トップMTB選手へのインタビューを紹介する連載企画の第5弾。昨年の世界選手権でアルカンシエルを射止め、ディフェンディングチャンピオンとして土曜日の本番に臨むジョーダン・サルー(フランス)の話を、五輪での日本ファンへの感謝のメッセージとともに紹介する。



2020年の世界選手権、初の世界タイトルを射止めたジョーダン・サルー(フランス)2020年の世界選手権、初の世界タイトルを射止めたジョーダン・サルー(フランス) photo:UCI/MoritzAblinger
オリンピックや世界選手権のメダルを獲得してきたトップアスリートがどのようにMTBに出会い、どんな気持ちを大切にしてプロ選手になったのか。

東京オリンピックでのレース観戦を楽しみにする方々、これから世界に挑戦するキッズ・ジュニアのアスリート、そして彼等をサポートするご家族の方々へのメッセージになればと、オリンピックMTBアスリートに協力を頂き、インタビューを行った。

これからチャレンジをするみんなに大事にして欲しいことを含め、アスリートからのメッセージをお届けする。インタビュアー:鈴木禄徳 (PAXPROJECT所属)



ジョーダン・サルー(スペシャライズド・ファクトリーレーシング)ジョーダン・サルー(スペシャライズド・ファクトリーレーシング) (c)スペシャライズド・ジャパンジョーダン・サルー プロフィール

現在アルカンシェルを着用するジョーダン・サルー。長い手足を活かした繊細なバイクコントロールが持ち味の彼は、多くの選手が苦しむマッドレースで強さを発揮することで知られている。2020年の世界選手権では2周目のテクニカルなダウンヒルで大きなリードを得て独走で優勝を飾り、母国フランスにジュリアン・アブサロン以来の6年ぶりの世界チャンピオンのタイトルをもたらした。

真面目なフランスの青年である彼は、東京五輪のコースサイドで多くの観客と少年少女達がレースを楽しんでいる姿を観て、オリンピックを開催してくれた日本、そしてレースを盛り上げてくれた日本のファンのみんなにお礼の気持ちを伝えたいと話している。

日本の若い選手達に向けて、インタビューをお届けする。

フランス出身、1992年生まれ28歳
スペシャライズド・ファクトリーレーシング所属
東京オリンピックフランス代表

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Q1: どのようにしてMTBと出会いましたか?

8歳の時にいとこのジェレミー・モニエ(元フランス代表)と一緒にMTBに乗り始めたんだ。叔父が地元でMTBのクラブチームを運営していたこともあって、MTBを始める前からいとこのレースをよく観に行っていた。それで、叔父からレースをやらないかって何度も誘われて。最初は日曜日のレースの応援に行ってたのが、土曜日にみんなで一緒に練習に行くようになって、今度は自分が出る側になった。いとこを追いかけているうちに始めてたんだ。MTBとは家族ぐるみの付き合いってことかな。

世界選手権フィニッシュ後、ジュリアン・アブサロンと抱き合った世界選手権フィニッシュ後、ジュリアン・アブサロンと抱き合った photo:UCI/Michal Cerveny
Q2: 子供の頃憧れた選手は?

僕達の世代のフランスの子供にとっては、間違いなくみんなジュリアン・アブサロン(アテネ、北京五輪金メダリスト、世界チャンピオン5回)がヒーローだ。子供の頃に見るレースではいつも彼が勝っていて、彼こそマウンテンバイクの王様だったね。フランスチャンピオンを獲得したり、良い結果を残して、少しずつ彼に近づいていることを実感しながら過ごす日々はワクワクした。2019年から2020年に彼のチーム(Absolute-Absalon)に加入して、そのチームで世界チャンピオンになれたのはとても嬉しかったね。

雨のレースは得意中の得意。ウォームアップにも力が入る雨のレースは得意中の得意。ウォームアップにも力が入る (c)スペシャライズド・ジャパン
Q3:ジュニアや子供の時を思い返してみて、どんな気持ちでトレーニングに取組んで欲しいですか?

