2010年4月25日、ベルギー・ワロン地域で開催された第96回リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(UCIヒストリカル)で、終盤に飛び出したアレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)との一騎打ちを制したアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)が優勝。自身2度目のモニュメント制覇を達成した。

終盤にかけて加熱した上りアタック合戦

急勾配で知られるサンロシュの坂を上る選手たち急勾配で知られるサンロシュの坂を上る選手たち photo:A.S.O.春のクラシックシーズンを締めくくるリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。無数の上りを含むコースの難易度は非常に高く、クライミング能力とスプリント力に秀でたオールラウンダー向き。今年はグランツールを見据える強豪が一堂に会した。

レース名の通りスタート地点はリエージュ。曇り空の下、198名の選手たちがスタートを切った。レース前半の主役は、逃げを試みる選手たち。この日はニキ・テルプストラ(オランダ、チームミルラム)やドリス・デヴェナインス(ベルギー、クイックステップ)ら8名が逃げ、最大8分のリードを得た。

先頭グループを形成したマキシム・ブエ(フランス、アージェードゥーゼル)ら8名先頭グループを形成したマキシム・ブエ(フランス、アージェードゥーゼル)ら8名 photo:A.S.O.BMCレーシングチームがメイン集団をコントロールして、逃げグループとのタイム差を縮めつつある中、最初に動きを見せたのがサクソバンク。ゴールまで100kmを残した「コート・ド・ワンヌ」でイェンス・フォイクト(ドイツ、サクソバンク)が飛び出し、単独で先頭グループを追撃した。

しかし、ケースデパーニュが集団コントロールを担ったことで、フォイクトは1時間に及ぶの追走の末、結果的に先頭グループに追いつくことの無いまま集団に引き戻される。

残り21km地点 コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコンで飛び出したアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)とフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)が、先行していたタンキンクをパス残り21km地点 コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコンで飛び出したアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)とフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)が、先行していたタンキンクをパス photo:A.S.O.ここからカウンターアタックの応酬が繰り広げられたが、スピードの上がった集団は全てのアタックを吸収。それまで逃げていた選手も、ゴールまで38kmを残して全て吸収された。

集団はゴール35km手前の「コート・ド・ラ・ルドゥット」で再び活性化。生家が近いフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)の「PHIL」ペイントが施されたこの上りでヴァレリオ・アニョーリ(イタリア、リクイガス)やカルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)が動いた。

残り15km地点 先頭グループを形成するアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)とアレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)残り15km地点 先頭グループを形成するアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)とアレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ) photo:Cor Vosしかしバレードらのアタックは決定力を欠き、カウンターで飛び出したブラム・タンキンク(オランダ、ラボバンク)が独走。セルゲイ・イワノフ(ロシア、カチューシャ)の追走は届かず、タンキンクが独走のままゴール20km手前の「コート・ド・ラ・ロッシュ・オ・フォーコン」に突入した。

このフォーコンで本命が動いた。昨年同じ場所で独走に持ち込んだアンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)がアタックを仕掛けると、ジルベールが合流。遅れてアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)も加わり、強力な3名のグループが出来上がった。

残り15km地点 追走グループを形成するフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)、カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)残り15km地点 追走グループを形成するフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)、カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:A.S.O.フォーコン通過後の下り区間で、後続グループが追いついて先頭は10名ほどに。ここからヴィノクロフがカウンターアタックで飛び出すと、コロブネフだけが合流。同じロシア語圏出身の2人のアレクサンドルが、協力して後続を引き離した。

ダブルアレクサンドルの後方では、ジルベールのアタックにアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)とカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が反応するカタチで3名の追走グループが形成。優勝候補3名が束になって先頭を追ったが、そのタイム差は縮まらない。

ラスト500mの上りでアレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)を引き離すアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)ラスト500mの上りでアレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)を引き離すアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:A.S.O.この日最後の難所である「コート・ド・サンニコラ」でヴィノクロフが執拗にアタックを仕掛けたが、コロブネフが食らいつく。約30秒後方では、ジルベールがサンニコラでアタックを成功させ、単独で先頭2名を追走。

しかし先頭2名とジルベールのタイム差は、ゴールまで5kmを残して20秒。この差は最後まで縮まらず、結局ジルベールはバルベルデとエヴァンスらとともにゴールに向かうことに。

先頭の2人は協力しながらゴールに至る約2kmの上りに突入し、互いの動きに警戒しながらラスト1km。ジワリと上るこの緩斜面を利用して、ヴィノクロフがラスト500mでアタック。コロブネフは堪らず千切れ、最終コーナーを先頭で立ち上がったヴィノクロフがそのまま独走でゴールに飛び込んだ。

