ラルプデュエズ×2(ダブル)明けの重い脚を引きずる選手たちを迎えた麓の小さな街ブールドワザンには眩しい陽光が降り注ぐ。しかし向かうアルプスの空には雲が多い。

走りだしてすぐに登り始める超級グランドン峠。グリーンの長く緩やかなスロープの先に尖った岩峰が美しい。山頂付近は雲が重く垂れ、時折雨が降る。変わりやすい天候に備えチームカーで先行してサポートするスタッフたちも補給食に加えてレインジャケットを渡す用意をしている。

キャラバン隊が通過するころには多くの観客が沿道に陣取っているキャラバン隊が通過するころには多くの観客が沿道に陣取っている photo:A.S.O地元フランスの自動車メーカー・ルノーのスポーツカーには巨大ボンベが搭載される地元フランスの自動車メーカー・ルノーのスポーツカーには巨大ボンベが搭載される photo:A.S.O

山岳の景観が美しいグランドン峠を越えて行くメイン集団山岳の景観が美しいグランドン峠を越えて行くメイン集団 (c)Makoto.AYANO
頂上で選手たちの通過を待つサクソ・ティンコフの中野さんにお会いした。通常のステージでゴール担当の中野さんはこの最初の峠で選手をサポートしてゴールに向かうという。他のチームも分散して各峠や要所にに人員を配置してサポートに備える。今日のコースはサポート隊も各ポイントをスキップできる抜け道が用意してある。しかし、集団が分裂して長くなると先回りは厳しくなるが。

グランドン峠で2人逃げるライダー・ヘジダル(ガーミン・シャープ)とヨン・イサギーレ( エウスカルテル・エウスカディ)グランドン峠で2人逃げるライダー・ヘジダル(ガーミン・シャープ)とヨン・イサギーレ( エウスカルテル・エウスカディ) (c)Makoto.AYANOヘジダルとイザギーレを追う約40人の追走集団がグランドン峠を行くヘジダルとイザギーレを追う約40人の追走集団がグランドン峠を行く (c)Makoto.AYANO2人で抜け出しに成功したヨン・イサギーレ(エウスカルテル)とライダー・ヘジダル(ガーミン・シャープ)。観客たちはおよそロードレースに不釣り合いなヘジダルのナス型サングラスに釘付けだ。

続く3人。水玉ジャージに身を包む(ただしフルームとクインターナに次いで3位の代替着用)ラルプデュエズ覇者クリストフ・リブロンがポイントの獲得を狙うが、その後方にぴったりつけて追走したのはピエール・ロラン(ユーロップカー)。

ロランはモンヴァントゥーで遅れ、マイヨアポアを諦めてラルプデュエズでのステージ優勝に切り替えると宣言したが、ラルプ連覇は実らず。今日再びマイヨアポアへの可能性を感じさせつつ、ロランはこのまま先行に入る。

それを追いかけるのは40人!もはやグループとは呼べない、大世帯の逃げ集団だ。逃げ切りの可能性がある最後の日。それに混じって個人総合成績もこっそりジャンプアップしてしまおうと考える上位選手が潜り込んだ。

グランドン峠からマドレーヌ峠への登り口へ向けた長いダウンヒルで、ジャック・バウアー(ニュージーランド、ガーミン・シャープ)が転倒して有刺鉄線に突っ込んでしまった。バウアーは昨日のモンヴァントゥーでグルペットウィリーを披露した選手。コースの外にオーバーランして顔を有刺鉄線に引っ掛け、唇と顎に切り傷を負ってそのまま救急車に乗り込んでリタイアした。

マドレーヌ峠の長い下りと渓谷沿いの平坦路をこなし、1992年の冬季五輪の街アルベールヴィルへ到達するヘジダルとロラン。ロランの奮闘にフランス人観客は大興奮して沸くも、ヘジダルのアンニュイなサングラス姿が話題の一部をさらっていく。

