イタリア中部のマルケ州の丘の上には競い合うようにしてレンガ色の町がある。「スカルポーニの町」を通過してオージモで繰り広げられた、今大会を象徴する逃げるイェーツと追うデュムランの構図。ジロ第11ステージの模様を現地からお届けします。


サンタマリア・デッラ・アンジェリ教会サンタマリア・デッラ・アンジェリ教会 photo:Kei Tsuji
時代はディスクブレーキなのか時代はディスクブレーキなのか photo:Kei Tsuji
この日もパレスチナの旗があちこちで見られたこの日もパレスチナの旗があちこちで見られた photo:Kei Tsuji
紙とペンを持ってサインのチャンスを待つ紙とペンを持ってサインのチャンスを待つ photo:Kei Tsuji
いつも出走サインのステージを盛り上げるDJいつも出走サインのステージを盛り上げるDJ photo:Kei Tsuji

スタート地点はキリスト教の巡礼地アッシジ。とは言っても実際にスタート地点になったのは世界遺産アッシジの旧市街を遠くに眺める平野の町で、サンタマリア・デッラ・アンジェリ教会(これまた世界遺産)の真ん前に出走サイン台が置かれた。

スタート前に、ジロの公式ツイッターがローマ法王フランシスコに発行したパスの写真を投稿した。そのパスには全てのエリアへのアクセスが可能な「∞」マークが入っており、通常「オーガナイザー」や「フォトグラファー」「ジャーナリスト」などが書かれている欄は空白。いかに法王が特別な存在であるかが分かるパス。アッシジを訪れれるタイミングで法王がジロを見に来るんじゃないかとイタリアメディアが浮き足立ったが、実際に訪れることはなかった(法王はヴァチカンにいた)。ローマの最終ステージを見に来るというのがもっぱらの噂だ。ちなみにイタリア語で法王はパーパで、父親はパパー。

この日もスタート地点やコース沿道、フィニッシュ地点にはパレスチナの旗が風になびいていた。アメリカ大使館のエルサレム移転によりパレスチナ自治区ガザで抗議デモが起こり、鎮圧を図るイスラエル軍の攻撃によってパレスチナ側に多数の死傷者が出たことはイタリア国内でも毎日トップニュースで扱われている。イスラム教徒だけでなく、人権を訴える人々もパレスチナの旗を持つ。その矛先が、イスラエルでの開幕をアピールしているジロに向かっている印象を受ける。

マテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・メリダ)の手書きのコース説明とハンドルの滑り止めマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・メリダ)の手書きのコース説明とハンドルの滑り止め photo:Kei Tsuji
ここまで淡々とレースをこなしているトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)ここまで淡々とレースをこなしているトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ) photo:Kei Tsuji
アダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・フィックスオール)のニューシューズアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・フィックスオール)のニューシューズ photo:Kei Tsuji
いつもの笑顔で登場したエステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット)いつもの笑顔で登場したエステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
スタートを待つマッズ・ペデルセン(デンマーク、トレック・セガフレード)スタートを待つマッズ・ペデルセン(デンマーク、トレック・セガフレード) photo:Kei Tsuji
アッシジをスタートし、スペッロの町を通過するアッシジをスタートし、スペッロの町を通過する photo:Kei Tsuji
「6年間のキャリアの中で一番きついステージだった」とファビオ・アル(イタリア、UAEチームエミレーツ)がため息をつくほど、長くて厳しいレースが展開された第10ステージを終え、第11ステージは再びジェットコースターのようなコース。マリアローザ狙いの選手たちにとっては神経をすり減らすステージが続く。

ステージ2勝目を狙うエンリコ・バッタリーン(イタリア、ロットNLユンボ)が「自分のようなパンチャー系の選手にとって、今日が実質的に今大会最後のチャンス」と意気込むほど。つまり残る10ステージは明確にカテゴリー分けされており、クライマーかスプリンターかTTスペシャリストにしかチャンスがないとも言える。

ラストチャンスを確実に手にしたいパンチャー擁するチームが集団を牽引したため、レースは主催者の想定よりずっと速いペースを刻んだ。アップダウンコースだったにもかかわらず、追い風がビュンビュン吹いていた平坦な第3ステージとほぼ同じ45.463km/hという平均スピードを記録している。

