7月19日に静岡県伊豆市で開催された第27回全日本MTB選手権大会。ダウンヒル男子では安達靖が優勝し、自身4年ぶり、5度目の全日本チャンプとなった。



優勝した安達靖(ダートフリーク/サラセン)。ゴール手前の川越えラインを飛ぶ優勝した安達靖(ダートフリーク/サラセン)。ゴール手前の川越えラインを飛ぶ photo:Hiroyuki.NAKAGAWA
現在の国内トップライダー達が海外を目指すようになって、特に重要視されているのがナショナルチャンプのタイトルだ。日本最速を決める一発勝負のこのタイトルは、国内においても最も高い価値のある称号であるが、海外で活動するにあたっては特にナショナルチャンピオンジャージを着用しているだけで、他に何の説明をする必要のない、特別な重みを持つ。

大会期間中、最も乗れていた永田隼也(アキファクトリーチーム)。コンマ差で安達に敗れた大会期間中、最も乗れていた永田隼也(アキファクトリーチーム)。コンマ差で安達に敗れた photo:Hiroyuki.NAKAGAWA今期からイギリスのチーム、マディソンサラセンに移籍した清水一輝をはじめ、昨年のチャンピオンである井手川直樹(ダビンチ/ストライダー)、永田隼也(アキファクトリーチーム)、井本はじめ(ラブバイクス)、九島勇気(玄武/ターナー)らの海外を転戦するライダーにとっては、どうしても欲しいタイトルである一方、国内での活動を展開する青木卓也、浅野善亮のジャイアント勢、雫石でJシリーズ初優勝を決めた阿藤寛(コメンサル/トップノット)らにとっては、この大会を1年のピークに調整して必勝を期す事となる。

3位となった九島勇気(玄武/ターナー)。ジャンプを得意とする選手だ。3位となった九島勇気(玄武/ターナー)。ジャンプを得意とする選手だ。 photo:Hiroyuki.NAKAGAWA昨年度とほぼ同じレイアウトが用意されたコースは標高差143m。ペダリング重視である事から多くのライダーがダウンヒルバイクではなく、いわゆるオールマウンテン系のバイクをチョイスした。ホイール径はすっかり定着しつつある27.5インチが目立つ。決勝の直前まではドライコンディションでの試走、予選だったが、決勝当日の天気予報は午後から雷雨。そして予選が終わったタイミングで現地は雨となった。

ジュニアで優勝した加藤将来ジュニアで優勝した加藤将来 photo:Hiroyuki.NAKAGAWA2年連続の開催となるこの会場だが、過去にマッドコンディションで走ったライダーはいない。決勝直前、各チームが慌ただしくタイヤセレクトに悩む中、女子の決勝が行われる頃には、雨は激しさを増し、雷を伴ってレースは一時中断の判断が下される事となった。

エリート男子表彰式エリート男子表彰式 photo:Hiroyuki.NAKAGAWA激変してしまったコースコンディション中で再開されたレースは転倒するライダーが続出。すべてのライダーが自身の過去の経験から、このコースのマッドを想像し、ぶっつけ本番で出走したが、その土質は多くのライダーの想像を超えたレベルまで滑りやすくなっていた。

決勝では予選15位だった安達がホットシートに座ったが、あとにはまだ14人のライダーが残っていた。そこから順にトップライダーがゴールエリアに現れたが、予選7番手だった井手川がフィニッシュしたあたりから、安達のタイムが相当に速く、勝敗を左右するものであることがわかってきた。ゴール前で待つ誰にとっても、優勝タイムは想像できず、そこから最終走者である永田までの時間はとても長く感じるものだった。

勝者は安達靖。予選トップ通過だった永田のタイムはコンマ891秒安達に届かず、安達靖の優勝が決まった。4年前、全日本選手権、Jシリーズポイント、ナショナルポイントの3冠を達成し、ゼッケン1番の権利を有したまま引退した安達靖。2012年に現役に復帰してからは勝利に届かず、苦しい戦いが続いていたが、難しいコンディションのレースで快心の走りを決めた。


ー復帰して2年目の勝利となりました。
「2012年の秋に走ったウイングでは予選1位、決勝3位でしたよね。あれで現役復帰を決意しましたし、もうちょっと簡単にいくかな、と思っていたのは事実です。復帰してから勝てない状態が続いて、それは走りもそうだけど、気持ちをやっぱり勝ち負けのレベルまで持っていけてなくてね。そのあたりのバランスが大きかったと思いますね。」

ー長かったですか?
「そうですね、まともに走っても(成績は)ぜんぜんダメでしたから。レース勘が鈍ったというか、なんだったんでしょうね。体力的にも、特に瞬発力とかはキツかったというのがあって。ここ(全日本)に来るまでにその辺りを重点的にやってはきましたけどね。今回はやっとすべてうまくいったという感じはします。」

ー機材面ではどうでしょう?
「成績が出ないと、どうしても機材のせいにしたくなってしまう心境はあったかもしれません。でも今日はチームの完全なサポートがあって、じっくりとセッティングを煮詰める事ができてきました。特に今年の開幕以降はかなり良い手応えを感じているので、残りのレースも楽しみですね。」

