2009/11/28(土) - 05:29
ゴルフのカーボンシャフトのトップメーカーであるグラファイトデザインが、ロードバイクのフレームを完成させた。
ラグタイプの“METEOR speed”とモノコックタイプの“METEOR launch”だ。そのコンセプトは「しなるフレーム」。今回はEQA梅丹本舗の宮澤崇史も愛用するMETEOR speedを徹底的にテストしてみた。
METEORシリーズの開発は、現在主流となっている“剛性重視”のカーボンフレームを疑問視することから始まった。本来、最も求められるはずの“しなり”や“乗り味”を重視し、いわば原点に戻ってすべて初期化することから開発をスタートしているのだ。
そこには、ゴルフのカーボンシャフト開発のノウハウが生きている。ゴルフクラブに用いられるカーボンシャフトは、しなることによってパワーを生み出すのだという。これは自転車のフレームにも通じることで、“しなり”が瞬発力を生み、“しなり”が伸びる乗り味を実現する。
METEORシリーズには、航空機や宇宙開発分野で使用されている最高級のカーボンファイバー素材が使われている。必要以上の剛性は与えず、それ以上に必要な“しなり”を生み出すために、数種類の性格の違うカーボンファイバーを厳選して使用しているのだ。
METEOR speedはラグタイプのカーボンフレームである。断面が真円なチューブは剛性としなりの適度なバランスを生みだし、BBハイトはヒルクライマータイプのMETEOR launchより2mm低めに設定されている。また、フォークにはストレートタイプを採用し、ロードレースに求められるクイックなハンドリング、加速性、高速安定性を高次元でバランスさせている。
このフレームは、EQA・梅丹本舗・グラファイトデザインの宮澤崇史選手が駆ってツール・ド・北海道2009を制覇した。また、11月15日に行われたUCI公認レース“熊本国際ロード”では、同チームの中島康晴、福島晋一、清水都貴がMETEORシリーズでワン・ツー・スリーフィニッシュという快挙を達成し、EQA梅丹本舗GDR勢が表彰台を独占したことで、十分な実績を挙げ、その優秀性が証明されたということが出来るだろう。
今、日本で最も話題性に溢れるフレーム METEOR speedを、インプレライダーの西谷雅史と三上和志はどのように評価したのだろうか?
― インプレッション
「ロングライドに最適な、乗り心地の良いバイク」 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
非常に乗り心地の良いバイクだと思った。ショック吸収性が抜群に良く、路面からの不快な振動、突き上げなどが見事に吸収されている。柔軟性に富んだフォーク、細いシートステーが機能しているという感じだ。
このバイクの魅力は、一にも二にもこの乗り心地の良さにあると思う。踏み出しの鮮烈な印象はない。しなやかなバイクであるから、この点は近年の高剛性バイクにはかなわないのだろう。しかし、いったん走り始めてしまうと、なかなかの実力を見せる。
メーカーが説明する通り、このバイクは“しなり”を生かして進むバイクなので、ペダリングのリズムとフレームの“しなり”をシンクロさせると気持ちよく進んでくれるのだろう。印象としては、TVTやLOOK KG171といった昔の細いカーボンバイクのような雰囲気だった。
ハンドリングは少々ダルな印象を受けた。ヘッドまわりのしなやかさ、柔軟性に富んだフォークの影響からだろうか、コーナリングでややふくらむ印象なのだ。つまり、弱アンダーステアなのである。
近年、ハンドルの切れが良い高剛性バイクにばかり乗っているから余計にそう感じてしまうのだろう。まあ、これは慣れられるレベルであるし、弱アンダーというのも慣れてしまえばコントローラブルとも言えるので、クイック過ぎる挙動のバイクが多いなか、これはこれで良い面はあると思う。
