いよいよ2015年の「北のクラシック」もクライマックスを迎える。第113回パリ〜ルーベ(UCIワールドツアー)が、4月12日、フランス北部の平野を舞台に開催。石畳を駆ける過酷なレースの注目ポイントと注目選手をチェックしておこう。



「アランベール」の森を真っすぐに貫く石畳「アランベール」の森を真っすぐに貫く石畳 photo:Tim de Waele


コース後半に詰め込まれた断続的な石畳が選手に襲いかかる

パリ〜ルーベ2015コースマップパリ〜ルーベ2015コースマップ image:A.S.O.「クラシックの女王」またの名を「北の地獄」。近代オリンピックと同じ1896年に第1回大会が開催され、今年で第113回を迎えるパリ〜ルーベが4月12日に開催される。

荒れたパヴェが落車やメカトラを誘発する荒れたパヴェが落車やメカトラを誘発する photo:Tim de Waeleパリ〜ルーベの特徴は何と言っても他のレースでは決して見ることが出来ない荒れたパヴェ(石畳)が連続して登場する異質のコースレイアウトだ。選手たちはバイクを抑え込みながら荒れたパヴェを突き進む。

砂埃を巻き上げてパヴェを突き進む砂埃を巻き上げてパヴェを突き進む photo:Makoto.AYANOパリ北部のコンピエーニュをスタートする253.5kmのコースはほぼフラット。平野部を縫うように蛇行しながらベルギー国境近くのルーベを目指す。レース前半の約100kmは快適なアスファルト舗装路が続くが、後半は休むまもなくパヴェ区間(セクター)が登場する。

パヴェを試走するエティックス・クイックステップの面々パヴェを試走するエティックス・クイックステップの面々 photo:Tim de Waeleフィニッシュ地点ルーベに至るまでに登場するパヴェは合計27区間。その総延長は52.7kmに及び、レース後半部の3分の1がパヴェに覆われている計算になる。

パヴェ区間のほとんどが握りこぶし大の石が敷き詰められた「悪路」だ。毎年補修が行われているものの、石と石の間の土は風雨によって浸食されており、鋭く角の立った石や段差がパンクや落車を引き起こす。これほどマシントラブルや落車の多いレースは他に類を見ない。荒れた路面が選手たちを苦しめ、ときに致命的なダメージを与える。

そこで要求されるのは、荒れた石畳のラインを読む高度な走行テクニックと、振動をいなしながら踏み切る走力だ。雨が降って路面が濡れればトラブル続出の「泥地獄」になり、晴れて乾燥すれば砂埃により呼吸もままならない「砂埃地獄」になる。

中でも有名なのが、難易度5つ星のNo.18アランベールとNo.10モンサン・ぺヴェル、そしてNo.4カルフール・ド・ラルブルの3セクターだ。いずれも全長が2kmを超え、その路面の荒れ具合を見ると5つ星も納得だ。

「アランベールの森」を貫く直線的なNo.18アランベールの全長は2400mで、その路面は荒れに荒れている。両脇が観戦用のフェンスで覆われているため、選手たちは荒れたパヴェの真ん中を走らなければならない。そしてここからレースは加速して行く。

難所No.10モンサン・ぺヴェルを越えるとフィニッシュまで残り47.5km。ここからのラスト1時間は一つのミスが命取りになる。

終盤にかけて大きな盛り上がりを見せるのが、難易度の高い3区間(No.6aシソワン・ブルゲル、No.6bブルゲル・ワヌエン、No.5カンファナン・ぺヴェル)を越えた後に登場するNo.4カルフール・ド・ラルブルだ。長さ2100mのこの難所を越えると、フィニッシュまで残り15km。その後の3区間の難易度は低く、カルフール・ド・ラルブルで勝負が決まる可能性が高い。

そんなパヴェレースの最後を締めくくるのが、スムースな路面のルーベ・ヴェロドローム(トラック競技場)。先頭でフィニッシュラインを駆け抜けた選手には、パヴェの石塊で作られたトロフィーが贈られる。



