「レースが無かったので体調は良い。レースでは終盤の逃げに乗りたいですね」と與那嶺恵理(アレ・BTCリュブリャナ)は言う。ストラーデビアンケ出場を控える全日本王者に、シーズン再開について、2月の序盤戦、オランダのコロナ禍をどう過ごしたか、そして女子プロ選手組合のアンバサダー就任などについて聞いた。



與那嶺恵理(アレ・BTCリュブリャナ)與那嶺恵理(アレ・BTCリュブリャナ) (c)CorVos
「レースが無かったので、コンディションそのものは例年と比べたら悪くはありません。でもそれは多分どの選手も同じですし、ワールドツアー開幕戦は激しいレースになるはず。アシスト役を担うはずですが、終盤の逃げに乗れたら良いなと思います」と言うのは、目前に迫ったストラーデビアンケを見据える與那嶺恵理(アレ・BTCリュブリャナ)。トレーニング期間を終えコンディションを整えている段階、と言う與那嶺の表情は、オンラインインタビューの画面越しからも、良い意味で力が抜けていることが分かった。

ヨーロッパに拠点を置き5年目となる2020年シーズンの滑り出しは好調だった。全日本選手権に加えオリンピックを予定していたため、移動回数が増えること、そしてシーズン中盤の息切れを踏まえて例年出場しているツアー・ダウンアンダーをパス。その1ヶ月をトレーニング期間に充て、スロースタートで臨んだスペインの開幕戦、そしてベルギーでのクラシックレース2連戦では好感触を得たという。

「ロックダウン中は2〜3時間くらいしか乗っていなかった」「ロックダウン中は2〜3時間くらいしか乗っていなかった」 (c)Eri Yonamineそんな矢先に降って湧いた新型コロナウイルスのパンデミック。アレ・BTCリュブリャナはUCI決定に先駆けてレース参戦中止を表明し、そこからはオランダ、ファルケンブルクにある自宅でひたすらトレーニングに打ち込んできた。

「なんだか、ニート生活ですよ(笑)。レースもないし、ロックダウン当初はこうやって一年が終わっていくのか、なんて思っていました。幸いオランダは外練習OKでしたが、普段の練習コースがあるベルギーは入国できなくなってしまった。オランダ側はほとんど登りもありませんし、ロックダウン中は2〜3時間くらいしか乗っていませんでした。ベルギーに入れるようになった6月くらいからですね、ちゃんと練習を始めるようになったのは」。

ロックダウン中、ジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランス主催者によるバーチャルレースが盛んに開催されたものの、ローラートレーニングは大嫌いと言う與那嶺はあくまで実走練習にこだわった。「あまりローラー台に乗りすぎると走り方が変わってしまう」というのがその理由だ。

「雨の日はローラーに乗りますが、晴れの日は気が狂うので絶対に乗りません。ズイフトもやりませんし、、、嫌いですね(笑)。パワーの出し方が実走とは全然違うし、室内練習ばっかりだとレースで使えない走り方になってしまうんですよ。私の場合、実走のほうが10%くらい出力が高く出ますしね。例えば外でインターバル練習を行うとき、体重の6〜7倍くらいの出力で30秒を踏み続けるんですが、これがローラーだと全然出ないんですよね。ローラーだと300ワット30秒でのトレーニングなんて全然無理。走り方がそれぞれ違うから、ローラーをやりすぎるのもどうなんだろう?って思います」。

ストラーデビアンケでタッグを組むマルタ・バスティアネッリ(イタリア)ストラーデビアンケでタッグを組むマルタ・バスティアネッリ(イタリア) (c)CorVos
来たるストラーデビアンケにおいて、與那嶺は昨年4位のマルタ・バスティアネッリ(イタリア)やシーズン再開後のスペインレースで積極的な走りを見せたマビ・ガルシア(スペイン)ら、チームのエース選手たちとタッグを組む。「まだ(インタビュー時点では)ミーティングをしていないので不明ですが、レースを見る限りマビはトップコンディションですね。ストラーデビアンケはフィジカルだけじゃなくオフロードを走るテクニックも求められるし、今後のレースもどんどんキャンセルとなっているので、一発集中してくる選手がとても多いはず。どうなるかはさっぱり分かりません」と言う。

「スペインレースの結果を見るに、各選手間のコンディションのバラつきが大きいと思いますね。トレーニングをきちんと積めている選手とそうでない選手の差が激しい。いつも走れてる選手が全然ダメだったり、むしろその逆だったり。とにかく無事にレースを走りきって、感覚を取り戻せれば良いなと思います」。

ストラーデビアンケから1ヶ月後に、與那嶺はオランダ開催のブールス・レディースツアーに参戦を予定していた。しかし大会主催者は今週に入って、資金難を理由に開催中止を発表。その後はジロ・ローザを経てアルデンヌクラシック参戦を予定しているものの、各選手のレーススケジュールが変更される可能性が高いという。

「もしかしたら、最悪世界選手権まで走るレースがないかもしれないという思いはあります。チームがスケジュールを入れ替えてくれれば良いのですが、他の選手もレースを走りたいですから。先週あたりにベルギーのフランドル(地方)が再び立ち入り禁止になってしまいましたし。分からないですね。どうなんでしょう」。

以前から東京五輪をキャリアの集大成として捉えてきた與那嶺。しかし2021年への延期が決まり、コロナ禍も再び第二波が迫ろうとしている中、その考えも変わってきている、と話す。

「なんだか(選手を)辞められなくなっちゃいましたね(笑)。東京五輪で良い走りができたらいつ辞めてもいいかな、と思ってたんですが、こんな感じになってしまったので、次の五輪まで気持ち的にも辞められません。2021年の東京五輪も開催できるか半々くらいだと思っていますし、もうあまり私個人としては気にしていないのが本音。ただ東京五輪を走ることを踏まえて応援してくれている企業や方々がいるので、開催されなくとも別の舞台で活躍している姿を見せたいと思います」。

クラシックレース2連戦では好感触を得たというクラシックレース2連戦では好感触を得たという (c)CorVos
與那嶺は7月にCPAウィメン(女子プロ選手組合)のアンバサダーに就任したばかり。CPAはハラスメント撲滅や男女平等、賞金、給与の平等化などを目標に掲げ活動しており、與那嶺は世界4名のアンバサダーのうちの一人。それについて聞くと、「アジア人選手が全然いないので、たぶんなんとなくですが、それが理由だと思います」と笑う。

「でもUCIが何をしたいか、あるいは日本を含めてアジアの選手がこちらに来る上でどうしたらいいかを知る上で、いろいろなコネクションを持っていた方が絶対良い。私がそういう肩書きを持っていれば窓口にもなれますし、例えば日本で女子のUCIレースを開催できるきっかけとなるかもしれない。そういうチャンスは逃さないようにしようと思ったんです」と言う。

「女子ワールドツアーも最低賃金の決定など地位向上したはずなのに、コロナで私のチームも含めて多くが賃金カットになってしまった。このことは残念に思います。ただ来年には男子と女子選手の最低賃金が同じになって、ようやくいち社会人として生活できる水準に達するはずなので、そうした面の条件が揃って、かつワールドツアーでしっかり走れるうちは現役を続けたいなと今は思います。ただ走りのレベルが落ちたらきっぱり辞めて別の仕事をしたい。これはずっと思っていることなんです」。

あくまでも自然体を崩さず、ストラーデビアンケで再シーズンインを果たす與那嶺。そのスタートは、あと僅かにまで迫っている。


text:So.Isobe

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