山岳コースを濡らした冷たい雨。気温8度の山岳が登場する過酷なコンディションの中で、16名の逃げ切りが決まった。逃げの中から飛び出した2人によるスプリント一騎打ちを制したフィリップ・ダイグナン(アイルランド、サーヴェロ)が優勝。メイン集団が10分近く遅れたため、ダイグナンは総合9位にジャンプアップした。

冷たい雨が降る山岳地帯に分け入る冷たい雨が降る山岳地帯に分け入る photo:Unipublic
平坦な“つなぎステージ”を終えたブエルタは、総合争いにおいて重要な3日間を迎えた。

グレドス山脈に分け入る第18ステージは、3つのカテゴリー山岳が登場する中級山岳ステージ。総合成績に打撃的なダメージを与える本格山岳コースではないものの、旧市街に至る名物の石畳坂がゴール地点アビラに登場するなど見どころたっぷり。この日は一日中雨が降ったり止んだり。気温15度前後の冷たいステージになった。

山岳で逃げグループをリードするヘスス・デルネロ(スペイン、フジ・セルヴェット)やフィリップ・ダイグナン(アイルランド、サーヴェロ)山岳で逃げグループをリードするヘスス・デルネロ(スペイン、フジ・セルヴェット)やフィリップ・ダイグナン(アイルランド、サーヴェロ) photo:Cor Vosレース序盤のアタック合戦は1時間に渡って繰り返され、この日最初の1級山岳ミハレス峠に突入してようやく逃げが決まる。9名が飛び出し、3名が追いつき、更に4名が合流。16名の大きな逃げグループが形成された。

16名の逃げは、山岳賞ジャージを着るダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)やロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)、ヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)、フィリップ・ジルベール(ベルギー、サイレンス・ロット)ら実力派揃い。総合最上位はダイグナンで、総合18位・17分49秒遅れだった。

16名の逃げ切りを容認したケースデパーニュがコントロールするメイン集団16名の逃げ切りを容認したケースデパーニュがコントロールするメイン集団 photo:Unipublic気温8度の1級山岳ミハレス峠を先頭で通過したモンクティエは16ポイントを加算し、山岳賞2位のダビ・デラフエンテ(スペイン、フジ・セルヴェット)との差を97ポイントに。この時点でデラフエンテの山岳賞逆転は不可能になり、モンクティエが2年連続山岳賞獲得を確定させた。

協力して逃げる16名を追うメイン集団は、ケースデパーニュとエウスカルテルがコントロール。逃げグループとのタイム差は5分を推移し、レース後半にかけてエウスカルテルが追撃を指揮。しかし人数の揃った逃げグループのペースは落ちず、16名の逃げ切りを悟ったメイン集団は追撃の手を弱めた。

集団から脱落したトーマス・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン)、このあとリタイア集団から脱落したトーマス・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン)、このあとリタイア photo:Unipublic逃げグループの中で動きを見せたのは、ゴール17km手前の3級山岳ボケロン峠の上り。ジルベールがアタックを仕掛けて独走に持ち込んだが、徐々に失速して後続の逃げメンバーに吸収。結局このボケロン峠で決定的な動きは生まれず、ジルベールやモンクティエを欠く12名で頂上を通過した。

この雨に濡れた危険なボケロン峠の下りで、攻撃を仕掛けたのはクロイツィゲルとダイグナンの2人。ステージ優勝狙いのクロイツィゲルと、総合ジャンプアップ狙いのダイグナン。利害が一致した2人は協力し、出遅れたフグルサングらを引き離した。

エウスカルテルがコントロールするメイン集団が田舎町を駆け抜けるエウスカルテルがコントロールするメイン集団が田舎町を駆け抜ける photo:Unipublic先頭2人はアビラ旧市街に至る石畳坂を肩を並べてクリア。後続のフグルサングは届かず、クロイツィゲルとダイグナンの2人による一騎打ちに持ち込まれた。

クロイツィゲルがロングスパートを試みたが決まらず、最後は2人のスプリントガチンコ勝負。念願のグランツール勝利を狙っていたクロイツィゲルは伸びず、ダイグナンがガッツポーズでフィニッシュ。ステージ優勝と総合ジャンプアップを同時に成功させた。

山岳の上りで逃げグループを牽くヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)やフィリップ・ダイグナン(アイルランド、サーヴェロ)山岳の上りで逃げグループを牽くヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)やフィリップ・ダイグナン(アイルランド、サーヴェロ) photo:Unipublic「まだ信じられないよ!最初は総合成績のジャンプアップだけを考えて走っていたんだ。逃げグループの中でクロイツィゲルが強いのは分かっていたし、彼がアタックしたからついていった。クロイツィゲルは間違いなく石畳の坂でアタックしてくると思った。でも彼はアタックしなかった。アタック出来なかったのかも知れない。ゴール前の展開はほぼパーフェクトだったよ」と、興奮を隠さずに語るダイグナン。これが今シーズン初勝利だ。

VC・ラ・ポム時代に別府史之のチームメイトだったダイグナンは、4年間在籍したアージェードゥーゼルを離れ、今年サーヴェロに移籍。今年はスペインレースと相性の良さを見せ、ブエルタ・ア・カスティーリャ・イ・レオンで総合7位、ブエルタ・ア・ブルゴスで総合10位に入っている。

