今回のテストバイクは、リドレーのオールラウンドレーシングマシンであるヘリウム。フラッグシップモデルである「ヘリウムSL」と同じフォルムを纏い大きな変貌を遂げたライトウェイトマシンの性能に迫っていく。

リドレー HELIUMリドレー HELIUM (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp
2007年の登場以来、現在にまで続くリドレーのフラッグシップオールラウンドレーサーであるヘリウム。その長い歴史の中、2007年のカデル・エヴァンスによるツール・ド・フランス総合2位を筆頭とする幾多の勝利により、存在感を高めてきたバイクである。

登場から数えて4度のモデルチェンジ、マイナーチェンジを経ているヘリウムだが、その中でも2013年は大きな変革の年となった。車名に"SL"(=Super Lightweight)を与えられた最新バイクはそれまでの高剛性路線から方向を転じ、フレーム重量750gというヒルクライム性能に長けた超軽量機として生まれ変わったのだ。

シートチューブはBB付近で急に広がる形状だシートチューブはBB付近で急に広がる形状だ ヘッド下側のベアリングは1-1/4径と縮小され、軽量化を意識しているヘッド下側のベアリングは1-1/4径と縮小され、軽量化を意識している ベンド形状のフロントフォーク。340gと軽量だベンド形状のフロントフォーク。340gと軽量だ


ヘリウム「SL」の登場によってセカンドグレードとなった既存のヘリウムはカーボン素材を見直して継続販売されていたが、2014年からはSLと同じフォルムを纏いモデルチェンジ。これにより高剛性を追い求めるノアシリーズとの完全な棲み分けが図られたのである。それが今回インプレッションを行う、第3世代のヘリウムである。

フラッグシップであるSLとほぼ同形状を採用した新生ヘリウムだけに、そのルックスはやはり線の細さが際立つもの。60、40、30トンという3種類の高弾性カーボンを使うSLに対し、ヘリウムに用いられているのは30と24トンカーボン。しかしながら積層を工夫することでフレーム重量は880gをマークしている。フレーム価格26万円のバイクとしては、なかなか価格重量比は優秀といえるのではないだろうか。

滑らかなトップチューブ。ここも快適性を演出するポイントである滑らかなトップチューブ。ここも快適性を演出するポイントである ダウンチューブは大口径の角型とされ、剛性を確保しているダウンチューブは大口径の角型とされ、剛性を確保している

ボトムブラケットはプレスフィット方式だボトムブラケットはプレスフィット方式だ トップチューブに記されたベルギー国旗と国別表記トップチューブに記されたベルギー国旗と国別表記


1-1/4へとダウンサイジングされた下側ベアリングや、極細に成型されたシートステー、27.2mm径のシートポストなど、見た目にも徹底的に軽量化を追求した新生へリウム。基本コンセプトは大口径のヘッドチューブからダウンチューブ、BB周辺で剛性を稼ぎ、トップチューブや非常に細く扁平なシートステーで快適性を確保するという現代ロードバイクの風潮に則ったものである。

前述した通り、従来モデルは剛性強化のために1-1/2インチ径の下側ヘッドベアリングを採用していたが、新生ヘリウムは軽量化のため、これを1-1/4インチへと変更している(上側は1-1/8インチで共通だ)。そう聞くと剛性不足を疑ってしまうが、そもそも、より軽量なSLをユルゲン・ヴァンデンブロック(ベルギー)など最高峰のオールラウンダーが実戦で使用している事を踏まえれば、自ずと答えは出るはず。

エンドまでカーボンで一体成形されており、軽量化を意識しているエンドまでカーボンで一体成形されており、軽量化を意識している リアブレーキワイヤーは外出し式とされているリアブレーキワイヤーは外出し式とされている


ヘッドチューブから接続されるダウンチューブは丸みを帯びた大口径の角形断面とされており、プレスフィット30規格のハンガーシェル、ハンガーからリヤエンドまでをカーボンで一体成型したチェーンステーを組み合わせることでパワーロスの少ない効率性と剛性を追求している。

そうした構造によりロスの無いパワー伝達を追い求める一方で、一瞬不安を感じてしまうほどに細いシートステーとトップチューブは、軽量化を実現しながら垂直方向からの荷重に対しては十分な柔軟性を発揮させ乗り心地を高めている。また、シートまわりはオーソドックスな27.2㎜径シートポストを採用する細身の設計であり、しなりを生み出すことで突き上げをカットすす狙いがある。

非常に細いシートステーは衝撃吸収性能に貢献している非常に細いシートステーは衝撃吸収性能に貢献している シートステーの起点部分。やや特殊な形状で強度を稼いでいるシートステーの起点部分。やや特殊な形状で強度を稼いでいる オースドックスなスタイルのシートチューブ。シートステーとの対比が興味深いオースドックスなスタイルのシートチューブ。シートステーとの対比が興味深い


ヘリウムはロードバイク「らしい」ルックスの美しさにもこだわっており、前後のシフトワイヤーはダウンチューブ内蔵に。一方でリアブレーキワイヤーはアルミ製の受けを使い、外装とすることで整備性も気遣われている。機械式はもちろんのこと、各所に開けられたケーブル穴を用い、シマノ・Di2とカンパニョーロ・EPSなどほぼ全てのコンポーネントをスマートに取り付けできる点もユーザーフレンドリーだ。

ヘリウムはフレームセットのみの販売とされており、カラーはグロスのブラック×ホワイトにベルギーのナショナルフラッグを配した、リドレーらしさの漂うもの。テストバイクはカンパニョーロ・コーラスと、FFWD・F4Rを組み合わせたものだ。早速インプレッションに移ろう。



ーインプレッション

「全ての能力のバランスが取れている、軽さが活きるオールラウンドバイク」江下健太郎(じてんしゃPit)

ずばりオールラウンドバイク。加速と巡航、コーナリングやブレーキングなど全ての場面が得意で、ちょうど良いレベルでバランスが取れています。その中でも加速する際のフィーリングの軽さには特徴的な印象を受けましたね。

フレームは弾性率の違うカーボン素材を適所に配置する事で、軽いフィーリングの加速性と振動吸収を両立する、ちょうど良い剛性感に仕上がっていました。特にBB周りは剛性感に富んでいるため加速性に優れ、シートステーは乗り心地も加速性も犠牲にしない絶妙なバランスがありますね。

「全ての能力のバランスが取れている、軽さが活きるオールラウンドバイク」江下健太郎(じてんしゃPit)「全ての能力のバランスが取れている、軽さが活きるオールラウンドバイク」江下健太郎(じてんしゃPit)
フロントフォークはしなりますが、極端なたわみやブレーキのストッピングパワーに負ける事はありませんでした。フォークそのものは柔らかさがありますが、ヘッド周りを含めたパッケージで言うと完成された作りになっていますね。ヘッド周辺の重心が見つけやすいので、フロント周りにしっかりと体重を乗せたダンシングができますね。とても軽快感が強いですね。

ストレス無く走らせることのできる直進安定性があるバイクですが、その分コーナリングではしっかりと体重移動させて曲がる必要があるのかな、と感じます。クイックなバイクに比べるとやや反応が遅いようですが、キチンとした体勢でコーナーに入ると狙ったラインを通過できました。ですから慣れれば問題無いはず。バイク全体で曲がるという印象はヨーロピアンバイクならではのものでしょう。

とても走りの軽快感が目立つバイクですから、登り、それも長い登坂コースで活きるのではないでしょうか。シッティングとダンシングの両方を取り入れて登ることで、反応の良さが活かされると思います。コーナーも決して不得意ではないですし、曲がる止まるの場面でストレスが無いため疲れが少なくなり、アップダウンがあるようなレースでは体力をセーブできるのはずです。ミドルグレードですが、かなりレベルの高いライダーが使っても不満は生まれないでは?と思います。

フレームセット販売ですから、自分の好みに合わせたパーツコーディネイトが可能です。880gのフレームはレースからロングライドまで幅広くカバーできる性能がありますね。ホイールやハンドルなどを硬いものとすればレース向け、柔かくすればロングライド向けと、どちらにも対応する柔軟さがあります。自分の一台を作り上げる愉しみが感じられるでしょう。

自転車のルックスはオーソドックスですが、ベルギー国旗のワンポイントやツヤありブラックのカラーリングはレーシーでとてもカッコ良いですよね。サイクルモードでも多くのギャラリーを集めていましたが、納得できる美しさです。ヘリウムは性能バランスに優れたオールラウンドレーシングバイクであり。コストパフォーマンスにも長けています。レースからロングライドまで幅広く使えますから、買って失敗ということもありません。期待を裏切らないバイクです。


「ダンシングが気持ちよい、オールラウンドレーシングバイク」小西裕介(なるしまフレンド)

「ダンシングが気持ちよい、オールラウンドレーシングバイク」小西裕介(なるしまフレンド)「ダンシングが気持ちよい、オールラウンドレーシングバイク」小西裕介(なるしまフレンド)
まずは漕ぎ出しが軽いバイクという第一印象を持ちました。軽量バイクは往々にしてフレームの軽さが不安定さを生じさせてしまうのですが、ヘリウムはそうでは無く、とても乗りやすい。ダンシングをした際に特に軽いフィーリングがあり、登りで活きるバイクですね。

とても華奢に見えるリアバックがルックス上の特徴ですが、そのフォルムからは想像できないほどの剛性があり、大きなパワーでペダルを回しても反応が遅れること無く、どの速度域からも素早い加速ができます。

セカンドモデルだけにカーボン素材も中級ですが、十分に軽量ですし問題はありませんね。フロント周りに若干の柔らかさを感じましたが、全体のバランスが良いので気になりません。

登りで活きると冒頭で説明しましたが、長い登りから短い登りまで全ての場面で不得意は無いはず。加速性能と共通することですが、ごく低速からの加速や、長時間ダンシングをキープしてもストレスを感じることはありませんでした。

これは疲れの軽減にも通じる部分だと言えるでしょう。ショックの吸収力も十分ですから、長時間のライドで手やお尻に痺れが出るようなことも少ないのでは?と思います。

平地巡航でもネガティブな要素を出すことはありません。ずば抜けて秀でた点こそありませんが、オールラウンドレーシングバイクとしては非常に完成度が高い。唯一下りは若干腰高感がありましたが、ハンドリングがニュートラルですから安定しています。ブレーキングはハードにかけても力が逃げず、フォークの嫌なヨレはありませんでした。

そうした性格のバイクですから、レースからイベントまで幅広く活躍できると思います。ホビーレースからプロレース、クリテリウム、アップダウンを含んだ周回、ヒルクライムなど様々なシチュエーションでのレースに上手く対応できるでしょう。一方でグランフォンドなど山岳系ロングライド系イベントでも良いでしょうね。

フレーム重量が880gということもあり、バイク重量6kg台も夢ではありません。そういう点ではリドレーのハイエンドモデルといっても遜色はない、ハイコストパフォーマンスな一台です。ダンシングのしやすさが際立っていたので、その性能を活かせるアッセンブルが良いと感じました。40mm以下のリムハイトを持ったホイールや、ハンドル、ステムは軽くてもしっかりとした剛性がある物が良いのではないでしょうか。幅広いレースに出場したいライダーにオススメしたい一台ですね。

リドレー HELIUMリドレー HELIUM (c)MakotoAYANO/cyclowired.jp

リドレー HELIUM
フレーム:30ton.24ton HM Carbon
重 量:フレーム880g、フォーク340g
ヘッドベアリング径:上1-1/8、下1-1/4
カラー:LV-BEL LTD
サイズ:XS.S.M
価 格:264,000円




インプレライダーのプロフィール

江下健太郎(じてんしゃPit)江下健太郎(じてんしゃPit) 江下健太郎(じてんしゃPit)

ロード、MTB、シクロクロスとジャンルを問わず活躍する現役ライダー。かつては愛三工業レーシングに所属し、2005年の実業団チームランキング1位に貢献。1999年MTB&シクロクロスU23世界選手権日本代表。ロードでは2002年ツール・ド・台湾日本代表を経験し、また、ツール・ド・ブルギナファソで敢闘賞を獲得。埼玉県日高市の「じてんしゃPit」店主としてレースの現場から得たノウハウを提供している。愛称は「えしけん」。

じてんしゃPit



小西裕介(なるしまフレンド)小西裕介(なるしまフレンド) 小西裕介(なるしまフレンド)

なるしまフレンド立川店店長。登録レーサーを経験し、メカニックの知識も豊富で走ることからメカのことまでアドバイスできるノウハウを持つ。レース歴は19年。過去ツール・ド・台湾などの国際レースにも出場するなど、トップレベルのロードサイクリストとして活躍した経歴を持つ。脚質はサーキットコースを得意とするスピードマンだ。

なるしまフレンド






ウェア協力:ビエンメ

text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO