アタックアタックカウンターアタック。逃げ形成のために激しいアタック合戦が繰り広げられ、平均スピード45km/hで獲得標高差2,800mを駆け抜けた8名が逃げ切ったジロ・デ・イタリア第7ステージを振り返ります。


貴族が広場で井戸端会議貴族が広場で井戸端会議 photo:Kei Tsuji
晴れ渡ったヴァストの空晴れ渡ったヴァストの空 photo:Kei Tsuji
LEOMOの「TYPE-R」のセンサーをオリジナルシューズに貼り付けるアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・スーダル)LEOMOの「TYPE-R」のセンサーをオリジナルシューズに貼り付けるアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・スーダル) photo:Kei Tsuji
初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)とトロフェオセンツァフィーネ初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)とトロフェオセンツァフィーネ photo:Kei Tsuji
とにかく速い。とにかく逃げが決まらない。

第7ステージも逃げ向きのレイアウト。前日の第6ステージで大逃げが決まり、逃げ切った選手がステージ優勝とマリアローザ、マリアビアンカを獲得し、揃って総合トップ10に入る姿を見て、さらに選手たちの逃げたい逃げたい熱が上がったと見られる。マリアローザを着るヴァレリオ・コンティ(イタリア、UAEチームエミレーツ)がフィニッシュ後に語った「今日は集団の中の選手全員が逃げたがっていたように感じた」という言葉がその状況をうまく表現している。

アドリア海沿いを走る序盤の平坦区間だけに限定すると平均スピードは54.7km/h。少し追い風が吹いていたとはいえ猛烈なスピードだ。アタック合戦に加わったエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)の最初の10kmの平均出力は425Wに達しているが、それでも逃げグループを生み出す/逃げグループに乗ることはできなかった。

スタートからフィニッシュまで4時間以上にわたって逃げグループとメイン集団の追っかけっこが続いたため、獲得標高差が2,800mあったにもかかわらず、ステージ全体の平均スピードは45.0km/hに達している。落車による負傷や体調不良を抱えながら走っていた選手たちが相次いでリタイアするほどのタフさで、まだ全体の1/3にあたる第7ステージを終えたばかりなのに合計12名がレースを去った。

この日の制限時間はステージ優勝者のタイムの13%。つまり32分02秒以上遅れた場合にタイムオーバーになるところ、グルペットから遅れたヤコブ・マレツコ(イタリア、CCCチーム)は一人28分54秒遅れでフィニッシュ。3分強の猶予を持って滑り込み、翌日に希望をつないでいる。

家を精一杯デコレーションして選手たちを迎える家を精一杯デコレーションして選手たちを迎える photo:Kei Tsuji
イタリアチャンピオンのエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)イタリアチャンピオンのエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Kei Tsuji
68歳のフィアットにワインの樽を載せて観戦68歳のフィアットにワインの樽を載せて観戦 photo:Kei Tsuji
スタート後すぐに始まったアタック合戦スタート後すぐに始まったアタック合戦 photo:Kei Tsuji
イタリア半島の背骨を構成する同国中部アペニン山脈の最高峰、コルノグランデ(標高2,912m)に見下ろされた標高700mのラクイラの街がジロを迎えるのはこれが10回目。前回登場した2010年の第11ステージでは、ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、当時チームスカイ)やリッチー・ポート(オーストラリア、当時サクソバンク)を含む56名もの巨大な逃げ集団がメイン集団に12分もの差をつけて逃げ切るという異例の事態が起こった。

過去の現地レポートでも触れたことが何度かあるが、ラクイラは2009年4月6日に発生したマグニチュード6.3の直下型地震(死者308人)によって大きなダメージを受けた街。2010年に訪れた時にはまだまだ復興に向けての工事が始まったばかりで、倒壊したままの建物が多く見られたが、地震発生から10年が経った今、工事用クレーンの数は随分と減った。

2009年の地震以降、イタリア国内ではマグニチュード6以上の地震が合計3回発生。2016年8月24日にもラクイラ近くを震源としたマグニチュード6.2の地震が発生しており、298人もの死者を出している。決して耐震性に優れているとは言えない煉瓦造りの建物が多いため被害が拡大しやすい。ユーラシアプレートとアフリカプレートがぶつかるこの一帯は地震の巣窟。その衝突の結果生まれたのがアペニン山脈でもある。