フレーム各部の精度や仕上げが良いのは印象に残った点だ。例えば、ホイールを交換するとき、クイックを緩めるとスパッとホイールがはずれ、別のホイールを入れるのも簡単にピシッと決まるのだ。この辺の精度が悪いバイクというのは結構多いので、これはとても好印象だった。
色々な意味で、現在レースで主流となっている高剛性カーボンバイクとは対極の位置にあるバイクだ。“しなり”を生かすという発想はそれなりにオモシロいし、こういったバイクが欲しいというユーザーは少なからずいると思う。しかし、レースでこれが生きるとは個人的にはあまり思わなかった。特に日本の距離の短いレースでは、やはり高剛性なバイクの方が色々な意味で有利だと思う。
したがって、私がこのバイクをオススメするとしたら、週末のロングライドで使うようなユーザーだ。「最近のバイクはどれも硬すぎて私にはキツい」というような人に、このバイクはとても良いと思う。
「しなやかな乗り味のバイクが欲しいという人に」 三上和志(サイクルハウス ミカミ)
話題のフレームであるだけに、期待感いっぱいで試乗をした。「“しなり”を瞬発力に変えるバイク」とは、いったいどのようなものなのだろうか? それをぜひ体感してみたいと思った。
そこで、フルパワーでゼロ発進してみたり、中速から高速へダッシュしてみたり、上りで思いっきりもがいてみたりしたが、残念ながら“しなり”を瞬発力に変える乗り味というのは、私の脚力レベルでは感じられなかった。
恐らく宮澤崇史選手のような脚力のある人ならば生かせるのだろうが、私の脚力ではその“しなり”が生かせないようだ。ちょっと残念であった。
それでも意識して乗ると、いわゆる“バネ感”が感じられるので、長く乗ってこのバイクのリズムがつかめれば、また違った印象になるのかもしれない。そういった意味で、ある程度のスキルが必要なバイクなのかもしれない。
誰にでもすぐに体感できるのは“しなやかさ”だ。これは最近の高剛性バイクには感じられない部分なので、なかなか新鮮な印象であった。
わざと路面が荒れているところを走ったりしてみたのだが、路面からの不快な振動はかなり良く吸収してくれた。個人的には「しなりを瞬発力に変えるバイク」というよりも、「しなやかなバイク」だと思った。
EQA梅丹本舗のバリバリのレーサーが使うバイクに対してこんなことを言うのも何なのだが、このしなやかさを生かしてロングライドなどに使うととても良いと思う。長距離を乗った時、高剛性バイクだとカラダの方が参ってしまうことがあるが、このしなやかさならば疲労感はずっと低減されるだろう。
もしかすると、これはその辺を狙った味付けなのかもしれない。プロのレースでは200km走った後にスプリント勝負をする訳だが、このバイクならスプリントする脚が十分に残るのだろう。まあ、こればかりはたった一日のインプレでは確認のしようがないのだが…。
もちろん、普段荒れた路面をよく走る人にも向いてる。あるいは、一定ペースでずっと走るようなシチュエーションでも良いだろう。脚力の違う仲間とツーリングをする時、強い人が先頭固定で走ることがよくあるのだが、そんな人が乗るのにも最適なバイクだと思った。
グラファイトデザイン METEOR speed
フレーム カーボン、ラグタイプ
フォーク カーボン、ストレートタイプ
シートクランプ ダブルクランプタイプ、サイズ31.6mm/34.9mm、グリーンアルマイト
シートポスト FSA SL-Kカーボン 径31.6mm、長さ350mm
ヘッドパーツ FSA オービットZセラミック
カラー ホワイト、GDピンク
重量 1220g(フレーム)、350g(フォーク)、25g(シートクランプ)、240g(シートポスト)、75g(ヘッドセット)
サイズ(トップチューブの水平換算値) 51、52、53、54、55、56cm
希望小売価格(税込み) 399,000円(フレームセット)
― インプレライダーのプロフィール
西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ!
