4年に渡るパートナーシップを続けてきたチームスカイとRapha。その中で生まれたプロダクトについて、そして次なる目標を語る、サイモン・モットラムCEOのインタビュー後編。(前篇はこちら



ー4年間、トップレベルのチームをサポートするなかで多くのラインアップが追加されてきたと思います。中でも大きな影響を受けたプロダクトは?

スカイをサポートしていたからこそ生まれた製品といえば、エアロ系のプロダクトだね。いわゆるスキンスーツというものだ。勝利のために、わずかでも改善できる事があれば必ず取り組むチームスカイにとって、空気抵抗の削減というのは永遠のテーマ。

ジロ・デ。イタリア2015 第2ステージ スキンスーツと共に勝利したエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア) 高速レースには欠かせない存在だジロ・デ。イタリア2015 第2ステージ スキンスーツと共に勝利したエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア) 高速レースには欠かせない存在だ photo:Kei Tsuji
Rapha Pro Team Aerosuitとして、一般用に販売されているRapha Pro Team Aerosuitとして、一般用に販売されている (c)Rapha.cc風洞の中で、いくつもの生地、パネリング、縫製を試してデータを蓄え、製品を作っていくというのは、とてもコストがかかること。でも、チームとして高性能のスキンスーツを用意することは絶対条件として提示されていたものだったので、作らないわけにはいかなかった。

スキンスーツに関して言えば、もちろん選手向けのオーダーメイドモデルの開発も大変だったんだけど、それを一般向けの量産品へと落とし込むプロセスもまた、非常に難しかったね。サポートすることが無ければ、未だにラインアップしていなかっただろう。

そしてもう一つはシャドウシリーズだね。春先のクラシックのような寒いレースで活躍する防水ウエアなんだけれど、特に要望が大きかったのはショーツだった。普通のショーツだと、びしょ濡れになってパッドに塗ったクリームも流れてしまい、股ずれを起こしてしまうようなシチュエーションで最高のパフォーマンスを発揮するんだ。

防水のジャージやジャケットは多くのライバルブランドも手掛けているけれど、防水ショーツというのは本当に貴重で革命的な存在。太い血流が存在する脚の付け根を濡らさず、冷やさないというのは、パフォーマンスに大きな影響を与える。普通のショーツを履くライバル達が夜に走っているようなものだとすれば、シャドウを着て走る選手達は太陽が暖かく照らし出す昼に走っているようなものだよ。

パリ~ニース2016 第1ステージ Pro Team Shadowに身を包み未舗装路区間でペースを上げるチームスカイパリ~ニース2016 第1ステージ Pro Team Shadowに身を包み未舗装路区間でペースを上げるチームスカイ photo:CorVos
シャドージャージは降る雨をことごとく弾いてしまうシャドージャージは降る雨をことごとく弾いてしまう photo:Makoto.AYANORapha Pro Team SahdowコレクションRapha Pro Team Sahdowコレクション これまでの防水ウエアはなにかを犠牲にしているものが多かった。暑かったり、蒸れたり、バタついたり、動きづらかったりね。でも、シャドウシリーズは普通のウエアと変わらない着心地でありながら、雨と風からライダーを守ってくれるんだ。そして、防水というのは全てのサイクリストにとってメリットのあることでもある。だから、スキンスーツとは違って、量産品へのフィードバックもスムーズだったね。

そして、これは来年の予定になるけれど、プロ選手のレイヤリングにヒントを得た製品も開発する。普通のサイクリストたちの着こなし方と、プロ選手の着こなし方は全然違う。ジャージの上にジャージを重ねたりね。

そういった使い方にも対応できるように、製品名を変更していくつもりなんだ。生地の厚さに応じて、「フライウェイト」「ライトウェイト」「ミッドウェイト」というように、より直感的に用途が掴みやすいように整理していこうと考えている。分かりやすさというのは、一般ユーザーにとってもメリットだけど、選手にとっても大切な要素なんだ。レース前に、「何を着ようか」なんて悩んでいるのは無駄なストレスでしかないからね。

