今回のインプレッションバイクは、スペシャライズドから新たに登場したエアロアルミレーシングバイク、Allez Sprint。Allezをさらに進化させ、Tarmacの剛性とVenge ViASの空力アドバンテージを融合させアルミに落とし込んだ、同社が放つ渾身の一台だ。



スペシャライズド Allez Sprint Compスペシャライズド Allez Sprint Comp photo:Makoto.AYANO
プロレースに使われる高性能バイクが軒並みカーボン製となって久しい現在だが、ここ数年で再びアルミ素材が勢いを取り戻しつつあることをご存知だろうか。

もちろんハイエンドバイクとしてでは無いものの、スペシャライズドのAllez、キャノンデールのCAAD12、トレックのエモンダALRといった、最新技術を用いて進化を遂げた「新世代アルミロード」が次々と投入され、現在のマーケットはアルミを好むマニアやホビーライダーにとって歓迎すべき状況となっているのだ。

ワイドな横幅を持つダウンチューブワイドな横幅を持つダウンチューブ 各溶接部は極めて滑らかに仕上げられている各溶接部は極めて滑らかに仕上げられている フロントはS-WORKS TARMACと共通だフロントはS-WORKS TARMACと共通だ


そんな状況に、次なる一手を打ったのがスペシャライズドだった。それが2016年モデルとして発表された、今回のテストバイク「Allez Sprint」。VENGE ViASの鮮烈なデビューに隠れがちではあるものの、後輪に合わせてカットされたエアロ形状のシートチューブ、極薄シートステーなど、一般的なアルミバイクのイメージを払拭する有機的なエアロフォルムがその際たる特徴だ。

Allez Sprintの開発経緯は広報資料の中に一切見当たらないが、スペシャライズドが誇る風洞実験施設「WIN-TUNNEL」の存在が大きく影響しているであろうことは容易に推測できる。加えて本社スタッフにはクリテリウムレース(落車を考慮してアルミバイクが好まれるそう)でも活躍しているセミプロ級のレーサーも多く、そういった背景がこのバイクを生み出したことは間違いないのだろう。それらを踏まえれば、本国ではSRAMのフロントシングルコンポーネントをセットした完成車が発売されていることも頷ける。

ケーブルはほぼすべて内蔵ながら、ルーティングを工夫することで各レバーの滑らかな引きを実現ケーブルはほぼすべて内蔵ながら、ルーティングを工夫することで各レバーの滑らかな引きを実現 各チューブの接続には、スペシャライズドが特許を取得している「ダルージオ・スマートウェルド」を用いている各チューブの接続には、スペシャライズドが特許を取得している「ダルージオ・スマートウェルド」を用いている

ハイドロフォーミングで成型されるBBシェルハイドロフォーミングで成型されるBBシェル 確実な固定を可能とする専用シートクランプ確実な固定を可能とする専用シートクランプ


さて、それではAllez Sprintを技術的な面から紐解いていこうと思う。最も注目すべきは通常モデルのAllezに比べ、スペシャライズドが特許を取得している溶接方法「ダルージオ・スマートウェルド」を採用した箇所が増えていること。

これは単純なパイプを繋ぎ合わせていた従来の製作過程とは異なり、あらかじめハイドロフォーミングでチューブ端の接合部表面に谷間ができるよう整形し、その溝を埋めるように溶接をする。こうすることで溶接部が薄く軽く仕上がる上、接合部をもっとも応力のかかる部分から遠ざけ、チューブの形状と構造を劇的に変化させることに成功したのだ。

この溶接法が開発者であるダルージオ氏の名を冠した「スマートウェルド」であり、スペシャライズドが特許を取得している。チューブ同士を突き合わせて溶接する方法とはコストや製造期間も段違いだが、その恩恵は計り知れない。通常モデルのAllezではヘッドチューブ部分のみこの工法が用いられていたが、Allez SprintではBBにも拡大。BBシェルをハイドロフォーミングで作り、ダウンチューブとシートチューブをスマートウェルドで繋げている。これによってAllezに対してBB剛性を高め、より「スプリント」向きに仕上げている。

