アメリカCX界の大御所であり、かのレッドブルやフォルクスワーゲンからもサポートを受けるティム・ジョンソンが再びCX東京のために来日。今やすっかり日本のファンにも馴染んだ彼が、過密なスケジュールを縫ってユーモアたっぷりにインタビューに応じてくれた。前編、後編に渡ってその模様をお届けします。



再び日本にやってきたアメリカのレジェンダリー・シクロクロッサー、ティム・ジョンソンにインタビュー再び日本にやってきたアメリカのレジェンダリー・シクロクロッサー、ティム・ジョンソンにインタビュー photo:Yuya.Yamamoto
― 今回は忙しいスケジュールの中ありがとうございます。さて、来日経験も多く、もうすっかりと日本経験値も上がっているのでは?日本のファンにも「ティム・ジョンソン」の名前はかなり浸透したと思います。今朝は築地に行ったみたいですね。

こちらこそありがとう。よろしく。

築地はとても面白かったよ。マグロの競りを見ることはできなかったけどね(注:先着順に漏れてしまった)。美味しいトロを食べられたし、妻のリンは好物のイクラがあまりにも美味しくて驚いていた(笑)。ウニもアメリカではあんまり美味しくないけど、今朝食べたのは良かったね。美味しかった。あとフグのシャブシャブもいつか食べて気に入ったものの一つ。逆に以前東京で食べた「お好み焼き」はちょっとダメだったかな。大阪が本場だと聞いたから次は大阪に行かなきゃね(笑)。

もともと日本については5つのイメージがあったんだ。「トーキョー」「人ごみ」「築地」「電車」「地下鉄」。今回はその中の一つを攻略したからハッピーさ。

あと来日していつも驚くのが、スイーツが全然「スイート」じゃないこと。アメリカじゃ全てがリアルにスイートだからね(笑)。糖分控えめだけど美味しいし、アメリカだとどうしても糖分が気になるから、日本に暮らしたらあまり心配せずにスイーツを食べられるかも。

そうそう、2年前に寿司屋に案内してもらった時、そこのマスターにメニューについて「一般的なコース?それとも冒険してみる?」と聞かれた。迷うこと無く「冒険してみる!」と言ったんだ。あの夜はとても刺激的だったことを思い出したよ(笑)。

― ところで、だいぶ素敵なカードを用意したんですね。

キャノンデール・ジャパンが作ってくれたやつだけど、イケてるよね。「愛してるぜ、東京」の意味も理解しているよ。ちょっとメローなニュアンスなんだろ?(笑)。

「ナイスなカードだろ?Kon nichi whaaaatttt」「ナイスなカードだろ?Kon nichi whaaaatttt」 photo:Yuya.Yamamoto
『kogawatcr』さんがティムに渡した自作ステッカー。「この場を借りて、もういちど、ありがとう!」とティム『kogawatcr』さんがティムに渡した自作ステッカー。「この場を借りて、もういちど、ありがとう!」とティム ー「コンニチ・ワァァァァァァット?(Kon nichi whaaaatttt)」には何か意味があるんですか?

たくさんのファンと交流したティム。たくさんのファンと交流したティム。 photo:Yuya.Yamamotoある!「whaaaatttt」はアメリカのstupidなスラングで、例えば酔っぱらったときとかに使うフレーズ。「今日めっちゃ良かったよなー」の「なー」に当たると言えば分かるかな?出力を表すワットと、そこに「コンニチワ」を掛けた言葉遊びなんだ。aが4つ、tが4つだから間違えないように(笑)。

なかなかウケが良くって、キャノンデール・ジャパンからカードを作ると言われた時、このフレーズと漢字を絶対に使ってくれってお願いしたんだ。「好きだぜ、東京」のフレーズもマーケティングはなくて本心からだし、さっき「Kon nichi whaaaatttt」ってInstagramに投稿した写真も30分で100likeがついたんだ(笑)。日本人アカウントも多くて、迎えられてる気持ちになったよ。この場を借りて「アリガトウ」と伝えておいてくれないかな。頼んだよ。

― 分かりました(笑)。

それこそレースや観光で世界中のありとあらゆる所に行ったことがあるけれど、僕は日本に来るのが好き。アメリカとヨーロッパは基本的に文化も言語も似ているけど、東京は違うよね。何もかもが違くて本当に面白い。ドイツやフランス、スペインだったら確実に全て行く必要が無いと思うけれど、今のところ日本は与えられた全ての機会に来日している。これはリップサービスじゃないよ(笑)。僕はこの仕事のおかげで日本という国を紹介してもらう機会があったからラッキーさ。自分にとって新しい文化に触れることができることも、レーサーをしてて良かったと思う部分なんだ。