ジルベール、バルベルデ、エヴァンスの後続グループは3位争いのスプリントを繰り広げ、バルベルデが接近戦を制して3位に。ジルベールは4位、フレーシュ・ワロンヌに続く連勝を狙ったエヴァンスは5位に終わった。


2005年に続く2度目のリエージュ制覇

コロブネフを置き去りにし、独走でゴールに飛び込むアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)コロブネフを置き去りにし、独走でゴールに飛び込むアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Cor VosヴィノクロフはTモバイル時代の2005年にこのリエージュで初勝利。当時はゴール50km手前の「コート・ド・ヴェキー」でフォイクトと飛び出し、最終ストレートでのスプリントで勝利を手にした。

2007年のツール・ド・フランス期間中に発覚した血液ドーピングで、2年間の出場停止処分を受けたヴィノクロフ。一時は現役引退を発表したが、2009年に前言を撤回してアスタナでレースに復帰。直前のジロ・デル・トレンティーノで総合優勝を飾り、勢いそのままにリエージュに乗り込んだ。

3位狙いのスプリントはアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)に軍配3位狙いのスプリントはアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)に軍配 photo:Cor Vos「アルベルト(コンタドール)を始め、チームメイトたちに感謝したい。彼らのサポートが無ければ今日の勝利は有り得なかった。終盤にチームメイトが傍にいるだけで、格段に有利な展開に持ち込むことが出来た。今日はアルベルトがシュレクをマーク。そのおかげで自分のカウンターアタックが成功したんだ」。

現役復帰後初のビッグレース勝利に感無量のヴィノクロフだが、ロードレース界を揺るがすドーピングスキャンダルを巻き起こした張本人だけに、ゴール地点ではブーイングも。

アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)に祝福されるアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)に祝福されるアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Cor Vosしかしヴィノクロフは主張する。「僕はクリーンなんだ。ドーピング無しでも、努力によって勝てるということを若い選手たちに示したかった。(ドーピングによる)出場停止期間の2年間はもう過去の話。これはハードなトレーニングの成果なんだ」。

トレンティーノとリエージュで連勝を飾ったヴィノクロフは、当然ジロ・デ・イタリアでも優勝候補だ。そして、ヴィノクロフはツール・ド・フランス出場にも期待を寄せる。「ツールに出場して、アルベルトをサポートしたい。ツールの後はロード世界選手権タイムトライアルを狙うよ」。36歳のヴィノクロフの士気は高い。

表彰台、左から3位アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)、優勝アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)、2位アレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)表彰台、左から3位アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)、優勝アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)、2位アレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ) photo:A.S.O.2007年と2009年のロード世界選手権で2位に入っているコロブネフは、再びビッグレースで2位に。「ただヴィノクロフが強かった。サンニコラで彼がアタックしたとき、すでに僕はリミットギリギリだったんだ。負けたけど、ヴィノやバルベルデと表彰台に登ることが出来て良かったよ」。その走りには満足している様子だ。

地元ベルギーの期待を背負ったジルベールは失意の4位。「自分自身の調子は良かった。フォーコンでアタックしたアンディ・シュレクに問題なく付いていったけど、他の選手が追いつくと事態は急変。他のチームが2〜3人を揃えていたのに対し、僕は一人。連発するアタックに単独で反応しなければならなかったんだ。表彰台は逃したけど、2位も3位も4位も大して変わらない。やっぱり優勝だけが価値がある」。アルデンヌで上位入賞を繰り返したジルベールは、UCIワールドランキングでトップに立った。

選手コメントは現地取材中のグレゴー・ブラウンより。


リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2010結果
1位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)   6h37'48"
2位 アレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)        +06"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)     +1'04"
4位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)
6位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)       +1'07"
7位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)
8位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック)
9位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、サクソバンク)
10位 アルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)
11位 トマ・ヴォクレール(フランス、Bboxブイグテレコム)     +1'18"
12位 サイモン・ジェランス(オーストラリア、チームスカイ)
13位 ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・トランジションズ)
14位 ブノワ・ヴォグルナール(フランス、フランセーズデジュー)
15位 ポール・マルテンス(ドイツ、ラボバンク)
16位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)
17位 ファビアン・ウェーグマン(ドイツ、チームミルラム)
18位 ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)
19位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
20位 カルロス・バレード(スペイン、クイックステップ)

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, A.S.O.