女子エリートレースはスリッピーな泥コンディションとなり、オランダ勢4名による包囲網を単騎打ち破ったサンヌ・カント(ベルギー)が3年連続優勝。今井美穂 (CO2 bicycle)は39位で完走に届かなかった。



集中した目線の先に3連覇を見据えるサンヌ・カント(ベルギー)集中した目線の先に3連覇を見据えるサンヌ・カント(ベルギー) photo:Nobuhiko.Tanabe調子を合わせて乗り込んできたルシンダ・ブラント(オランダ)調子を合わせて乗り込んできたルシンダ・ブラント(オランダ) photo:Nobuhiko.Tanabe

リラックスした雰囲気のマリアンヌ・フォス(オランダ)とアンマリー・ワースト(オランダ)リラックスした雰囲気のマリアンヌ・フォス(オランダ)とアンマリー・ワースト(オランダ) photo:Nobuhiko.Tanabe今井美穂(CO2 bicycle)と三船代表監督今井美穂(CO2 bicycle)と三船代表監督 photo:Nobuhiko.Tanabe

ウェットコースに向けて40名がスタート。オランダとベルギーがレースを支配したウェットコースに向けて40名がスタート。オランダとベルギーがレースを支配した photo:Nobuhiko.Tanabe
シクロクロス世界選手権初日の最終レース、女子エリート。前レースまで曇りを保ち続けていた空模様は遂に崩れ、弱いながらも確実に落ちる雨が路面を濡らす。気温2℃、風速15m。よりスリッピーになった高速コースに向けて、17ヶ国40名の女子エリート選手たちが一斉に駆け出した。

序盤からレースをリードしたのはダッチオレンジとベルジャンブルーのジャージ。8度目のタイトルを狙うマリアンヌ・フォス(オランダ)がホールショットを決め、今シーズン一気に頭角を現したデニセ・ベッツィマ(オランダ)がペースを刻む。サンヌ・カント(ベルギー)はその後方から厚い勢力を誇るオランダチームを観察しつつ駒を進めた。

積極的にペースアップを行うデニセ・ベッツィマ(オランダ)積極的にペースアップを行うデニセ・ベッツィマ(オランダ) photo:Nobuhiko.Tanabe序盤に転倒し追走を強いられたルシンダ・ブラント(オランダ)序盤に転倒し追走を強いられたルシンダ・ブラント(オランダ) photo:Nobuhiko.Tanabe

3周目 オランダ4名、スイスとベルギーが1名ずつ入った先頭グループが生まれた3周目 オランダ4名、スイスとベルギーが1名ずつ入った先頭グループが生まれた photo:Nobuhiko.Tanabe
冷静に先頭集団内でレースを進めたサンヌ・カント(ベルギー)	冷静に先頭集団内でレースを進めたサンヌ・カント(ベルギー) photo:Nobuhiko.Tanabe前世界王者のヨランダ・ネフ(スイス)。2周目に先頭集団へと合流した前世界王者のヨランダ・ネフ(スイス)。2周目に先頭集団へと合流した photo:Nobuhiko.Tanabe


2周目にはカントとオランダ3名(ベッツィマ、フォス、アンマリー・ワースト)が抜け出し、後方からは前MTB世界女王のヨランダ・ネフ(スイス)が、そして長い追走を経て今季好調のルシンダ・ブラント(オランダ)が合流。こうして全7周回中の3周目にオランダ4名、スイスとベルギーが1名ずつ入った合計6名の先頭グループが形作られる。

人数を揃えるオランダチームの中で、ベッツィマが積極的なペースアップでカントにプレッシャーを掛けていく。しかしカントが冷静に対処した一方、苦しい表情を見せるフォスやワースト、スリッピーなキャンバーやコーナーで手間取るブラントは遅れがちに。数でこそ圧倒するオランダだったが、余裕あるカントの走りに優位が徐々に突き崩されていく。5周目にブラントが繰り出したアタックにも現世界女王は動じなかった。

直前のワールドカップで勝利するなどオランダ勢の中で最も有力視されていたブラントだったが、ミスが続いた上に、バイク交換の際ピットクルーとの連携が取れず激しく転倒してしまう。すぐにスペアを受け取り戦線復帰したものの、ここで失った僅か数秒が勝負の明暗を分けた。

独走に持ち込んだサンヌ・カント(ベルギー)	独走に持ち込んだサンヌ・カント(ベルギー) photo:Nobuhiko.Tanabe
中盤を過ぎても先頭グループを率いたデニセ・ベッツィマ(オランダ)中盤を過ぎても先頭グループを率いたデニセ・ベッツィマ(オランダ) photo:Nobuhiko.Tanabe5秒差でカントを追うルシンダ・ブラント(オランダ)5秒差でカントを追うルシンダ・ブラント(オランダ) photo:Nobuhiko.Tanabe