各チューブの接続は非常にスムースな仕上げだ各チューブの接続は非常にスムースな仕上げだ カーボンのような造形のチェーンステーカーボンのような造形のチェーンステー


さらに通常のAllezと比較してヘッドチューブを10mm短縮することで深いエアロポジションを可能としている。また、Tarmac開発に当たって導入されたフレームサイズ間の乗り味の違いを均一化する「ライダー・ファースト・エンジニアード」も同社のアルミバイクとしては初めて取り入れられ、サイズによって各チューブの形状や、ヘッドの下側ベアリング径も変更されている。

またAllez Sprintでは走行性能を一段と引き上げるべく、Tarmacに用いられるのと同じS-Worksフロントフォークや、Venge ViASのシートポストを導入していることも大きな特徴。ここからも判断できる通り、Tarmacの剛性とVenge ViASの空力アドバンテージを融合させ、アルミロードに落とし込んだのがAllez Sprintなのだ。

空気抵抗低減と整備性を両立すべく、シフトケーブルはダウンチューブのみに内蔵空気抵抗低減と整備性を両立すべく、シフトケーブルはダウンチューブのみに内蔵 シートチューブとシートステーの交点を下げたコンパクトなリア三角シートチューブとシートステーの交点を下げたコンパクトなリア三角 Venge ViASのシートポストを導入Venge ViASのシートポストを導入


今回インプレッションを行うのは、2つの完成車の中で弟分の「COMP」グレード。シマノ105をメインとしたコンポーネントを採用し、AXISのホイールやブレーキでコストダウンを図った一台。価格は239,000円だ。

最高級コンポーネントにカーボンホイール&パーツ類をフル投入したレース仕様車がアメリカのクリテリウムで活躍しているAllez Sprint。カーボンバイクを蹴散らす、最も進化したアドバンスド・アルミレーシングバイクの性能たるやいかに。



ーインプレッション

「速度域を問わない優れた加速性能と平地巡航性が持ち味のアルミレーサー」
早坂賢(ベルエキップ)


まず、アルミらしい反応性の高さが強く印象に残りました。カーボンに比べると路面からの突き上げがあり、踏み込んだ際の反発がありますが、ゼロ発進でも高速域でのスプリントでも、速度域に関わらずスピードが伸びてくれます。レース志向の方にとって、この加速性能はとても魅力的ですね。

見た目通りのレーシーさで、BB付近には一切たわみは感じません。ダイレクト感に富み、入力を瞬時に推進力へと変換してくれる印象があります。また、マッシブなダウンチューブや、シートチューブとシートステーの交点を下方へとずらしコンパクト化したリア三角も、この高剛性に貢献しているようです。

速度域を問わない優れた加速性能と平地巡航性が持ち味のアルミレーサー」 早坂賢(ベルエキップ)速度域を問わない優れた加速性能と平地巡航性が持ち味のアルミレーサー」 早坂賢(ベルエキップ)
加速と同様に平地巡航性も高いレベルにあり、時速35km/h~40km/hでの巡航が気持ち良いですね。ホイールを上位グレードのものに交換してあげることで、フレームが持つ巡航性を更に引き出すことができるでしょう。ペダリングとしては、完成車状態であればケイデンスは低めが、高剛性なホイールをアップグレードしたらケイデンスは高めがオススメですね。

ハンドリングは速度域に関わらずニュートラルで、身体を少し倒してあげるだけで、理想的なラインをトレースしてくれました。ブレーキングについては、ダウンヒル中の高速域にあっても不安がなく、フレームがしっかりと制動力を受け止めてくれますね。ただ、サードパーティー製のブレーキ本体は、シマノ純正と比較すると制動性能が1歩2歩劣るため、シマノ製に交換してあげたいところです。

