「前半に3人がリタイアして、1人が怪我という状態。スプリンターとクライマーの凸凹コンビで良くやってきたと思います」と笑う西谷泰治(愛三工業レーシング)が、ツール・ド・ランカウイの最終ステージで4位。今大会最高位で10日間の闘いを締めくくった。



マレーシア国旗が振られるコースを走るマレーシア国旗が振られるコースを走る photo:Kei Tsuji
最終ステージを迎える西谷泰治(愛三工業レーシング)最終ステージを迎える西谷泰治(愛三工業レーシング) photo:Kei Tsuji仲の良いコロンビアングループ仲の良いコロンビアングループ photo:Kei Tsuji



アタック合戦が続くメイン集団アタック合戦が続くメイン集団 photo:Kei Tsujiシクロワイアードを含めて、ツール・ド・ランカウイ取材陣の大半はアジア人。ヨーロッパから遠路遥々取材にやってきているフォトグラファーとジャーナリストは合わせて6名ほどしかいない。そのほとんどは大会側の招待を受けているため、航空券からホテルまで完全に大会にカバーされている。

逃げるヨナタン・モンサルベ(ベネズエラ、ネーリソットリ・イエローフルオ)とアントワンヌ・デュシェーヌ(カナダ、ユーロップカー)逃げるヨナタン・モンサルベ(ベネズエラ、ネーリソットリ・イエローフルオ)とアントワンヌ・デュシェーヌ(カナダ、ユーロップカー) photo:Kei Tsujiスポンサー離れにより予算が減ったと言われているが、19年目の運営体制は確固としたものがある。大会運営に関しては、日本のレースが見習うべきは、伝統の上に成り立っているヨーロッパレースではなく、新興国アジアやオセアニアのレースであると感じる。

イエロージャージがクアラトレンガヌに向かって凱旋するイエロージャージがクアラトレンガヌに向かって凱旋する photo:Kei Tsuji今年は6つのUCIプロチームを招待することに成功したが、レース主催者は2015年に向けてより多くのUCIプロチームを招待すると意気込んでいる。オメガファーマ・クイックステップやガーミン・シャープを再出場させ、その他のUCIプロチームの出場に向けて動いて行くと言う。

クアラトレンガヌの周回コースを走るプロトンクアラトレンガヌの周回コースを走るプロトン photo:Kei Tsujiしかし2月のドバイツアーやツアー・オブ・カタール、ツアー・オブ・オマーンの台頭により、世界的に見てツール・ド・ランカウイの存在感が薄れていることは否めない。ヨーロッパシーズンが本格化する3月上旬に、時差のあるアジアに渡って10日間のステージレースを積極的に参戦したいというトップチームは少ない。

実際に、出場したUCIプロチームのメンバーは一軍からほど遠く、レースを支配するほどのパワーを見せつけることは出来なかった。

蓋を開けてみると、ゴールスプリントこそUCIプロチームの活躍が目立ったが、総合表彰台にUCIプロチームの選手は1人も登っていない。一軍を揃えるUCIプロコンチネンタルチームの積極性が目立つ結果となった。

コースレイアウトに関しても、第4ステージのゲンティンハイランド山頂フィニッシュで早々に総合が決まり、その後は総合変動を演出しないほぼフラットなステージが連続。落車が多発する危険なフィニッシュが用意されるなど、お世辞にもエキサイティングなコースレイアウトとは言えなかった。

更なるレースの発展を望むのならば、開催時期を2月上旬に移し、開催期間を短くし、山岳ステージを増やすなどの大幅な変更が必要になってくるだろう。2015年は開催20回目を迎える記念大会であり、何かスペクタクルな演出を仕掛けてくるはずだ。



ベルキンが率いて最終周回へと入って行くベルキンが率いて最終周回へと入って行く photo:Kei Tsuji
イエロージャージを着て最終ステージを走るミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル)イエロージャージを着て最終ステージを走るミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル) photo:Kei Tsujiリアホイールのパンクを伝える西谷泰治(愛三工業レーシング)リアホイールのパンクを伝える西谷泰治(愛三工業レーシング) photo:Kei Tsuji



