昨夜のうちにドーバーを渡ったツールの一行。選手たちはスタート後にすぐロンドン・シティエアポートへ専用シャトルで送られ、飛行機でフランスへ。スタッフたちは陸路でドーバーへ向かい、協力スポンサーになっているフェリー会社の便で海峡を渡った。

私はゴール後のロンドンの大渋滞を見越して日を越してからのフランス入りにしていた。越境列車「ユーロスター」のトラブルという事態もあって、他の取材チームも大変な思いをしてドーバーを越えたようだ。越境後は左から右ハンドル車へ交換、車両の登録し直しなど、雑務が増える。1時間の時差に違和感を少し感じながらも、レースには中間地点から合流した。



フランスでの初日。ツール・ド・フランスの到来を待つ子どもたちフランスでの初日。ツール・ド・フランスの到来を待つ子どもたち photo:MakotoAYANOフランスに戻り、落ち着きを取り戻したツール。コースにはみ出た観客が選手と接触したり、観客が突き出すカメラを選手が叩き落としたり、流行りのセルフィーで集団を撮った画像をアップした人がこき下ろされたり、ネット上でも散々な動画や写真がアップされている。そんなトラブルが多かったヨークシャーを無事やり過ごしたというのに、フルームはまさかの落車の犠牲に。

サン・オマールの街は近々U23以下のフランス選手権レースが開催されるようだサン・オマールの街は近々U23以下のフランス選手権レースが開催されるようだ photo:MakotoAYANOベルキンのある選手が突然ラインを変えて、後方にいたイェンス・ケウケレール(オリカ・グリーンエッジ)が落車、それに巻き込まれてのことらしい。明日のパヴェステージを前に、影響が出そうだ。

ケウケレールは集団に戻ってすぐにフルームに謝りに行ったが、ベルキンの選手が原因だとわかっていたフルームはすぐに許してくれたという。ケウケレールはフルームを巻き込んだとき、「なんてこった、昨年のツールウィナーを転かしちゃったぞ」と青ざめたという。

フランスがイギリスより静かとはいえ、フランスいちの人気者、トマ・ヴォクレール(ユーロップカー)が逃げていると知れば大いに盛り上がる。撮影に立ち寄ったサン・オマールの街は近々U23以下のフランス選手権自転車競技(ロードやBMX含めほとんどすべて)が開催される街のようで、横断幕も張られていた。
「アレ(行け)・トマ!」コールで沿道は沸き、いつものツールの光景に。フランスのツールは良い雰囲気でスタートしたようだ。

2人で逃げ続けるトマ・ヴォクレール(ユーロップカー)とルイスアンヘル・マテマルドネス(コフィディス)2人で逃げ続けるトマ・ヴォクレール(ユーロップカー)とルイスアンヘル・マテマルドネス(コフィディス) photo:MakotoAYANO


スプリント最強を示したキッテルとジャイアント・シマノ

ゴール直前でマルセル・キッテル(ジャイアント・シマノ)がアレクサンダー・クリストフ(カチューシャ)を交わすゴール直前でマルセル・キッテル(ジャイアント・シマノ)がアレクサンダー・クリストフ(カチューシャ)を交わす photo:MakotoAYANO今ツールで最強のスプリント列車を誇るジャイアント・シマノにとっても、このステージのフィナーレは難しかったようだ。トリッキーなコースに加えて、追い風に乗ったプロトンは超ハイスイードとなり、さすがのジャイアント・シマノ列車も集団コントロールができなくなった。

ラスト1kmではクーン・デコルトが牽引して、トム・フィーラースがキッテルを集団前方に引き上げて離脱。キッテルは最後ひとりになり、ロングスプリントでチームメイトを残したアレクサンダー・クリストフ(カチューシャ)を追い込むのに手を焼いた。ガッツポーズを出す余裕のない僅差の3勝目。キッテルとジャイアント・シマノは理想的なスプリントには持ち込めなかったが、それでも勝てることを証明した。

ステージに臨む前にはビデオとグーグルアースでコースを研究したという。キッテルはその記憶から、「考えていたのは最後のコーナーのことだけ。コーナーを曲がって250mでフィニッシュだと知っていたから、長いスプリントで一度下がったものの、なんとかクリストフを追い抜けたよ」。

