連続する山岳を越えたスプリンターたちのチャンスを摘み取る逃げ切り勝利。レース終盤に独走した元U23世界チャンピオンのアレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ)がメイン集団を21秒引き離して勝利するとともに総合2位に浮上した。



標高1435mの1級山岳シャレーレイナールをクリアする標高1435mの1級山岳シャレーレイナールをクリアする photo:Tim de Waele


パリ〜ニース2016第5ステージパリ〜ニース2016第5ステージ image:A.S.O.総合首位マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)が「多くのピュアスプリンターが脱落するだろうけど、おそらく山岳を乗り切れると思う」と予想していたパリ~ニース第5ステージ。モンヴァントゥーの中腹まで登る1級山岳シャレーレイナール(登坂距離9.5km/平均勾配9.3%)を経て、そこからさらに2級山岳を3つ越えてフィニッシュを迎える。

前日2位のエドワード・テウンス(ベルギー、トレック・セガフレード)が逃げる前日2位のエドワード・テウンス(ベルギー、トレック・セガフレード)が逃げる photo:Tim de Waele低温ながらも好天に恵まれたプロヴァンスの一日は、ラース・ボーム(オランダ、アスタナ)やエドワード・テウンス(ベルギー、トレック・セガフレード)ら8名による先行で始まる。総合で危険な選手が含まれていなかったため、200km近いコースでタイム差は11分まで拡大。先頭8名は8分リードでレース中盤の1級山岳シャレーレイナール登坂をスタートさせる。

「魔の山」モンヴァントゥーの森林区間を走るこの急勾配の登りで逃げグループは5名に。頂上を先頭クリアしたヘスス・エラーダ(スペイン、モビスター)が山岳賞トップに躍り出る。一方、6分遅れで頂上に近づいたメイン集団からはナセル・ブアニ(フランス、コフィディス)やマルセル・キッテル(ドイツ、エティックス・クイックステップ)、アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ソウダル)が相次ぎ脱落。いずれの選手たちも結果的に集団復帰出来ず、グライペルはその後バイクを降りている。

先頭5名は3分前後のリードを得たまま次なる2級山岳ポワントゥをクリア。すると続く2級山岳ラ・ロック=ダンテロンでアントワーヌ・デュシェーヌ(カナダ、ディレクトエネルジー)が独走を開始する。デュシェーヌは最後の2級山岳セーズを独走で駆け上がると、そのまま少ないリードながらも高速巡航を続けた。



集団先頭で2級山岳ラ・ロック=ダンテロンを登るラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)集団先頭で2級山岳ラ・ロック=ダンテロンを登るラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ) photo:Tim de Waele


フィニッシュに向かって独走するアレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ)フィニッシュに向かって独走するアレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ) photo:Tim de Waeleメイン集団はティンコフが先頭を陣取った状態で連続2級山岳をクリア。アルベルト・コンタドール(スペイン、ティンコフ)らが集団先頭に姿を見せながらも、フィニッシュまでの30km平坦路を考慮して積極的に動くことはない。後方では1級山岳シャレーレイナールで脱落したアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)がチームメイトとともに懸命な集団復帰を試みた。

カチューシャがメイン集団を牽引してルトセンコを追うカチューシャがメイン集団を牽引してルトセンコを追う photo:Tim de Waele最後の2級山岳セーズで動いたのはアスタナのルトセンコだった。数度のアタックの末にメイン集団を飛び立ったルトセンコは、先頭で独走を続けていたデュシェーヌに残り17km地点で追いつくと、呼吸を整えて再びアタック。1分のリードを得た状態で独走に持ち込む。

集団復帰を果たしたアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)集団復帰を果たしたアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ) photo:Tim de Waeleクリストフが復帰した約80名のメイン集団はカチューシャのコントロール下に。クリストフのために第2集団を牽引し続けたチームメイトたちが集団先頭に立つも、残り13km地点で30秒まで縮まったタイム差はむしろ広がって残り10km地点で40秒に。道幅のある平坦な直線路にもかかわらず、先頭ルトセンコとのタイム差は縮まらなかった。

