もはや敵無し。シーズン終盤にかけて好調ぶりを遺憾なく発揮しているフィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット)が、ヨーロッパ最終戦ジロ・ディ・ロンバルディアで初優勝を遂げた。ジルベールはロード世界選手権以降、出場レースで全戦全勝。初出場の新城幸也(Bboxブイグテレコム)は119位で完走した。

曇り空のコモ湖を離れ、山岳地帯に向かう曇り空のコモ湖を離れ、山岳地帯に向かう photo:Cor Vos晩秋の風物詩ジロ・ディ・ロンバルディア。グッと冷え込み始めた北イタリアのコモ湖周辺で開催される伝統の一戦は、UCIワールドカレンダー最終戦にあたる。終盤にかけて名物の上りが3つ(ギザッロ、チヴィリオ、サンフェルモ)設定された242kmでレースは行なわれた。

レース前半の主役はニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)。トリプルクラウンを達成した偉大な父をもつロッシュのアタックをきっかけに4名の逃げグループが形成され、メイン集団から8分のリードを稼ぎ出すことに成功した。

ギザッロの上りで逃げグループは崩壊し、ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)が諦めずに逃げるギザッロの上りで逃げグループは崩壊し、ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)が諦めずに逃げる photo:Cor Vosしかし先頭の4名は、マドンナ・デル・ギザッロ教会(ゴール45km手前)に至る上りで早くも吸収されてしまう。この上りで飛び出したジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ)は、観客の詰めかけたギザッロ教会を先頭で通過した。

遅れてマウロ・サンタンブロジオ(イタリア、ランプレ)やグスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク)がフーガーランドに合流。先頭では6名の逃げグループが再編成され、40秒前後のリードを築いてチヴィリオ(ゴール16km手前)に突入。ここでいよいよ有力選手たちが動き始めた。

チヴィリオの上りでアタックを仕掛けるカデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)チヴィリオの上りでアタックを仕掛けるカデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット) photo:Cor Vos高低差150mほどのチヴィリオでメイン集団からアタックを仕掛けたのは、アルカンシェルのカデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)だ。続けてサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)がアタックを仕掛けると、集団は一気に縮小した。

チヴィリオでは決定的なアタックが決まらなかったが、テクニカルな下りで先頭はラーションとサンタンブロジオの2名に。一方、メイン集団からはアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)とヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)が飛び出し、この日最後の勝負どころサンフェルモの上り(ゴール6km手前)に至る平坦区間で先頭に合流した。

アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)とヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)先頭でサンフェルモに突入アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)とヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)先頭でサンフェルモに突入 photo:Cor Vosやがてレースはヴィノとフグルサングが先行する形でサンフェルモに突入。しかしこの2名は脚を残したメイン集団によって捉えられ、高低差200mほどの上りでレースは一旦フリダシに。大会3連覇がかかったクネゴがアタックを仕掛けたが不発。エヴァンスがペースを上げる集団から、弓矢の如くジルベールが飛び出した。

細いカーブが連続する急勾配の上りで飛び出したジルベールに食らいつけたのはサンチェスただ一人。ジルベールとサンチェスが先行してサンフェルモの頂上を通過すると、あとはゴール地点コモまで下るのみ。後続のメイン集団はサクソバンク勢が懸命に牽いたが、脚の揃った先頭2名を捉えることは出来なかった。

サンフェルモで飛び出したフィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット)とサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)サンフェルモで飛び出したフィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット)とサムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) photo:Cor Vos最後はジルベールとサンチェスによるスプリント一騎打ちに持ち込まれ、牽制の末、ラスト150mからジルベールがスプリント開始した。一時はサンチェスが並びかけたが、ジルベールはパリ〜トゥールでボーネンを下したほどのスプリント力の持ち主。ジルベールは踏み直し、先頭を明け渡すことなくゴール。勢いあるガッツポーズでフィニッシュラインを駆け抜けた。

ジルベールは6位だったロード世界選手権以降、9日前のコッパ・サバティーニ、6日前のパリ〜トゥール、2日前のジロ・デル・ピエモンテ、そしてこのロンバルディアで勝利。僅か9日の間に、クラシック&セミクラシックと呼ばれるレースで4勝を飾る怒濤の活躍だ。

