マイヨヴェールを諦めないサガンとボーラが終始レースを厳しくした。しかし最後にサンウェブの波状攻撃がサガンの目論見を台無しにした。緑のジャージを巡る争いで、最後に笑ったのは遅れたベネットだった。



ボーラ・ハンスグローエがペースを上げ、ベネットらをふるい落とすボーラ・ハンスグローエがペースを上げ、ベネットらをふるい落とす photo:Alex Broadway / A.S.O.
山岳の最難関ステージを終えてプロトンは脚休めに入りたいはずだった。アップダウンはあれど難易度の低い逃げ向きのステージ。しかし今年のツール・ド・フランスには単純な移動ステージが無い。そう言えるほど厳しいステージになった。

連日レース時間が5時間を超えるロングステージが続き、この日も194kmの長丁場。しかしステージの難易度は低く、ステージ前半の標高1,390mの2級山岳ベアル峠と、残り11kmを切ってから始まるラ・デュシェール峠とラ・クロワルース峠の、山というよりもリオン市街地の2つのアップダウンがスパイスを効かせる。そして本来ならスプリンターがふるいにかけられるのはリオン市街に入ってからのはずだった。

独走で逃げ2級山岳ベアル峠を越えるシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)独走で逃げ2級山岳ベアル峠を越えるシュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ) photo:Makoto.AYANO
コースの勝負どころは終盤に集中しているはずなのに、序盤からレースは激しさを極めた。当然といえば当然、マイヨヴェール奪回を目論むボーラ・ハンスグローエが前半から動いた。

第11ステージの降格処分のせいでペテル・サガンとマイヨヴェールを着るサム・ベネットのポイント差はスタート前の時点で66ポイント。この大きな、大きすぎる差を取り返し、マイヨを奪うには攻撃あるのみ、とボーラはこの日も大胆な作戦に打って出た。

他チームもこの動きは予測した。中間ポイントとフィニッシュポイントの両方が狙えるステージの貴重さを、サガンとボーラが知らないはずがない。

マイヨヴェールのために動いたペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)マイヨヴェールのために動いたペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) (c)CorVos
逃げの動きは少人数でコントロールできるものなら許す。エドワード・トゥーンス(トレック・セガフレード)とシュテファン・キュング(グルパマFDJ)の2人は先行させたが、それ以上の数は許さない。「今日はボーラが動く日だから」という了解事項のもと、トライしようと動くチームも少なかった。

38km地点に設定された中間スプリントポイントは、その6km手前に4級山岳があることがサガンには都合が良かった。登れるスプリンターであるサガンは、このわずか1kmで平均勾配8.4%の小山で、マキシミリアン・シャフマンの助けを借り他のスプリンターを引き離すことに成功し、3位通過で15ポイント獲得。しかしベネットも6位通過で10ポイントを獲得。サガンは差を5ポイント縮める。

2級山岳ベアル峠を越えるメイン集団はボーラ・ハンスグローエとユンボ・ヴィスマがコントロール2級山岳ベアル峠を越えるメイン集団はボーラ・ハンスグローエとユンボ・ヴィスマがコントロール photo:Makoto.AYANO
しかしその後もボーラは手を緩めなかった。続く2級山岳ベアル峠は10kmの上りだが、実質はその手前から緩斜面の上り区間が続く長い登り。ボーラはここでスプリンターたちをすべて引き離した。そして下りでもペースを緩めず、集団復帰を許さない。狙うはリヨンでのステージ勝利とポイント獲得、そしてベネットらのチャンスを完全に潰すこと。地形は完全にサガン向き。なんなら昨日のステージで最終走者だった疲れたベネットをタイムアウトに追い込む目論見もあっただろう。

2級山岳ベアル峠で遅れたカレブ・ユアン(ロット・スーダル)をチームメイトがエスコート2級山岳ベアル峠で遅れたカレブ・ユアン(ロット・スーダル)をチームメイトがエスコート photo:Makoto.AYANO
ベネットはチームメイトに助けられてしばらく追走を続けるも、抵抗するより脚を温存したほうが得策と、クルージングに入った。ドゥクーニンク・クイックステップはステージ勝利狙いをアラフィリップに任せ、ベネットを皆で護り、制限タイム内でゆっくりとリヨンを目指す作戦に切り替えた。明日以降の同じ戦いに備えることが重要、そしてまだポイント差は多くある。

ボーラ・ハンスグローエはベネットやピュアスプリンターたちすべてを脱落させる作戦には成功。次はサガンのリヨンでのステージ勝利と50ポイント獲得。パンチ力が必要なアップダウンを経てのフィニッシュもサガン向き。しかしその予定を狂わせたのがサンウェブの波状攻撃だった。

4級山岳ラ・クロワルース峠をハイスピードで突き進んだ集団は長く伸びる4級山岳ラ・クロワルース峠をハイスピードで突き進んだ集団は長く伸びる photo:Makoto.AYANO
4級山岳ラ・クロワルース峠を先頭でクリアするレナード・ケムナ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)4級山岳ラ・クロワルース峠を先頭でクリアするレナード・ケムナ(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ) photo:Makoto.AYANO
ミラノ〜サンレモかワンデイクラシックのような展開になったリヨン市街での攻防。ティシュ・ベノートに続いてこのツールでもっとも警戒すべきマルク・ヒルシ(スイス)のアタック。その動きに対応すべく動いたサガンだが、絶妙なタイミングで仕掛けたセーアン・クラーウアナスンのアタックは見送ってしまった。誰もが反応できない、サンウェブの次から次へと爆発するダイナマイトのような攻撃。