優勝を決めた直後の安達靖(ダートフリーク/サラセン)。雨が降り続いていた優勝を決めた直後の安達靖(ダートフリーク/サラセン)。雨が降り続いていた photo:Hiroyuki.NAKAGAWA
ー決勝の走りについて教えて下さい
「最も危ない場面だった」と安達が振り返ったコーナー。「最も危ない場面だった」と安達が振り返ったコーナー。 photo:Hiroyuki.NAKAGAWA「イクザワ時代は予選もタイムドセッションも、常に全開でやってましたけどね、今回は特にそれじゃあもたないような感じがあって。それで抑えて、抑えて、そんな感じでした。本当は決勝もドライで、タイム的にも文句無しで勝てれば良かったですけど、雨でそれは叶いませんでしたね。コンディションは本当に激変してましたよ。女子の決勝を見て、泥の状態とか観察して想像しましたけど、そこまで悪くはないかな、って思っていました。実際には最初のシングル入口で。これはヤバいって思いました。それでも攻めまくって、抑えるところは慎重に行って、最後の最後、川の手前でホントに転ける寸前までバランス崩しちゃって、両足離れてギリギリでしたけど、なんとか転倒せずにゴールできました。」

ー全日本のタイトルを獲りました。次はどこを目指しますか?
「今回はこのコースだから勝てたっていう部分が大きいと思っています。Jシリーズ残り、もちろんシリーズチャンピオンも狙いたいですし、富士見とか普段のシリーズでも勝ちたいですよね。なんといっても、まずはひとつ獲りました。これで気持ちの部分ではずいぶん楽になったように感じています。この勢いを大切にして、後半戦も突っ走っていきたいですね。」



女子は末政実緒が前人未到の15連覇を達成

今期から競技の種目をクロスカントリー主体にスイッチした末政実緒。ワールドカップではユニオールツールズの一員としてすでに活動を始めているが、国内ではダウンヒルの女王として全日本のタイトルを過去14年間に渡って維持し続けている。連日の開催となるダウンヒルとクロスカントリー両方への参戦は体力的にも精神的にもキツいものがあるが、「現役でいる間は守りたいタイトル」として今年もダウンヒルに参戦。降り出した雨に苦戦し、転倒を喫した末政はハンドルとサドルを大きく曲げた状態でフィニッシュエリアに現れたが、後続に9秒の大差をつけて連覇を15に伸ばした。

コース中間部のシングルトラックを抜ける末政実緒(ダートフリーク/サラセン)コース中間部のシングルトラックを抜ける末政実緒(ダートフリーク/サラセン) photo:Hiroyuki.NAKAGAWA
ー決勝一本勝負のダウンヒルで15回連続のタイトル獲得、今年は特に雨でコンディションが激変しましたね。過去の経験と照らし合わせて、今回はどうでしたか?
「けっこうマズかったですよね。焦ったというのも含めてワースト3には入ると思います。2004年だったかな、コース外に落ちちゃった田沢湖とか、2週間前に怪我した年もありましたよね。今回、転けちゃった時はかなりびっくりしました。ハンドルが曲がってしまったんですけど、コースも短いし、その場で直すより、そのまま走る方を選びました。」

ゴール後、末政のバイクはサドルとハンドルが曲がったままだったゴール後、末政のバイクはサドルとハンドルが曲がったままだった photo:Hiroyuki.NAKAGAWA女子決勝、コースは超スリッピーだった女子決勝、コースは超スリッピーだった photo:Hiroyuki.NAKAGAWAー決勝直前の雨でコースの状況は予想するしかなかったと思います。実際にどんな感じでしたか?
「滑るだろうな、とは思っていたので慎重に走り始めました。どこかでフロントが滑った時にこれは予想以上だな、と思いました。まっすぐ走らないというかそんな感じでしたね。」

ー末政選手にとって、全日本のタイトルはどのような意味を持っていますか?人生の半分近くを全日本チャンプでいるわけですが
「そうですね。やっぱりどうしても獲りたいんですよ。現役であるうちは一番であり続けたい、そういう中で大きなタイトルである事は間違い無いですね。連覇っていうのは続けていないと達成できないですよね。そして続いているなら伸ばしていきたい。」

エリート女子表彰式エリート女子表彰式 photo:Hiroyuki.NAKAGAWAー「無事に優勝しました!」とコメントできる唯一の選手だと僕は思っているのですが
「周囲の人達からは大丈夫、とか、普通に走ったら勝てる、と言われ続けてきましたよね。でも、レースは何が起こるかわからないんです。いくら調子が良くても、予選でぶっちぎりでも、決勝でもう一度同じように走れるとは限らないんです。常に慎重に、常に予期せぬ事態を想定して、そうやって走って、なんとか勝ち続けてきましたね。」

ーそして15連覇を達成しました
「私の中では、すべてが一つのレースなんです。一つのレースに集中して、それが結果的に15回の連覇につながったのかな、とそんな感じです。勝って当たり前なんていうレースはありません。常に本気なんです。目の前のレースに全力で取り組んで、すべてがうまくいった時に、そのレースを勝つ事ができるんじゃないでしょうか。」

ー今年は男子でもチームメイトの安達選手が勝ちました
「嬉しいですね。チーム一丸となって取り組んでますからね。それぞれの経験とか知恵を出し合ってつかんだ男女優勝ではないでしょうか。素晴らしいサポートを受けています。最高のチームだと思いますね。」



全日本MTB選手権DH2014 男子エリート結果
1位 安達靖(ダートフリーク/サラセン)
2位 永田隼也(アキファクトリーチーム)
3位 九島勇気(玄武/ターナー)
4位 浅野善亮(ジャイアント)
5位 青木卓也(ジャイアント)
2:28.834
+0.891
+0.900
+1.470
+2.112


全日本MTB選手権DH2014 女子エリート結果
1位 末政実緒(ダートフリーク/サラセン)
2位 九島あかね(玄武)
3位 中川綾子(チームYRS)
4位 中川弘佳(Lovespo.com/ laugh laugh)
5位 中村美佳(福井和泉MTB PARK)
2:52.651
+9.692
+29.922
+50.014
+1:19.107


photo&text:Hiroyuki.NAKAGAWA/SLm

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