、マルティンが自身のInstagramとチームリリースで現役から退く旨を明らかにした。

「これから出場する世界選手権の個人タイムトライアルとミックスリレーが現役最後のレースとなる。もちろんこの決断までには長い時間が必要だった。長年に渡り自転車競技は僕の人生の大部分を占めており、大きな成功もあれば失敗もあり、落車やそれからの復活などたくさんの出来事があった。若い選手たちが夢見るような成功を僕は達成することができた」。

1985年生まれのマルティンはハイロードで2008年にプロデビュー。そこで4シーズンを過ごした後、チーム解散に伴いオメガファルマ・クイックステップ(現ドゥクーニンク・クイックステップ)に加入し、キャリア後半はカチューシャ・アルペシンとユンボ・ヴィスマで活躍した。

積み上げたプロ通算67勝のうち、50勝を個人タイムトライアルで挙げたマルティン。世界選手権では3連覇を含む4度(2011~13、16年)の優勝を飾り、ドイツ国内選手権では10度制するなど国内外で無類の強さを誇った。エティックス・クイックステップを退団して以降は成績が低迷したものの、2019年から所属するユンボ・ヴィスマでは、グランツールなどステージレースを中心に総合エースを守るルーラーとしてメイン集団の先頭で牽引する姿が目立った。

3連覇を達成した2013年の世界選手権で3本指を立ててフィニッシュするトニ・マルティン(ドイツ)3連覇を達成した2013年の世界選手権で3本指を立ててフィニッシュするトニ・マルティン(ドイツ) photo:TDWsport/Kei Tsuji
2016年に奪還したアルカンシェルにキスするトニ・マルティン(ドイツ)2016年に奪還したアルカンシェルにキスするトニ・マルティン(ドイツ) photo:Kei Tsuji
今シーズンもドイツ国内選手権で10度目のナショナルチャンピオンジャージを獲得したマルティンだったが、直後のツール・ド・フランス第1ステージで沿道のファンと接触し落車。集団牽引の役割を果たしながらも第11ステージで再び落車し、レースを去った。またマルティンは自転車界の諸問題に対し積極的に発言することでも知られ、2020年ツールの初日では危険性の高い路面にマルティンが指揮を取る形で自主的なニュートラル状態に入るなど、プロトンを統率するリーダーシップを発揮した。

引退を伝えるメッセージの中でマルティンは、理由の1つに改善されないレースの安全性があるのだと語った。「この数ヶ月間、僕は競技のことよりも引退後の人生について考えることの方が多かった。また、今年の落車はこのスポーツが抱えるリスクについて考えるきっかけとなった。近頃は安全なコースの選定や柵の設置について議論がなされているのにもかかわらず、一向に安全性が改善されていない。そういった事情もあり、これ以上レースを走りたくないという決断を下した。レースの安全性を求める僕や他のチームの声を、自転車界が聞き入れてくれることを願っている」。

2021年クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで集団先頭を引くトニー・マルティン(ドイツ、ユンボ・ヴィスマ)2021年クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで集団先頭を引くトニー・マルティン(ドイツ、ユンボ・ヴィスマ) photo:CorVos
2021年世界選手権男子エリート個人タイムトライアルで欠場したトム・デュムラン(オランダ)に迎えられるトニー・マルティン(ドイツ)2021年世界選手権男子エリート個人タイムトライアルで欠場したトム・デュムラン(オランダ)に迎えられるトニー・マルティン(ドイツ) photo:CorVos
現役最後の個人タイムトライアルとなった世界選手権男子エリート(9月19日)をトップと1分17秒遅れの6位で終えたマルティンは「僕自身や家族、同僚に対し、正直であるためにプロ自転車選手のキャリアを終えようと思う。4度優勝した世界選手権のタイムトライアルでお別れするのが、最もふさわしい形だと考えた」と語り、9月22日の男女ミックスリレーがラストレースとなる。

17年間のプロ生活に終止符を打つ36歳は最後に、「現役最後の3年間をサポートし、僕の望む形でキャリアを終えることを許してくれたユンボ・ヴィスマに感謝したい。また心からの感謝を家族や友人、ファンや同僚たちに伝えたい。これら全ての人がいなければ、夢のような選手生活は送れなかっただろう。君たちのことを一生忘れない」と締めくくった。

text:Sotaro.Arakawa