最終局面でアタックするセーアン・クラーウアナスン(デンマーク、サンウェブ)。後方では誰が追うのか顔を見合わせている最終局面でアタックするセーアン・クラーウアナスン(デンマーク、サンウェブ)。後方では誰が追うのか顔を見合わせている (c)CorVos
メイン集団はルカ・メズゲッツ(スロベニア、ミッチェルトン・スコット)を先頭にフィニッシュメイン集団はルカ・メズゲッツ(スロベニア、ミッチェルトン・スコット)を先頭にフィニッシュ photo:Kei Tsuji
ステージ優勝の50ポイントは逃したが、まだ30ポイントを取れる可能性はあった。サガンにとっては取らなくてはいけないポイント。しかし集団スプリントで失速し、4位に。2人に先着を許したルカ・メズゲッツ(スロベニア、ミッチェルトン・スコット)とシモーネ・コンソンニ(イタリア、コフィディス)は、サガンが負けていい相手ではない。ボーラがチーム力のすべてを注いで「お膳立て」した末のスプリントなら、なおさら。ここでもキレが無かったサガンは明らかに最高の調子ではない。

ステージ優勝はならず、4位でフィニッシュするペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)ステージ優勝はならず、4位でフィニッシュするペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) (c)CorVos
第7ステージと第13ステージの失敗を繰り返してしまったサガン。「今日はタフなステージにしてスプリンターたちを(メイン集団から)落としたいと思っていた。そのために僕たちはフィニッシュまで頑張った。4位になってマイヨヴェールの為にポイントが取れた。目標はもっと加算することだったが、これが僕たちにできるベストだった。とてもハードなツール・ド・フランスになっているが、今日だけではなくニースから毎日素晴らしい働きをしてくれているチームメイトに感謝したい」。

チームに感謝を表すが、コメントするその表情は明らかに分が悪いといったもの。もはや批判は避けられない。結局はレースを終えてベネットとの差は43ポイント。大胆な攻撃にして得られたこの結果は、到底満足できるものじゃないはずだ。

一方で、チームメイトに護られて、タイムアウトにならずに19分48秒遅れでリヨンに到着したベネットはご機嫌だ。昨日は激坂に苦しみぬいた一日だったが、今日一日の半分はチームの形成する後方列車に乗って距離をこなすだけだった。

4級山岳ラ・クロワルース峠をこなすサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ4級山岳ラ・クロワルース峠をこなすサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ photo:Makoto.AYANO
「チームは僕のために素晴らしい働きをしてくれ、僕をメイン集団に戻そうとしてくれたが不可能だった。だから3つ目の登りで懸命に追っても意味がないと思いペースを落とすことにした。ユニークかつ素晴らしいウルフパックの精神を体現し、日々手助けをしてくれるこんな素晴らしいチームメイトが周りにいて僕は幸せだ。パリまでの道のりはまだ長く、簡単ではないが戦い続ける」。

中間スプリントで10ポイントだけ頑張って取った。後は脚をためつつ流すのみのレースだが、結果的にはポイント争いに関してはベネットが最後に笑ったステージになった。アラフィリップのアタックは実らなかったが、チームの目標であるマイヨヴェール堅持は果たした成功の一日。そして今日の最終走者を務めたのはカレブ・ユアンとロット・スーダルのチームメイトたち。マイヨヴェールには縁がないが、最終日のシャンゼリゼフィニッシュのことだけを目標に走り続ける。

チームメイトにアシストされ4級山岳ラ・クロワルース峠を最後尾でクリアしたカレブ・ユアン(ロット・スーダル)チームメイトにアシストされ4級山岳ラ・クロワルース峠を最後尾でクリアしたカレブ・ユアン(ロット・スーダル) photo:Makoto.AYANO
逃げたことで再びの敢闘賞を得たキュングは、他のチームがボーラの作戦に飲まれるあまり逃げに同調してくれる選手が少なかったことに苛立ち、かつサガンへの批判も込めてコメント。

「言わせてもらうけど、結局はボーラが何をしたいのか理解できないね。彼らはすでに2回同じことにトライして、両方とも13位で終わっているはずだよ。で、今日はサガンは何位だっけ?4位? オッケー、でもそのために彼らがした努力といったら…。それぞれのチームにもっと作戦があっていい。僕にとってはもっと逃げることだけれど」とチクリ。

確かにポイント差は縮めたが、サガンとボーラにとっては失敗の一日だったという批判の声が強い。まだこの先も同じことを続けるのか、それともここで諦めるのか。翌第15ステージの序盤からのボーラ・ハンスグローエの動きに注目だ。

ケムナ、アラフィリップに次いでアタックするエガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)ケムナ、アラフィリップに次いでアタックするエガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ) photo:Makoto.AYANO
4級山岳ラ・クロワルース峠をクリアするプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)4級山岳ラ・クロワルース峠をクリアするプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) photo:Makoto.AYANO
総合争いに関しては休止の一日。しかしエガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)のリヨン市街でのアタックがスパイスに。「あまり考えもなくアタックした。ツール・ド・フランスなんだから楽しまなきゃ」と屈託のないベルナル。ピュイマリーではタイムを失ったが、明日からのアルプスを控えて好調さを感じさせる動き。ベルナルが本来の強さを発揮するのはこれから続く標高の高い難関山岳だ。

そしプリモシュ・ログリッチとユンボ・ヴィスマはこのベルナルの動きもきっちりマーク。ワウト・ファンアールトもスプリントを狙うよりログリッチのアシストに徹した。ボーナスタイムを与えてはならない相手と、そのわずかな秒差が後々大事になるであろうと理解していることを改めて示した。


text&photo:Makoto AYANO in Riom FRANCE

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