残り20km地点のKOMカービーヒルで形成された精鋭グループは引き戻され、55名による集団スプリントでジャコモ・ニッツォーロ(NTTプロサイクリング)が勝利。新城幸也(バーレーン・マクラーレン)が16位に入り、ボーナスタイムを稼いだダリル・インピー(ミッチェルトン・スコット)が最終日を前に総合首位に立った。


ボーナスタイムを積極的に獲得するダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット)ボーナスタイムを積極的に獲得するダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
スタート前にマッサージを兼ねて日焼け止めを塗り込む新城幸也(バーレーン・マクラーレン)スタート前にマッサージを兼ねて日焼け止めを塗り込む新城幸也(バーレーン・マクラーレン) photo:Kei Tsuji各チームには選手や機材輸送用に新型ハイエースが貸し出される各チームには選手や機材輸送用に新型ハイエースが貸し出される photo:Kei Tsuji
スタートの支度を整える新城幸也(バーレーン・マクラーレン)スタートの支度を整える新城幸也(バーレーン・マクラーレン) photo:Kei Tsujiチャリティーのために丸刈りになったラクラン・モートン(オーストラリア、EFプロサイクリング)チャリティーのために丸刈りになったラクラン・モートン(オーストラリア、EFプロサイクリング) photo:Kei Tsuji

ツアー・ダウンアンダー2020第5ステージツアー・ダウンアンダー2020第5ステージ photo:Santos Tour Down Underツアー・ダウンアンダー最終日を前にした第5ステージはシンプルなスプリンター向きの展開には持ち込まれなかった。第4ステージを終えた時点で総合1位リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)と総合2位ダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット)のタイム差はわずかに3秒。ボーナスタイムハンターと化したインピーがこの日も前半から動いた。

アデレード在住サイクリストにとってカフェライドの定番の目的地であるグレネルグをスタートした集団から飛び出す選手は、ことごとくミッチェルトン・スコットによって引き戻された。すべての逃げをシャットダウンしたミッチェルトン・スコットはフィニッシュさながらのトレインを組んでインピーを第1スプリント(33.9km地点)に向けて解き放ったが、ここは世界王者マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)が先頭通過してポートのためにライバルのボーナスタイムを潰す。しかし2番手通過でボーナスタイム2秒を獲得したインピーがポートとの総合タイム差を1秒に。

続く第2スプリント(56km地点)でも全開スプリントを見せたインピーがジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ)とピーダスンを下して先頭通過すると、ついにポートを抜いて暫定総合首位に躍り出た。

まだまだステージ前半の残り90km地点でローハン・デニス(オーストラリア、チームイネオス)やサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)が飛び出し、リーダージャージを着る暫定総合2位ポートが反応するシーンも。この危険な動きを封じ込めたメイン集団はハイスピードを維持。ステージ後半に入った残り70km地点でようやく逃げという逃げが決まった。

世界王者のピーダスン、イアン・スタナード(イギリス、チームイネオス)、ヨセフ・チェルニー(チェコ、CCCチーム)、イーデ・シェリング (オランダ、ボーラ・ハンスグローエ)の4名による逃げは最大で2分強のリードを築いたものの、ミッチェルトン・スコットに加えてステージ優勝争いに興味を示すアスタナが牽引するメイン集団が追い詰めた。

ミッチェルトン・スコットがメイン集団を牽引してスプリントポイントに向かうミッチェルトン・スコットがメイン集団を牽引してスプリントポイントに向かう photo:Kei Tsuji
撮影者を見つけてボトルで狙う新城幸也(バーレーン・マクラーレン)撮影者を見つけてボトルで狙う新城幸也(バーレーン・マクラーレン) photo:Kei Tsuji
逃げるマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)逃げるマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード) photo:Kei Tsuji
メイン集団を長時間牽引したジャック・バウアー(ニュージーランド、ミッチェルトン・スコット)メイン集団を長時間牽引したジャック・バウアー(ニュージーランド、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
残り20km地点に設定されたこの日最大の難所であるKOMカービーヒル(距離4km/平均5.6%/最大12.2%)の登坂が始まると逃げは吸収され、アスタナやモビスター、そしてミッチェルトン・スコットがハイペースを刻んでメイン集団の人数を絞り込む。先頭ではピュアスプリンターを含まない精鋭グループが形成された。