サイクルポイント オーベスト
三上和志(サイクルハウスMIKAMI)
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。
サイクルハウスMIKAMI
ウェア協力:マヴィック
アイウェア協力:オークリー・ジャパン
edit:仲沢 隆
photo:綾野 真
ラグタイプの“METEOR speed”とモノコックタイプの“METEOR launch”だ。そのコンセプトは「しなるフレーム」。今回はEQA梅丹本舗の宮澤崇史も愛用するMETEOR speedを徹底的にテストしてみた。
METEORシリーズの開発は、現在主流となっている“剛性重視”のカーボンフレームを疑問視することから始まった。本来、最も求められるはずの“しなり”や“乗り味”を重視し、いわば原点に戻ってすべて初期化することから開発をスタートしているのだ。
そこには、ゴルフのカーボンシャフト開発のノウハウが生きている。ゴルフクラブに用いられるカーボンシャフトは、しなることによってパワーを生み出すのだという。これは自転車のフレームにも通じることで、“しなり”が瞬発力を生み、“しなり”が伸びる乗り味を実現する。
METEORシリーズには、航空機や宇宙開発分野で使用されている最高級のカーボンファイバー素材が使われている。必要以上の剛性は与えず、それ以上に必要な“しなり”を生み出すために、数種類の性格の違うカーボンファイバーを厳選して使用しているのだ。
METEOR speedはラグタイプのカーボンフレームである。断面が真円なチューブは剛性としなりの適度なバランスを生みだし、BBハイトはヒルクライマータイプのMETEOR launchより2mm低めに設定されている。また、フォークにはストレートタイプを採用し、ロードレースに求められるクイックなハンドリング、加速性、高速安定性を高次元でバランスさせている。
このフレームは、EQA・梅丹本舗・グラファイトデザインの宮澤崇史選手が駆ってツール・ド・北海道2009を制覇した。また、11月15日に行われたUCI公認レース“熊本国際ロード”では、同チームの中島康晴、福島晋一、清水都貴がMETEORシリーズでワン・ツー・スリーフィニッシュという快挙を達成し、EQA梅丹本舗GDR勢が表彰台を独占したことで、十分な実績を挙げ、その優秀性が証明されたということが出来るだろう。
今、日本で最も話題性に溢れるフレーム METEOR speedを、インプレライダーの西谷雅史と三上和志はどのように評価したのだろうか?
― インプレッション
「ロングライドに最適な、乗り心地の良いバイク」 西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
非常に乗り心地の良いバイクだと思った。ショック吸収性が抜群に良く、路面からの不快な振動、突き上げなどが見事に吸収されている。柔軟性に富んだフォーク、細いシートステーが機能しているという感じだ。
このバイクの魅力は、一にも二にもこの乗り心地の良さにあると思う。踏み出しの鮮烈な印象はない。しなやかなバイクであるから、この点は近年の高剛性バイクにはかなわないのだろう。しかし、いったん走り始めてしまうと、なかなかの実力を見せる。
メーカーが説明する通り、このバイクは“しなり”を生かして進むバイクなので、ペダリングのリズムとフレームの“しなり”をシンクロさせると気持ちよく進んでくれるのだろう。印象としては、TVTやLOOK KG171といった昔の細いカーボンバイクのような雰囲気だった。
ハンドリングは少々ダルな印象を受けた。ヘッドまわりのしなやかさ、柔軟性に富んだフォークの影響からだろうか、コーナリングでややふくらむ印象なのだ。つまり、弱アンダーステアなのである。
近年、ハンドルの切れが良い高剛性バイクにばかり乗っているから余計にそう感じてしまうのだろう。まあ、これは慣れられるレベルであるし、弱アンダーというのも慣れてしまえばコントローラブルとも言えるので、クイック過ぎる挙動のバイクが多いなか、これはこれで良い面はあると思う。
フレーム各部の精度や仕上げが良いのは印象に残った点だ。例えば、ホイールを交換するとき、クイックを緩めるとスパッとホイールがはずれ、別のホイールを入れるのも簡単にピシッと決まるのだ。この辺の精度が悪いバイクというのは結構多いので、これはとても好印象だった。
色々な意味で、現在レースで主流となっている高剛性カーボンバイクとは対極の位置にあるバイクだ。“しなり”を生かすという発想はそれなりにオモシロいし、こういったバイクが欲しいというユーザーは少なからずいると思う。しかし、レースでこれが生きるとは個人的にはあまり思わなかった。特に日本の距離の短いレースでは、やはり高剛性なバイクの方が色々な意味で有利だと思う。