登場するパヴェ27区間(セクターNo.・地点km・名称・長さ・難易度)
27 98.5km Troisvilles à Inchy 2200m ☆☆☆
26 105km Viesly à Quiévy 1800m ☆☆☆
25 108km Quiévy à Saint-Python 3700m ☆☆☆☆
24 112.5km Saint-Python 1500m ☆☆
23 120.5km Vertain à Saint-Martin-sur-Écaillon 2300m ☆☆☆
22 130km Verchain-Maugré à Quérénaing 1600m ☆☆☆
21 133.5km  Quérénaing à Maing 2500m ☆☆☆
20 136.5km Maing à Monchaux-sur-Écaillon 1600m ☆☆☆
19 149.5km Haveluy à Wallers 2500m ☆☆☆☆
18 158km Trouée d'Arenberg(アランベール) 2400m ☆☆☆☆☆
17 164km Wallers à Hélesmes 1600m ☆☆☆
16 170.5km Hornaing à Wandignies 3700m ☆☆☆☆
15 178km Warlaing à Brillon 2400m ☆☆☆
14 181.5km Tilloy à Sars-et-Rosières 2400m ☆☆☆☆
13 188km Beuvry-la-Forêt à Orchies 1400m ☆☆☆
12 193km Orchies 1700m ☆☆☆
11 199km Auchy-lez-Orchies à Bersée 2700m ☆☆☆☆
10 204.5km Mons-en-Pévèle(モンサン・ぺヴェル)3000m ☆☆☆☆☆
9 210.5km Mérignies à Avelin 700m ☆☆
8 214km Pont-Thibaut à Ennevelin 1400m ☆☆☆
7 220km Templeuve (Moulin de Vertain) 500m ☆☆
6a 226.5km Cysoing à Bourghelles 1300m ☆☆☆
6b 229km Bourghelles à Wannehain 1100m ☆☆☆
5  233.5km Camphin-en-Pévèle 1800m ☆☆☆☆
4  236.5km Carrefour de l’Arbre(カルフール・ド・ラルブル)2100m ☆☆☆☆☆
3  238.5km Gruson 1100m ☆☆
2  245.5km Willems à Hem 1400m ☆☆
1  252km Roubaix 300m ☆


パリ〜ルーベ2015コースプロフィールパリ〜ルーベ2015コースプロフィール image:A.S.O.


王者不在のパヴェバトル クリストフの快進撃は続くのか?

パヴェを試走するアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)パヴェを試走するアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ) photo:Tim de Waeleロンド・ファン・フラーンデレンに続き、パリ〜ルーベもファビアン・カンチェラーラ(スイス、トレックファクトリーレーシング)とトム・ボーネン(ベルギー、エティックス・クイックステップ)という二強が不在の状況だ。

ニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ)ニキ・テルプストラ(オランダ、エティックス・クイックステップ) photo:Tim de Waele過去の優勝者リスト(下記参照)を見ると、この10年の間にカンチェラーラとボーネンの二強だけで合計7勝。2007年のオグレディと2014年のテルプストラは二強のアシストがアタックを成功させた例であり、例外は2011年のファンスーメレン(当時ガーミン)だけだ。

ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto.AYANO優勝候補としてまず最初に名前が挙がるのは、ここ数週間にわたって飛ぶ鳥を落とす勢いを見せているアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー、カチューシャ)だろう。デパンヌ3日間レースでスプリント3勝&総合優勝、ロンド・ファン・フラーンデレン優勝、シュヘルデプライス優勝など、クリストフはまさに無敵の活躍。カチューシャはルーカ・パオリーニ(イタリア)のヘント〜ウェヴェルヘム勝利以降、とにかく勝ち続けている。

ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)ジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン) photo:Tim de Waeleクリストフ本人は「平坦な石畳は得意ではない」と謙遜しているが、調子が良いことは間違いない。参考までにクリストフは過去5回パリ〜ルーベに出場し、2012年に57位で初完走。2013年の9位が最高位だ(2010年、2011年、2014年はDNF)。

セプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ)セプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ) photo:CorVosボーネンのいないエティックス・クイックステップは再びニキ・テルプストラ(オランダ)とゼネク・スティバル(チェコ)の二枚看板を掲げる。ディフェンディングチャンピオンのテルプストラはロンドで2位と好調であり、スティバルはシクロクロスで培ったバイクコントロールを生かして2013年6位(観客と接触して先頭争いから脱落)、2014年5位。ベルギーチームにはクラシックシーズンの低迷を打破するタイトルが必要だ。

ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ)ペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ) photo:Tim de Waeleこのパリ〜ルーベを最後にチームスカイを離れるブラドレー・ウィギンズ(イギリス)は初の大会制覇に向けて高いモチベーションで挑む。石畳を走るために前年比で8kgも増量したという。ウィギンズのパリ〜ルーベ最高位は2014年の9位。1週間前のロンドでは落車の影響で精彩を欠いたが、投入したばかりのニューバイクの感触を確認するようにして完走している。

2015年クラシックシーズンの主役の一人で、2014年大会7位のゲラント・トーマス(イギリス)がウィギンズの相棒を務める。他にもイアン・スタナード(イギリス)、ルーク・ロウ(イギリス)、ベルンハルト・アイゼル(オーストリア)らがウィギンズをバックアップ。なお、チームスカイと契約が切れる5月以降、ウィギンズは自身が立ち上げたUCIコンチネンタルチームのチームウィギンズの一員となり、2016年リオ五輪のトラックレースに向けた準備に100%集中する。つまりウィギンズにとってパリ〜ルーベは実質的に最後のUCIワールドツアーレース出場となる。

ミラノ〜サンレモを制したジョン・デゲンコルブ(ドイツ、ジャイアント・アルペシン)は2014年大会で2位に入り、石畳レースへの高い順応性を見せつけた。クリストフ同様、ベロドロームでのスプリント争いに持ち込まれればチャンスがある。

2013年大会で2位に入ってブレイクしたセプ・ファンマルク(ベルギー、ロットNLユンボ)や、ヘント〜ウェヴェルヘムでの落車から復活してロンドで3位に入ったグレッグ・ファンアフェルマート(ベルギー、BMCレーシング)、ユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ソウダル)らがベルギーの希望。ロット・ソウダルからはロンドで再三アタックしたアンドレ・グライペル(ドイツ)やロンド5位の21歳ティエシー・ベノート(ベルギー)も出場する。

今シーズン存在感の薄いペーター・サガン(スロバキア、ティンコフ・サクソ)はここで名誉挽回なるか。悪路走行に長けた2014年ツール・ド・フランス石畳ステージ覇者ラース・ボーム(オランダ、アスタナ)にも注目だ。


歴代パリ〜ルーベ優勝者
2014年 1位 テルプストラ、2位 デゲンコルブ、3位 カンチェラーラ
2013年 2位 カンチェラーラ、2位 ファンマルク、3位 テルプストラ
2012年 1位 ボーネン、2位 テュルゴー、3位 バッラン
2011年 1位 ファンスーメレン、2位 カンチェラーラ、3位 チャリンギ
2010年 1位 カンチェラーラ、2位 フースホフト、3位 フレチャ
2009年 1位 ボーネン、2位 ポッツァート、3位 フースホフト
2008年 1位 ボーネン、2位 カンチェラーラ、3位 バッラン
2007年 1位 オグレディ、2位 フレチャ、3位 ウェーゼマン
2006年 1位 カンチェラーラ、2位 ボーネン、3位 バッラン
2005年 1位 ボーネン、2位 ヒンカピー、3位 フレチャ

text:Kei Tsuji
photo:Tim de Waele
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