最終3級山岳の下りで飛び出したロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)とフィリップ・ダイグナン(アイルランド、サーヴェロ)最終3級山岳の下りで飛び出したロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)とフィリップ・ダイグナン(アイルランド、サーヴェロ) photo:Unipublicダイグナンにとっては長いスランプを越えてのビッグな勝利。「自分にとって本当に意味のある勝利。自信がついたよ。プロ入り1年目の2005年に初勝利(仏のツール・ドゥ・ドゥー)を飾ったけど、それ以降は伝染性単核症や膝の故障など、トラブルの連続でツキに見放されていたんだ。とにかくこの勝利で自信を取り戻せる」。

ブエルタでは80年代にショーン・ケリー(アイルランド)がステージ通算16勝&総合優勝(1988年)の大活躍。アイルランド人によるグランツール勝利は、1992年ツール・ド・フランスでのステファン・ロッシュ以来17年ぶりだ。歴史に名を刻んだダイグナンは「アイルランドのロードレース界にとって大きな一日。今年はアイルランド人選手の活躍が目立っている。この勝利がそれを証明した」とコメントしている。

クロイツィゲルをスプリントで下したフィリップ・ダイグナン(アイルランド、サーヴェロ)クロイツィゲルをスプリントで下したフィリップ・ダイグナン(アイルランド、サーヴェロ) photo:Cor Vosサーヴェロはジェランスが第10ステージで逃げ切り勝利を飾っており、今年のブエルタでステージ2勝目。プロコンチネンタルチームながら、今年のグランツールでの勝利数を8勝(ジロ4勝・ツール2勝・ブエルタ2勝)に伸ばした。

結局メイン集団は9分40秒遅れでゴールにやってきた。最後はシャコベオ・ガリシアのアシストがペースを上げ、バルベルデ、エヴァンス、サンチェスの3名が僅かに飛び出した形でゴール。その他の総合上位陣はバルベルデと1秒差がついてしまった。

この日、総合9位のトーマス・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン)がレース中盤の山岳で集団から脱落し、リタイアを選択した。総合9位ダニエルソンのリタイアと、メイン集団を9分40秒引き離す逃げ切りにより、ダイグナンが総合18位から総合9位まで一気にジャンプアップ。これまで3回グランツールに出場し、いずれも総合50〜70番台で完走していたダイグナンが、総合トップ10フィニッシュの切符を手にした

選手コメントはサーヴェロ公式サイトより。

ブエルタ・ア・エスパーニャ2009第18ステージ結果
1位 フィリップ・ダイグナン(アイルランド、サーヴェロ)4h19'14"
2位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、リクイガス)+03"
3位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、サクソバンク)+16"
4位 マヌエル・バスケス(スペイン、コンテントポリス・アンポ)+39"
5位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)+41"
6位 ミカエル・シュレル(フランス、フランセーズデジュー)+42"
7位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス)
8位 レミ・ディグレゴリオ(フランス、フランセーズデジュー)
9位 ヘスス・エルナンデス(スペイン、アスタナ)
10位 ヘスス・デルネロ(スペイン、フジ・セルヴェット)

マイヨオロ(個人総合成績)
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)78h56'42"
2位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)+32"
3位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)+1'10"
4位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)+1'29"
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、サイレンス・ロット)+1'51"
6位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)+1'55"
7位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、ケースデパーニュ)+5'54"
8位 パオロ・ティラロンゴ(イタリア、ランプレ)+6'35"
9位 フィリップ・ダイグナン(アイルランド、サーヴェロ)+7'49"
10位 ファンホセ・コーボ(スペイン、フジ・セルヴェット)+10'46"

モンターニャ(山岳賞)
1位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)186pts
2位 ダビ・デラフエンテ(スペイン、フジ・セルヴェット)89pts
3位 ピーター・ウェーニング(オランダ、ラボバンク)60pts

プントス(ポイント賞)
1位 アンドレ・グライペル(ドイツ、チームコロンビア・HTC)123pts
2位 ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、リクイガス)81pts
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)80pts

コンビナーダ(複合賞)
1位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、ケースデパーニュ)10pts
2位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)11pts
3位 エセキエル・モスケラ(スペイン、シャコベオ・ガリシア)21pts

チーム総合成績
1位 シャコベオ・ガリシア 236h30'36"
2位 アスタナ +27'10"
3位 ケースデパーニュ +29'12"

リタイア(DNS=未出走・DNF=途中リタイア)
DNS マキシム・イグリンスキー(カザフスタン、アスタナ)
DNS ライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン)
DNS クリスティアン・メイヤー(カナダ、ガーミン)
DNS ベアト・グラブシュ(ドイツ、チームコロンビア・HTC)
DNF ジュリアン・ルベ(フランス、アージェードゥーゼル)
DNF トーマス・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン)
DNF ゲラルド・チオレック(ドイツ、ミルラム)
DNF ビョルン・ルークマンス(ベルギー、ヴァカンソレイユ)


text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos, Unipublic

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