自転車やMTBに乗る事を心から楽しもう。それが新しいスキルやテクニックを身につけることに繋がり、速さに繋がる。楽しむ気持ちが一番大切だ。

ただし、15〜16歳からのジュニアカテゴリーでレースを戦って、「プロライダーになりたい。」「トップライダーになりたい。」などの夢を叶えたいと思うなら、この時期からトレーニングのプランやレースに向けて真剣に取り組むことが大事。

その為に必要なことは、君が目標地点に向かうことをサポートしてくれる「最高の仲間」に囲まれることだ。まだ若い君達は自転車、海外、世の中、ワールドカップレースなどそれらについて知らないことばかりだろう。僕もそうだった。だから君を目標地点まで正しい道に導いてくれるチーム、コーチ、メカニックなど、そう言った人々の経験に頼ろう。若い君が何かを知らないことは恥ずかしいことではない。君が知らない何かを知っている人達と一緒にレースに臨むことがとても大事さ。

東京オリンピックでサルーは9位に食い込んだ東京オリンピックでサルーは9位に食い込んだ photo:So Isobe
5位になったヴィクトール・コレツキーと健闘を讃えあった5位になったヴィクトール・コレツキーと健闘を讃えあった photo:So Isobe
Q4:ジュニア時代はどのように練習しましたか?

ジュニア時代は大体1週間に10時間くらいのトレーニングを行っていたよ。休みは週に1日か2日で、ロードとMTBで持久力を付けるトレーニング、トレイルを力強く走るトレーニング、筋力トレーニングなどを組み入れた1週間のトレーニングだったね。

Q5:どのようにMTBのテクニックを学んだのですか? 何かオススメのトレーニング方法はありますか?

MTBのトレーニングは何人かと一緒に競いながら、楽しみながら行うことが大事だと思う。君より上手なライバルがいたら、そいつと同じくらい走れる様に、今までの限界をちょっと越えて走ろうってなるでしょ?仲間達と一緒に練習することで、自分だけでは出来なかったことに挑戦するようになるから、そうやって少しずつテクニックを磨いていくんだ。これは忘れてはいけない大事なことなんだ。MTBはみんなで楽しむスポーツだしね。

「自分だけでは出来なかったことに挑戦することが、スキルアップのヒント」「自分だけでは出来なかったことに挑戦することが、スキルアップのヒント」 (c)スペシャライズド・ジャパン
泥にまみれたW杯第4戦。サルーはW杯で自身今季初の表彰台を射止める泥にまみれたW杯第4戦。サルーはW杯で自身今季初の表彰台を射止める (c)スペシャライズド・ジャパン
Q6:学生時代はどのように過ごしましたか?

僕はとても幸運な事に自転車競技と勉強を一緒に取組むことが出来たんだ。経済やマーケティングに興味があったので、専門教育機関(日本の大学相当)でそれらを学んだ。学校の勉強は授業だけで出来るだけ覚えるようにして、空いている時間でのトレーニングに全力を注いだよ。2つのことを同時にやるのは大変なことも多かったけど、良い経験だったと思うよ。

Q7:レースで勝つ為に大事だと思うことを3つ教えてください。

1.「今より良くなる為には、どうすればいい」をいつも心の中で、唱え続けよう。
2. 積極的な姿勢を大事に、前向きでいよう。
3. レースを心から楽しもう!

Q8:どの様にプロ選手への道が開けたのでしょうか?

子供の時に出場した最初のレースでいきなり良い結果が出て、それ以降もジュニア時代でフランスで上位を走る事が出来たんだ。フランスにはアマチュアからプロチームレベルまで段階ごとに実力に応じた沢山のチームがあるんだ。なので、僕はステップに合わせていくつかのチームに所属させてもらって、18歳の時に最初のプロチームと契約出来たんだ。プロチームの一員として、10代の頃からワールドカップや国際レースを走るチャンスを与えてもらえたのは、本当に恵まれていたと思う。

新たなチームメイトとなったフライやスティッガーたちとランチタイム新たなチームメイトとなったフライやスティッガーたちとランチタイム (c)スペシャライズド・ジャパン
Q9: 今現在プロ選手としてどのように生活を楽しんでいますか?