キッテルの勝利を知って喜ぶトム・フィーラースとクーン・デコルトキッテルの勝利を知って喜ぶトム・フィーラースとクーン・デコルト photo:MakotoAYANOジャイアント・シマノのトレインを早い段階で引いたジョン・デゲンコルブ(左)とロイ・カーヴァスジャイアント・シマノのトレインを早い段階で引いたジョン・デゲンコルブ(左)とロイ・カーヴァス photo:MakotoAYANO

ゴールのリプレイに見入るペーター・サガン(キャノンデール)とマルセル・キッテル(ジャイアント・シマノ)ゴールのリプレイに見入るペーター・サガン(キャノンデール)とマルセル・キッテル(ジャイアント・シマノ) photo:MakotoAYANO
喜びを表現しながらゴールに帰ってくるチームメイトたち。キッテルもそれを迎えながらポディウムの脇ではゴールシーンのリプレイに見入っていた。終盤の落車でパンツに少し血を滲ませたサガンと、ガッチリ握手を交わす。「シリアスなクラッシュじゃなくてよかったな!」。



コカールのアシストをするユキヤ 自分のステージ勝利狙いは当分おあずけ?

フランス期待のスプリンター、ブライアン・コカール(ユーロップカー)フランス期待のスプリンター、ブライアン・コカール(ユーロップカー) photo:MakotoAYANOユーロップカーのブライアン・コカールは5位。初めてのツールにして第1ステージ4位・第3ステージ4位、そして今日5位と、トップ5に必ず絡んでいる。第3ステージのスプリントはうまく行かなかったと不満も漏らしている。

トラック競技をルーツに持ち、並外れた乗車テクニックを持つこともコカールが落車の影響無くゴール勝負に絡んでくる要因だ。フレンチトリコロールを着る4位のアルノー・デマール(FDJ.fr)と並ぶフランス期待のスプリンターは、勝利のすぐ一歩手前まで来ている。

ピエール・ロランがシリル・ゴティエにアシストの感謝の気持を表すピエール・ロランがシリル・ゴティエにアシストの感謝の気持を表す photo:Miwa.Iijimaそうなるとユーロップカーはコカールのステージ優勝とあわせマイヨヴェール獲得も期待する。中間スプリント賞のポイントを重ね、パリでのマイヨヴェール獲得も視野にある。コカールは言う「サガンは打倒することが難しいとしても、マイヨ・ヴェールに挑戦することは最後まで諦めない」。

コカールのチャレンジは、同時に新城幸也にとっては自己犠牲を強いられることを意味する。中間ポイント、そしてステージ終盤の早い段階での牽引。総合を狙うピエール・ロランも第2ステージで少し遅れただけだ。総合狙いとスプリント。両方の目標があると、自分の勝利を目指しては自由に動くことはできなくなる。

ブライアン・コカールのスプリントに向けて早い段階でユーロップカー列車を引いた新城幸也ブライアン・コカールのスプリントに向けて早い段階でユーロップカー列車を引いた新城幸也 photo:MakotoAYANO
ユキヤは今日、思ったように仕事ができなかったことに不満気だ。「今日はずっとペースが速かった。トマの逃げは捕まったというより、メイン集団の中でゴールスプリントに向けての位置取り合戦でペースが上がり、吸収された感じ。ラスト10kmは濡れた路面がとても危険で神経を使うから、精神的に疲れた。今日はあまり良い仕事ができなかったし…」。



「ツールの声」マンジャスさんの最後のツール 

「ツールの声」ダニエル・マンジャスさんにとって最後のツール・ド・フランスだ「ツールの声」ダニエル・マンジャスさんにとって最後のツール・ド・フランスだ photo:MakotoAYANOツールのポディウムをいつも盛り上げるコメンテーター、ダニエル・マンジャスさんにとって今年が最後のツールになるという。氏はスタートのサイン台で、またはゴール後のポディウムで選手たちを紹介してきたお馴染みの存在。少しハスキーな声で選手を紹介。あるいは、華やかなフィニッシュを迎えるゴール地点で観客を盛り上げる、ツールにとって欠かせない存在だ。