独走でフィニッシュするアレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ)独走でフィニッシュするアレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ) photo:Tim de Waele30秒リードのまま残り3km地点を通過したルトセンコが、追いすがるメイン集団を振り切って独走勝利。21秒遅れの集団スプリントでマシューズを下したクリストフがステージ2位に入った。

「チームメイトのラース・ボームが吸収されたタイミングでアタックして40秒先行し、そのまま25kmを独走。メイン集団がすぐ後ろに迫っているのは分かっていたけどペダルに最大限のパワーを込め続けた」というルトセンコは、オランダ・リンブルフで開催された2012年ロード世界選手権U23ロードレースの優勝者。翌年コンチネンタルチームからアスタナに移籍して本格的にキャリアをスタートさせ、2014年から2年連続で地元カザフスタンのツアー・オブ・アルマティで総合優勝。2015年のツール・ド・スイスでステージ優勝を飾っている。タイムトライアルを得意とする23歳のオールラウンダーだ。ルトセンコは第3ステージでもリードを得て逃げていたが、雪によるレースキャンセルでチャンスを失っていた。

逃げ切ったタイム差21秒とボーナスタイム10秒を得たルトセンコは総合2位に浮上。翌日の第6ステージ山頂フィニッシュをこなすことが出来れば最終的な総合争いにも絡んでくるだろう。「これがUCIワールドツアーレース2勝目。チームにとっても素晴らしい結果になったと思う。家を空けている時間がとにかく長い仕事なので、多くの犠牲を払っている家族にこの勝利を捧げたい。明日はヨーロッパ拠点のニースをレースが訪れる。総合で2位につけていることは誇らしいよ」。

ここまでステージ2勝を飾り、大会初日から6日間リーダージャージを着ているマシューズは「厳しいステージが続いていたので誰もが疲労を感じていたと思う。もっとスプリンターたちをふるい落としたかったけど、チーム力も落ちていたし、他チーム任せになってしまった。でも今日のプライオリティーはステージ優勝よりもリーダージャージのキープ。パリ〜ニースの総合優勝は夢のまた夢かもしれないけど全力を尽くしてみせる。グリーンジャージはほぼ確定しているのでイエローを狙う」と、残る2ステージでクライマーたちに勝負を挑む構えだ。

選手コメントはレース公式サイトより。



ステージ優勝を飾ったアレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ)ステージ優勝を飾ったアレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ) photo:Tim de Waele



パリ~ニース2016第5ステージ結果
1位 アレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ)               5h00’26”
2位 アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)              +21”
3位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
4位 ダヴィデ・チモライ(イタリア、ランプレ・メリダ)
5位 セプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ)
6位 ピーター・セリー(ベルギー、エティックス・クイックステップ)
7位 ビセンテ・レイネス(スペイン、IAMサイクリング)
8位 レオナルド・ドゥケ(コロンビア、デルコ・マルセイユプロヴァンス)
9位 オリバー・ナーセン(ベルギー、IAMサイクリング)
10位 アルノー・ジャネソン(フランス、コフィディス)
154位 別府史之(日本、トレック・セガフレード)                  +29’40”

個人総合成績
1位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)        19h24’58”
2位 アレクセイ・ルトセンコ(カザフスタン、アスタナ)                 +06”
3位 トム・ドゥムラン(オランダ、ジャイアント・アルペシン)              +18”
4位 パトリック・ベヴィン(ニュージーランド、キャノンデール)             +23”
5位 ヨン・イサギーレ(スペイン、モビスター)
6位 ゲラント・トーマス(イギリス、チームスカイ)
7位 リエーベ・ヴェストラ(オランダ、アスタナ)                    +28”
8位 ドリス・デヴェナインス(ベルギー、IAMサイクリング)               +29”
9位 ラファル・マイカ(ポーランド、ティンコフ)                    +31”
10位 リッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)

ポイント賞
1位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)

山岳賞
1位 ヘスス・エラーダ(スペイン、モビスター)

チーム総合成績
1位 アスタナ

text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele