マレーシアの首都クアラルンプールに至るツール・ド・ランカウイ第3ステージは、アンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)のスプリント勝利に終わった。この日、第1ステージで落車した綾部勇成がリタイア。愛三工業レーシングは西谷泰治、平塚吉光、福田真平の3人で残るステージを闘う。



沿道や歩道橋からプロトンに声援が送られる沿道や歩道橋からプロトンに声援が送られる photo:Kei Tsuji
痛々しい指でゼッケンを付ける福田真平(愛三工業レーシング)痛々しい指でゼッケンを付ける福田真平(愛三工業レーシング) photo:Kei Tsuji選手のステムやハンドルに貼るKOMやスプリントの場所を記したテープを用意する別府匠監督選手のステムやハンドルに貼るKOMやスプリントの場所を記したテープを用意する別府匠監督 photo:Kei Tsuji


ツール・ド・ランカウイ2014第3ステージツール・ド・ランカウイ2014第3ステージ image:Tour de Langkawi凄惨な連続落車から一夜明け、身体のアチコチに包帯や絆創膏を貼った選手たちがカンパーのスタート地点にやってきた。

カンパーから一路クアラルンプールに向かう第3ステージカンパーから一路クアラルンプールに向かう第3ステージ photo:Kei Tsuji実に20名以上が落車に巻き込まれた第2ステージを終えて、レースに残ったのは122名の選手たち。落車で肘を負傷し、救急車でフィニッシュラインを通過した盛一大(愛三工業レーシング)は第3ステージをスタート出来ない。

痛みに耐えることが出来ず、リタイアを決めた綾部勇成(愛三工業レーシング)痛みに耐えることが出来ず、リタイアを決めた綾部勇成(愛三工業レーシング) photo:Kei Tsujiチームバンに腰掛けて準備を整える選手の中には、痛みによって手が震えている選手も。絆創膏を取り替える際の苦悶の声がチームカーの車列に響く。肘に包帯を巻き付けたアンドレア・ダルコル(イタリア、ネーリソットリ・イエローフルオ)はバイクに跨がって感触を確かめたのち、監督と相談して出走しないことを決めている。

クアラルンプールに向かって幾つもの街を駆け抜けていくクアラルンプールに向かって幾つもの街を駆け抜けていく photo:Kei Tsuji落車の被害者の中にはアンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)や福田真平(愛三工業レーシング)の姿も。

足の親指の付け根に深い穴が開いた痛々しい写真(※閲覧注意)を前夜Twitterに投稿したグアルディーニは、落車でぽっかり穴が開いたスペシャライズドのシューズにテープを貼付けて応急処置を施す。福田真平は腰の深い擦過傷に加えて、ハンドルが握れないほど左手に怪我を負いながらのスタートとなった。

カンパーからクアラルンプールまで、幅広い幹線道路(日本で言うところの国道一桁クラス)をひたすら南下する第3ステージ。

高低差50m程度の細かいアップダウンが続くものの、ほぼフラットなスプリンターステージと言っていい。首都クアラルンプール名物のペトロナスツインタワーの前を通り、ムルデカ・スクエア(独立広場)とスルタンアブドゥルサマドビルの間にフィニッシュする。

スタート後しばらくは逃げを容認しないハイスピードな展開が続く。縦に伸びる集団から一人脱落した綾部勇成(愛三工業レーシング)は、第1チームカーのハンドルを握る別府匠監督と相談し、沿道に止まってバイクを下りる。痛みに顔を歪ませながら、第2チームカーの助手席に沈み込んだ。

第1ステージで落車し、股関節を痛めながらも第2ステージを完走していた綾部。「昨日は何とか完走できましたが、痛みに耐えることが出来ずにリタイアしました」とTwitterでリタイア理由を報告している。「次に向かって治していきます。また、いいことがあると信じて練習していきます」。



逃げグループを率いるマット・ブラマイヤー(アイルランド、シナジーバクサイクリング)逃げグループを率いるマット・ブラマイヤー(アイルランド、シナジーバクサイクリング) photo:Kei Tsujiリーダージャージ擁するコロンビアが前半から積極的にコントロールリーダージャージ擁するコロンビアが前半から積極的にコントロール photo:Kei Tsuji
レース通過の数十分前に発生した山火事レース通過の数十分前に発生した山火事 photo:Kei Tsuji
コロンビアの支配下に置かれたプロトンがKOMに差し掛かるコロンビアの支配下に置かれたプロトンがKOMに差し掛かる photo:Kei Tsuji集団内で並んで走る西谷泰治と平塚吉光(愛三工業レーシング)集団内で並んで走る西谷泰治と平塚吉光(愛三工業レーシング) photo:Kei Tsuji