中山直紀メカニックが西谷泰治(愛三工業レーシング)をプッシュ中山直紀メカニックが西谷泰治(愛三工業レーシング)をプッシュ photo:Kei Tsujiクアラトレンガヌから車で1時間ほど内陸に行った貯水ダムの横に、今年もスタート地点が作られた。緩やかに弧を描くアップダウンコースで集団から飛び出したのは、総合トップ10入りを目指す総合12位のヨナタン・モンサルベ(ベネズエラ、ネーリソットリ・イエローフルオ)とアントワンヌ・デュシェーヌ(カナダ、ユーロップカー)の2人。

アンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)のスプリントが伸びるアンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)のスプリントが伸びる photo:Kei Tsujiポルセイェディゴラコールにとって、モンサルベは総合成績において決して楽観視出来ない存在。そのためタブリスペトロケミカルが警戒感を解くことなくメイン集団を牽引。ここにアスタナやベルキンも加わり、タイム差は2分を上限に縮まって行く。

最終ゴールスプリントを制したアンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)最終ゴールスプリントを制したアンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji合計6周するクアラトレンガヌの周回コースで逃げは吸収。カウンターアタックで数名が飛び出すシーンも見られたが、集団は一つにまとまった状態で周回を重ねた。

スプリント2勝目で締めくくったアンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)スプリント2勝目で締めくくったアンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji残り4周でパンクした西谷泰治(愛三工業レーシング)は落ち着いてチームカーを呼び、中山直紀メカニックの迅速なホイールチェンジを受けて再スタート。チームカーの隊列を縫って集団に戻って行く。「スローパンクだったので大きく遅れることなく、普通に戻れました」と西谷。

惜しいスプリントを悔やむフランチェスコ・キッキ(イタリア、ネーリソットリ・イエローフルオ)惜しいスプリントを悔やむフランチェスコ・キッキ(イタリア、ネーリソットリ・イエローフルオ) photo:Kei Tsuji前日までのテクニカルなコースレイアウトとは異なり、この日のフィニッシュは残り500mからひたすら一直線。ここまで最終コーナーを先頭で抜けたベルキンがそのままテオ・ボス(オランダ)を発射するステージが続いたが、この日は勝手が違った。別ラインからライバルチームが上がり、ベルキンのトレインは塞がれてしまう。

進路を塞がれたボスを尻目に、アンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)、アイディス・クルオピス(リトアニア、オリカ・グリーンエッジ)、フランチェスコ・キッキ(イタリア、ネーリソットリ・イエローフルオ)が先頭でスプリントを開始する。3名が抜け出す形でゴールスプリントが始まる。

「リードアウトの選手(ブラウン)に進路を塞がれそうになったものの、何とかギリギリ抜けてスプリントしたんですが、その時点で前の3人が抜け出した状態だった。届かないと思ったんですが、とりあえず行けるところまで行こうとスプリントしました」と語る西谷が後方から追い上げる。しかし届かず、先頭を守ったグアルディーニがハンドルを投げ込んだ。

スプリント2勝目を飾ったグアルディーニは「とにかく今日はゴールのレイアウトが直線的でよかった。はっきり言って、残り200mでコーナーが連続するような今年のコースは危険すぎる」と批判的にコメントする。

2011年にステージ5勝、2012年にステージ6勝、2013年にステージ1勝を飾っているグアルディーニが最後に一矢報いた。「ゴール前でコーナーが連続するコースは、強いチームを味方に付けるボス向き。でも今日は最終ストレートが長かったので自分向きだった。勝利で締めくくることが出来て良かった」。

総合優勝はミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル)。結局ゲンティンハイランドで得た総合リードを一秒も失うことなく最終ステージまで走りきったポルセイェディゴラコールは「アジア人選手として初めてこの大会で総合優勝を果たしたことを誇りに思うよ」と語る。UCIプロチーム相手に付け入る隙を与えなかったタブリスペトロケミカルは、アジアンライダー賞の表彰台も独占した。



総合表彰台、2位クドゥス、優勝ポルセイェディゴラコール、3位ボリバル総合表彰台、2位クドゥス、優勝ポルセイェディゴラコール、3位ボリバル photo:Kei Tsuji
鷲の優勝トロフィーを受け取ったミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル)鷲の優勝トロフィーを受け取ったミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル) photo:Kei Tsuji鷲の優勝トロフィー鷲の優勝トロフィー photo:Kei Tsuji



