1日の獲得標高差が5000mに達するアルプス難関山岳コースで行なわれたツール・ド・フランス第19ステージ。逃げグループの中で抜群の登坂力を見せたルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)が逃げ切りで大会2勝目を果たした。



ツール・ド・フランス2013第19ステージ・高低図ツール・ド・フランス2013第19ステージ・高低図 image:A.S.O.2つの超級山岳頂上ゴールに挟まれているため存在感が薄いが、第19ステージの登りはとにかく長い。前半から超級山岳グランドン峠と超級山岳マドレーヌ峠が連続して登場し、後半には2級山岳タミエ峠、1級山岳レピーヌ峠、1級山岳クロワ・フリが畳み掛けるようにやってくる。

山岳の景観が美しいグランドン峠を越えて行くメイン集団山岳の景観が美しいグランドン峠を越えて行くメイン集団 photo:Makoto.AYANO走行距離も204.5kmと長く、1日の獲得標高差は5000mに達する。しかもこの日はスイス国境に近いアルプス山脈を雨雲が覆う。レース終盤にかけて雷雨に見舞われるなど、選手たちにとっては極めて厳しいステージとなった。

ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)に作戦を告げるクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング)ゲラント・トーマス(イギリス、スカイプロサイクリング)に作戦を告げるクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング) photo:A.S.O.スタート直後に始まる超級山岳グランドン峠(登坂距離21.6km・平均勾配5.1%)でアタックが繰り返された結果、ヨン・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)とライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・シャープ)が先行。これをダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス)やアンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック・レオパード)を含む40名が追走する展開に。

超級山岳マドレーヌを登るピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)とライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・シャープ)超級山岳マドレーヌを登るピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)とライダー・ヘジダル(カナダ、ガーミン・シャープ) photo:A.S.O.1時間以上におよぶ登坂を末に、ヘジダルとイサギーレは小雨降る超級山岳グランドン峠をクリア。マイヨアポワを着るクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)ら40名とのタイム差は3分、スカイプロサイクリング率いるメイン集団とのタイム差は8分まで広がっていた。

長いダウンヒルを経て超級山岳マドレーヌ峠(登坂距離19.2km・平均勾配7.9%)に差し掛かると、先頭ではイサギーレを振り切ったヘジダルが独走を開始。追走グループからはピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)が単独で飛び出し、頂上まで5kmを残して先頭ヘジダルに合流する。

先頭2人は、20名ほどに縮小した追走グループを4分、メイン集団を12分引き離して超級山岳マドレーヌ峠をクリア。メイン集団の牽引作業は、チーム総合成績トップを維持したいサクソ・ティンコフにスイッチする。

やがて3つ目のカテゴリー山岳・2級山岳タミエ峠に差し掛かると先頭ロランがヘジダルを千切る。ゴールまで69kmを残して早くも独走に持ち込んだロランは、2級山岳タミエ峠と1級山岳レピーヌ峠を連続して先頭通過。ロランはこの日だけで山岳賞52ポイントを獲得し、山岳賞トップのフルームと僅か1ポイント差の山岳賞2位に浮上した。



プロトンはスカイプロサイクリングを先頭に超級山岳マドレーヌを登るプロトンはスカイプロサイクリングを先頭に超級山岳マドレーヌを登る photo:A.S.O.
下りでマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)らがメイン集団から先行する下りでマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)らがメイン集団から先行する photo:A.S.O.チーム総合成績のためにサクソ・ティンコフがメイン集団を牽引チーム総合成績のためにサクソ・ティンコフがメイン集団を牽引 photo:Cor Vos



独走で最後の1級山岳クロワ・フリに差し掛かるピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)独走で最後の1級山岳クロワ・フリに差し掛かるピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー) photo:A.S.O.しかしその後ロランは左ふくらはぎを攣ってしまい、苦しみながらの走行を強いられる。ロランは追走グループに対して1分のリードを保ったまま、この日最後のカテゴリー山岳・1級山岳クロワ・フリに突入。周囲は暗くなり、雷を伴う激しい雨に見舞われた。

1級山岳クロワ・フリで独走に持ち込んだルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)1級山岳クロワ・フリで独走に持ち込んだルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター) photo:Cor Vosゴール13km手前の1級山岳クロワ・フリで追走グループからはルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)がカウンターアタック。コスタは単独で先頭ロランに合流し、降りしきる雨の中、そのまま独走に持ち込む。クレーデンやナバーロを振り切ったコスタがリードを広げた状態で雨のダウンヒルに差し掛かった。

雨の1級山岳クロワ・フリを登るアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソ・ティンコフ)とクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング)雨の1級山岳クロワ・フリを登るアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソ・ティンコフ)とクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング) photo:Cor Vos一方、サクソ・ティンコフが牽引するメイン集団からはアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)とジョン・ガドレ(フランス、アージェードゥーゼル)がアタックし、遅れてホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)が攻撃を仕掛ける。

しかしいずれのアタックも決定打を欠き、マイヨジョーヌのフルームやマイヨブランのクインターナ、サクソ・ティンコフのコンタドール&クロイツィゲルを引き離せない。総合上位陣はまとまった状態で1級山岳クロワ・フリをクリアした。