完成車状態で8.4kgとそこそこ重量はありますが、走りの印象は軽く、意外にもヒルクライムも得意としています。剛性の高さも手伝って、体重を掛けてダンシングすると、スムーズにバイクが前に出てくれます。シッティングでは、ケイデンス70~80rpmで回してあげると、気持よく進んでくれますね。

高い剛性で加速性や巡航性を演出する一方で、快適性はトレードオフになっていると言わざるを得ません。エアロ断面のシートポストも変形量は少なめ。ロングライドに使えないこともないのですが、振動吸収性を重視したパーツアッセンブルが必要となるでしょう。ただ、トラクション性能は確保されています。多少荒れた路面でのレースでも、よほど剛性の高いホイールを装着したり、タイヤを高圧にしすぎなければ、グリップを失う可能性は低いといえるでしょう。

105仕様のアルミロードと考えると、他メーカーより割高で、カーボンバイクも視野に入ってきますが、レース志向の方であれば、Allez Spritの価値を感じてもらえるはず。快適性は二の次で、鋭い加速性能や高い巡航性を求める方や、登りよりも平地が得意な方にオススメです。加減速の多いクリテリウムやサーキットエンデューロで進化を発揮してくれそうです。ヒルクライムでも距離が短ければ、高い剛性が活きてくるでしょう。また、見た目を選んで後悔することはないバイクといえますね。

完成車状態でのアッセンブリーこそビギナー向けですが、フレーム自体はレーサー向けコンポーネントをアップグレードにも十二分に対応してくれます。ホイールは、カンパニョーロBORAやシマノWH-9000-C50-TUのような、リムハイト50mm以上のエアロ系モデルがおすすめです。

「一言で表現するならば『漢の自転車』 剛性溢れるスプリンター向けマシン」
寺西剛(シミズサイクル サイクルスポーツ本館)


Allez Sprintの特徴は、とても剛性が高いことにあります。パーツアッセンブルや価格こそビギナー向けモデルのように見えますが、フレーム本体は正しく競技者向き。登りでの軽快さや快適性など、同価格帯のライバル車種に劣る部分もありますが、それ以上に平坦路での加速や下りでのスピードの伸びが良好ですね。一言で表現するならば「漢の自転車」といえるでしょう。

「一言で表現するならば『漢の自転車』 剛性溢れるスプリンター向けマシン」 寺西剛(シミズサイクル サイクルスポーツ本館)「一言で表現するならば『漢の自転車』 剛性溢れるスプリンター向けマシン」 寺西剛(シミズサイクル サイクルスポーツ本館) カタログの横位置写真だと分かりづらいのですが、ダウンチューブは幅がかなり広く、これによって高剛性を実現しているのでしょう。実際に乗ってみると、BB付近がウィップするような印象は一切ありません。また、ノーマルタイプのAllezとは明確に棲み分けすることができており、乗り味は大きく異なります。

剛性が高いだけあって乗り心地は硬めで、ロングライドには使いづらいかなという印象です。私の脚力ですと、Allez Sprintの高剛性を楽しめる走行距離は100kmほど。ただ、乗り心地から想像するほどリアが跳ねず、トラクションが抜けるということはありませんでした。

コーナリングについてはロードレーサーらしく、卒のないニュートラルな味付けで、曲がろうとした時にはすっとバイクが倒れてくれます。シートポストやシートチューブは翼断面形状とされていまが、今回のインプレッションでははっきりとしたエアロ効果を体感することはできませんでした。

やはり得意とするレースは、加減速の回数が多いクリテリウム。また、重量があるので長距離の登りは不向きですが、下りの勢いやダンシングでこなせる短い登りであれば高剛性が活きていますから、シマノ鈴鹿の様なアップダウンのあるロードレースも得意とする所でしょう。

