ベネルクスツアー(旧ビンクバンクツアー)初日は横風分断によってエース級選手が次々と遅れ、トラブルに巻き込まれていくカオスな展開に。30名強の第1グループによるスプリント争いでティム・メルリール(ベルギー、アルペシン・フェニックス)が勝利した。



ツールリタイア後初戦を迎えたペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)ツールリタイア後初戦を迎えたペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) photo:CorVos絶好調のレムコ・エヴェネプール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)絶好調のレムコ・エヴェネプール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:CorVos

風の中逃げるルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ)たち風の中逃げるルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ)たち photo:CorVos
2005年から2016年まではエネコ・ツアーとして、2017年から2020年まではビンクバンクツアーとして開催され、今年から「ベネルクスツアー」へと名称変更を遂げたワールドツアーのステージレースが開幕した。

その名の通りベルギーとオランダの二国をまたぐ、両国で開催される唯一のワールドツアーステージレースであり、「北のクラシック」と「アルデンヌクラシック」をミックスしたようなレイアウトが特徴。春のクラシックレースで活躍する選手が多数出場するが、スプリンターやTTスペシャリストにも総合上位に絡むチャンスが用意されている。

例年通りの7日間開催へと戻った2021年大会にはティム・メルリール(ベルギー、アルペシン・フェニックス)やフェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ)、東京五輪オムニアム銅メダリストのエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、コフィディス)、さらにツールでの落車から復調を目指すカレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)やペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)といったスプリンター勢が集結。

さらに東京五輪後のレースで3戦3勝(うち総合優勝1)と無敵状態を誇っているレムコ・エヴェネプール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)やカスパー・アスグリーン(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ)、ヤコブ・フルサン(デンマーク、アスタナ・プレミアテック)、シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)たちもビッグレースが集約されたシーズン後半戦を見据えてこのベネルクスにやってきた。

横風区間でバーレーン・ヴィクトリアスがペースアップを行う横風区間でバーレーン・ヴィクトリアスがペースアップを行う photo:CorVos
吹きさらし区間で中切れが発生。メイン集団はいくつものグループに分裂した吹きさらし区間で中切れが発生。メイン集団はいくつものグループに分裂した photo:CorVos
エシュロンを組んで前のグループを追いかける選手たちエシュロンを組んで前のグループを追いかける選手たち photo:CorVos
初日はオランダの沿岸部を走る、ただの一つも登りが無い超フラットコースの169.6km。しかしこの日は北海から強い風がプロトンに吹き付け、これに乗じたチームのペースアップによって集団はズタズタに。全くもってコースプロフィールのようなイージーな展開にはならなかった。

序盤から逃げたルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、バイクエクスチェンジ)たち7名の逃げグループは最大4分のリードを稼いだものの、メイン集団ではフィニッシュまで50kmを切ってドゥクーニンク・クイックステップやバーレーン・ヴィクトリアスなどが分断作戦に打って出た。

分断と吸収、そしてフルサンが落車リタイアに終わる混沌とした状況下で約35名の第2グループが生まれ、このメンバーが残り30km地点で7名を捉えてレース先頭に立つ。しかしその中に入ったドゥクーニンクのエース、エヴェネプールは前輪のスポーク折れでストップを強いられた。

レース隊列が長く伸び、チームカーの助けを得られない状況下でニュートラルサービスを受けたエヴェネプールだったが、スタッフがホイール交換に手間取ったため大きなタイムロスを被ってしまう。五輪男子マディソン金メダリスト、ミケル・モルコフ(デンマーク)の助けもむなしくハイペースを刻み続ける先頭集団への復帰は叶わず、最終的に57秒遅れの第2集団内フィニッシュしたエヴェネプールは総合優勝争いから脱落。更に第1グループ内のサガンも落車しこの日の勝負権を失ってしまった。

第1グループを牽引するチームDSM。30名強がフィニッシュまで逃げ切った第1グループを牽引するチームDSM。30名強がフィニッシュまで逃げ切った photo:CorVos
第2集団内で走るゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)第2集団内で走るゲラント・トーマス(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos
バーレーンが4名、ドゥクーニンクとロット・スーダルが3名ずつ加えた第1グループ内は、先頭通過者に3秒のボーナスタイムが与えられる本大会名物の「ゴールデンキロメーター」が近づくと活性化。最終的な総合成績を狙うティシュ・ベノート(ベルギー、チームDSM)がソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)を下し1位通過(ボーナス3秒獲得)を果たしている。

