2019/05/30(木) - 16:08
イタリア語よりもドイツ語色が強いトレンティーノ=アルト・アディジェ州で過ごす1日。ドロミテらしい山岳風景が広がるイタリア北部を走ったジロ・デ・イタリア第17ステージを振り返ります。
前日の悪天候に見舞われたクイーンステージと、その後のホテルまでの長時間移動(移動距離は短いが道路工事による渋滞で時間がかかった)によるダメージを感じずにはいられないコメッツァデューラのスタート地点。相変わらず北イタリアの山岳地帯にはネズミ色の雲が立ち込めていて気温は低め。標高2,000mを超える山々はどれも積雪によって真っ白で、その頂上をすっぽりと雲の中に隠している。『太陽の渓谷(ヴァル・ディ・ソーレ)』と呼ばれる地域だが、暖かい太陽は顔を見せてくれなかった。
空から小雨もパラつく『太陽の渓谷』からリンゴの一大産地を通ってボルツァーノに至り、そこからいわゆるドロミテ(ドロミーティ)と呼ばれる山岳地帯へと入って行く。地理的には、2018年にロード世界選手権が開催されたオーストリアのインスブルックに近い。
イタリアの北の端に位置するトレンティーノ=アルト・アディジェ州のうち、北側のアルト・アディジェ地方(ボルツァーノ自治県)は南チロル地方とも呼ばれ、イタリア語よりもドイツ語が主に使用されている。実際に約70%の住民がドイツ語を第1言語としており、学校で第2言語として習った感のあるイタリア語も話す。他にもドロミテ語とも呼ばれるラディン語話者も混在しているため、2言語どころか3言語で表記される交通標識もある。
「ジロと言えばドロミテ!」というイメージもあるが、実際アルト・アディジェ地方の住民はそこまでジロに興味を示していない気がする。
山頂フィニッシュの一つに数えられる中級山岳ステージだが、最後の3級山岳アンテルセルヴァの難易度が低いとして主催者によるステージ難易度は3つ星。2020年にバイアスロン(クロスカントリーとライフル射撃を組み合わせた競技)世界選手権が開催される真新しい射撃場にフィニッシュ地点が置かれた。なお、射撃場に立ち寄らずにそのまま峠を6kmほど登り続けるとオーストリア国境にぶつかる。
残り700mを切ってからのコースレイアウトがとにかく奇抜で、無理やりバイアスロン射撃場にコースを導くために、わざわざアスファルトを敷いて誘導路を作り出した。急勾配のアップダウンとタイトコーナーを繰り返す誘導路はまるでシクロクロスコースのよう。でも観客からは「選手が観やすい」と好評で、集団スプリント向きの平坦ステージでなければこのレイアウトは有りなのかもしれない。ステージ優勝争いやマリアローザ争いに関係しない選手たちも少し笑顔を浮かべながらこの特殊なフィニッシュを走っていた。
定石として総合リーダーのチームメイトがアタックすることはあまりないが、総合4位のミケル・ランダ(スペイン、モビスター)は、集団内にマリアローザを着るバースデーボーイのリチャル・カラパス(エクアドル、モビスター)を残してアタックした。
2015年ジロでチームメイトのファビオ・アル(イタリア、当時アスタナ)のアシストを命じられ、さらに2017年ツール・ド・フランスでは好調ぶりを見せながらもクリストファー・フルーム(イギリス、当時チームスカイ)のアシストに回ったランダ。不遇のグランツールを過ごしてきたランダはこのジロで総合エースを担う予定が、カラパスの躍進によって"今のところ"セカンドエースの座についている。
「ランダがマリアローザを狙う動きを見せた」等の報道がある通り、3週目にかけてさらに調子を上げている感のあるランダは比較的自由な動きが許されている。結果的にカラパスはランダを逃したくないミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)のアタックに反応することで、カラパスは精彩を欠いたヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)とプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)という2人のライバルから7秒のリードを奪うことに成功している。
そしてランダは総合3位ログリッチェとの総合タイム差を47秒に縮めた。残る2連続山岳ステージでランダが攻撃を続ければ、ランダ自身がさらに総合順位を上げるとともに、ランダを追いかけるライバルたちのマークに徹することでカラパスは総合リードを守ることができる。
3週目に入ってモビスターの存在感が際立ってきたが、忘れてはいけないのが最終日に17kmの個人タイムトライアルが設定されていること。TTを得意とするログリッチェ&ニバリに対し、TTを苦手とするカラパス&ランダは今後も攻撃を続ける必要がありそうだ。
総合上位に2人を揃えるモビスターに対してバーレーン・メリダやアスタナ、ユンボ・ヴィズマは連日逃げグループに選手を送り込んで「前待ち作戦」を繰り返している。飛び抜けた圧倒的リーダーがいないジロで繰り広げられるチーム戦。例年以上にマリアローザ争いは戦略的なものになっている。
『ジロ・ディ・アックア(水のレース)』なんて揶揄されるほど、ここまで雨の日が続いた2019年のジロ。幸い、この水曜日の第17ステージを最後に雨雲は去り、木曜日以降は天候が回復する見込み。今のところ日曜日のヴェローナでの閉幕までもう雨に降られずに済みそうだ。