平均スピード29.4km/hでKOMカービーヒルを駆け上がった精鋭グループは、山岳ポイント狙うポートを先頭に頂上を通過していく。精鋭グループを形成したのはポート、インピー、Sイェーツ、デニス、ロバート・パワー(オーストラリア、サンウェブ)、ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ユンボ・ヴィスマ)ら。ピュアスプリンターの復帰を拒みたいミッチェルトン・スコットが精鋭グループを率い、ピュアスプリンターを復帰させたいロット・スーダルやドゥクーニンク・クイックステップ、NTTプロサイクリングが追走集団を率いる展開。一時的に30秒ほどまで広がったマッチレースは、人数が揃った追走集団に軍配が上がった。

トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・スーダル)らの集団牽引によって残り6km地点で精鋭グループは吸収される。短い登りを利用したロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)のアタックにも集団は崩れず、トレインを組んだミッチェルトン・スコットを先頭に55名の集団がヴィクターハーバーになだれ込む。総合上位陣の中でこの中に入ることができなかったのは総合15位エデュアルド・プラデス(スペイン、モビスター)だけだった。

カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)やサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ)といったステージ優勝済みのピュアスプリンターを含む集団によるスプリント勝負。残り500mのテクニカルコーナーを抜けてからロジャー・クルーゲ(ドイツ、ロット・スーダル)がリードアウト体制に入ったものの、その後ろにユアンの姿は無かった。

クルーゲのリードアウトを完璧に利用する形になったニッツォーロが残り200mで発進。シモーネ・コンソンニ(イタリア、コフィディス)とベネットの追い上げを振り切ったニッツォーロが大きく両手を広げてフィニッシュした。

精鋭グループに入ったリッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)やダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット)精鋭グループに入ったリッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)やダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット) photo:CorVos
スプリントで先行するジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング)スプリントで先行するジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング) photo:Kei Tsuji
コンソンニを振り切ったジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング)コンソンニを振り切ったジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング) photo:Kei Tsuji
ステージ16位でフィニッシュした新城幸也(バーレーン・マクラーレン)ステージ16位でフィニッシュした新城幸也(バーレーン・マクラーレン) photo:Kei Tsuji
リーダージャージを手放すことになったリッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)リーダージャージを手放すことになったリッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード) photo:Kei Tsuji
KOMカービーヒルで脱落しながらも復帰し、混沌としたスプリントを制したニッツォーロは「チームメイトにはどれだけ感謝しても足りない。彼らは登りで遅れた自分を待ってくれて、作戦通りに先頭集団まで引き上げてくれた。そればかりか完璧なポジションまでリードアウトしてくれて、そこからペダルに全ての力を込めたんだ」と語る。NTTプロサイクリングにとってはシーズン初勝利。ニッツォーロはジロ・デ・イタリアで2度ポイント賞に輝いているが、UCIワールドツアーレースでの勝利は2012年エネコツアー第5ステージぶりとなる。

NTTプロサイクリングがニッツォーロのためにペースを刻む第2集団内でKOMカービーヒルをクリアした新城幸也(バーレーン・マクラーレン)は、エースが集団内に残っていることを確認してから自力でポジションを上げてスプリントに挑んだ。

「無理にベネットのいる前の集団(第1集団)に食らいつくのではなく、ニッツォーロと同じ集団(第2集団)で登りをクリアして、下りですぐに前に追いつきました。終盤のコースレイアウトは過去に走っていたこともあって知っていた。残り2kmのロータリーを抜けてから一気にポジションを上げたんですが、デンマークチャンピオン(モルコフ)に弾かれてしまい、最後の左コーナーで(ポジションを)落としながらも踏みました」と、2017年大会最終ステージで記録した最高順位と同じステージ16位でフィニッシュした新城。

「狙ってみたんですが、最後はそこまでフレッシュではなかった。一か八かを狙ってもっと前に出ておくべきでしたね」と語る新城は総合順位を30位から28位に上げている。

自分のスプリントを狙って16位でフィニッシュした新城幸也(バーレーン・マクラーレン)自分のスプリントを狙って16位でフィニッシュした新城幸也(バーレーン・マクラーレン) photo:Kei Tsuji
チームスタッフと喜ぶジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング)チームスタッフと喜ぶジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング) photo:Kei Tsuji
フィニッシュ手前の位置どりを説明する新城幸也(バーレーン・マクラーレン)フィニッシュ手前の位置どりを説明する新城幸也(バーレーン・マクラーレン) photo:Kei Tsuji
最終日を前にリーダージャージはポートからインピーの手に。総合タイム差2秒の接戦は最終第6ステージのKOMウィランガヒル山頂フィニッシュで決することに。