マルケ州には、アドリア海を見下ろす標高250m前後の丘の上に町が点在している。この日のフィニッシュ地点オージモの他にも、レカナーティ、カステルフィダールド、ロレート、モンテルポーネ、マチェラータなど、ジロやティレーノ〜アドリアティコをご覧の方なら一度は聞いたことがある町が競うようにして丘のてっぺんにレンガを敷き詰めている。

その中の一つ、フィロットラーノは昨年トレーニング中の事故で亡くなったミケーレ・スカルポーニの町だ。ティレーノ〜アドリアティコ第5ステージでフィニッシュ地点として登場した町は、第11ステージの残り29km地点でスプリントポイントとして再び登場した。2005年リバティーセグロス、2006年アスタナ、そして2015年から3年間アスタナでスカルポーニのチームメイトだったルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ)がスプリントポイントを先頭通過している。

妻アンナさんはレース後のジロ特集番組に出演。何名かの出場選手とスカルポーニの死を悼むとともに、周りのサポートに感謝し、サイクリストに安全な道路環境づくりや自動車運転手の意識改革を訴えた。

スカルポーニの町フィロットラーノを通過する逃げグループスカルポーニの町フィロットラーノを通過する逃げグループ photo:CorVos
ガゼッタ紙を利用したデコレーションが主流ガゼッタ紙を利用したデコレーションが主流 photo:Kei Tsuji
銅像はテープを結びつけるのに便利銅像はテープを結びつけるのに便利 photo:Kei Tsuji
ジロ公式のピンクのTシャツを着るジロ公式のピンクのTシャツを着る photo:Kei Tsuji
アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、BMCレーシング)とルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ)が吸収され、集団内でマイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト・ドラパック)が落車アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、BMCレーシング)とルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ)が吸収され、集団内でマイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト・ドラパック)が落車 photo:Kei Tsuji
丘の上の町オージモでゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップフロアーズ)がアタック丘の上の町オージモでゼネク・スティバル(チェコ、クイックステップフロアーズ)がアタック photo:Kei Tsuji
2ヶ月前、前述のティレーノ〜アドリアティコ第5ステージで優勝したのはイェーツだった。イェーツはイェーツでもサイモン・イェーツの双子の兄弟アダム・イェーツ。つまりイェーツ兄弟がティレーノとジロのマルケの丘で連勝を飾ったことになる。なお、サイモンと瓜二つのアダムは現在ツアー・オブ・カリフォルニアに出場中で、34.7km個人タイムトライアルをトップと1分36秒差の22位で終え、閉幕まで3日を残して総合5位。今年はサイモンがジロ、アダムがツール・ド・フランスに出場する。途中で入れ替わっていても見分けられる自信が全くない。

イェーツは残り1.8kmから始まる最大勾配16%を含む登りを平均スピード26.1km/hで駆け上がった。短い登りでも長い登りでも、彼が今大会最も登れている男であることは間違いない。

トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)が粘りの走りでステージ2位。イェーツとデュムランに2秒差がついたと取るべきか、2秒差しかつかなかったと取るべきか。イェーツ自身はおそらく後者と捉えている。

両者の総合タイム差は47秒で、イェーツが常々言っている「タイムトライアルのことを考えると、せめて3分のリードは欲しい」という数字にはまだまだ届かない。イェーツ自身、このままのタイム差ではタイムトライアルで逆転されてしまうことを自認しており、「デュムランの調子は日に日に上がっているように見える」と危機感を募らせる。そしてデュムランも「日に日に調子が上がっている」と全く同じことを言っている。

振り返ればデュムラン。マリアローザを着ながら、イェーツは追われる立場にいる。

石畳坂を駆け上がるマリアローザのサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)ら石畳坂を駆け上がるマリアローザのサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)ら photo:Kei Tsuji
残り5kmの石畳坂でセレクションがかかったメイン集団残り5kmの石畳坂でセレクションがかかったメイン集団 photo:Kei Tsuji
振り返って後方を確認するサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)振り返って後方を確認するサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
マリアアッズーラ首位のサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)の頬には3つのキスマリアアッズーラ首位のサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)の頬には3つのキス photo:Kei Tsuji
レース終了とともに撤収作業が始まるレース終了とともに撤収作業が始まる photo:Kei Tsuji

text&photo:Kei Tsuji in Osimo, Italy