西谷はステージ4位でフィニッシュ。「表彰台行きたかったので残念。でも目標のUCIポイントは僅かながら取れたので良かったです」と複雑な心境を明かす。

「今日のゴールは道が広くて直線だったので、(ベルキン以外に)出てくるチームがいるだろうと予想していました。案の定ベルキンは失敗。早めに仕掛ければ、周りの選手に負けない自信があった。前の3人に追いついた頃にはゴールだったので、もうちょっと距離があれば届いていたと思います。でも今までの中で一番良い結果。最後に形になってよかった。スプリントで色々試すことが出来たし、メンバー全員が揃っていれば勝つことも出来るんだという感触は掴めました」。

目標としていたUCIポイント獲得(7ポイント)を果たした愛三工業レーシング。「スプリントチームで挑みながら前半に選手を失ってしまったので、厳しい闘いになりました。ですがそんな状況で何が出来るかを確認することも出来た。次に繋がるレースになったと思います」と別府匠監督は語る。落車や怪我に苦しめられながらも西谷を軸に闘い続けた愛三工業レーシングの10日間が終わった。



レースディレクターと記念写真を撮る愛三工業レーシングレースディレクターと記念写真を撮る愛三工業レーシング photo:Kei Tsuji表彰台に登った3人にレンズが向けられる表彰台に登った3人にレンズが向けられる photo:Kei Tsuji



ツール・ド・ランカウイ2014第10ステージ結果
1位 アンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)            2h15'55"
2位 アイディス・クルオピス(リトアニア、オリカ・グリーンエッジ)
3位 フランチェスコ・キッキ(イタリア、ネーリソットリ・イエローフルオ)
4位 西谷泰治(日本、愛三工業レーシング)
5位 ケニーロバート・ファンヒュンメル(オランダ、アンドローニ・ベネズエラ)
6位 レオナルド・ドゥケ(コロンビア、コロンビア)
7位 ジェフリー・ロメロ(コロンビア、コロンビア)
8位 ヤニック・マルティネス(フランス、ユーロップカー)
9位 ヨウセフ・レグイグイ(アルジェリア、MTNキュベカ)
10位 ロベルト・フェルスター(ドイツ、ユナイテッドヘルスケア)
51位 福田真平(日本、愛三工業レーシング)                   
109位 平塚吉光(日本、愛三工業レーシング)                  +2'53"

個人総合成績
1位 ミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル)  35h07'16"
2位 メルハウィ・クドゥス(エリトリア、MTNキュベカ)               +08"
3位 イサーク・ボリバル(コロンビア、ユナイテッドヘルスケア)           +11"
4位 エスデバン・シャベス(コロンビア、オリカ・グリーンエッジ)          +20"
5位 ペトル・イグナテンコ(ロシア、カチューシャ)                 +36"
6位 ジャック・ヤンセファンレンズバーグ(南アフリカ、MTNキュベカ)        +40"
7位 ステフェン・クルイスウィク(オランダ、ベルキン)               +52"
8位 ジャンフランコ・ジリオーリ(イタリア、アンドローニ・ベネズエラ)      +1'09"
9位 ガファリ・ヴァヒド(イラン、タブリスペトロケミカル)            +1'27"
10位 カルロス・キンテロ(コロンビア、コロンビア)               +1'37"

アジアンライダー賞
1位 ミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル)  35h07'16"
2位 ガファリ・ヴァヒド(イラン、タブリスペトロケミカル)            +1'27"
3位 アミール・コラドザグ(イラン、タブリスペトロケミカル)           +3'23"

スプリント賞
1位 アイディス・クルオピス(リトアニア、オリカ・グリーンエッジ)       98pts
2位 アンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)             85pts
3位 ミカル・コラー(スロベキア、ティンコフ・サクソ)             85pts

山岳賞
1位 マット・ブラマイヤー(アイルランド、シナジーバクサイクリング)       34pts
2位 イサーク・ボリバル(コロンビア、ユナイテッドヘルスケア)          31pts
3位 ミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル)    25pts

チーム総合成績
1位 MTNキュベカ                             105h24'35"
2位 タブリスペトロケミカル                           +1'38"
3位 アンドローニ・ベネズエラ                          +8'52"

text&photo:Kei Tsuji in Kuala Terengganu, Malaysia