3つの超級山岳が連続する101.5kmで行われたツール・ド・スイス最終ステージで、序盤に飛び出したヒュー・カーシー(EFエデュケーションファースト)がフィニッシュまで独走する驚きの走りを披露。デニスのアタックを封じたエガン・ベルナル(チームイネオス)が第83代ツール・ド・スイス総合優勝に輝いた。


序盤の超級山岳ヌフェネン峠を駆け上がる序盤の超級山岳ヌフェネン峠を駆け上がる photo:CorVos
ツール・ド・スイス2019第9ステージツール・ド・スイス2019第9ステージ photo:Tour de Suisse
ツール・ド・スイス2019第9ステージツール・ド・スイス2019第9ステージ photo:Tour de Suisse

101.5kmという距離に、標高2,100〜2,400m級の超級山岳が3つ詰め込まれたツール・ド・スイス最終ステージ。ヌフェネン峠(距離13.3km/平均8.5%)、ゴッタルド峠(距離12.1km/平均7.4%)、フルカ峠(距離11.5km/平均7.7%)を越えるこの短距離山岳ステージの獲得標高差は3,000mに達する。

この過酷なクイーンステージの序盤、最初の超級山岳ヌフェネン峠で形成された逃げグループの中からヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーションファースト)がアタック。早速独走に持ち込んだカーシーは、ファビオ・アル(イタリア、UAEチームエミレーツ)やマルク・ソレル(スペイン、モビスター)、マティアス・フランク(スイス、アージェードゥーゼール)を含む追走グループから40秒、チームイネオス率いるメイン集団から2分30秒のリードで超級山岳ヌフェネン峠をクリアした。

後続を待つことなく踏み続けたカーシーは、石畳が敷かれた続く超級山岳ゴッタルド峠でむしろリードを拡大する。アルが脱落した追走グループはソレルとフランク、レナード・ケムナ(ドイツ、サンウェブ)、シモン・スピラク(スロベニア、カチューシャ・アルペシン)に絞られた状態で先頭カーシーから1分20秒遅れで超級山岳ゴッタルド峠の頂上に到着。アスタナのコントロールに切り替わったメイン集団が3分20秒遅れで続いた。

積雪の残るスイスらしい峠道を行く積雪の残るスイスらしい峠道を行く photo:CorVos
超級山岳ゴッタルド峠で観戦する超級山岳ゴッタルド峠で観戦する photo:CorVos
雪の残る難関山岳を進むメイン集団雪の残る難関山岳を進むメイン集団 photo:CorVos
下り区間でさらにリードを広げたカーシーが最後の超級山岳フルカ峠の登坂に取り掛かる中、メイン集団では総合表彰台争いが活発化する。第8ステージを終えた時点で、総合3位パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)から総合4位ティシュ・ベノート (ベルギー、ロット・スーダル)、総合5位ヤン・ヒルト(チェコ、アスタナ)までのタイム差は9秒。このタイム差をひっくり返したいヒルトがルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ)らのアシストを受けてアタックすると、ここに総合6位エンリク・マス(スペイン、ドゥクーニンク・クイックステップ)が追いついた。

ヒルトとマスを追いかけたのはドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、バーレーン・メリダ)率いるメイン集団。ポッツォヴィーヴォの牽引によってヒルトとマスは吸収され、さらに先頭カーシー以外の逃げメンバーを飲み込んでいく。ポッツォヴィーヴォのペースに対応できたのはエガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)、ローハン・デニス(オーストラリア、バーレーン・メリダ)、コンラッド、ベノート、ヒルトという総合トップ5だけ。ポッツォヴィーヴォが仕事を終えると、イエロージャージを22秒差で追う立場の総合2位デニスがアタックした。

このデニスのアタックにベルナルがすかさず反応した一方で、総合3位以下の選手たちは脱落した。総合逆転を狙うデニスが積極的な走りを見せたものの、イエロージャージを着るベルナルは崩れるそぶりを見せない。総合トップ2のデニスとベルナルは、残り26km地点に位置する超級山岳フルカ峠の頂上を先頭カーシーから2分45秒遅れで越えた。

序盤から独走を続け、3つの超級山岳を先頭通過したカーシーは、下りとその後の平坦区間でリードを失いながらも、フィニッシュラインまで誰にも先頭を譲ることなく走りきった。最終的にデニスとベルナルに1分02秒差をつけたカーシーが独走勝利。ステージ2位に入ったデニスがボーナスタイムで挽回したものの、ベルナルが19秒差で総合優勝に輝いた。

