いつもリグーリア州では落車が多発する。その上、第11ステージはスタートからフィニッシュまでスピードが落ちなかった。カテゴリーは中級山岳ステージだが、選手の疲労度はおそらく難関山岳ステージ以上。フィニッシュから3km離れているチームバスに向かう選手の足取りは重かった。



ピンクのバルーンが選手たちを迎えるピンクのバルーンが選手たちを迎える photo:Kei Tsuji


この日の戦略について語る別府史之(トレックファクトリーレーシング)この日の戦略について語る別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsuji「チーム戦略?それはとにかく勝つことだ。もう2位や3位はごめんだ」。トレックファクトリーレーシングのアドリアーノ・バフィ監督はそう言って笑った。「臨機応変に戦略は変えていくが、まずはフミとファビオ(フェリーネ)を逃げに乗せる。それが作戦だ」。

リグーリア海岸のアップダウンを行く逃げグループリグーリア海岸のアップダウンを行く逃げグループ photo:Kei Tsujiチームバスから下りてきた別府史之(トレックファクトリーレーシング)はメッシュ素材の薄い(スケスケの)ジャージを着ている。「暑いのでこのジャージをセレクトしました。(249kmという)長丁場なのでしっかりとミネラルを摂りながら走ります。今はシーズンで一番と言っていいほど調子が良い」と言う。

その言葉通り別府はレース序盤のアタックに加わった。およそ15km地点で形成された5名の逃げグループ(ゴドイ、マランゴーニ、ルビアーノ、プレイドラー、別府)に入り、ラジオコルサ(競技無線)がその名前を読み上げる。

しかしその後に「リプレージ(吸収)」「グルッポコンパット(集団一つ)」「コントロアタッコ(カウンターアタック)」「アンダトゥーラ・センプレ・ソステヌータ(常にハイスピード)」という情報が続く。あまりのスピードで脱落者が出るほどの猛烈な勢いだった。

徐々に痛みがひいてきているという新城幸也(ユーロップカー)もこのアタック合戦に加わった。ここまで落車の影響で「今はまだ何も出来ない」というステージが続いていたが、回復の兆しを見せている。新城は「登り(2級山岳)までに逃げが決まると思ってアタックしたんですが、ダメでした」と悔やむ。まだコンディションが戻らないというが、アタックに出るというのは朗報だ。



リグーリアの小さな街をいくつも通過していくリグーリアの小さな街をいくつも通過していく photo:Kei Tsuji
ジェノヴァの街を抜けて更に西を目指すジェノヴァの街を抜けて更に西を目指す photo:Kei Tsuji


2級山岳チェントクローチ峠の下りで落車したアドリアーノ・マローリ(イタリア、モビスター)2級山岳チェントクローチ峠の下りで落車したアドリアーノ・マローリ(イタリア、モビスター) photo:Kei Tsujiまだジロ半分が終わったところだと言うのに、落車で全身傷だらけの選手がぞろぞろいる。ジロ1週目の主役を担ったマイケル・マシューズ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)も、落車の影響でスタートしなかった。

落車により泥だらけのまま走るクリスアンケル・セレンセン(デンマーク、ティンコフ・サクソ)落車により泥だらけのまま走るクリスアンケル・セレンセン(デンマーク、ティンコフ・サクソ) photo:Kei Tsujiこの日だけで30名前後が地面に叩き付けられた。今年のジロの落車の多さは異常だ。落車の犠牲者となったルーク・ダーブリッジ(オーストラリア、グリーンエッジ)やファビアン・ウェーグマン(ドイツ、ガーミン・シャープ)がレースを下りている。

下りで派手に転んだクリスアンケル・セレンセン(デンマーク、ティンコフ・サクソ)やアドリアーノ・マローリ(イタリア、モビスター)は全身泥だらけ、擦過傷だらけの姿で走り続けた。別府の言葉を借りると「泥だらけの選手や、ウェアがズタズタの包帯だらけの選手、一体なんのスポーツかわからないほど、すごい状況だった」。

レース通過予定時刻を大きく上回るハイペースで進み続けたプロトン。美しいリグーリア海岸に目をくれる余裕なんてない。2011年のジロでワウテル・ウェイラントが落車事故死した際のフィニッシュ地点ラパッロを足早に通過していった。



集団を振り切ったマイケル・ロジャース(オーストラリア、ティンコフ・サクソ)集団を振り切ったマイケル・ロジャース(オーストラリア、ティンコフ・サクソ) photo:Kei Tsuji


18分14秒遅れでフィニッシュした新城幸也(ユーロップカー)18分14秒遅れでフィニッシュした新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsujiオーストラリアの快進撃が止まらない。初日を除いて、今年のジロでは常にオーストラリア人がマリアローザを着ている。さらにオーストラリア人が2勝を飾り、オーストラリアチームが3勝を飾っている。その勢いは個人タイムトライアルでカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)の背中を押すか?

40分近く遅れたダヴィデ・アッポローニオ(イタリア、AG2Rラモンディアール)とニコラ・ルッフォニ(イタリア、バルディアーニCSF)がフィニッシュを目指す40分近く遅れたダヴィデ・アッポローニオ(イタリア、AG2Rラモンディアール)とニコラ・ルッフォニ(イタリア、バルディアーニCSF)がフィニッシュを目指す photo:Kei Tsujiそのエヴァンスをジュニア時代から知っているというマイケル・ロジャース(オーストラリア、ティンコフ・サクソ)が勝った。ロジャースのガッツポーズを見るのは7ヶ月ぶり。前回はもちろんジャパンカップ。土砂降りの宇都宮森林公園でそうしたように、晴天のサヴォーナで独走した。

出場停止処分から帰ってきたロジャースは、レースを走れる喜びを噛み締めるように、毎日笑顔でスタートを切っている。今から10年前に無敵を誇っていたタイムトライアルを彷彿とさせるようなエアロポジション。ロジャースの復活を印象づけるグランツール初勝利だった。

ジロ初日にマリアローザを着たスヴェイン・タフト(カナダ、オリカ・グリーンエッジ)は、この2週間で総合首位から最下位まで順位を落とした。タフトは第一走者として、12時45分、個人タイムトライアルのスタートを切る。スタートリストは→こちら。日本時間の夜遅くには総合順位が大きく入れ替わっていることだろう。

text&photo:Kei Tsuji in Alba, Italy