ですから、Allez Sprintがオススメな方は、よくクリテリウムに出場したり、ロードレースで逃げて勝ちを狙いたいという競技者。体格ががっちりしていて、スプリントが得意な方であれば、持ち前の高剛性が武器になることでしょう。また、カーボンを一通り乗ってきて、硬い乗り味のアルミに戻りたいという方にも。既に競技をしている方の中には、パーツを余らせているという方も少なく無いでしょうから、是非ともフレーム単体での販売を行ってほしいところです。

パーツアッセンブリーは以外にも悪くはないのではと感じました。4アーム仕様の新型となったFSAのGossamerクランクは、従来モデルよりたわみが減っています。サードパーティーのブレーキはすぐに変える必要があるというほどではなく、軽く握っただけで下りでもロックしてくれる程の制動力を持っています。もし、変えるのであればシマノ105以上のグレードのものが良いでしょう。フラット部が楕円断面になっているハンドルバーは握り心地が良好です。

ホイールは是非とも交換してあげたいポイントで、高剛性なエアロ系モデルをアッセンブルして、フレームの加速感をより引き出してあげたいところ。スペシャライズドがプロデュースするロヴァールなど、チューブラー仕様のカーボンがオススメ。走行環境にもよりますが、路面がきれいなのであれば、タイヤは細めにしてあげたいですね。

スペシャライズド Allez Sprint Compスペシャライズド Allez Sprint Comp photo:Makoto.AYANO
スペシャライズド Allez Sprint Comp
フレーム:E5 Premium Aluminum w/ D'Aluisio Smartweld Sprint Technology, hydroformed aluminum tubing, tapered head tube, OSBB
フォーク:S-Works FACT carbon, full monocoque, size-specific taper
サイズ:49、52、54、56、58、61
メインコンポーネント:シマノ 105
クランク:FSA Gossamer Pro, BB30, compact, 52/36T
チェーン:KMC X11, 11-speed, w/ reusable MissingLink
ブレーキ:AXIS
シートポスト:Specialized Venge, FACT carbon
カラー:Gross Light Blue/Moto Orange、Satin Black/Gloss White
価 格:239,000円



インプレライダーのプロフィール

早坂賢(ベルエキップ)早坂賢(ベルエキップ) 早坂賢(ベルエキップ)
欧州のプロチームでメカニックとして活躍した遠藤徹さんがオーナーを務める宮城県仙台市のプロショップ「ベルエキップ」のスタッフ。趣味として始めたスポーツサイクルの魅力にどっぷりはまり、ショップスタッフになりたいとベルエキップの門を叩いて今年で6年目。現在は店長代理を努め、主にメカニック作業やビギナー向け走行会を担当する。普段は美味しいものやコーヒーなどを求めグルメライドを楽しむ一方で、ヒルクライムイベントに参加することも。平坦よりも登りが得意で、快適性が高くバネ感のあるソフトな自転車が好み。現在の愛車はボーマRapid-R。

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寺西剛(シミズサイクル サイクルスポーツ本館)寺西剛(シミズサイクル サイクルスポーツ本館) 寺西剛(シミズサイクル サイクルスポーツ本館)
愛知県大府市にあるシミズサイクル サイクルスポーツ本館のスタッフ。同店の最古参スタッフとして主にロードバイクのメカニック作業や上級者向けの走行会を担当している。高校2年生の時にスポーツバイクを始め、大学時代はサイクリング部に所属して日本各地をツーリングする。大学時代からアルバイトとしてシミズサイクルに勤務し、大学卒業後に一般企業に2年勤めたあと現職に。脚質はクライマーで、ヒルクライムレースでは上位入賞も経験。硬めの乗り味の自転車を好み、現在の愛車はエヴァディオBacchas。

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ウェア協力:リオン・ド・カペルミュール
ヘルメット&アイウェア協力:SH+


photo:Makoto.AYANO
text:So.Isobe, Yuya.Yamamoto