ースカイの選手の中で、良くリクエストを上げてくる選手は誰でしたか

スカイも大きなチームだから色々な選手がいたけれど、それぞれの性格が出る部分だったね。与えられた物を文句を言わずなんでも着て走る選手もいれば、色々愚痴は言うけれど直接は言ってくれない選手もいたりする。もちろん、感じた事をきちんと表現して、私たちに伝えてくれる選手たちもいて、R&Dに関して言えばそういった選手たちをチームのようにして、フィードバックを得ていた。

ジャパンカップのコース試走に出かけるベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ)らジャパンカップのコース試走に出かけるベルンハルト・アイゼル(オーストリア、チームスカイ)ら photo:Kei Tsuji
そのチームにいたのは、ベルンハルト・アイゼルやガブリエル・ラッシュ。アイゼルはすごく細かいところまで気にしてくれて、なんでも遠慮なく伝えてくれたね。去年監督を務めていたラッシュも多くのリクエストを送ってくれた。引退したばかりで、良く走るからいろいろとトライしてくれていたんだ。あとは、ジャパンカップにも来ていたイアン・ボズウェルだね。彼は若いけれどとても真面目なんだ。「このテストをしてほしい」とお願いしたら、必ずテストして、しっかりと意見を伝えてくれる。

逆に、過酷な状況のレースを得意にしているイアン・スタナードは、色々な要望がありそうなんだけれど、あまり何も言ってくれないので、R&Dのチームからは外されていたりもする。どんな状況でも耐えられる、タフガイだからかもしれない。

そうそう、あとは選手ではないのだけれど大切なフィードバックをくれるスタッフがいるんだ。マリオ・クロス・フォンディという、ウエアの手配や洗濯を一手に引き受けてくれている彼もこのチームに入っている。

毎日10人以上のウエアを洗濯しているからこそ見えてくるような部分、色落ちしやすいとか、破けるとか、そういった選手目線とはまた違った内容を伝えてくれるのはとても助かっている。一般ユーザーにとっては、とても大切な意見だからね。

ー沢山のフィードバックがあったと思いますが、何か具体的なエピソードはありますか

供給を始めた最初の年は、もう沢山ありすぎて大変だったよ。でも、ここ2年ほどはそれも落ち着いていて、大掛かりに修正を施した事はあまり無いんだ。そうだね、あえて言うなら袖の長さは良く言われるポイントだね。

プロトンを見ていれば分かると思うけれど、どんどん袖は長くなっているだろ?今は殆どの選手が肘までの長さの袖が欲しいと言うね。ショーツもそうで、みんな裾を長くしてほしいとリクエストしてくる。はっきりとした理由はわからないんだけどね。

ー逆に、Raphaから提案した製品はどういったものがありますか

補給所で受け取って配るボトルをアシストが複数本一度に運べるネットベスト 同じような物をRaphaも開発したという補給所で受け取って配るボトルをアシストが複数本一度に運べるネットベスト 同じような物をRaphaも開発したという (c)Makoto.AYANOこちらから提案することも多かったけれど、ブレイルスフォードGMはリスクを嫌うタイプだから、試していないものや根拠のないものというのは却下されやすい傾向にあった。たとえば、ボトル運び用のジレを提案したことがあったんだけど、当時どこのチームでも使っていなかったので、不要だと言われた。

お蔵入りになった訳なんだけど、そうしたら翌年のティンコフが同じようなものを実戦に投入していた。なので、スカイもツールで使ってみるか?という話になったんだけど、かなり直前の話でテストも出来ないタイミングだったから、結局使うことは無かったね。

逆に、とても喜ばれた物もある。そのひとつがウェットバッグだ。レース中にサポートカーに載せておくためのバッグで、選手それぞれの名前が刺繍されていて、誰のバッグかがすぐ分かるようになっている。沢山のポケットに仕切られていて、どこに何が入っているのかが一目瞭然だから、直ぐに準備することができるんだ。

もしかしたら、ウエアの受け渡しが失敗することでレースを落としてしまうかもしれない。とにかく、天候が変わればウエアを直ぐに渡す必要があるし、きれいに整理整頓できているかどうかは効率にとても影響する。だからこのバッグの評判はとてもよかったね。あと、面白い所でいうと、ポケットに入れるハンディーウォーマーなんかもあったね。
選手ごとに用意されるスタッフバッグ。識別しやすいネームタグが入る選手ごとに用意されるスタッフバッグ。識別しやすいネームタグが入る photo:Makoto.AYANOここはレッグ+アームウォーマーが入るスペースここはレッグ+アームウォーマーが入るスペース photo:Makoto.AYANO



Rapha and Team Sky - Wet Bag from Palma Pictures on Vimeo.


