8月5日、男子オムニアムに出場した橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)の東京オリンピックが終わった。最終順位は15位。願っていた順位には遠い、不本意なものであった。この結果に橋本は何を思ったのか。じっくりと話を聞いた。

ウォームアップする橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)ウォームアップする橋本英也(チームブリヂストンサイクリング) photo:Koichiro Nakamura
6年前、橋本はリオ2016オリンピックの選考に漏れた。この時の悔しさを橋本はことあるごとに語っていた。そのために一時は自転車を嫌いになったほどだと言うが、その悔しさを乗り越え、橋本は確かな走力を身につけた。そして2019年のワールドカップでは表彰台にも登り、東京2020オリンピックの男子オムニアムの日本代表として選ばれた。

その念願のオリンピックの舞台に立った橋本は、その大舞台を存分に楽しむはずだった。全4種目の合計ポイントで競うオムニアム。橋本のレースを簡単に振り返ってみよう。

第1種目のスクラッチ 後方から3番めに並ぶ橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)第1種目のスクラッチ 後方から3番めに並ぶ橋本英也(チームブリヂストンサイクリング) photo:Koichiro Nakamura
第1種目のスクラッチでは、5名の選手にラップ(周回追い抜き)されたものの、フィニッシュでは集団で3位、結果8位の悪くないスタートだった。

第2種目のテンポレースでは途端に全体の速度が上がった。選手たちがいよいよ本領を発揮し始める。橋本は序盤は前方で先頭ポイントを狙い、まずは1ポイントを獲得するも、10周ほどで後方に追いやられ、そのまま上がれなかった。結果は16位、総合10位。

第3種目のエリミネーションでも、前方で展開しながら残り15名ほどまでは好調に運ぶ。終盤に向けて全体ペースが上がったとき、イン側にいた橋本は一旦後ろに下がってしまい、そのまま上がれることなく12位でエリミネート。総合13位。

第1種目のスクラッチを走る橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)第1種目のスクラッチを走る橋本英也(チームブリヂストンサイクリング) photo:Koichiro Nakamura
最終種目のポイントレースでは、最終段階に向けた速い速度と展開で進む。周回追い抜きを決める選手が連発し、橋本も序盤に前方に上がり4位ポイントを稼ぐものの、その後は後方に追いやられる展開に。その後ポイントを取ることなくレースを終えた。最終結果15位。(レポート記事

その日の夜、日記に橋本はこう書き込んだ。『悔しいオリンピックだった』。レース次の日の朝、橋本に話を聞いた。こうして文字にして読むよりも、ゆっくりと、時間をかけて、橋本は答えた。

――全体の走りを振り返っての感想は?

悔しいです。オリンピックがこんな悔しいものだとは思わなかったです。

――今回のレースで、ターニングポイントになったと思う種目、瞬間は?

はい、テンポレースじゃないですかね。そこでちょっと流れが変わった感じはあって。

最初のスクラッチは想定通りで、ゴールスプリント、ラストのゴールでのスピードも良くていい感触だったんですけど。その次のテンポレースが想像よりレーススピードが速くて、そこでかなり消耗してしまった。終始スピードが速くて、その速いスピードの中で休めなくて、かなりあそこで、もう後手後手になってしまったなというのはありますね。それが尾を引きました。

第1種目のスクラッチでは8位の悪くないスタートだった第1種目のスクラッチでは8位の悪くないスタートだった photo:Koichiro Nakamura
――今回は重た目のギアで挑んでいるように見えたが?

スクラッチはすごく重くしていて、予想通りだったんですけど、テンポでは軽かったですね。逆にテンポはスピードに対してギアが軽くて、もっと(ギア数が)必要だったんじゃないかなって思いました。

――エリミネーションは積極的に前に出たように見えた。そこは気持ちの切り替えがあったか?

エリミネーションは得意種目だったので、やはり前での展開が必要になってくるんですけど、前で展開すると体力は使うので……。要するにレーススピードが速くて、後ろでリカバリーしている時に降ろされたっていう流れになってしまったので。

photo:Koichiro Nakamura
――最終種目のポイントレースを振り返ると?

ポイントレースは表彰台の圏外に入ってしまったので、やはりそのラップ(周回追い抜き)をメインに見せ場を作りたいと思って走ったんですが、スピードがやはり速くて、僕は休むことができなくて、全体に引きずられてしまうような感覚でした。

――2020年2月の世界選手権から、速度や筋力を上げてきたと思うが、その実感をレースで感じられたか?

