ここまで勝利が無かった開催国フランスを沸かす、クリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)のラルプ・デュエズ制覇。マイヨジョーヌのクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング)は、危機に陥りながらも結果的に総合リードを広げる走りを見せた。



ツール・ド・フランス2013第18ステージ・高低図ツール・ド・フランス2013第18ステージ・高低図 image:A.S.O.アルプス3連戦の初日。超級山岳ラルプ・デュエズを2回登る最重要ステージがついに姿を現した。前半からアルプスの峠を越え、スプリントポイントが置かれたブールドワザン通過すると、永遠に続くような九十九折りの登りが始まる。

逃げグループを形成するシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)ら逃げグループを形成するシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)ら photo:A.S.O.合計21カ所のコーナーを経て超級山岳ラルプ・デュエズ(登坂距離12.3km・平均勾配8.4%)の頂上に着くと、そこから更に2級山岳サレンヌを駆け上がり、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで通過した際に選手たちから不満が爆発した危険でテクニカルな下りが登場。最後はもう一度ラルプ・デュエズを登ってゴールを迎える。

レース前半からメイン集団をコントロールするスカイプロサイクリングレース前半からメイン集団をコントロールするスカイプロサイクリング photo:A.S.O.スタート後すぐに始まる2級山岳マンス峠の登りでは、逃げ切りステージ優勝を狙うチームによるアタック合戦が展開。アシストを先行させて終盤にエースをサポートする目的で、総合狙いのチームもアタックに加わった。

2級山岳サレンヌ峠を登るクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)やモレーノ・モゼール(イタリア、キャノンデールプロサイクリング)2級山岳サレンヌ峠を登るクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)やモレーノ・モゼール(イタリア、キャノンデールプロサイクリング) photo:Cor Vos17km地点でメイン集団から抜け出すことに成功したのは9名。シルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)やイェンス・フォイクト(ドイツ、レディオシャック・レオパード)といった脚の揃った9名がメイン集団を突き放しにかかる。

逃げグループとメイン集団のタイム差が順調に5分まで広がったところで、サクソ・ティンコフのニコラス・ロッシュ(アイルランド)とセルジオ・パウリーニョ(ポルトガル)がカウンターアタック。サクソ・ティンコフの2人は協力して逃げグループを追い、スカイプロサイクリングに揺さぶりをかける。

やがて逃げグループはスカイプロサイクリング率いるメイン集団から7分30秒リードして1回目のラルプ・デュエズに到達。公式発表で70万人以上という観客が詰めかけた九十九折りの登りで、逃げグループからティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)がアタック。

ヴァンガーデレンにはリブロンとモレーノ・モゼール(イタリア、キャノンデールプロサイクリング)が追いつき、3名で1回目のラルプ・デュエズをクリア。次の2級山岳サレンヌ峠もそのまま通過し、テクニカルな下りへと入って行く。

リブロンがコーナーでオーバーランし、ヴァンガーデレンがメカトラでストップするなどのトラブルに見舞われながらも、先頭3人はまとまった状態で2回目のラルプ・デュエズに向かった。



スカイプロサイクリングを先頭にラルプ・デュエズを登るプロトンスカイプロサイクリングを先頭にラルプ・デュエズを登るプロトン photo:A.S.O.
ラルプ・デュエズ名物オランダコーナーを通過するプロトンラルプ・デュエズ名物オランダコーナーを通過するプロトン photo:Cor Vos


スカイプロサイクリングが徹底的にメイン集団をコントロールするスカイプロサイクリングが徹底的にメイン集団をコントロールする photo:A.S.O.メイン集団は完全にスカイプロサイクリングのコントロール下に置かれ、スタナードとトーマスが力尽きると、続いてシウトソウとロペスガルシアが集団を牽引。スカイプロサイクリングは集団の人数を絞り込みながら、先行していたサクソ・ティンコフのロッシュとパウリーニョを吸収する。