グランドン峠の下りで転倒して有刺鉄線に突っ込んだジャック・バウアー(ガーミン・シャープ)。グランドン峠の下りで転倒して有刺鉄線に突っ込んだジャック・バウアー(ガーミン・シャープ)。 (c)Makoto.AYANO痛々しい表情を浮かべるジャック・バウアー(ガーミン・シャープ)。そのままリタイア痛々しい表情を浮かべるジャック・バウアー(ガーミン・シャープ)。そのままリタイア (c)Makoto.AYANO


追走グループに交されたピエール・ロラン(ユーロップカー)が失望でうなだれる追走グループに交されたピエール・ロラン(ユーロップカー)が失望でうなだれる (c)Makoto.AYANOライダー・ヘジダル(ガーミン・シャープ)とピエール・ロラン(ユーロップカー)が2人で逃げアルベールビルを通過ライダー・ヘジダル(ガーミン・シャープ)とピエール・ロラン(ユーロップカー)が2人で逃げアルベールビルを通過 (c)Makoto.AYANO


大きく開いたタイム差に「ヘジダルと最後まで逃げ切れば山岳賞は再びロランのものになる」という期待が高まった。しかしタミエ峠で単独となったロラン。真相はアタックではなく、ヘジダルに脚がなくついてこれなかったから。ヘジダルと一緒に最後のフリ峠まで逃げられれば、山岳賞ジャージは今日中にロランのものとなったのに。


安定した強さ見せたコスタ 4日前のコピー勝利

先頭のロランが登り口に差し掛かると、フリ峠には雨が降りだした。次第に強くなる雨足。勝負どころのラスト5kmに差し掛かる頃には土砂降り状態。コスタは苦しみに顔を歪ませるロランを置き去りに力強いピッチを刻んだ。

ダミアーノ・クネゴ(ランプレ・メリダ)率いる19人の追走集団ダミアーノ・クネゴ(ランプレ・メリダ)率いる19人の追走集団 (c)Makoto.AYANO集団が通過するアルベールビルの街。子どもたちも歓迎する集団が通過するアルベールビルの街。子どもたちも歓迎する (c)Makoto.AYANO


第16ステージのマンス峠の上りで逃げグループから飛び出し、ギャップへのゴールに単独で飛び込んでから4日後、「峠で後続に十分な差をつけ、ゴールまでの下りはその差を維持して逃げ切る」という同じやり方でグランボルナンのゴールに飛び込み2つ目のステージ勝利をものにしたルイ・コスタ(モビスター)。

このツールでは複数勝利を挙げた4人めの選手となった(他にキッテルの3勝、フルームの3勝、カヴェンディッシュの2勝)。コスタはこの勝利を前回と同じ戦略で勝ち取ったことを認める。「あの人と基本的には同じ戦略で、最後の峠まで待って、一気に勝負をかけた。運がいいことに脚はよく反応したよ」。

2勝目を示すVサインでゴールするルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)2勝目を示すVサインでゴールするルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター) photo:Cor Vos
モビスターはこの日逃げ集団とマイヨジョーヌ集団のふたつで同時に作戦を遂行した。前後の後方集団でナイロ・クインターナのマイヨブランを守るアシストをしながら、逃げグループにはルーベン・プラサとホセホアキン・ロハスが入り、コスタのアシストをした。モビスターがこのツールでトップレベルのチーム力を誇ることを証明した。


コンタドールのアタックよりチーム総合を重視したサクソ・ティンコフ

コスタの逃げる後方ではもうひとつの総合争いのバトルが繰り広げられていた。マドレーヌ峠から前方に集まったサクソ・ティンコフは、コンタドールの発射の時へ向けてセッティングを進める。頂上が近づくと、3番目につけるコンタドールは軽いダンシングでウォームアップのように点火する準備をしているように見えた。意欲満々の様子が手に取るように分かる。

サクソ・ティンコフはコンタドールのサポートを止めないつもりだサクソ・ティンコフはコンタドールのサポートを止めないつもりだ (c)Makoto.AYANOチーム総合成績のためにサクソ・ティンコフがメイン集団を牽引チーム総合成績のためにサクソ・ティンコフがメイン集団を牽引 photo:Cor Vos


しかし、頂上へ向け激しさを増す雨足が、着火寸前のコンタドールを鎮めた。結局は頂上付近のバトルはあったがコンタドールとフルームは同じ集団で静かにゴールした。コスタから遅れること12分 お互いににらみを効かせるマイヨジョーヌ集団は、火花を散らしつつも勝負を明日に見送った。

「コンタドールが最後にアタックを決めるはず」と期待を込めて見守った観客たちも肩透かしを食った。グランボルナンへの下りは、マンス峠のように荒れてはいなかった。リスクを負って飛ばせばフルームを離すことは可能だろうが、同時に人数を揃えて追えば差は開かない下り。すべてを失う可能性のあるリスクより、一緒にゴールすることを選んだ。

雨が降るなか1級山岳クロワ・フリに向かう逃げグループ 雨が降るなか1級山岳クロワ・フリに向かう逃げグループ  (c)Makoto.AYANO
謎のパンダジャージ現る謎のパンダジャージ現る (c)Makoto.AYANOリッチー・ポルトが牽引するマイヨジョーヌ集団が通過リッチー・ポルトが牽引するマイヨジョーヌ集団が通過 (c)Makoto.AYANO


コンタドールはこの日の作戦がサクソ・ティンコフのチーム総合首位を守ることにあったとレース後に話した。「雨は自分にとってチャンスだからアタックしようと考えた瞬間があった。でも僕らは最後まで一緒にいることがベストだと判断した。テレビの向こうで愛する人達がぼくの下りでのアタックに神経質になるのを知っているから、アタックしたくはなかった。下りもそれほどアタックに向いていたわけじゃない。結局は皆で一緒にゴールするのが良いと思った」。

ステージ優勝のまだ無いトマ・ヴォクレール(ユーロップカー)が行くステージ優勝のまだ無いトマ・ヴォクレール(ユーロップカー)が行く (c)Makoto.AYANO100%言葉通りにはとれないが、前の逃げ集団にはレディオシャックのアンドレアス・クレーデンとヤン・バケランツが入り、シャックが上位3人の成績で決まるチーム総合順位を上げてくることはサクソも計算していた。そしてクロイツィゲルの存在もあった。この日ハードに働いてきたクロイツィゲルはもし最後のエース同士のアタックがあったとき、それに反応できなかったかもしれない。

コンタドールは言う「今日チームはチーム総合成績を守るすごい仕事をした。僕がもしアタックしたらクロイツィゲルを離すことになったかもしれないんだ」。

判断のひとつにアタックしたホアキン・ロドリゲスの存在もある。コンタドールがプリトを引き連れてゴールすれば、クロイツィゲルはプリトに表彰台を奪われかねない。いくつかの計算がコンタドールのアタックを踏みとどまらせた。

ステージ2位のアンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック・レオパード)ステージ2位のアンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック・レオパード) photo:CorVos9年前に続き2度めのグランボルナンでの2位に終わったクレーデン

そして2位でゴールを切ったのはアンドレアス・クレーデン(レディオシャック・レオパード)。クレーデンがここグランボルナンで2位になるのは2004年に続いて2度目! 9年前のその時は、ゴール直前でアームストロングに抜かされ、マイヨジョーヌがステージ優勝を他の選手に譲らなかったことがクローズアップされた、明言「ノーギフト」を生んだステージ。またこの地で勝負を取り逃がしてしまったクレーデン。しかしバケランツが3位になり、チーム総合はサクソ・ティンコフに迫った。

ずぶ濡れのユキヤに渡したレインジャケット

冷たい雨がバラバラに分裂した後続の選手たちを濡らす。6つの峠、獲得標高5000mに上る厳しいステージの締めくくりにはあまりに酷な雨だった。好調さを見せていた新城幸也の姿はいつもの位置になく、随分と後方の約30分遅れの小さなグルペットにあった。

つづら折れのコーナーを上る日の丸ジャージを見つけたが、レインジャケットを着ている気配がない。慌てて隣で観戦していた日本人観客の三瓶達也さんに両手を塞いでいたカメラを託し、カメラマンベストを脱ぎ、自分が着ていたサイクル用のレインジャケットを脱いでユキヤに渡すことに。

私のレインジャケットを受け取りダウンヒルに備える新城幸也(ユーロップカー)私のレインジャケットを受け取りダウンヒルに備える新城幸也(ユーロップカー) (c)Makoto.AYANO
紳士的な振る舞いで一層人気を高めたイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・レオパード)紳士的な振る舞いで一層人気を高めたイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・レオパード) (c)Makoto.AYANOクロワ・フリを上る小さなグルペットクロワ・フリを上る小さなグルペット (c)Makoto.AYANO


下を向いたまま走っていたユキヤは声をかけると少し遠慮しながらもレインジャケットを受け取って下りに向かった。あとで聞けばすでにハンガーノックに陥り、寒さと格闘していたとのことで、ジャケットは大いに役立ったとのこと。たまたま着ていたのがサイクル用のレインジャケットで、タイミングも良かった。

しかし撮影そっちのけでレインジャケットを渡しているのなら美談だが、渡した後も並走してしっかり写真を撮ってしまうあたりは私もちゃっかりカメラマンである。あとで思えばキャンディーであれなんであれ、補給食になるものも渡しておけばよかったと思う。きっとペナルティーは食らわないはずだから(笑)。

落車でリタイアした選手に加え、厳しいステージに完走を諦めた選手が5人。アルゴス・シマノは昨日も最終走者だったトム・フィーラースがリタイアした。言うまでもなくマルセル・キッテルのスプリントにおける重要な最終発射台だ。シャンゼリゼの勝負は少しカヴェンディッシュに有利になった。

厳しい短距離決戦 勝負はアヌシー・セムノスの頂上ゴールに持ち込まれる

雨の1級山岳クロワ・フリを登るアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソ・ティンコフ)とクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング)雨の1級山岳クロワ・フリを登るアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソ・ティンコフ)とクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング) photo:Cor Vosコンタドールがこの日「イチかバチかの勝負」を見送ったことで、 サクソ・ティンコフの明日の走りがどうなるか面白くなった。125kmと短い上に超級山岳にゴールするステージ。圧縮された激しい勝負になることは必至だ。2011年のラルプデュエズゴールのステージでコンタドールがスタート直後から勝負を賭けたのが思い出される。

それぞれの思惑を秘め、勝負は翌日の頂上ゴールへそれぞれの思惑を秘め、勝負は翌日の頂上ゴールへ (c)Makoto.AYANOコンタドールとチームの選択肢はいくつもある。ステージ1勝を挙げ満足するか、イチかバチかの賭けアタックで、可能性が低い総合逆転を視野に入れた何か大きなアクションをとるか。コンタドールの表彰台の一角を守ること、チーム総合優勝をするために最後まで3人を揃える現実的な走りを選択するのか。そしてフルームを危機に陥れることは可能か。

チーム総合ではレディオシャック・レオパードが迫っている。3つの勝利を手に入れるために最高のシナリオを深追いすれば、ステージ勝利、シャンゼリゼの表彰台、チーム総合成績のすべてが手に入らなくなる可能性だってある。

2度ツールに勝っているチャンピオンが「2位でも10位でも同じこと」と言うのは威勢がいいが、コンタドールとチームが取る選択肢とは、果たして? 言うまでもなく多くの選手がこのステージに最後の望みと戦略を持って勝負をかけてくる。


photo&text:Makoto.AYANO
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