― キャノンデールのバイクについて教えてください。

ティムが駆ったキャノンデール SUPERX HI-  MOD DISCティムが駆ったキャノンデール SUPERX HI- MOD DISC photo:Yuya.Yamamotoシクロクロス東京を走るティムシクロクロス東京を走るティム photo:Yuya.Yamamoto自分のSUPER Xはとても気に入っている。CAAD 9をベースにしたジオメトリーを採用していて、僕らチームが開発段階から携わっているモデルなんだ。油圧ディスクブレーキを使ってもフレームが負けることがないし、何より走りが軽い。細かくキャノンデールと打ち合わせを重ね、細かなアップデートも重ねているんだ。クセが無いから誰にでもおすすめしたいモデルだよ。

「ディスクブレーキは砂に向いていないという声もあるけど、そんなことは無い」「ディスクブレーキは砂に向いていないという声もあるけど、そんなことは無い」 photo:So.Isobeキャノンデールのバイクで今一番気に入っているのはMTBのTRIGGER27.5。昨年の発表会で乗ったんだけど、とても驚いたね。ボタン1つでDHポジションとXCポジションの切り替えができて、状況次第で変わる走りを的確にサポートしてくれるんだ。もう僕のガレージには一台用意したんだけど、一番エキサイティングなバイクだと思う。

― 何台も乗り換えて使っているんですか?

そう。ロード、CX、MTBの3つ。一番乗車率が高いのがディスクロードのSYNAPSE DISCだね。ロードレースではSUPERSIX EVOに乗るけれど、ロードトレーニングはSYNAPSE。家の周りには舗装の良くない道路が多いから28cや30cのタイヤを履かせてるんだ。快適だし、ホイールも軽いものを装着しているから登りだって悪くない。同じような環境の場所では絶対にSYNAPSEがおすすめすだよ。

― そう言えば、世界中のプロ選手の中でいち早くディスクブレーキを使い始めたことも新鮮でした。

ディスクブレーキはここ最近で一番の機材的進化じゃないかな。カテゴリーを問わず、ほぼ大多数のライダーにマッチすると思っているよ。雨や泥でも全く問題なく効くし、女性やキッズライダーには特に良いだろう。重量がかさむデメリットもあるけれど、確実にメリットのほうが大きいと思う。

― でもヨーロッパではカンチブレーキが主流ですね。なぜでしょうか?

やっぱり長い伝統にこだわる部分が多いからだと思う。おじいさんから親、孫、叔父に兄弟…。皆カンチブレーキだから新しいシステムが浸透しにくいんだろう。「ディスクは効きすぎて怖い」という声をよく聞くけれど、継続的にチャレンジしないのはナンセンスだと思う。最初僕がディスクブレーキバイクをヨーロッパに持ち込んだとき、「うわぁ何だこれ。MTB?」と多くの選手に言われたよ(笑)。でも今の世界チャンピオンはディスクブレーキユーザーで、彼のメカニックはかつて世界チャンピオンだった父親なんだ。強い選手や家系が使えば一気に浸透していくはずだよ。

「ファンデルハールはブレーキに慣れる練習を重ねていたに違いないとtweetしたら本人から返事が来たよ」「ファンデルハールはブレーキに慣れる練習を重ねていたに違いないとtweetしたら本人から返事が来たよ」 ニールス・アルベルト(心臓病で引退した元世界王者)と話をしたことがあって、彼は音が気に入らないからディスクブレーキを使わないと言ったんだ。彼の言ったことが信じられなかったよ。「音!?」みたいな。でもその後にディスクブレーキを使うラルス・ファンデルハールが2013-14シーズンのワールドカップ初戦で勝った。

そうしたら2週間後のレース、コッペンベルグクロスでアルベルトはちゃっかりディスクブレーキの自転車を用意していたんだ。でも全く慣れていないようで、下りが絶望的に遅くてあっという間にピットでカンチに乗り換えてしまった。あの後Twitterに「ファンデルハールはブレーキに慣れる練習を重ねていたに違いない。賭けても良い。」と書きこんだら(画像)、ファンデルハール本人から「3月から使っていたよ」と返事が来た(笑)。何でもそうだけど、付け焼き刃じゃダメだってことだね。

― どのくらい習熟期間をとったんですか?

SRAMの油圧式が開発段階のうちから使っていたからかなり長い。今年で4年目になるかな。ファンデルハールもオフシーズンに入ってからすぐに使い始めたというから、ホビーレーサーのみんなも、変えるなら春夏のオフシーズン中が良いと思う。アルベルトみたいにいきなり実戦投入はダメだぜ(笑)。

後編に続く。

text:So.Isobe
photo:So.Isobe,Yuya,Yamamoto