「キング・オブ・ウィランガ」の異名を持つポートは過去6年連続でウィランガヒルを制している。過去のウィランガヒルを振り返ると、向かい風が吹いた2019年はポートがインピーを引き離せずにタイム差0秒でステージ優勝。2018年はポートがインピーを8秒引き離している。

仮にインピーが第6ステージの2つの中間スプリントでボーナスタイム6秒を獲得すれば総合リードを8秒まで拡大することが可能。しかしポートがステージ優勝すればボーナスタイム10秒を獲得するため、インピーが何秒遅れでフィニッシュするか、そしてインピーがステージ何位でフィニッシュするかが最終的な総合順位を決める。インピーだけでなく総合4位/13秒遅れのサイモン・イェーツ(イギリス)を擁するミッチェルトン・スコットが戦略的に動くことは間違いなく、もちろんここに総合3位/9秒遅れのロバート・パワー(オーストラリア、サンウェブ)らを含めた僅差の総合争いに注目だ。

ステージ初優勝を飾ったジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング)ステージ初優勝を飾ったジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング) photo:Kei Tsuji
リーダージャージ獲得に成功したダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット)リーダージャージ獲得に成功したダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
世界王者マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)がステージ敢闘賞を獲得世界王者マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)がステージ敢闘賞を獲得 photo:Kei Tsujiアシストとして働いたパヴェル・シヴァコフ(ロシア、チームイネオス)がヤングライダー賞ジャージをキープアシストとして働いたパヴェル・シヴァコフ(ロシア、チームイネオス)がヤングライダー賞ジャージをキープ photo:Kei Tsuji
ポイント賞ジャージはジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ)がキープポイント賞ジャージはジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ)がキープ photo:Kei Tsujiジョセフ・ロスコフ(アメリカ、CCCチーム)が山岳賞ジャージを守ったものの、リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)が逆転する可能性有りジョセフ・ロスコフ(アメリカ、CCCチーム)が山岳賞ジャージを守ったものの、リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード)が逆転する可能性有り photo:Kei Tsuji
ツアー・ダウンアンダー2020第5ステージ結果
1位 ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア、NTTプロサイクリング) 3:32:45
2位 シモーネ・コンソンニ(イタリア、コフィディス)
3位 サム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ)
4位 ミケル・モルコフ(デンマーク、ドゥクーニンク・クイックステップ)
5位 ジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ)
6位 アンドレ・グライペル(ドイツ、イスラエル・スタートアップネイション)
7位 クリストファー・ハルヴォルセン(ノルウェー、EFプロサイクリング)
8位 カレブ・ユアン(オーストラリア、ロット・スーダル)
9位 ファビオ・フェリーネ(イタリア、トレック・セガフレード)
10位 ダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット)
16位 新城幸也(日本、バーレーン・マクラーレン)
個人総合成績
1位 ダリル・インピー(南アフリカ、ミッチェルトン・スコット) 17:12:15
2位 リッチー・ポート(オーストラリア、トレック・セガフレード) 0:00:02
3位 ロバート・パワー(オーストラリア、サンウェブ) 0:00:09
4位 サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) 0:00:13
5位 ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ユンボ・ヴィスマ) 0:00:16
6位 ディエゴ・ウリッシ(イタリア、UAEチームエミレーツ) 0:00:17
7位 シモン・ゲシュケ(ドイツ、CCCチーム)
8位 ローハン・デニス(オーストラリア、チームイネオス)
9位 ディラン・ファンバーレ(オランダ、チームイネオス)
10位 ルーカス・ハミルトン(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット) 0:00:25
28位 新城幸也(日本、バーレーン・マクラーレン) 0:00:46
その他の特別賞
ポイント賞 ジャスパー・フィリプセン(ベルギー、UAEチームエミレーツ)
山岳賞 ジョセフ・ロスコフ(アメリカ、CCCチーム)
ヤングライダー賞 パヴェル・シヴァコフ(ロシア、チームイネオス)
チーム総合成績 ミッチェルトン・スコット
ステージ敢闘賞 マッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)
text:Kei Tsuji in Adelaide, Australia