フェラーリのお膝元からイタリア有数の温泉地へ。2年前の大地震で被害を受けたエミリア=ロマーニャ州をジロ・デ・イタリアは行く。平穏な一日になると思いきや、残り700mで発生した大クラッシュにプロトンは閉口した。



観客が集まったモデナのスタート地点観客が集まったモデナのスタート地点 photo:Kei Tsuji
休息日、メカニックと打ち合わせをする新城幸也(ユーロップカー)休息日、メカニックと打ち合わせをする新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji休息日、ハンドルに取り付けたGoProでチームメイトを撮影する別府史之(トレックファクトリーレーシング)休息日、ハンドルに取り付けたGoProでチームメイトを撮影する別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsuji



グライペルが優しい笑顔で見つめてくれるグライペルが優しい笑顔で見つめてくれる photo:Kei Tsujiジロの第2週はモデナでスタートした。モータースポーツやスポーツカー好きは、モデナという名前にときめくはず。それもそのはず、モデナ郊外のマラネッロにはフェラーリの本社がある。ランボルギーニの本社があるサンタガタ・ボロニェーゼもすぐ近く。世界を代表するスーパーカーがこの一帯で作られている。

地震の傷跡が残るレジオーロの街地震の傷跡が残るレジオーロの街 photo:Kei Tsujiチームを含めた大会関係者のほとんどは、モデナかその近郊のホテルで休息日を過ごした。一日のオフを利用して、マラネッロにあるフェラーリ博物館を訪れたチームやメディアもちらほら。フェラーリのお膝元だけに、モデナ周辺では実際に「跳ね馬」をよく目にする。

メイン集団がパルマの街を通過するメイン集団がパルマの街を通過する photo:Kei Tsujiジロはエミリア=ロマーニャ州を駆け抜ける。南イタリアで再始動したジロは、もうすっかり北イタリアに入っている。

同州はその名の通りエミリア地方とロマーニャ地方に分かれており、第8ステージのフィニッシュ地点モンテコピオーロ辺りは東部のロマーニャ地方。この日の舞台は西部のエミリア地方だ。

第10ステージのコースの大半は、ポー川が作り上げた広大なロンバルディア平原だ。昔から地震が少ない地域とされてきたが、ちょうど今から2年前の2012年5月20日にマグニチュード6.0の「イタリア北部地震」が発生。エミリア=ロマーニャ州が最も大きな被害を受けた。7人が亡くなり、50人が負傷している。

地元のおじさんたちは「あの地震は掘削作業が原因だったんだ!」と時間をかけて熱心に唾を飛ばしながら説明してくれる。聞けば、近隣のミランドラという街での石油やガスの掘削活動が地震を引き起こした可能性があるとされる。そう結論づけた当局はつい先月新たな掘削を禁止した。日本でもニュースで流れていたのでご存知の方も多いはずだ。

地震の影響は、耐震性なんて全く考えられていないような石造りの街並に色濃く残っている。撮影のために訪れたレジオーロの街のシンボルである立派な城塞も崩れたまま。沿道ではまだまだ復興のための工事が目立っていた。



レジオーロの要塞を通過するマリアローザのカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)レジオーロの要塞を通過するマリアローザのカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) photo:Kei Tsuji


スプリントを繰り広げるナセル・ブアニ(フランス、FDJ.fr)とジャコモ・ニッツォロ(イタリア、トレックファクトリーレーシング)スプリントを繰り広げるナセル・ブアニ(フランス、FDJ.fr)とジャコモ・ニッツォロ(イタリア、トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsuji延々とロンバルディア平原を駆け抜けたプロトンは、残り16km地点で左に90度折れて丘陵地帯へと入っていく。目指すは山の麓にあるサルソマッジョーレ・テルメだ。

失意のベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)失意のベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji「テルメ」は温泉の意味。宮殿のような温泉施設がいくつもあり(その一つは世界で最も美しい温泉施設と言われている)、自慢はそのミネラル豊富な泉質だ。湯治のために国内外から多くの観光客が訪れるため、レストランのスタッフも流暢な英語を喋る。「テルメ」と名前の付く温泉地はイタリア各地にあるが、そこに共通する特徴として、安いホテルでも部屋にバスタブが付いている。

3勝目をアピールするナセル・ブアニ(フランス、FDJ.fr)3勝目をアピールするナセル・ブアニ(フランス、FDJ.fr) photo:Kei Tsujiイタリアには地震があり、温泉がある。火山もある。その点でイタリアと日本と似ている。

まるで落車を引き起こすための連続コーナーが、サルソマッジョーレ・テルメのフィニッシュ手前に設定されていた。案の定、残り700mの鋭角コーナーで選手たちが多数落車することになる。

この日、発熱をおして出走したエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、キャノンデール)も落車の被害者の一人。何とか立ち上がり、チームメイトに押されてフィニッシュしたヴィヴィアーニは一言も言葉を発することなくチームバスへと戻っていった。

今大会3回目のステージ2位に入ったジャコモ・ニッツォロ(イタリア)をアシストした別府史之(トレックファクトリーレーシング)は落車で足止めを食らい、遅れてフィニッシュ。とにかく落車が続出しているジロで別府はまだ一度も転んでいない。

別府は「何度か落車に巻き込まれそうになりながらも、今日も上手くアシストをこなせた。それよりも明日です」と真剣な表情で言う。別府はゴール手前に2級山岳が設定された第11ステージで何かを狙っている。

ジロではチーム総合表彰が翌ステージのレース後に表彰される。第9ステージでチーム総合成績トップだったのはユーロップカー。キラキラした笑顔で、全日本チャンピオンジャージの新城幸也(ユーロップカー)が表彰台に登った。

ともあれ、2回目の休息日が明けて、大都市からアクセスが良いエリアに入ったこともあり、観客や報道陣の数がどっと増えた。翌日の第11ステージは249kmのロングステージ。後半は美しいリグーリア海岸を駆け抜ける。



前ステージのチーム総合成績の表彰を受ける新城幸也(ユーロップカー)前ステージのチーム総合成績の表彰を受ける新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji
花束を手に表彰台を去る新城幸也(ユーロップカー)花束を手に表彰台を去る新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsuji落車を避けて安全にフィニッシュした別府史之(トレックファクトリーレーシング)落車を避けて安全にフィニッシュした別府史之(トレックファクトリーレーシング) photo:Kei Tsuji



text&photo:Kei Tsuji in Salsomaggiore Terme, Italy