ープロ選手に供給するとなると、過酷な状況に置かれることになります。バイクやパーツのサプライヤーだと、思いもよらない壊れ方をした!というようなエピソードを良く聞きますが、そういったことはありましたか
1人当たり800点以上を供給していたという。写真は一部にすぎないとのことだ。1人当たり800点以上を供給していたという。写真は一部にすぎないとのことだ。 (c)www.teamsky.comルーク・ロウ(イギリス、チームスカイ)のスーツケース これもRaphaが供給したものだルーク・ロウ(イギリス、チームスカイ)のスーツケース これもRaphaが供給したものだ photo:Kei Tsuji
そうだね、驚くようなトラブル、というのは無かった。なぜかと言えば理由は簡単で、とても大きなボリュームで供給していたからね。ショーツであれば、1種類につき15着、ジャージも20着、ソックスにいたっては50セット以上を供給していて、1人あたりのアイテム数でいえば、800点以上をサプライしていたことになる。

しかも、オフのウエアも渡していたし、それを詰めるスーツケースやバッグなどもカスタムして提供していた。製品化されていないものまで含めればもっと膨大な数になる。ウエアに関して言えば、選手一人一人に合わせて採寸した、オーダーメイドのものだから使いまわしも出来ないので、必然的に多めに用意することになった。

他のサプライヤーであれば、ジャージであれば袖の長さが選べたりするくらいだけれど、私たちはフルテーラードで製作していた。ソックスだって、足のサイズに合わせたスペシャルモデルを作っていたんだよ。しかも、エース級の選手だけじゃない、フルームから新人に至るまで全員が同じように扱われていた。

ーそんな大量の供給を行っていたんですね。他のチームと比べてもかなり多い方だと思います。それだけ手厚い体制だと、そういった環境を求めてチームに入りたいという選手も多かったのでは

そうだね、桁違いのサポート体制だったといえるだろう。選手たちのストレスを減らすために、出来得る限りの事をしたまでだけれど、選手にとっては魅力的だったみたいだ。

選手たちがチームに所属するうえで気にする事が3つあるんだよ。一つはチームバス。もっとも長い時間を過ごす場所だから、チームバスのクオリティは重要なポイント。そして、二つ目はもちろん自転車だね。そして三つ目がウエアになる。特に、ウエアはレースのコンディションが悪い時に大きく響いてくる。だから、Raphaが入っているから、スカイに行きたいという動機は確実にあったはずだ。

サイクルクラブ東京に飾られていたサイン入りジャージを通して4年を振り返るサイクルクラブ東京に飾られていたサイン入りジャージを通して4年を振り返る
ーチームスカイとの4年契約も終わり、来年からのサポートチームはチームウィギンスやキャニオンスラムの2つになります。この2つのチームをサポートしていくと決めた理由は

スカイとの4年契約の中で大きく3つの目標があった。一つはいわゆるR&D。さっきまで話していたようなことだね。ワールドチームの中でもトップレベルの予算があるチームで、年間のレース日数も途轍もない密度だったから、製品を開発するためにはこれ以上無い環境だった。

もう一つはマーケティング。ビジネスだから、スポンサードすることによってRaphaのお客さんを増やして、売上げを伸ばすということももちろん必要。この2点に関しては100点満点でいえば、少なくとも90点は付けられる。この4年間で、製品のラインアップは大幅に広げることが出来たし、売上も非常に好調だったからね。

そして、最後の目標がエンゲージメント。一言で表すと、自転車のファンを増やしていくことを大きな目標にしていたんだけれど、この点に関しては、想定よりも上手くいかなかった。思っていたよりワールドツアーというのはやりづらかったね。カレンダーもオーガナイズも複雑で、あれは出来ない、これは出来ないというものが多すぎた。