ベノートたちはそのままアタックを継続したものの、マイク・テウニッセン(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)やマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)も入った危険な逃げが見逃される訳もなく、やがて吸収。風車が勢いよく回る強風区間を、風上に向けてバイクを倒しながら第1グループがフィニッシュ目指して突き進んだ。

牽制によってペースが緩んだ隙を突いたルーカス・ペストルベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)も残り1km地点で捉えられ、ドゥクーニンクやトレック・セガフレード優勢で集団スプリントへ。ジャスパー・ストゥイヴェン(ベルギー、トレック・セガフレード)のリードアウトの横からシッティングのままマキシミリアン・ヴァルシャイド(ドイツ、クベカ・ネクストハッシュ)が加速し、勝負の幕が切って落とされた。

小集団スプリントを制したティム・メルリール(ベルギー、アルペシン・フェニックス)小集団スプリントを制したティム・メルリール(ベルギー、アルペシン・フェニックス) photo:CorVos
第1グループ内で落車したペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)が遅れてフィニッシュ第1グループ内で落車したペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)が遅れてフィニッシュ photo:CorVos
ヴァルシャイドを風除けに使ったアルバロホセ・ホッジ(コロンビア、ドゥクーニンク・クイックステップ)が加速したものの、その背後からティム・メルリール(ベルギー、アルペシン・フェニックス)が飛び出し、追い込むフィル・バウハウス(ドイツ、バーレーン・ヴィクトリアス)を退けてフィニッシュ。参加を見送ったマチュー・ファンデルプール(オランダ)不在のアルペシン・フェニックスに嬉しい1勝をもたらした。

今季ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスの初回の集団スプリントでいずれも勝利しているメルリールが、このベネルクスツアー初日に勝利。「スタートからカオスな展開になることは分かっていたけれど、自分自身第1グループに残れる自信はなかったんだ。レース中はワフーのGPSマップを駆使して遅れを取らないように気をつけていた。全力でスプリントに挑み、どうやって勝ったのかよく覚えてすらいない。とにかくタイミングを待ち続け、加速するタイミングを見定めたんだ」と、リーダージャージに袖を通したメルリールは話している。

ジロ、ツールに続いてステージレースの初日集団スプリントを制したティム・メルリール(ベルギー、アルペシン・フェニックス)ジロ、ツールに続いてステージレースの初日集団スプリントを制したティム・メルリール(ベルギー、アルペシン・フェニックス) photo:CorVos
ベネルクスツアー2021第1ステージ結果
1位 ティム・メルリール(ベルギー、アルペシン・フェニックス) 3:32:20
2位 フィル・バウハウス(ドイツ、バーレーン・ヴィクトリアス)
3位 アルバロホセ・ホッジ(コロンビア、ドゥクーニンク・クイックステップ)
4位 フェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ)
5位 ダニー・ファンポッペル(オランダ、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)
6位 マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)
7位 マキシミリアン・ヴァルシャイド(ドイツ、クベカ・ネクストハッシュ)
8位 スタニスラウ・アニオルコウスキ(ポーランド、ビンゴール・パウェルスソースWB)
9位 マイク・テウニッセン(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)
10位 クリストフ・ラポルト(フランス、コフィディス)
138位 別府史之(EFエデュケーション・NIPPO) 5:47
個人総合成績
1位 ティム・メルリール(ベルギー、アルペシン・フェニックス) 3:32:10
2位 フィル・バウハウス(ドイツ、バーレーン・ヴィクトリアス) 0:04
3位 アルバロホセ・ホッジ(コロンビア、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:06
4位 マイク・テウニッセン(オランダ、ユンボ・ヴィズマ)
5位 マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)
6位 ティシュ・ベノート(ベルギー、チームDSM) 0:07
7位 ルーカス・ペストルベルガー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)
8位 ソンニ・コルブレッリ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) 0:08
9位 カスパー・アスグリーン(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ)
10位 フェルナンド・ガビリア(コロンビア、UAEチームエミレーツ) 0:10
その他の特別賞
ポイント賞 ティム・メルリール(ベルギー、アルペシン・フェニックス)
チーム総合成績 バーレーン・ヴィクトリアス
text:So.Isobe
photo:CorVos