この日、フィデンツァのスタート地点に集まった観客は、日本人選手の姿を探していたに違いない。出走サインのステージの辺りをフラフラしていると「ドーヴェ・アラシーロ?(新城はどこ?)」と何度聞かれたことか。こっちが聞きたいぐらいだと言うのに。

ガゼッタ紙「アラシロ・カミカゼ」

ガゼッタ・デッロ・スポルト紙では新城の扱いの方が大きかったガゼッタ・デッロ・スポルト紙では新城の扱いの方が大きかった スタート地点はフィデンツァの旧市街地から一歩外に出た「フィデンツァ・ヴィレッジ」。日本でも流行の郊外型アウトレットモールで、その広大な駐車場がジロにジャックされた。そもそもレンガ作りの美しい街がすぐそこにあるのに、わざわざレンガ作り風にアーティフィシャルなモールを作ったあたりがどこか可笑しい。

いつも出走サインの締め切り数分前にスタート地点にやってくる新城幸也(Bboxブイグテレコム)だが、この日は比較的時間に余裕を持って出走サインにやってきた。

大会委員長のアンジェロ・ゾメニャン氏にマスコットを渡される新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)大会委員長のアンジェロ・ゾメニャン氏にマスコットを渡される新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsuji「昨日は日本の皆さんに直接声を届けることが出来て良かったです。チームメイトも祝福してくれましたし、兄ちゃん(福島晋一)たちからも電話があったんです」。そう語るユキヤの顔からは笑みがこぼれる。

ユキヤは一日にしてイタリア人の心を鷲掴みにした。大会関係者から「昨日の日本人、凄かったじゃないか!あれほど強いとは思っていなかった」と感嘆の声。ステージ優勝は逃したが、最も積極的に逃げグループを牽き、最後まで闘志溢れる走りを見せたユキヤの美学に、イタリア人は共感したのだろう。イタリアにおいてその評価はステージ優勝者以上かも知れない。

笑顔でRAIのインタビューを受ける新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)笑顔でRAIのインタビューを受ける新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsujiガゼッタ紙には「アラシロ・カミカゼ」の文字が踊る。「なんて安直な表現だ」と思いつつ、記事を読むと「これぞサムライ魂」という表現もあった。

出走サインを終えると、ステージ横のスペースに呼び出されたユキヤ。前日に144kmに渡って逃げたユキヤは、逃げた距離によって争われるフーガ(逃げ)賞を獲得していたのだ。大会委員長のアンジェロ・ゾメニャン氏からマスコットのぬいぐるみを受け取った。

ちなみにこのフーガ賞。逃げた距離を積算した総合成績も争われる。現在フーガ総合成績トップはポール・ヴォス(ドイツ、チームミルラム)で、記録は288km。つまりこれまで合計288kmを逃げていたということ。144kmのユキヤは総合5位だ。

出走サイン後も、ユキヤはイタリア国営放送RAIのインタビューやサイン、握手などに大忙し。インタビューしていても、アチコチから紙とペンが伸びてくる。「昨日の疲れが残っているので、今日は動かないですよ」。そう言って、ユキヤはスタートラインに並ぶこと無く、集団後方でスタートして行った。


相次ぐ落車、ブイグの補給に立ち会う

イタリア半島の内陸部を進むメイン集団イタリア半島の内陸部を進むメイン集団 photo:Kei Tsujiロンバルディア平原から山岳地帯を抜け、ティレニア海沿いのカラーラにゴールする。前日はファウスト・コッピに捧げるステージで、この日はジャック・アンクティルに捧げるステージ。レースブックのヒストリー部によれば、今から50年前のジロ・デ・イタリアで、アンクティルはカラーラの個人タイムトライアルで優勝し、フランス人初の総合優勝に輝いた、とある。

スタート地点とゴール地点は晴れ模様だが、途中の山岳地帯はぐずついた生憎の天気。ラジオコルサ(競技無線)は何度もしつこく「路面は滑りやすい」と警告している。しかしその言葉も虚しく、落車による犠牲者が多発した。

山岳地帯へと分け入るメイン集団山岳地帯へと分け入るメイン集団 photo:Kei Tsuji下りで落車し、リタイアを余儀なくされたのはパオロ・ティラロンゴ(イタリア、アスタナ)。生粋のクライマーとして知られ、昨年のブエルタ・ア・エスパーニャで総合8位、ジロ・デ・イタリア出場6回目のティラロンゴは、最終週の山岳ステージでヴィノクロフの右腕として活躍が期待されていた。

ティラロンゴは、クーネオのチームタイムトライアルでもチームの先頭でゴールするなど、好調をアピールしていただけに、今回の離脱はヴィノクロフにとって大きな痛手。今後の展開に少なからず影響を及ぼすだろう。


どこからでもかかってきなさいどこからでもかかってきなさい photo:Kei Tsujiボトルやエナジーバーなどが詰め込まれたサコッシュボトルやエナジーバーなどが詰め込まれたサコッシュ photo:Kei Tsujiサコッシュを受け取った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)サコッシュを受け取った新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsuji



TOJでお馴染みのロイド、感涙のゴール

独走のまま先頭でゴールにやってきたのはマシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)だ。5月16日に日本で開幕するTOJ(ツアー・オブ・ジャパン)に、サウスオーストラリアのメンバーとして2006年に出場しているロイド。当時、伊豆ステージで狩野智也(スキル・シマノ)との一騎打ちを制してステージ優勝している。

マシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)の後ろには誰もいないマシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)の後ろには誰もいない photo:Kei Tsuji

結構な量のシャンパンを飲むマシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)結構な量のシャンパンを飲むマシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット) photo:Kei Tsujiゴールに飛び込むその姿はどこか挙動不審。無理は無い、目には涙が浮かんでいる。表彰台では感無量の表情を魅せてくれた。

レース後の会見でロイドは「終盤はただ前を走る赤いクルマ(オフィシャルカー)を見て走り続けた。ラスト200mで特別な感情が溢れて来たよ。レースはデータ云々の話ではない。感情の塊だ。勝負で負ける確率は99%。勝ったことでようやく自分の進化を感じることができた」と声を詰まらせながら語った。

15分36秒遅れの集団でゴールした新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)15分36秒遅れの集団でゴールした新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsujiレース終盤の山岳でペースの上がった集団に無理に食らいつかず、15分以上遅れてゴールにやってきたユキヤ。決して調子が悪い訳ではなく、前日に大逃げを決めた直後なので、リカバリーに励んでいるのは明らか。

ゴール後の表情も明るい。「思ったより疲れてなくて、調子はいいです。早く回復して、次のチャンスが来るのを待ちます!」なお、翌日からスペシャルカラーの新型バイクを投入予定。もちろん写真もアップします!

さて、翌日は今年のジロ前半戦の目玉、未舗装のダートが登場するモンタルチーノステージ。しかし(レース当日の)朝起きてガックリ。スタート地点はシトシトと雨が降っている。

雨が降ったダートでのレースって??パリ〜ルーベさながらの泥んこレースが見られるかも知れない。モンタルチーノのゴールに飛び込んでくるのは泥だらけの選手たちか??とにかくダートは必見です!!

text&photo:Kei Tsuji

最新ニュース(全ジャンル)