したがって、私がこのバイクをオススメするとしたら、週末のロングライドで使うようなユーザーだ。「最近のバイクはどれも硬すぎて私にはキツい」というような人に、このバイクはとても良いと思う。
「しなやかな乗り味のバイクが欲しいという人に」 三上和志(サイクルハウス ミカミ)
話題のフレームであるだけに、期待感いっぱいで試乗をした。「“しなり”を瞬発力に変えるバイク」とは、いったいどのようなものなのだろうか? それをぜひ体感してみたいと思った。
そこで、フルパワーでゼロ発進してみたり、中速から高速へダッシュしてみたり、上りで思いっきりもがいてみたりしたが、残念ながら“しなり”を瞬発力に変える乗り味というのは、私の脚力レベルでは感じられなかった。
恐らく宮澤崇史選手のような脚力のある人ならば生かせるのだろうが、私の脚力ではその“しなり”が生かせないようだ。ちょっと残念であった。
それでも意識して乗ると、いわゆる“バネ感”が感じられるので、長く乗ってこのバイクのリズムがつかめれば、また違った印象になるのかもしれない。そういった意味で、ある程度のスキルが必要なバイクなのかもしれない。
誰にでもすぐに体感できるのは“しなやかさ”だ。これは最近の高剛性バイクには感じられない部分なので、なかなか新鮮な印象であった。
わざと路面が荒れているところを走ったりしてみたのだが、路面からの不快な振動はかなり良く吸収してくれた。個人的には「しなりを瞬発力に変えるバイク」というよりも、「しなやかなバイク」だと思った。
EQA梅丹本舗のバリバリのレーサーが使うバイクに対してこんなことを言うのも何なのだが、このしなやかさを生かしてロングライドなどに使うととても良いと思う。長距離を乗った時、高剛性バイクだとカラダの方が参ってしまうことがあるが、このしなやかさならば疲労感はずっと低減されるだろう。
もしかすると、これはその辺を狙った味付けなのかもしれない。プロのレースでは200km走った後にスプリント勝負をする訳だが、このバイクならスプリントする脚が十分に残るのだろう。まあ、こればかりはたった一日のインプレでは確認のしようがないのだが…。
もちろん、普段荒れた路面をよく走る人にも向いてる。あるいは、一定ペースでずっと走るようなシチュエーションでも良いだろう。脚力の違う仲間とツーリングをする時、強い人が先頭固定で走ることがよくあるのだが、そんな人が乗るのにも最適なバイクだと思った。
グラファイトデザイン METEOR speed
フレーム カーボン、ラグタイプ
フォーク カーボン、ストレートタイプ
シートクランプ ダブルクランプタイプ、サイズ31.6mm/34.9mm、グリーンアルマイト
シートポスト FSA SL-Kカーボン 径31.6mm、長さ350mm
ヘッドパーツ FSA オービットZセラミック
カラー ホワイト、GDピンク
重量 1220g(フレーム)、350g(フォーク)、25g(シートクランプ)、240g(シートポスト)、75g(ヘッドセット)
サイズ(トップチューブの水平換算値) 51、52、53、54、55、56cm
希望小売価格(税込み) 399,000円(フレームセット)
― インプレライダーのプロフィール
西谷雅史(サイクルポイント オーベスト)
東京都調布市にある「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、自らも積極的にレースに参戦。主なリザルトはツール・ド・おきなわ市民200km優勝、ジャパンカップアマチュアレース優勝など。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに「日本最速の店長」だ!
サイクルポイント オーベスト
三上和志(サイクルハウスMIKAMI)
埼玉県飯能市にある「サイクルハウスMIKAMI」店主。MTBクロスカントリー全日本シリーズ大会で活躍した経験を生かし、MTBに関してはハード・ソフトともに造詣が深い。トレーニングの一環としてロードバイクにも乗っており、使用目的に合った車種の選択や適正サイズに関するアドバイスなど、特に実走派のライダーに定評が高い。
サイクルハウスMIKAMI
ウェア協力:マヴィック
アイウェア協力:オークリー・ジャパン
edit:仲沢 隆
photo:綾野 真
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