トライスポーツ代表、中原敏一さんへのインタビューを紹介する。マニアックなブランドを多数取り扱う「目利き」やTNIブランドのこと、ホビートライアスリートから脱サラし、独立したからこそ心に宿すユーザー目線の思いとは。兵庫県神戸市にある本社で話を聞いた。



トライスポーツ代表を務める中原敏一さん。神戸にある本社で話を聞いたトライスポーツ代表を務める中原敏一さん。神戸にある本社で話を聞いた photo:So.Isobe
「面白いモノを届けたい。その思いは30年間変わりません」「面白いモノを届けたい。その思いは30年間変わりません」 photo:So.Isobe兵庫県神戸市の、六甲山を眺める国道2号線沿いにトライスポーツ本社はある。高さのある1階がメイン倉庫で、階段を上がった2階は事務所スペース。もともと材木屋だったという年季の入った5階建ての建物は、どこを歩いても秘密基地感満点でわくわくしてしまう。事務所に通していただくと、代表を務める中原敏一さんが迎えてくれた。

トライスポーツといえば、マニア垂涎の超軽量カーボンパーツやアイディア商品を数多取り扱う、少し変わった代理店。これまでジップ、エンヴィ、スピードプレイ、ファクター、セラミックスピードなどを日本に広めたのはトライスポーツだったし、最近で言えばビッグプーリーをいち早く日本に紹介したのも、鼻に装着する器具「タービン」をヒルクライマーの間に流行らせたのもトライスポーツだ。

「やっぱり面白いモノを届けたいですよね。超軽量のサドルとかハンドルとかはほとんど商売にはなりませんが、話題にはなりますから。竹のフレームとか...。とにかく、楽しかったらいいんちゃいますかね」

と、屈託無い笑顔を浮かべる中原さん。世界を飛び回り、自分で目利きしたものを国内に届けるスタンスは30年前の創業時からずっと変わらない。現在取扱ブランドは90社にものぼり、超ニッチなブランドも少なくない(というかむしろ大半だ)。

「平成元年、42歳の時に脱サラして、新神戸でトライアスロンショップを始めたのがスタートです。でもその時、まだ全然トライアスロンはメジャーじゃなかったのでどこにも製品がない。だったら自分で輸入してしまおうと思ったんです。ジップも全然無名だった頃、アメリカの展示会で見て、これは良い、ぜひ日本に紹介したい、と。でも僕らはまだ小さい会社だから断られちゃって(笑)。でもその後、縁あって向こうから取り扱って欲しいと言われてスタート。選手サポートにも力を入れましたし、それから日本国内でも有名ブランドになりましたよね」。

倉庫に置かれているコレクションを見せてもらった。これはマーリンのカーボンフレーム倉庫に置かれているコレクションを見せてもらった。これはマーリンのカーボンフレーム photo:So.Isobe
カーボンフレームにチタンの飾りとエンド。非常に凝った作りだカーボンフレームにチタンの飾りとエンド。非常に凝った作りだ photo:So.Isobeジップはトライスポーツ創業初期に扱ったビッグブランドの一つジップはトライスポーツ創業初期に扱ったビッグブランドの一つ photo:So.Isobe

マクマホンサイクルのチタンフレーム(年式不明)マクマホンサイクルのチタンフレーム(年式不明) photo:So.Isobe新品のスリングショットを発見新品のスリングショットを発見 photo:So.Isobe


トライアスロンを楽しんでいた中原さんだが、40歳の誕生日には東京〜赤穂(最短で620km)を32時間で走破するなど、3種目の中で最も好きなのがバイクだったという。どうしたら速く走れるのかを常日頃考え、その中で機材に対するノウハウも溜まり、優れた商品を見極める力にも繋がった。そして、同社の歴史の中で築いてきたコミュニティも大きく関わっているという。

「例えばエンヴィを(国内で)最初に取り扱ったのは弊社ですが、あそこのトップはもともとポール・リュー(超軽量カーボンホイールで名を馳せたリューレーシング)の下で技術者として働いていたんですよね。リューレーシングを扱っていた時から親交があったので、日本で売るならトライスポーツにお願いしたい、と言ってきたんですよ。そういうのも含めて偶然ですよね。全ては」。

「結局ね、当初は会社も小さかったから、小さなブランドしか扱えなかったわけですよ。最初は金回りが悪くて神経性の下痢になったりしたんですが、コツコツ30年。小さくて面白い製品を扱ってることは、なぜか今も変わりません。これ良いね、って言ってもらえるブランドが多いのは、まぁツイてただけですわ(笑)」。

サドルやビッグプーリーが人気だというTNIサドルやビッグプーリーが人気だというTNI
海外ブランドの輸入販売代理店を務める一方、トライスポーツはオウンブランド「TNI」を展開することでも知られている。アルミやカーボンを使ったアイテムはコストパフォーマンスに優れ、そのクォリティは一流ブランド製品に勝るとも劣らない。そしてその第1作となったのがBENTOBOX(ベントーボックス)。今やトライアスリートの必需品となり、バイクパッキングでも欠かせないトップチューブストレージを世界で初めて製品化した人こそ、中原さんだった。

「お弁当も入れられるから、ベントウボックス。こんなんあったらええな、って思って作ったんですよ。で、それをアメリカで売ろうと決めた時にTNIっていうブランドを付けました」と中原さんは言う。

現在サドルやCo2ボンベ、ビッグプーリーなどが好評だというTNIブランド。低価格で販売することの裏側には、自身の経験に基づいた確固たる信念があるという。

「僕のサラリーマン時代はね、給料が安くてとても高い部品は買えなかったんですよ。神戸から自転車走らしてウエムラパーツさんに買いに行ったり、いろいろやってましたね。そういう経験があるから、値段もできるだけ低く設定できるように、例えば通関作業なんかは全部自社でやるよう工夫してます」。

「え、TNIの由来ですか? アメリカでBENTOBOXを売るときに トータル・ニュー・アイディアとかテクノロジー・ニーズ・アイディアとかいう意味付けがあったりもしましたが、、。"トライスポーツ・ニホン・イチ"? 全然違いますよ。ハハハ」。

2019年から取り扱い開始となった4iiii2019年から取り扱い開始となった4iiii ドイツの新興タイヤブランド「ウルフパック」ドイツの新興タイヤブランド「ウルフパック」 photo:Makoto.AYANO

「まだまだ頑張りますよ。いいモノを見つけたいと思います」「まだまだ頑張りますよ。いいモノを見つけたいと思います」 photo:So.Isobe
現在、トライスポーツ取り扱いブランドのうち、パワーメーターの4iiii(フォーアイ)、国内認知度も上がってきた英バイクブランドのファクター、そして新興タイヤブランドのウルフパックの伸びが好調だという。

「中でもウルフパックは良いブランドだと思いますね。いろんな会社のコンパウンドを作ってきた専門家のオウンブランドなので、今すごく注目されてますよ。一般的にタイヤは有名メーカーが強いので新しいブランドは売れないんですが、セールスも好調です。これも何かの縁ですよね。」

平成元年に、42歳で起業してから早30年。73歳になった今でも中原さんの勢いは少しも衰えない。

「コロナ騒動が収束したら、また海外にどんどん行って、いいモノを見つけたいと思います。まだまだやれるとこまでやりますよ」

text&photo:So.Isobe