トップスピードの速さに関しては対応できていました、確実に。スクラッチのゴールでスピードが出てくれたので、そこは対応できたと思っています。ただ、全体の平均的な速さが自分の想定より早くて。そこに対応できなかったのが、1番の敗因じゃないかなって思いました。

――このレースをどういう戦略で走ろうとしていた?

全部の種目を5位以内に入りたいなと思っていて。最初のスクラッチは、もともと逃げるつもりではなかったので、5人の逃げを容認した中での3着(結果8位)だったので、まあ自分の中でも大丈夫なポジションでしたが、そこからのテンポレースでちょっと歯車が崩れたという感じでしょうか。

第3種目のエリミネーション第3種目のエリミネーション photo:Koichiro Nakamura
――レースの中で、自分なりに気持ち良く走れた瞬間や場面はあったか?

気持ちよく走れたのはスクラッチの最初のゴールぐらいじゃないですかね。そこからは……。スクラッチまではレースが見えていたというか、視野の広い感じで走れていたんですが、テンポレースのかなり速いスピードで引きずり回されて、踏んでしまって以降は、ちょっと視野が狭くなっちゃって。電光掲示板を見る余裕であったり、そういった余裕がもうなくなっていたなって思いました。

先頭選手のみがポイントを獲得でき、前半に1ポイントを獲得できた橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)先頭選手のみがポイントを獲得でき、前半に1ポイントを獲得できた橋本英也(チームブリヂストンサイクリング) photo:Koichiro Nakamura
――今までそういった辛いレースはあったか?

ありましたね。これはなんか、世界選手権の時に似てるなって思いましたね。

いつも僕はレースでは限界の所まで行かないようにレースを走っていました。コップから水が溢れちゃうと、もうそこからもうダメダメなレースになっちゃうので。ですが今回はテンポでもうオーバーヒートっていうか、その限界の所に来ちゃったので。ここからは視野が狭くなって、レースに行くことがいっぱいで。やっぱりその時の記憶では楽しいことはできなかったです。

「3レースを終えた次点で13位」と電光掲示板が伝える「3レースを終えた次点で13位」と電光掲示板が伝える photo:Koichiro Nakamura
――レース中に1番考えていたことは?

考えていたことは……。何もなかったです。1つでも上の順位に、っていうことだけを考えていました。

――この最終順位に思う気持ちは?

はい……。悔しくて……、悔しいですね。悔しい。

現実との解離というか、その、自分の描いていたプランと現実の解離がすごくって。

ここまでいろんな人が応援しにきてくれて。日本で、テレビでも放映してくれて、たくさんの人が応援してくれたんですけど。結果を出すことができなかったっていうのが、すごく悔しいですね、本当に。

橋本英也(チームブリヂストンサイクリング)橋本英也(チームブリヂストンサイクリング) photo:Koichiro Nakamura
――これでまずは一旦の区切りに。次のビジョンは?

次のビジョンとしては、世界選手権を優勝したいなというのはありますね。このために、ちょっと考えます。

――今は何がしたい?

今は、楽しく、自転車に乗りたいです。景色のいいところで、自転車に乗りたいって思っています。

――応援してくれた方への言葉を

はい、本当にたくさん、たくさんの応援をありがとうございました。皆さまの応援の前で走れるっていうのは、本当に幸せな瞬間で。すごく嬉しかったです。

それに対して、その内容は、ちょっとって。自分でも悔しいレース内容だったので、そのギャップに今も……。そんなオリンピックだったと思います。

でも、たくさんの皆様の応援のおかげで、この舞台、オリンピックで走れたので、まずそれに感謝をして。それで悔しさを解消していきたいと思っています。

「レースを終えて、ただただ悔しさだけが残った」「レースを終えて、ただただ悔しさだけが残った」 photo:Koichiro Nakamura

「オリンピックを楽しく走る」という橋本の目論見は外れた。ただそこに、東京2020オリンピック結果15位という事実が横たわる。それをどう捉えるのかは本人の、そしてそれを見た個々の判断次第ではあるが、まずは大会直後の彼の心を、記録としてここに書き残す。

これは何かの形で、誰かの糧となるのか。それは今の段階では全くわからない。しかし、初めてのオリンピック出場で、とても悔しい思いをした橋本英也という選手は、今後も自転車選手としてさらに成熟していく。これだけは間違いない。

text:Koichiro Nakamura