英国内の英語実況を務めたアンソニー・マクロッサン氏(右)とおなじみダニエル・マンジャス氏英国内の英語実況を務めたアンソニー・マクロッサン氏(右)とおなじみダニエル・マンジャス氏 photo:MakotoAYANO自転車レースの博識ぶりはジャーナリスト以上。レース結果が載った新聞のスクラップをコレクションし、スタートサインの場では選手の戦歴をリザルト共に的確に紹介する。小さな国内レースの結果だってほぼ暗記している。日本のユキヤ・アラシロがヨーロッパプロになる前にツール・ド・おきなわで勝ったことさえもアンチョコなしで空(そら)でアナウンスするほどだ。マンジャスさんは今年のツールを最後にコメンテーターの仕事を引退すると前から決めていたという。

すれ違うジャーナリストたちも皆がマンジャスさんに、引退を惜しむ敬意の握手をする。「最後のツールですね。3週間、よろしくお願いします」。と、私も伝えて写真を撮らせてもらった。ひとりでは照れるのか、アンソニーさんを道連れに写真に収まる。そして、「以前のロンドンでのことを覚えていますよ。あのときはありがとう」と話しかけてくれた。

何のことだろうか? と一瞬思ったが、すぐにピンときた。こちらの記憶がすでに薄くなっていたが、マンジャスさんは前回ロンドンでグランデパールを迎えた2007年のチームプレゼンテーションの際、チーム紹介がなかばを迎えた時、手にしていたメモを風にさらわれた。それがステージ下に落ちてしまった。フォトグラファーエリアいた私がそれに気づいて取りに行き、ステージ下から手渡ししたことを覚えていてくれたのだ。

その紙には進行表と一緒に手書きのメモがあった。たぶん、そんな紙を見なくても進行に影響はないと思うけれど、マンジャスさんはそれ以降、私を見かけるとウィンクか握手で挨拶してくれるようになった。でもそれも7年も前のこと。

資料によれば、マンジャスさんがこの仕事を始めたのは40年前。当時のツールの司会役を載せた車が故障して司会者がゴールに辿りつけなくなり、その代打で急遽「大役」を任せられた。当時、パン屋の見習いをしていたという。自転車レースの博識ぶりが評判になっていたからこそ立った白羽の矢だった。ASOの職員となってこの仕事を40年間続け、フランス語オンリーで英語は苦手(日常会話はOK)。ヨークシャーステージの3日間は英国人コメンテーターのアンソニー・マクロッサン氏と一緒に盛り上げた。デルニ(最後の)・ツールとなるマンジャスさんの後継者は複数人になるとのこと。ツールの国際化とともに、英語や多国籍言語を話すことが可能な人、さらにチームで対処するようになるという。



パヴェステージの準備をするメカニックたち

レースを終えて、チームのホテルを回ってみることにした。トレックファクトリーレーシングが泊まっているリール・レスカンのホテルでは、19時を回ってもまだまだバイクセッティングの真っ最中だった。

ファビアン・カンチェラーラのバイクをセットアップするメカニックファビアン・カンチェラーラのバイクをセットアップするメカニック photo:MakotoAYANO
主催者からは複数台のバイク用にゼッケンプレートが用意された主催者からは複数台のバイク用にゼッケンプレートが用意された photo:MakotoAYANOカンチェラーラのスパルタカスデザインのバイクは3台同じものが用意されていた。聞けば、どの選手にも2台のスペアを含む3台のパヴェ用バイクが用意される。真新しいものが多いのは、「パリ〜ルーベに出ていない選手が多いからだ。

トレックファクトリーレーシングの場合、新型のエモンダ、マドン、ドマーネの3種(TTバイクを入れると4車種)を使い分ける。エモンダとマドンは選手のタイプと好みでチョイスされるが、明日のパヴェ用には全員がドマーネに乗る。

アスタナのソワニエ(スタッフ)と、クレディ・リヨネのライオンアスタナのソワニエ(スタッフ)と、クレディ・リヨネのライオン photo:MakotoAYANOフランク・シュレクは「パヴェ専用のバイクを用意できるのは、他のできないチームより圧倒的に有利だ」と話す。メカニシャンは「すでに以前から今日のためにバイクは用意していたので、今日の作業は膨大とはいえスムーズ。バーテープは2重巻きにして、サテライトスイッチやギア比の好みをセットアップする。ファビアンはフィーリングを重視して1重巻きだけどね」。

アスタナの駆るスペシャライズド・ルーベ(プロ供給モデル)アスタナの駆るスペシャライズド・ルーベ(プロ供給モデル) photo:MakotoAYANOワイヤーなど扇動部を念入りにメンテナンス。BBのベアリングなども新品に交換し、抵抗の少ないグリスやオイルを各部に塗ってファインチューニング。

アスタナはスペシャライズドの本社スタッフが3人ヘルプして、パヴェ用バイク「ルーベ」をセットアップ。ホイールはクラシックなアルミリムの手組ホイールが用意されていた。

いちばんやっかいなのはニーバリのバイクのようで、今ノーマルステージで乗っているサメのイラスト入りバイクをサイズ測定器で念入りに測っている。ニーバリはパヴェのレースを走ったことがないのでバイクがなく、イチから組み上げる必要があるからだ。同じポジションが出るように、サドルの傾きまで精密に測っていた。

ジャイアント・シマノのメカニシャンは、「今日は応援の手を借りて一日中作業をしているけど、パリ・ルーベとロンド・ファン・フラーンデレンのメンバーが多めにかぶるので、新たに用意する未経験メンバーのバイクに作業時間を大きく割いたね。大変だけどサービスコースで予めの用意は済んでいたから。それでもロードモデルと同じパワーメーターを使用したいから、クランクセットを外してパヴェ用バイクに換装しなおすんだ」と言う。こちらもバイクは各選手3台づつ。ほぼパリ・ルーベバイクをそのまま使用する感じだという。

「ホイールは何本用意しますか?」の問いには、「天候に合わせて数種類のタイヤとホイールの組み合わせをバリエーションで4タイプ用意しているので、スペアを含めて数えきれないね。たくさん過ぎて、十分足りているとは思うけれど(笑)」。

トレック・ファクトリーレーシングのタイヤはパリ・ルーベで定番のFMB Paris-Roubaixだトレック・ファクトリーレーシングのタイヤはパリ・ルーベで定番のFMB Paris-Roubaixだ photo:MakotoAYANOアスタナのホイールはアルミリム+ノーマルスポークによるクラシックな手組みホイールアスタナのホイールはアルミリム+ノーマルスポークによるクラシックな手組みホイール photo:MakotoAYANO

ジャイアント・シマノが用意したヴィットリアのグラベル用28Cチューブラージャイアント・シマノが用意したヴィットリアのグラベル用28Cチューブラー photo:MakotoAYANOヴィットリアの悪路用超定番タイヤ、パヴェCGを使用するジャイアント・シマノヴィットリアの悪路用超定番タイヤ、パヴェCGを使用するジャイアント・シマノ photo:MakotoAYANO


パヴェ用バイクにクランクセットなどを移植する。クランク内蔵型パワーメーターを使用するためだパヴェ用バイクにクランクセットなどを移植する。クランク内蔵型パワーメーターを使用するためだ photo:MakotoAYANOタイヤ空気圧は?の問いには、「選手によって4.5〜5.5気圧の間くらい。今回はヴィットリアが完成度の高いプロトタイプを用意してくれた。28Cサイズで、とても良さそうだ」。

その「PROTOTYPE」ロゴ入りタイヤはサポートチーム以外にも(マークを消して)渡っているようだった。
メカニシャンはオンボードカメラの装着には迷っていた。余計なものは付けないほうがいいのは確かだけど、これについては選手の意見を聞いて、その選手が望めば取り付けることにするという。

ジャイアント・シマノのチームカーを洗う女性スタッフたちジャイアント・シマノのチームカーを洗う女性スタッフたち photo:MakotoAYANOネットアップ・エンデューラはFUJIのバイクに乗るが、エンデュランス系バイクのラインナップがないので通常のロードモデル、アルタミラに乗るようだ。むしろ見慣れないエアロ形状の新型フレームのセットアップが始まっていた。今のロードモデルをパヴェで使い切ってしまうのもまた割りきった作戦と言えるかもしれない。

天気予報は雨。過酷なレースになることは間違いなさそうだ。ユキヤは「明日は苦手なパヴェ(石畳)だけど、怪我をしないように走りきるしかない」と話している。悪天候を考慮して、コース上78km以降(パヴェ区間すべて)は、黄色いステッカーを付けたオフィシャルとチームカーのみコースを走れることになった。賛同しつつも、撮影が困難なのが困ったところだ。

photo&text:Makoto.AYANO in FRANCE


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