ブラントはフォスのアシストを得て合流を目論んだが、このタイミングでオランダ勢の苦戦を確認したカントが猛然とペースアップに転じた。「常に3,4人のオランダ勢を相手にしていたのでスマートに走る必要があった。どこで攻めるか、守るかの判断が難しく予定よりずっと早いアタックだったけれど、結果的に正しいタイミングだった」というカントがオランダ勢を引き離し始めた。

4名を向こうに回し、1秒、また1秒と少しずつ、しかし確実にリードを積み上げていくカント。形勢逆転されたオランダ勢の中ではベッツィマとワーストが千切れ、フォスもバイク交換によって数秒を失ってしまう。唯一残ったブラントが必死に追走したものの、僅か先を走るカントとの5秒差は最終盤に入っても詰まらなかった。

緊張感張り詰める追走劇の末、キャンバーで苦戦したブラントを最終的に10秒引き離したカントがフィニッシュへ。後方を振り返り、力強いガッツポーズを繰り返しながら3年連続のアルカンシエルを射止めた。

ガッツポーズを繰り返しながらフィニッシュするサンヌ・カント(ベルギー)ガッツポーズを繰り返しながらフィニッシュするサンヌ・カント(ベルギー) (c)CorVos
追撃叶わず2位に甘んじたルシンダ・ブラント(オランダ)追撃叶わず2位に甘んじたルシンダ・ブラント(オランダ) (c)CorVos落車を境に失速したヨランダ・ネフ(スイス)は6位フィニッシュ落車を境に失速したヨランダ・ネフ(スイス)は6位フィニッシュ (c)CorVos

シクロクロス世界選手権2019 女子エリート表彰台シクロクロス世界選手権2019 女子エリート表彰台 photo:Nobuhiko.Tanabe悔し涙を流すルシンダ・ブラント(オランダ)悔し涙を流すルシンダ・ブラント(オランダ) photo:Nobuhiko.Tanabe


「2年前は全く信じられない勝利で、昨年は嬉しい勝利、そして今年はアメージングな(驚くべき)勝利。地元メディアはオランダ有利で自分にとっては厳しいレースになると報じていたけれど、そんなことはないと脚で反論した」とカントはレース後のインタビューでコメントする。

一方「自分の強さは証明できたと思うけれど、今2位を喜ぶことは難しい。それでも時間が経てば誇らしく思えるはず」とは、昨年の3位からは順位を上げたものの、勝利には届かなかったブラント。うなだれてフィニッシュし、表彰式では悔し涙を隠せなかった。

「ピットでの落車は最悪で、それがレースを決めてしまった。でもその後、マリアンヌが先頭から降りて全力で後押ししてくれたことが最高に誇らしい。暗くなった自分の気持ちを前に向けてくれたのだから。ここまで良いシーズンを過ごせて、全く予想もしていなかった美しい勝利をいくつか挙げることもできた。もちろん今日はより良い結果が欲しかったけれど、全世界で2位という結果は決して悪くない」。

オランダチームを支えたフォスが3位に入り、以下はベッツィマ、ワースト、ネフと続く。前全日本女王の今井美穂 (CO2 bicycle)は大きく遅れ、マイナス3周の39位で完走には届かなかった。以下は今井のコメント。

今井美穂(CO2 bicycle)

後方で苦しい戦いを強いられた今井美穂(CO2 bicycle)後方で苦しい戦いを強いられた今井美穂(CO2 bicycle) photo:Nobuhiko.Tanabe
「想像していた以上に超スピードコースになりました。今までの海外のレースでは経験したことのないスピードに対応することが出来ず、非常に苦しいレースでした。「3度目の正直」という気持ちと覚悟を持って臨んだはずでしたが、現実は難しく世界の壁は高いと改めて感じました。世界選手権で結果を出すのは本当に難しいですね…。

今回もたくさんの方々に応援していただき、送り出してもらったのに、結果を残すことが出来なかった事がとても悔しく申し訳ないです気持ちです。しかし、たくさんの方々の応援や支えがあったからこそスタートラインに立ち、走る事が出来た事に感謝しています。たくさんの応援ありがとうございました」。
シクロクロス世界選手権2019 女子エリート結果
1位 サンヌ・カント(ベルギー) 47’53”
2位 ルシンダ・ブラント(オランダ) +09”
3位 マリアンヌ・フォス(オランダ) +15”
4位 デニセ・ベッツィマ(オランダ) +25”
5位 アンマリー・ワースト(オランダ) +34”
6位 ヨランダ・ネフ(スイス) +1’16”
7位 ケイトリン・キオー(アメリカ) +1’21”
8位 ニッキー・ブラマイヤー(イギリス) +1’37”
9位 ソフィー・デボワ(オランダ) +1’59”
10位 エレン・ファンロイ(ベルギー) +2’05”
39位 今井美穂 (CO2 bicycle) -3LAP
text:So.Isobe
photo:Nobuhiko.Tanabe in Bogense, Denmark