ピンクのTシャツを着る羊はあまり乗り気じゃないピンクのTシャツを着る羊はあまり乗り気じゃない photo:Kei Tsuji
アブルッツォ州らしい丘陵のアップダウンをこなすアブルッツォ州らしい丘陵のアップダウンをこなす photo:Kei Tsuji
逃げグループが生まれないまま高速で進行するメイン集団逃げグループが生まれないまま高速で進行するメイン集団 photo:Kei Tsuji
フィニッシュライン横の建物もヒビが入ったままフィニッシュライン横の建物もヒビが入ったまま photo:Kei Tsuji
そんなラクイラのフィニッシュラインに先頭で飛び込んできたペリョ・ビルバオ(スペイン、アスタナ)の勝利は、グランツールにおけるスペイン人選手のステージ777勝目。ジロではステージ111勝目で、参考までにスペイン勢はツール・ド・フランスでステージ126勝、ブエルタ・ア・エスパーニャでステージ540勝を飾っている。ジロにおける最多ステージ優勝国はもちろんイタリアで、371名の選手が合計1,249勝を飾っている。

前日に総合10位に浮上したサム・オーメン(オランダ、サンウェブ)に続いて、この日はビルバオが総合23位から11位に、ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)が総合21位から13位に、トニー・ガロパン(フランス、アージェードゥーゼール)が総合26位から14位に順位を上げることに成功。この第6ステージと第7ステージで逃げの当たりくじを引いて総合上位を上げた選手のうち何名かは最終的な総合トップ10争いに絡んできそうだ。

コンティは「明日の第8ステージも今日のような混沌としたレースになるのではなかろうか」と警戒する。UAEチームエミレーツはフアン・モラノ(コロンビア)に続いてフェルナンド・ガビリア(コロンビア)も失ってしまったため、アシストとして動けるのは5名しかいない。コンティがマリアローザを着て休息日を迎えるには、まず第8ステージで大逃げが決まらないように序盤から逃げメンバーの選別に集中しないといけない。

ラクイラ中心地に置かれたプレスセンターラクイラ中心地に置かれたプレスセンター photo:Kei Tsuji
ピンクのTシャツを着て眠りにつくピンクのTシャツを着て眠りにつく photo:Kei Tsuji
ペリョ・ビルバオ(スペイン、アスタナ)が何度もガッツポーズペリョ・ビルバオ(スペイン、アスタナ)が何度もガッツポーズ photo:Kei Tsuji
ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)に声援を送るダヴィデ・フォルモロ(イタリア、ボーラ・ハンスグローエ)に声援を送る photo:Kei Tsuji
久しぶりに気温20度を超える暖かさに包まれたが、長期予報を見るとイタリア国内は5月いっぱいずっとぐずついた天気が続くらしい。晴天は少なく、気温も平年以下。これではアルプスやドロミテの標高のある峠は大丈夫なのかと心配になる。

誰もが恐れる第16ステージの標高2,618m『チーマコッピ(大会最高地点)』ガヴィア峠は果たして本当に通行可能なのか。大会ディレクターのマウロ・ヴェーニ氏は「通行することを前提にしているが、仮に通行不可であってもオプションは用意している。ガヴィア峠を抜きにしても獲得標高差は4,700mほどあるため、後半のモルティローロ峠を2回登るというアイデアは採用しない」とコメント。まだガヴィア峠は1週間以上先の話だが、主催者にとっても選手にとっても、天気が一番の敵になるかもしれない。

2日連続で逃げながらマリアローザ獲得を逃したホセ・ロハス(スペイン、モビスター)2日連続で逃げながらマリアローザ獲得を逃したホセ・ロハス(スペイン、モビスター) photo:Kei Tsuji
スタッフからドリンクを受け取る初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)スタッフからドリンクを受け取る初山翔(NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ) photo:Kei Tsuji
地元アブルッツォ州出身のジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)地元アブルッツォ州出身のジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード) photo:Kei Tsuji

text&photo:Kei Tsuji in L’Aquila, Italy