MTBのプロライダーとして、自分の情熱から生まれるもので生活が出来ることは、とても幸せなことだよ。そして、プロとしての生活は一生続くものではないから、キャリアのどの瞬間も楽しもうと心に決めて、100%全力で日々を過ごしている。

Q10:マイバイクの気に入っているポイントを教えてください。

今シーズンにSpecialized Factory Racingに移籍して、トレーニングとレースで走るほとんどの時間をS-works Epicで走っている。Epicのサスペンションシステムは効率的にバイクをコントロールしてくれて、更にとても軽い。レースで賢く、勝負所に備えてパワーを温存して走るには、サスペンションと重量はとても大事なポイントなんだ。新たなバイクジオメトリーもダウンヒルの操作性にかなり良い影響を与えていて、レースもトレイルライドも楽しんで走る事が出来る。他にも言い出したらキリがなくなってしまうんだけど、このバイクは大好きだよ。

サルーが駆る、アルカンシエルカラーのスペシャライズド S-works Epicサルーが駆る、アルカンシエルカラーのスペシャライズド S-works Epic (c)スペシャライズド・ジャパン
そして最後に日本のファンへメッセージを。東京五輪での日本滞在期間では日本の皆さんの努力のおかげで素晴らしく美しい時間を多くの仲間達と共に過ごす事が出来ました。心から感謝しています。また、サポーターのみんなは大きな応援を送ってくれて本当にありがとう。また日本で国際レースが行われ、皆さんとお会いできることを楽しみにしています。



泥を得意とするサルー。世界選手権当日の天気は雨予報だ。結果はいかに泥を得意とするサルー。世界選手権当日の天気は雨予報だ。結果はいかに (c)スペシャライズド・ジャパンジョーダンのキャリアと所属チームを振り返ると、地元の有力チーム、フランス国内の有力チーム、ワールドチーム、現所属チームといった流れだ。一つの環境で結果を出し、より良い結果を求めてステップアップを繰り返し、その時々の努力を重ねた結果、2020年にジュリアン・アブサロンの下で世界チャンピオンを獲得した。

世界チャンピオンを目指す、ワールドカップなどのより高いレベルのレースを走るといった夢を実現する為には、より高いレベルのサポートやアドバイスや環境が選手の成長に応じて必要となる。これはチームや周りのスタッフが選手と共に成長をしていく必要があり、場合によってはどこかのタイミングで選手を送り出す時期が訪れるということだろう。

自分にとってのベストな環境はどんなものか?自分の目標への道のりを示してくれるコーチやチームはどういうものだろう?コーチやチームが世界を目指すと言うから君がそこにいるんじゃない。君が世界を目指すなら、どういうチーム、コーチ、環境が必要なのか、家族や仲間と一緒に考えてみてほしい。

そして今、世界チャンピオンとして、数々の伝説のライダーが所属してきた名門チームであるSpecialized Factory Racingのエースライダーとなったジョーダン・サルー。世界最強の環境で彼が得る成長と成功は何だろうか。

圧倒的な強さでXCCを制し、弾みをつけたフランス圧倒的な強さでXCCを制し、弾みをつけたフランス photo:Val di Sole 2021
イタリアで開幕したMTB世界選手権に、彼はディフェンディングチャンピオンとして臨む。フランスは初日のチームリレーですでに金メダルを獲り絶好の滑り出しを決めた。そして本戦となる土曜日は雨。昨年大会の再現となるかにも注目だ。

また、彼自身のこれまでのキャリアと彼を支える周りの人々についてまとめたチームのムービーがアップされたので、是非見てほしい。





筆者プロフィール:鈴木禄徳(PAXPROJECT)

鈴木禄徳(PAXPROJECT)鈴木禄徳(PAXPROJECT) オフロードが特に大好きな雑食系アマチュアサイクリスト。幼少期からMTBを中心に、アニメ聖地巡礼から海外レース遠征まで幅広い自転車の楽しみ方を経験。

現在はアマチュアMTB/CXチーム「PAXPROJECT」のキャプテンとして、「明るく、楽しく、でも競技はガチで」をモットーにレース参戦と仲間と一緒にレベルアップすることに没頭。誰も観ていないジャンプで、数少ない観客(ほぼ友人のみ)を魅了する走りが信条。

PAXPROJECT
Notes

Special Thanks Koichiro Nakamura
写真提供:スペシャライズド・ジャパン

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