ツアー・オブ・ブリテンの会場にて チーム・ウィギンズのエリアの周りに人が集まるツアー・オブ・ブリテンの会場にて チーム・ウィギンズのエリアの周りに人が集まる photo:Kei Tsuji
いつでもひときわ大きな声援を受けるブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームウィギンズ)いつでもひときわ大きな声援を受けるブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームウィギンズ) photo:Kei Tsujiイタリアナショナルチャンピオンのエレナ・チェッキーニも所属するキャニオンスラムイタリアナショナルチャンピオンのエレナ・チェッキーニも所属するキャニオンスラム photo:CANYON//SRAM RACINGその部分が改善できる余地があるのであれば、スカイとの契約を更新しても良かったんだけれど、残念ながらそうは思えなかった。もちろん、他のチームからの誘いもあったけれど、スカイという影響力の大きなチームと共に働きかけても変わらなかったワールドツアーの問題点を、他のチームが変えられるとも考えづらかったので、全て断ったんだ。

4年前に私たちが持っていたミッションと、現在のミッションは変わってきた。そして、現在のミッションを達成するためにもっとも適したチームがチーム・ウィギンズとキャニオン・スラムなんだ。どちらのチームも年間の予算は100万ポンド以下の小さなチームで、スポンサードの条件に関しても厳しくはない。むしろ、どちらのチームもファンを増やしていくことに対してとても積極的なんだ。だから今の私たちとは最高に素晴らしいマッチングなんだ。

分かりやすい例として、ツアー・オブ・ブリテンのチームスカイとチームウィギンスを比べてみよう。スカイは大きなチームバスがあって、トップレベルの選手が何人もいるけれど、バスの周りには数十人ファンがいるだけ。一方、チームウィギンズは小さなキャンピングカー一台に、有名な選手はウィギンズ1人だけなんだけれど、何百人というファンが集まるんだ。ファンを増やすためのアプローチとしてどちらが成功しているかは、誰が見ても明らかだろう。

ーこの4年間は、Raphaにとってとても大きなチャレンジの時代だったと思います。最後に、これからのRaphaが目指す場所を教えてください

12年前の創業時から、私たちの大きな目標というのは変わっていない。ロードサイクリングを世界で最もポピュラーなスポーツにする、という目標のために、さまざまな取り組みを行ってきた。

ロードレースの世界を一般の人たちに繋げていくために、チームスカイとの協業は大きなきっかけを生み出してくれた。次のステップというのは、スカイによって繋がれたラインをもっと太くしていく事。つまり、もっと沢山の情報を伝えていくことが、僕たちのミッションだ。この4年間、スカイと共に歩んだ中で見た世界、聞いたストーリー、得たインスピレーション。そういった全てを世界中のサイクリストに伝えていこうと思っている。

RCC(ラファ・サイクルクラブ)が主宰するソーシャルライド。人と人のつながりを作り出すRCC(ラファ・サイクルクラブ)が主宰するソーシャルライド。人と人のつながりを作り出す photo:Makoto.AYANO
ユーロバイクで行ったraphaライドを走るラファCEOサイモン・モットラム氏ユーロバイクで行ったraphaライドを走るラファCEOサイモン・モットラム氏 photo:Makoto.AYANOそのためのツールとして、RCC(ラファサイクリングクラブ)はとても強力な役割を果たしてくれるはずだ。立ち上げ当初はクローズドな組織として立ち上げたけれど、今は方針を転換してオープンなコミュニティになっている。世界中に8000人の会員がいて、週末ごとに200ものライドが行われている。1ライドに10名が参加していると考えても、毎週2000人を集めるイベントを開いているようなもので、そんなことが出来ているグループは他に無い。

参加費をとっているわけではないから、ライド自体で収益を上げているわけではない。ただ、自転車を愛する仲間達のパイプをどんどんと太くしていきたいんだ。これが5000人、10,000人と増えていけば、またサイクリストに対する世間の目もだんだんと変わっていくだろう。

そのタイミングで、トップレベルのレースシーンがより柔軟になっていることを期待している。その時に、Raphaはもう一度ワールドツアーに帰ってくる。きっと、その時にはスカイとの関係が霞んで見えるような、緊密で深い関係をトップチームと結んでいるはずだ。それは自前のチームを結成するという可能性でもある。何時になるかは分からないけれど、もうその準備は始まっているんだ。


interview:Naoki.YASUOKA
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