優勝候補たちが次々と泥に飲まれる予測不能のダウンヒル世界選手権でリース・ウィルソン(イギリス)が初勝利。4連覇を目指した最終走者ロイック・ブルーニ(フランス)も落車に終わった。



DH男子エリート1位:リース・ウィルソン(イギリス)DH男子エリート1位:リース・ウィルソン(イギリス) photo:UCI/MoritzAblinger
昨年の世界選手権から数えること400日。オーストリア、レオガングで5日間に渡り開催されてきたMTB世界選手権の最終日に、ダウンヒル世界ナンバーワンを決める4レース(男女ジュニアレース、男女エリートレース)を迎えた。

E-MTBレースとチームリレーが行われた雨と泥の世界選手権初日から暫く好天が続いていたものの、ここにきてザルツブルグ州の山岳地帯は再び黒い雨雲に覆われた。降り続いた雨が再びコースの泥を緩ませ、林間セクションにリムが完全に埋まる泥区間が出現するなど、ラインを選ぶこともままならない超ハードコンディションのもとレーススケジュールが進行した。

ワンミスが命取りになる、超スリッピーな泥レース。スタートヒルに雪と寒風吹きすさぶ男子エリートレースで完璧な走りを披露したのはリース・ウィルソン(イギリス)だった。ウィルソンは誰もが手を焼く切り株セクションや深い轍が刻まれた林間セクションをスムーズにこなし、全ての中間計測ポイントでトップタイムを刻んでいく。フィニッシュではそれまでホットシートを守ったジャック・モワール(オーストラリア)を7.633秒上回った。

 DH男子エリート2位:デヴィッド・トラマー(オーストリア) DH男子エリート2位:デヴィッド・トラマー(オーストリア) photo:UCI/MoritzAblinger
DH男子エリート ロイック・ブルーニ(フランス)は数度の落車で撃沈DH男子エリート ロイック・ブルーニ(フランス)は数度の落車で撃沈 photo:UCI/MoritzAblinger
後方スタートの有力選手たちは次々と泥の餌食となり、超マッドコンディションの2011年シャンペリー大会で圧倒的な走りを披露した2016、2011年世界王者ダニー・ハート(イギリス)も12秒遅れの13位がやっと。2013、2012年世界王者グレッグ・ミナー(南アフリカ)やアーロン・グイン(アメリカ)もチャンスを逃した。

最後から2番目に出走したトロイ・ブロスナン(オーストラリア)は第3中間計測でトップに浮上したが、その直後泥に前輪を滑らせてクラッシュ。最終走者であり、2015年に初のアルカンシエルを獲得し、2017年以降3年連続世界タイトルを守ってきたロイック・ブルーニ(フランス)もまた、深い泥に沈むこととなる。

黄金のヘルメットで4連覇に挑んだブルーニは出だしこそ僅かに遅れながら拮抗したタイムを出していたが、林間セクションでのイージーミスでスリップダウン。この瞬間、普段トレックファクトリーレーシングの一員として走るウィルソンの世界王座獲得が決まった。

優勝したリース・ウィルソン(イギリス)と、連覇ならなかったロイック・ブルーニ(フランス)が抱き合う優勝したリース・ウィルソン(イギリス)と、連覇ならなかったロイック・ブルーニ(フランス)が抱き合う photo:UCI/Michal Cerveny
金メダルを掲げるリース・ウィルソン(イギリス)金メダルを掲げるリース・ウィルソン(イギリス) photo:UCI/Michal Cerveny
「ウェットでもドライでも対応する準備はできていた。勝つためにこの世界選手権に臨んだけれど、まさか本当に勝てるとは思っていなかったよ。信じられない。(イギリス人選手がトップ10に3人入り)この週末は僕らイギリス人選手が素晴らしいテクニックの持ち主だということが証明されたと思う。暫くフランスがアルカンシエルを維持してきたけれど、僕たちは国として一級の力があることを示せた」と、予測不可能の泥レースを制したウィルソンは話している。母国開催の世界選手権でデヴィッド・トラマー(オーストリア)が2位銀メダルを獲得し、3位銅メダルはレミ・ティリオン(フランス)の元に渡った。



予選日にトップタイムを叩き出した地元オーストリアのヴァレンティーナ・ホールが試走で足首骨折という波乱が起きた女子エリートレースを制したのは、隣国スイスのカミーユ・バランシュだった。

「今まで経験してきた中で最高にタフなレース。安全策を取って冷静に進めたことが勝因になった」と言うバランシュは、ミリアム・ニコル(フランス)との接戦を制して初のアルカンシエル獲得。3位にはモニカ・フラストニク(スロベニア)が入った。

DH女子エリート1位:カミーユ・バランシュ(スイス)DH女子エリート1位:カミーユ・バランシュ(スイス) photo:UCI/MoritzAblinger
DH女子エリート2位:ミリアム・ニコル(フランス)DH女子エリート2位:ミリアム・ニコル(フランス) photo:UCI/MoritzAblinger
DH女子エリート表彰台 カミーユ・バランシュ(スイス)がアルカンシエル獲得DH女子エリート表彰台 カミーユ・バランシュ(スイス)がアルカンシエル獲得 photo:UCI/Michal Cerveny
DH男子ジュニア表彰台 オシーン・オカラガン(アイルランド)がアルカンシエルDH男子ジュニア表彰台 オシーン・オカラガン(アイルランド)がアルカンシエル photo:UCI/Michal CervenyDH女子ジュニアで優勝したロリーヌ・シャパーズ(フランス)DH女子ジュニアで優勝したロリーヌ・シャパーズ(フランス) photo:UCI/Michal Cerveny

MTB世界選手権2020 DH男子エリート結果
1位 リース・ウィルソン(イギリス) 3:51.243
2位 デヴィッド・トラマー(オーストリア) 3.197
3位 レミ・ティリオン(フランス) 5.953
4位 マーク・ウォレス(カナダ) 6.655
5位 ベルナルド・カー(イギリス) 7.203
6位 ジャック・モワール(オーストラリア) 7.633
7位 グレッグ・ウィリアムソン(イギリス) 8.067
8位 トロイ・ブロスナン(オーストラリア) 8.268
9位 ヨハネス・フィッシュバッハ(ドイツ) 10.185
10位 ロリス・ヴェルジエ(フランス) 10.618
MTB世界選手権2020 DH女子エリート結果
1位 カミーユ・バランシュ(スイス) 5:08.426
2位 ミリアム・ニコル(フランス) 3.130
3位 モニカ・フラストニク(スロベニア) 16.966
4位 トレイシー・ハンナ(オーストラリア) 20.012
5位 ミカイラ・パートン(イギリス) 23.164
6位 ラファエラ・リッチャー(ドイツ) 31.092
7位 ニナ・ホフマン(ドイツ) 31.483
8位 ノガ・コレム(イスラエル) 31.976
9位 マリーヌ・カビルー(フランス) 33.133
10位 サンドラ・ルベサム(ドイツ) 1:05.093
MTB世界選手権2020 DH男子ジュニア結果
1位 オシーン・オカラガン(アイルランド) 4:02.142
2位 ダニエル・スラック(イギリス) 2.141
3位 ジェームズ・エリオット(イギリス) 10.705
MTB世界選手権2020 DH女子ジュニア結果
1位 ロリーヌ・シャパーズ(フランス) 5:41.502
2位 ソフィー・ゴトール(オーストリア) 46.809
3位 レオナ・ピエリーニ(フランス) 53.812
text:So Isobe
photo:UCI

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