総合3位のマット・ブラマイヤー(アイルランド、シナジーバクサイクリング)が逃げグループを牽引総合3位のマット・ブラマイヤー(アイルランド、シナジーバクサイクリング)が逃げグループを牽引 photo:Kei Tsujiアタックの応酬を切り抜けたのは、山岳賞ジャージを着るマット・ブラマイヤー(アイルランド、シナジーバクサイクリング)だった。

集団最後尾で走る福田真平(愛三工業レーシング)集団最後尾で走る福田真平(愛三工業レーシング) photo:Kei Tsujiここにジャック・ヤンセファンレンズバーグ(南アフリカ、MTNキュベカ)、ブラドレー・ホワイト(アメリカ、ユナイテッドヘルスケア)、モハマド・マトセナン(マレーシア、トレンガヌサイクリング)、トマス・ラボウ(オランダ、OCBCシンガポール)が合流し、5名の逃げが出来上がる。

イスラム教のモスクを通過するプロトンイスラム教のモスクを通過するプロトン photo:Kei Tsujiブラマイヤーは24秒差の総合3位。ドゥベル・キンテロ(コロンビア、コロンビア)にとって危険な存在であるため、コロンビアが率先してメイン集団のペースをコントロールする。立っているだけで汗が流れるほどの暑さの中、逃げグループとメイン集団のタイム差は5分前後を推移した。

カチューシャ、オリカ・グリーンエッジ、ベルキンが集団牽引を開始カチューシャ、オリカ・グリーンエッジ、ベルキンが集団牽引を開始 photo:Kei Tsujiコロンビアのアシストにダメージを与えるために、他チームは逃げとのタイム差を計りながら集団後方に身を潜める。タイム差が5分40秒まで広がった残り60km地点で、ようやくスプリンターチームが前に出た。

「昨日もそうだったけど、スプリンターチームの統率が取れていない。ベルキンが集団牽引に合流するのはいつも最後。どのチームも最終局面に数名を残しておきたいので、積極的に人数を使って集団コントロールを行なわないんだ」。前日の第2ステージで3位に入ったカチューシャのマルコ・ハラー(オーストリア)は、1チーム6名というアジアレース特有のシチュエーションに言及する。

まずカチューシャが集団先頭に立ち、続いてオリカ・グリーンエッジとベルキン、アンドローニが合流する。こうしてスプリントに向けた追撃が組織されると、逃げグループのリードは転げ落ちるように縮小。先頭ではヤンセファンレンズバーグとホワイトが生き残り、1分のリードでクアラルンプールの市街地に差し掛かる。逃げはベルキントレインによって封じ込められた。

残り1km地点のタイトコーナーを抜けてスプリントが始まる。スタート前にナーバスな表情でシューズにテープを貼っていたグアルディーニが、低い体勢でテオ・ボス(オランダ、ベルキン)を引き離してフィニッシュ。落車の影響を感じさせない加速力で、4年連続のステージ優勝を飾った。

マレーシアの地で2011年にステージ5勝、2012年にステージ6勝、2013年にステージ1勝を飾っているグアルディーニ。「昨日の落車の影響があったものの、脚の調子自体は良かったのでスタートすることにした。走り出してもスプリントするかどうか決めかねていて、残り20kmの登りをクリアしたところで勝負することにしたんだ。逆境の中での勝利なので格別だ」と、毎年向上している英語で記者たちを前に話す。相性の良いランカウイで、ボスを力でねじ伏せてみせた。



ボスらを振り切ったアンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)が勝利ボスらを振り切ったアンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)が勝利 photo:Kei Tsuji


第3ステージのトップスリーが登壇第3ステージのトップスリーが登壇 photo:Kei Tsuji「(車両減速用の)段差を越える時に左手でハンドルを握れないので、後ろの選手に迷惑をかけると思って最後尾を走っていました」と話す福田真平は集団から遅れてフィニッシュ。「腰の擦過傷は痛みを感じませんが、左手が痛い」と語りながらも、平均スピード45.28km/hの第3ステージを走りきった。

スルタンアブドゥルサマドビルの前で行なわれた表彰式スルタンアブドゥルサマドビルの前で行なわれた表彰式 photo:Kei Tsuji常に平塚吉光と寄り添うようにして走った西谷泰治は、単独でスプリントに挑んで16位に。

西谷は「『お前たちのチームは2人しか残っていないのか??』と周りの選手に何度も聞かれました。補給を分けてくれる選手もいた」と笑いながら、「上手く潜り込めば一桁は狙えると思った」と語る。愛三工業は西谷、平塚、福田の3名で残りのステージを闘っていく。

この日の逃げでボーナスタイム5秒を稼いだブラマイヤーは総合3位から総合2位に浮上。しかし依然として総合首位キンテロとの総合タイム差は19秒ある。総合を決めるのは、やはり、翌日のゲンティンハイランド山頂フィニッシュ。標高1625mの高原リゾートに向かう登りで、今大会の実質的な総合優勝者が決まる。

その他のレースの模様はフォトギャラリーにて!



ゴール後の選手たちが放水に吸い込まれていくゴール後の選手たちが放水に吸い込まれていく photo:Kei Tsuji翌日のゲンティンハイランドで自分の力を試す平塚吉光(愛三工業レーシング)翌日のゲンティンハイランドで自分の力を試す平塚吉光(愛三工業レーシング) photo:Kei Tsuji


ツール・ド・ランカウイ2014第3ステージ結果
1位 アンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)            3h40'38"
2位 テオ・ボス(オランダ、ベルキン)
3位 ヤニック・マルティネス(フランス、ユーロップカー)
4位 アイディス・クルオピス(リトアニア、オリカ・グリーンエッジ)
5位 ケニーロバート・ファンヒュンメル(オランダ、アンドローニ・ベネズエラ)
6位 ディーントーマス・ロジャース(ニュージーランド、OCBCシンガポール)
7位 フランチェスコ・キッキ(イタリア、ネーリソットリ・イエローフルオ)
8位 ダニエル・クレンメ(ドイツ、シナジーバクサイクリング)
9位 ベフナム・カルリコスラシャヒ(イラン、タブリスペトロケミカル)
10位 ヨウセフ・レグイグイ(アルジェリア、MTNキュベカ)
16位 西谷泰治(日本、愛三工業レーシング)
95位 平塚吉光(日本、愛三工業レーシング)
118位 福田真平(日本、愛三工業レーシング)                   +5'02"
DNF 綾部勇成(日本、愛三工業レーシング)

個人総合成績
1位 ドゥベル・キンテロ(コロンビア、コロンビア)              9h13'10"
2位 マット・ブラマイヤー(アイルランド、シナジーバクサイクリング)       +19"
3位 ジョナサン・クラーク(オーストラリア、ユナイテッドヘルスケア)       +22"
4位 チョンフアット・ゴー(シンガポール、OCBCシンガポール)          +33"
5位 テオ・ボス(オランダ、ベルキン)                     +1'21"
6位 アンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)             +1'27"
7位 ベフナム・カルリコスラシャヒ(イラン、タブリスペトロケミカル)      +1'28"
8位 トマス・ラボウ(オランダ、OCBCシンガポール)               +1'29"
9位 グレーム・ブラウン(オーストラリア、ベルキン)               +1'31"
10位 エルチン・アサドフ(アゼルバイジャン、シナジーバクサイクリング)

アジアンライダー賞
1位 チョンフアット・ゴー(シンガポール、OCBCシンガポール)         9h13'43"
2位 ミルサマ・ポルセイェディゴラコール(イラン、タブリスペトロケミカル)    +55"
3位 ホゥイジ・ジャン(中国、ジャイアント・チャンピオンシステム)        +1'02"

スプリント賞
1位 マット・ブラマイヤー(アイルランド、シナジーバクサイクリング)       32pts
2位 ドゥベル・キンテロ(コロンビア、コロンビア)                30pts
3位 アイディス・クルオピス(リトアニア、オリカ・グリーンエッジ)        30pts

山岳賞
1位 マット・ブラマイヤー(アイルランド、シナジーバクサイクリング)       28pts
2位 ドゥベル・キンテロ(コロンビア、コロンビア)                8pts
3位 ジョナサン・クラーク(オーストラリア、ユナイテッドヘルスケア)       5pts

チーム総合成績
1位 コロンビア                               27h43'03"
2位 シナジーバクサイクリング                          +11"
3位 ユナイテッドヘルスケア

text&photo:Kei Tsuji in Kuala Lumpur, Malaysia