text&photo:Kei Tsuji in Brunico, Italy
前日の悪天候に見舞われたクイーンステージと、その後のホテルまでの長時間移動(移動距離は短いが道路工事による渋滞で時間がかかった)によるダメージを感じずにはいられないコメッツァデューラのスタート地点。相変わらず北イタリアの山岳地帯にはネズミ色の雲が立ち込めていて気温は低め。標高2,000mを超える山々はどれも積雪によって真っ白で、その頂上をすっぽりと雲の中に隠している。『太陽の渓谷(ヴァル・ディ・ソーレ)』と呼ばれる地域だが、暖かい太陽は顔を見せてくれなかった。
空から小雨もパラつく『太陽の渓谷』からリンゴの一大産地を通ってボルツァーノに至り、そこからいわゆるドロミテ(ドロミーティ)と呼ばれる山岳地帯へと入って行く。地理的には、2018年にロード世界選手権が開催されたオーストリアのインスブルックに近い。
イタリアの北の端に位置するトレンティーノ=アルト・アディジェ州のうち、北側のアルト・アディジェ地方(ボルツァーノ自治県)は南チロル地方とも呼ばれ、イタリア語よりもドイツ語が主に使用されている。実際に約70%の住民がドイツ語を第1言語としており、学校で第2言語として習った感のあるイタリア語も話す。他にもドロミテ語とも呼ばれるラディン語話者も混在しているため、2言語どころか3言語で表記される交通標識もある。
「ジロと言えばドロミテ!」というイメージもあるが、実際アルト・アディジェ地方の住民はそこまでジロに興味を示していない気がする。
山頂フィニッシュの一つに数えられる中級山岳ステージだが、最後の3級山岳アンテルセルヴァの難易度が低いとして主催者によるステージ難易度は3つ星。2020年にバイアスロン(クロスカントリーとライフル射撃を組み合わせた競技)世界選手権が開催される真新しい射撃場にフィニッシュ地点が置かれた。なお、射撃場に立ち寄らずにそのまま峠を6kmほど登り続けるとオーストリア国境にぶつかる。
残り700mを切ってからのコースレイアウトがとにかく奇抜で、無理やりバイアスロン射撃場にコースを導くために、わざわざアスファルトを敷いて誘導路を作り出した。急勾配のアップダウンとタイトコーナーを繰り返す誘導路はまるでシクロクロスコースのよう。でも観客からは「選手が観やすい」と好評で、集団スプリント向きの平坦ステージでなければこのレイアウトは有りなのかもしれない。ステージ優勝争いやマリアローザ争いに関係しない選手たちも少し笑顔を浮かべながらこの特殊なフィニッシュを走っていた。
定石として総合リーダーのチームメイトがアタックすることはあまりないが、総合4位のミケル・ランダ(スペイン、モビスター)は、集団内にマリアローザを着るバースデーボーイのリチャル・カラパス(エクアドル、モビスター)を残してアタックした。
2015年ジロでチームメイトのファビオ・アル(イタリア、当時アスタナ)のアシストを命じられ、さらに2017年ツール・ド・フランスでは好調ぶりを見せながらもクリストファー・フルーム(イギリス、当時チームスカイ)のアシストに回ったランダ。不遇のグランツールを過ごしてきたランダはこのジロで総合エースを担う予定が、カラパスの躍進によって"今のところ"セカンドエースの座についている。
「ランダがマリアローザを狙う動きを見せた」等の報道がある通り、3週目にかけてさらに調子を上げている感のあるランダは比較的自由な動きが許されている。結果的にカラパスはランダを逃したくないミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、アスタナ)のアタックに反応することで、カラパスは精彩を欠いたヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、バーレーン・メリダ)とプリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)という2人のライバルから7秒のリードを奪うことに成功している。
そしてランダは総合3位ログリッチェとの総合タイム差を47秒に縮めた。残る2連続山岳ステージでランダが攻撃を続ければ、ランダ自身がさらに総合順位を上げるとともに、ランダを追いかけるライバルたちのマークに徹することでカラパスは総合リードを守ることができる。
3週目に入ってモビスターの存在感が際立ってきたが、忘れてはいけないのが最終日に17kmの個人タイムトライアルが設定されていること。TTを得意とするログリッチェ&ニバリに対し、TTを苦手とするカラパス&ランダは今後も攻撃を続ける必要がありそうだ。
総合上位に2人を揃えるモビスターに対してバーレーン・メリダやアスタナ、ユンボ・ヴィズマは連日逃げグループに選手を送り込んで「前待ち作戦」を繰り返している。飛び抜けた圧倒的リーダーがいないジロで繰り広げられるチーム戦。例年以上にマリアローザ争いは戦略的なものになっている。
『ジロ・ディ・アックア(水のレース)』なんて揶揄されるほど、ここまで雨の日が続いた2019年のジロ。幸い、この水曜日の第17ステージを最後に雨雲は去り、木曜日以降は天候が回復する見込み。今のところ日曜日のヴェローナでの閉幕までもう雨に降られずに済みそうだ。
text&photo:Kei Tsuji in Brunico, Italy
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