飛び出したマスとヒルトを追うパトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)ら飛び出したマスとヒルトを追うパトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)ら photo:CorVos
最後の超級山岳フルカ峠でアタックしたローハン・デニス(オーストラリア、バーレーン・メリダ)とエガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)最後の超級山岳フルカ峠でアタックしたローハン・デニス(オーストラリア、バーレーン・メリダ)とエガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス) photo:CorVos
独走勝利を飾ったヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーションファースト)独走勝利を飾ったヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーションファースト) photo:CorVos
イギリスの次世代オールラウンダーとして注目を集め、ラファ・コンドールのメンバーとして出場した2014年のツアー・オブ・ジャパンでヤングライダー賞と山岳賞を獲得している24歳のカーシー。独走勝利に加えて山岳賞を獲得したカーシーは「最初の登りで脚と身体、頭の状態の良さを感じたので、タイムトライアルを開始した。登りを1つ1つこなしていくのはみんな同じ条件。大丈夫だと信じて踏み続けた。2日前の山岳ステージでは心も脚も身体も疲れ切っていて、早くシーズン前半を終えて休暇に入りたいという一心だった。でも昨日の個人TTで調子の良さが戻ってきたので、ラストチャンスに挑んで最高の気分で休暇に入りたかったんだ」と語る。

「まだ自分が達成したことの実感が湧かない。この幸せな瞬間をチームスタッフとチームメイトたちと分かち合いたい」。5月のジロ・デ・イタリアを総合11位&ヤングライダー賞3位で終えたカーシーにとってこれがUCIワールドツアーレース初勝利。Velonが公開しているカーシーの走行データを見ると、3時間1分49秒のレース中、平均スピード33.5km/h、最高スピード94.0km/h、平均出力320W、NP360W。序盤から登坂区間は常に380W前後で踏んでいる(体重69kg)。

そしてスイス総合優勝のタイトルはベルナルの手に。落車リタイアしたゲラント・トーマス(イギリス)に代わってチームイネオスのエースを務め上げたベルナルは「これは今まで勝ったレースの中で一番大きなレースの一つ。とても嬉しいし、これからのレースに向けて自信に繋がるよ。落車でジロを欠場した自分にとって、復帰戦のレースで勝つのはチームにとっても素晴らしいこと」とコメント。ベルナルの最終ステージのVelon公開データを見ると、3時間2分41秒のレース中、平均スピード33.2km/h、最高スピード100.3km/h、平均出力255W、NP285W、最高出力900W、平均ケイデンス80rpmだった(体重60kg)。

総合逆転を逃しながらも、個人タイムトライアルだけでなく山岳ステージでも強さを見せたデニスは「総合2位は予想していなかった。個人タイムトライアルで勝利して、しかもクイーンステージをベルナルと一緒に終えるなんて。この走りの裏には厳しいトレーニングの日々があったことを付け加えておきたい。とにかくこの総合2位という成績を誇りに思う」と語っている。デニスはヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)とともにツール・ド・フランスのスタートラインに立つ予定だ。

デニスとコンラッドとともに総合表彰台に登るエガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)デニスとコンラッドとともに総合表彰台に登るエガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス) photo:CorVos
最終日の独走勝利で山岳賞を獲得したヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーションファースト)最終日の独走勝利で山岳賞を獲得したヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーションファースト) photo:CorVos
ツール・ド・スイス2019第9ステージ結果
1位 ヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーションファースト) 3:01:49
2位 ローハン・デニス(オーストラリア、バーレーン・メリダ) 0:01:02
3位 エガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス)
4位 マティアス・フランク(スイス、アージェードゥーゼール) 0:01:52
5位 シモン・スピラク(スロベニア、カチューシャ・アルペシン)
6位 カルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア、モビスター) 0:02:15
7位 ティシュ・ベノート (ベルギー、ロット・スーダル)
8位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、バーレーン・メリダ)
9位 パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)
10位 ヤン・ヒルト(チェコ、アスタナ)
個人総合成績
1位 エガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス) 27:43:10
2位 ローハン・デニス(オーストラリア、バーレーン・メリダ) 0:00:19
3位 パトリック・コンラッド(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ) 0:03:04
4位 ティシュ・ベノート (ベルギー、ロット・スーダル) 0:03:12
5位 ヤン・ヒルト(チェコ、アスタナ) 0:03:13
6位 シモン・スピラク(スロベニア、カチューシャ・アルペシン) 0:03:48
7位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、バーレーン・メリダ) 0:04:14
8位 カルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア、モビスター) 0:04:35
9位 エンリク・マス(スペイン、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:04:53
10位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、サンウェブ) 0:05:27
ポイント賞
1位 ペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ) 37pts
2位 エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ) 32pts
3位 ローハン・デニス(オーストラリア、バーレーン・メリダ) 28pts
山岳賞
1位 ヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーションファースト) 60pts
2位 エガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス) 40pts
3位 ローハン・デニス(オーストラリア、バーレーン・メリダ) 33pts
ヤングライダー賞
1位 エガン・ベルナル(コロンビア、チームイネオス) 27:43:10
2位 ティシュ・ベノート (ベルギー、ロット・スーダル) 0:03:12
3位 エンリク・マス(スペイン、ドゥクーニンク・クイックステップ) 0:04:53
チーム総合成績
1位 モビスター 83:32:29
2位 チームイネオス 0:01:49
3位 サンウェブ 0:06:02