2級山岳サレンヌ峠の下りで飛び出したアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソ・ティンコフ)とロマン・クロイツィゲル(チェコ、サクソ・ティンコフ)2級山岳サレンヌ峠の下りで飛び出したアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソ・ティンコフ)とロマン・クロイツィゲル(チェコ、サクソ・ティンコフ) photo:A.S.O.続いてアンディ・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・レオパード)やピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)、ミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル)らが抜け出したが、決定的なリードを奪えないままラルプ・デュエズ頂上を通過。すると2級山岳サレンヌ峠の下りでサクソ・ティンコフが動いた。

ラルプ・デュエズを登るクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)ラルプ・デュエズを登るクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル) photo:A.S.O.ガードレールの無い、荒れた路面の下りで総合3位ロマン・クロイツィゲル(チェコ、サクソ・ティンコフ)が飛び出すと、続いて総合2位アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソ・ティンコフ)がアタック。サクソ・ティンコフの2人が下りで攻撃に出た。

スカイプロサイクリングのケノーが率いるメイン集団は、先行するコンタドールとクロイツィゲルに大きなリードを与えない。モビスターが集団牽引に加わったことでタイム差は縮まり、結局コンタドールとクロイツィゲルは引き戻された。

ラルプ・デュエズを制したクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)ラルプ・デュエズを制したクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル) photo:Cor Vos先頭では実質的にメイン集団を振り切ったリブロン、モゼール、ヴァンガーデレンによるステージ優勝争いがスタート。2回目のラルプ・デュエズの登りが始まると、ヴァンガーデレンの独走が始まり、リブロンとモゼールがそれぞれ追走する展開に。

平均勾配8.4%の登りをヴァンガーデレンは快調に突き進んだが、ゴールまで5kmを残して徐々にペースダウンする。マイペースを刻んだリブロンが、ラスト2kmでついにヴァンガーデレンをパス。大歓声に包まれたラルプ・デュエズの頂上で、リブロンが歓喜のガッツポーズを繰り出した。

「幼少の頃、ラルプ・デュエズで選手が勝っているシーンをテレビで見た。いつの日か、自分もここで勝ちたいと夢見ていた」と、目を赤らめるリブロン。気迫溢れる走りで「ツールでフランス人がステージ優勝する」という伝統を守った。

「先行するヴァンガーデレンに追いついた時、彼の望みを打ち砕きたくて、迷うことなく渾身の力でアタックした。形勢が逆転した瞬間はスリルだったよ」。リブロンの勝利は、2010年ツールのアクス・トロワ・ドメーヌ頂上ゴール制覇以来3年ぶり。



ラルプ・デュエズをロドリゲスとクインターナと話しながら登るクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング)ラルプ・デュエズをロドリゲスとクインターナと話しながら登るクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング) photo:Cor Vos
フルームに対して攻撃を仕掛けるナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)フルームに対して攻撃を仕掛けるナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター) photo:Cor Vos


無線でクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング)が指示を出しながら走る無線でクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング)が指示を出しながら走る photo:Cor Vos一方、6分遅れでラルプ・デュエズに突入したメイン集団ではマイヨジョーヌを懸けた闘いが始まる。ゴールまでおよそ10kmを残して、マイヨジョーヌのクリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング)と総合5位ナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)がアタックを仕掛けた。

マイヨジョーヌを引き連れてラルプ・デュエズを登るリッチー・ポルト(オーストラリア、スカイプロサイクリング)マイヨジョーヌを引き連れてラルプ・デュエズを登るリッチー・ポルト(オーストラリア、スカイプロサイクリング) photo:Makoto Ayanoここで遅れたのは、本来攻撃を仕掛ける立場のコンタドールとクロイツィゲル。フルームとクインターナにはホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)が追いつき、遅れてリッチー・ポルト(オーストラリア、スカイプロサイクリング)も合流。スカイプロサイクリングの2人がサクソ・ティンコフの2人を引き離すことに成功した。