先頭コスタは後続を寄せ付けないスムーズなライン取りで下りをこなし、単独追走したクレーデンを48秒振り切ってゴール。第16ステージに続く今大会2勝目を飾った。いずれもレース終盤の山岳で先頭グループから飛び出しての逃げ切り勝利だ。「ツールは大好きなレースであり、毎回最高のコンディションで挑んでいるんだ」と、喜びの2勝目を飾ったコスタ。「2勝出来て本当に嬉しい。この先、どんな未来が待っているのか楽しみ。将来的にツールで総合成績を狙える選手になりたい。けど今はこの成績に充分満足しているよ」。

雷雨の1級山岳クロワ・フリで波乱は起こらず、マイヨジョーヌやマイヨブランを含む総合上位陣は8分40秒遅れでゴール。ナバーロとバルベルデが総合トップ10入りを果たしたことを除いて、上位陣の成績に変動は起こらなかった。

アルプス2日目を乗り切り、総合優勝に王手をかけたフルームは「何事もなく全てコントロール下に置かれていたように見えたかもしれないけど、選手全員が脚に重みを感じていたはず。悪天候とトリッキーなコースだったので、タイムを失わなかったことに満足しているよ」とコメント。コンタドールから5分11秒、クインターナから5分32秒のリードをもって最終山岳ステージに挑む。



リッチー・ポルトが牽引する強力なマイヨジョーヌ集団リッチー・ポルトが牽引する強力なマイヨジョーヌ集団 photo:Makoto.AYANOいくつもの難関山岳を越えるマイヨジョーヌのクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング)いくつもの難関山岳を越えるマイヨジョーヌのクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング) photo:Cor Vos
2勝目を示すVサインでゴールするルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)2勝目を示すVサインでゴールするルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター) photo:Cor Vos


路上にいたカメラマンからレインジャケットを受け取りダウンヒルに備える新城幸也(ユーロップカー)路上にいたカメラマンからレインジャケットを受け取りダウンヒルに備える新城幸也(ユーロップカー) photo:Makoto.AYANO翌日のステージでは、山岳賞2位のロランがマイヨアポワを着用する。フルームとの差は1ポイントだが、ロランは現実を受け入れる。「今日はステージ優勝だけを狙っていた。するとそこに山岳賞のチャンスが転がりこんできたんだ。全力を尽くしたので後悔はしていない。明日も山岳ポイントを獲得するチャンスがあるけど、今日の疲労を考えると、明日のステージでトップ10に入るのは難しそうだ。総合上位の選手たちの手にマイヨアポワが渡る可能性が高い」。

チームメイトの新城幸也(ユーロップカー)は29分52秒遅れでゴール。レース後、自身のTwitterで「最後の峠で嵐…。チームカーに既に抜かされていて、寒さと格闘してる時に綾野真さんにウィンドブレーカー貸して貰いました!ありがとうございました!とっても助かりました。ウィンドブレーカー無ければゴールにたどり着くの困難でした」と書き込んでいる。

選手コメントはレース公式サイトより。

ツール・ド・フランス2013第19ステージ結果
1位 ルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)                5h59'01"
2位 アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック・レオパード)     +48"
3位 ヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・レオパード)       +1'44"
4位 アレクサンドル・ジェニエ(フランス、FDJ.fr)             +1'52"
5位 ダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス)              +1'55"
6位 バルト・デクレルク(ベルギー、ロット・ベリソル)            +1'58"
7位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ベルキンプロサイクリング)       +2'03"
8位 アレッサンドロ・デマルキ(イタリア、キャノンデールプロサイクリング)  +2'05"
9位 ミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル)               +2'16"
10位 ルーベン・プラサ(スペイン、モビスター)                +2'44"

133位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                  +29'52"

敢闘賞
ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)

個人総合成績 マイヨジョーヌ
1位 クリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング)         77h10'00"
2位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソ・ティンコフ)         +5'11"
3位 ナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)              +5'32"
4位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、サクソ・ティンコフ)           +5'44"
5位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)              +5'58"
6位 バウク・モレマ(オランダ、ベルキンプロサイクリング)           +8'58"
7位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、アスタナ)               +9'33"
8位 ダニエル・ナバーロ(スペイン、コフィディス)               +12'33"
9位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)             +14'56"
10位 ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)+16'08"

ポイント賞 マイヨヴェール
1位 ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)       380pts
2位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)  278Pts
3位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)              227pts

山岳賞 マイヨブランアポワルージュ
1位 クリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング             104pts
2位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)                103pts
3位 ミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル)                 98pts

新人賞 マイヨブラン
1位 ナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)             77h15'32"
2位 ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)+10'36"
3位 アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・シャープ)         +10'52"

チーム総合成績
1位 サクソ・ティンコフ                          230h46'35"
2位 レディオシャック・レオパード                       +3'39"
3位 アージェードゥーゼル                           +7'37"

text:Kei Tsuji
photo:A.S.O., Cor Vos, Makoto Ayano

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