イタリアのガゼッタ・デッロ・スポルト紙にマッテーオ・ラボッティーニ(イタリア)のロングインタビューが掲載された。その中でラボッティーニは過去のEPO使用を告白し、家族とのつながりや仕事を失った現状を赤裸々に語った。



独走のままピアン・デイ・レジネッリのゴールを目指すマッテーオ・ラボッティーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)独走のままピアン・デイ・レジネッリのゴールを目指すマッテーオ・ラボッティーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ) photo:Riccardo Scanferla2012年ジロ・デ・イタリアでステージ優勝を飾って山岳賞を獲得したラボッティーニ。イタリアを代表するクライマーとして頭角を現したが、2014年8月8日のレース外ドーピングコントロールで採取されたサンプルからEPOの陽性反応が検出された。同年ラボッティーニはジロ総合17位、イタリア選手権ロードレース3位という成績を残していた。

ゴールスプリントでロドリゲスを振り切るマッテーオ・ラボッティーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)ゴールスプリントでロドリゲスを振り切るマッテーオ・ラボッティーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ) photo:Riccardo Scanferla当初ラボッティーニはドーピングの使用を否定したが、Bサンプルからも陽性反応が検出され、その後EPOの使用を認めた。UCI(国際自転車競技連盟)やCONI(イタリア五輪委員会)の捜査に協力し、21ヶ月の出場停止処分(規定から3ヶ月短縮)を受けている。処分開始は2014年8月7日。つまり処分は2016年5月6日に明けるが、レース復帰の見通しは立っていない。以下はインタビューの書き起こしだ。

ラボッティーニ、今の暮らしは?
「周りには誰もいない。全ての人に見放された地獄の中にいる。ドーピング陽性に父ルチアーノ(モゼールと同年代に活躍した元プロ選手)も激怒した。それ以降、両親は全く口をきいてくれない。パートナーと息子ディエゴもどこかへ行ってしまった。そして誰もいなくなった。時間が解決してくれると助言してくれる人もいるが、何も変わらない。地獄だ。ただそれだけだ。全てが美しい天国から地獄に突き落とされ、そこには出口がない。若者にはこう言いたい。『地獄がどんな悲惨なものかを知っている。だから自分と同じ過ちを犯すな。一旦地獄に落ちてしまうと、元の場所に戻ることは出来ない。それが地獄だ。これだけは断言したい。信じてくれ。全てを失ってからでは遅過ぎるんだ』と。」

2014年のドーピング使用時はそのことを認識していなかったと?
「間違ったことをしていると認識していたものの、『自分は大丈夫』という思い込みがあった。」

マリアアッズーラを着るマッテーオ・ラボッティーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)がパッソ・ヴァルパローラの頂上を目指すマリアアッズーラを着るマッテーオ・ラボッティーニ(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)がパッソ・ヴァルパローラの頂上を目指す photo:Kei Tsujiドーピングを行った理由は?
「2012年以降、ジロのステージ優勝を飾った時のレベルに戻れずに苦しんでいた。昔のレベルに戻れなかった。それまでドーピングとは無縁だったけど、やがて道を踏み外すことになる。お金があるところでは、お金がモノを言う。リスクを承知で、自分が何をしているのか理解しながら、人生で一度だけドーピングにお金を払った。」

当時の状況を詳しく
「勝ちたかった。勝てる自分に戻りたかった。『どうしてこんなことも出来ないのか?』という思いを打ち消したかった。自分の能力を高めるための自然な行いに思えた。ある日、ある人物がこう言いながら近づいてきたんだ。『この新しいEPOはバレないけど効き目は抜群だ』と。でもそのEPOによって全てが崩壊した。選手は脆い。選手になってみないとその気持ちは分からない。誰にも助言を求めていないし、誰かに強制されたわけじゃない。誰かに相談していたら止められていただろう。速くなりたいという欲求がルールを無視した。家族にも誰にも相談できることじゃない。2014年8月上旬、一人で家に居る時にドーピングを行った。」

誰からいつどのようなタイミングでEPOを受け取った?
「自分より年上の元プロ選手。CONIの検察官の前では名前を証言したけど、今ここでは言えない。路上で売買を行って、5,000ユニット(単位不明)の小瓶に入ったEPOと注射器を300ユーロ(約38,500円)で手に入れ、家に帰って冷蔵庫に入れた。その日、8月3日、500ユニットを腕の静脈に直接注射。その次の日にあと500ユニット打った。新しい世界だった。でも恐怖は感じなかった。リスクなんて考えなかった。全てが美しい新世界に飛び込んだ気分だった。すると8月7日、就寝中にレース外ドーピング検査の検査官が突然やってきた。検査官が押す呼び鈴の音が鈍く響き渡った。でもバレないEPOだと言われていたので落ち着いて出迎え、7時40分に採血し、それから尿サンプルを採取。8時46分には彼らは帰って行った。それからというもの、夜も眠れなくなった。色んな考えが頭の中を駆け巡ったよ。自問しては、自分の中に答えを見つけることができなかった。そしてその答えは9月12日にやってきた。最初にUCIからEメールが届いて、それから電話が鳴った。17時30分、息子とテレビのアニメを見ている時だった。自分の人生が終わり、地獄に堕ちた日だ。」

2014年のイタリア選手権ロードレースで3位に入ったマッテーオ・ラボッティーニ(イタリア、ネーリソットリ)2014年のイタリア選手権ロードレースで3位に入ったマッテーオ・ラボッティーニ(イタリア、ネーリソットリ) photo:Riccardo Scanferla自分を最も苦しめたことは?
「周囲の信頼を裏切ったこと。チームに迎え入れてくれたシント(監督)やチトラッカ(GM)たちの信頼を。それ以来、彼らには電話一本入れることができていない。価値のない自分をイタリア代表に推薦してくれたカッサーニ(イタリア代表監督)も同じく。そして何より家族や友人たちを裏切ったこと。手に入れたものに慣れるのは簡単だけど、失ったものに耐えるのは酷く厳しい。」

今はどうやって暮らしている?
「車や全てを手放した。ドーピング陽性の罰金として年俸(130,000ユーロ)の70%にあたる91,000ユーロ(約1,170万円)をUCIに払わなければならなかった。ローンを組んで借金する以外に選択肢はなかった。新しいパートナーにも助けてもらって、何とか生き延びている。」

どうやって再スタートを切る?
「ジロでステージ優勝した時にプレゼントされた自転車でサイクリングを再開している。スタート位置が今までとは違う場所だと理解しているし、今はひたすら謝罪したい。真実を語りたい。」

UCIとのやりとりは?
「2014年12月19日にSkypeで最初にミーティングを行い、ここで言ったこと全てを彼らに伝えた。それからCONIの検察官から連絡があった。」

これからの人生について
「ここ最近の最高の出来事は、クリスマスに息子から手紙が届いたこと。その手紙で自分の中にバランスを取り戻せたと思う。自転車に乗っていると、現実は全てが地獄でも、人生は泡のようで、世界に問題なんてないように感じる。ドーピングで得する人間はいない。失望の根源以外の何物でもない。決して簡単ではないのは分かっているけど、またレースに出たいと思う。自分の力で復帰を成し遂げたい。」

text:Kei Tsuji
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