2度のラルプ・デュエズに苦戦したベルキンプロサイクリング勢2度のラルプ・デュエズに苦戦したベルキンプロサイクリング勢 photo:Makoto Ayanoポルトにアシストされ、順調にリードを広げ始めたフルーム。しかし、頂上まで5kmを残してハンガーノックに陥ってしまう。ルール上ラスト20km以内の補給は禁止されているが、ポルトがチームカーに下がって補給を受け取り、フルームに手渡す。こうしてフルームは大失速を免れたものの、レース後にポルトとともに20秒のペナルティーを受けている。

失速するフルームを振り切ったクインターナとロドリゲスは、ステージ優勝者リブロンから2分12秒遅れでゴール。フルームとポルトは3分18秒遅れたが、結果的にコンタドールとクロイツィゲルから1分前後のリードを奪うことに成功した。フルームは危機を迎えながらも、総合リードを広げるとともにマイヨジョーヌを守った。

「ここまでで一番厳しい一日だった」とフルームは振り返る。「(ハンガーノックになって)どうしても糖分が必要だった。リッチー(ポルト)がルールに違反して補給食を受け取り、それを受け取った僕がペナルティーを受けるのは納得出来る。20秒のペナルティーを受け入れるよ。とにかくリッチーの働きが素晴らしかった」。

アルプス初日を終えて、フルームは総合2位コンタドールに対して5分11秒、そして総合3位にジャンプアップしたクインターナから5分32秒のリードを得ている。フルームは山岳賞ジャージを、クインターナは新人賞ジャージを守った。

選手コメントはレース公式サイトより。


ツール・ド・フランス2013第18ステージ結果
1位 クリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)           4h51'32"
2位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)        +59"
3位 モレーノ・モゼール(イタリア、キャノンデールプロサイクリング)        +1'27"
4位 ナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)                +2'12"
5位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)                +2'15"
6位 リッチー・ポルト(オーストラリア、スカイプロサイクリング)          +3'18"
7位 クリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング)
8位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)               +3'22"
9位 ミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル)                  +4'15"
10位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、アスタナ)

11位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソ・ティンコフ)
12位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、サクソ・ティンコフ)            +4'31"
26位 バウク・モレマ(オランダ、ベルキンプロサイクリング)            +6'13"
31位 ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ)+7'06"
37位 ローレンス・テンダム(オランダ、ベルキンプロサイクリング)         +9'54"
65位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                      +24'20"

敢闘賞
クリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)

個人総合成績 マイヨジョーヌ
1位 クリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング)           71h02'19"
2位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソ・ティンコフ)           +5'11"
3位 ナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)                +5'32"
4位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、サクソ・ティンコフ)             +5'44"
5位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)                +5'58"
6位 バウク・モレマ(オランダ、ベルキンプロサイクリング)             +8'58"
7位 ヤコブ・フグルサング(デンマーク、アスタナ)                 +9'33"
8位 マイケル・ロジャース(オーストラリア、サクソ・ティンコフ)          +14'26"
9位 ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ) +14'38"
10位 ローレンス・テンダム(オランダ、ベルキンプロサイクリング)         +14'39"

ポイント賞 マイヨヴェール
1位 ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)        380pts
2位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)   278Pts
3位 アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)               227pts

山岳賞 マイヨブランアポワルージュ
1位 クリス・フルーム(イギリス、スカイプロサイクリング              104pts
2位 ナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)                97pts
3位 クリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)            77pts

新人賞 マイヨブラン
1位 ナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)               71h07'51"
2位 ミカル・クヴィアトコウスキー(ポーランド、オメガファーマ・クイックステップ) +9'06"
3位 アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・シャープ)          +10'52"

チーム総合成績
1位 サクソ・ティンコフ                            212h29'26"
2位 アージェードゥーゼル                            +6'05"
3位 レディオシャック・レオパード                        +12'29"

text:Kei Tsuji
photo:A.S.O., Cor Vos, Makoto Ayano