スプリント中、サンチェスの位置を確認するフィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット)スプリント中、サンチェスの位置を確認するフィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット) photo:Cor Vos「フランクにはすでにピエモンテの勝利を捧げたけど、この勝利がよりそれに値する」。レース後のインタビューでジルベールは開口一番、1週間前に亡くなったフランク・ファンデンブルックについて言及した。

「今日は自分がすべきことを全て果たした。最高のコンディションなので、上りでもスプリントでも、どんな状況でも勝てる。本当に絶好調なんだ。でも今日の勝利は、カデル(エヴァンス)の走りに依存した部分も大きいよ」。世界王者エヴァンスと絶好調ジルベールの最強タッグの前に、他のチームは為す術がなかった。

両手でガッツポーズしてゴールするフィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット)両手でガッツポーズしてゴールするフィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット) photo:Cor Vos上記のクラシック連勝の他にも、ジロ・デ・イタリアでステージ初優勝を飾るなど、大成功のシーズンを送ったジルベール。春先のクラシックレースでも、ロンド・ファン・フラーンデレン3位、アムステル・ゴールドレース4位、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ4位という好成績を連発した。

「2010年シーズンは、地元で行なわれるリエージュで優勝したい。ロード世界選手権や、自分が大好きなミラノ〜サンレモ(2008年3位)でも勝利を狙うよ」。

3位争いのスプリントはアレクサンドル・コロブネフ(ロシア、サクソバンク)に軍配3位争いのスプリントはアレクサンドル・コロブネフ(ロシア、サクソバンク)に軍配 photo:Cor Vosベルギー人選手のロンバルディア制覇は1980年のフォン・デヴォルフ以来29年ぶり。その一方で、イタリア勢は8年間守り続けた国内有数のタイトルを失ってしまった。そればかりか、トップ10に入ったのがルーカ・パオリーニ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)だけという寂しい結果に。

大会3連覇を狙っていたクネゴは14位。「厳しい闘いだった。あの状況で勝利するのは困難を極めた。せめてもう一人チームメイトが残っていればよかった。サンフェルモで孤立したので、全ての動きに反応しなければならず、ジルベールとサンチェスの動きに乗り遅れてしまったんだ」。敗因をそう語った。

表彰台、左から2位サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)、優勝フィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット)、3位アレクサンドル・コロブネフ(ロシア、サクソバンク)表彰台、左から2位サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)、優勝フィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット)、3位アレクサンドル・コロブネフ(ロシア、サクソバンク) photo:Cor Vosまた、このロンバルディアにはジャパンカップ出場を控えた選手が多数出場。ラーションは持ち前の独走力でレースをかき回した。イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)は終始レース前方をキープして13位。「レースは予想通りの展開だった。自分より強い選手が大勢いたということだ。今年は2010年に向けてのトランジットのようなもの。来シーズンはもっと上を狙っていく」とコメントしている。

「寒さと脚の痙攣で全くダメだった」と語るジョヴァンニ・ヴィスコンティ(イタリア、ISD)は69位。期待されたケースデパーニュのロドリゲス=モレーノのコンビはともに途中リタイアに終わっている。

出走者187名中、完走者は120名。初出場の新城幸也(Bboxブイグテレコム)はペースの上がったメイン集団から脱落しながらも、17分10秒遅れで完走した。ヨーロッパでのレーススケジュールを全て消化したユキヤは帰国し、ジャパンカップに挑む。

選手コメントはイタリア・ガゼッタ紙より。

ジロ・ディ・ロンバルディア2009結果
1位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット)5h43'46"
2位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)
3位 アレクサンドル・コロブネフ(ロシア、サクソバンク)+04"
4位 ルーカ・パオリーニ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)
5位 ジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ)
6位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)
7位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)
8位 ダニエル・マーティン(アイルランド、ガーミン)
9位 ファンホセ・コーボ(スペイン、フジ・セルヴェット)
10位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)
119位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)+17'10"

text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos