あまり当てにならないイタリアの天気予報だが、この日に限って予報通り、午後4時から雨が降り始めた。太陽に照らされて25度まで上昇していた気温が一気に一桁まで下がる。雨は3日間降り続く予定。もしかすると、夜更け過ぎに雪へと変わるかも知れない。

出走順に並べられたチームカー用のプレート出走順に並べられたチームカー用のプレート photo:Kei Tsuji
レース前半は暖かな太陽が差したレース前半は暖かな太陽が差した photo:Kei Tsuji
この日、ほとんどの選手はノーマルバイクで山岳タイムトライアルを走った。20.6kmのコースには下りと平坦区間が組み込まれているものの、大半は7%ほどの登り坂。TTバイクで走ったのは、普段からバイクに慣れ親しんでいるTTスペシャリストだけだった。

優勝したヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)のタイムは44分29秒。足切りのタイムリミットは優勝タイム+30%なので、57分50秒、つまりニーバリから13分21秒以内にゴールしないとタイムオーバーとなり、翌日スタート出来ない。マリアロッサのマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)が「今日のステージはスプリンターなら誰もが恐れる『坂』と『タイムトライアル』という2つの言葉で構成されている」とぼやく通り、多くの選手にとっては苦行でしかない。ステージ優勝が決まってからでないと判明しないという見えないタイムリミットとの闘いだ。

マリアロッサを着て走ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)はステージ157位マリアロッサを着て走ったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)はステージ157位 photo:Kei Tsuji
この日、マヌエル・ベレッティ(イタリア、アージェードゥーゼル)とマキシム・ベルコフ(ロシア、カチューシャ)が14分以上遅れてゴールした。ここまでのステージで何度か上位入賞しているベレッティと、フィレンツェステージで優勝して中間スプリント賞&逃げ賞トップのベルコフがタイムオーバーによって失格に。

しかしレース後、コミッセールはベレッティの失格を取り消すコミュニケを出した。ベレッティはレース前半にパンクしたが、スタッフの手違いで伴走車が付いておらず、パンクしたままゴールまで走ったという。そんな特別な事情によってベレッティは失格を免れた。

コースコンディションは後半にかけて悪くなる一方で、前半スタートと後半スタートではコーナリングスピードに差が出たのは事実。それでも、そんなことを微塵も感じさせない速さでニーバリがゴールした。

下り区間を含む20.6kmのヒルクライムコースを選手達が行く下り区間を含む20.6kmのヒルクライムコースを選手達が行く photo:Kei Tsuji
興奮する観客を連れて個人TTを走るフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ)興奮する観客を連れて個人TTを走るフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ) photo:Kei Tsuji思わず二度見してしまう双子の兄弟思わず二度見してしまう双子の兄弟 photo:Kei Tsuji

これまでずっとクールを保っていた「メッシーナの鮫」ことニーバリが、全開でもがきながら走る姿を今大会初めて見た気がする。3分前にスタートしたカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)に追いつかんばかりのハイペース。会場近くに住むジルベルト・シモーニの「絶好調ニーバリがライバルたちから1分30秒のリードを奪ってもおかしくはない」という予想は的を得ていた。

ジロのボスとして4分のリードを築き上げたニーバリ。雨の中を走り終えると、すぐにレース後のインタビュー、ステージ優勝&マリアローザ表彰、特設ステージでのRAIの番組収録、プレスルームでの記者会見、そしてドーピング検査をこなしていく。それらはステージ優勝ならびにマリアローザ着用者としての義務であり、当然ホテルに戻るのは他の選手たちよりもずっと遅くなる。記者会見で疲れた顔一つ見せず、凛々しくもにこやかに質問に答える姿は王者の風格が漂う。悪天候にも全く動じない安定感がある。そろそろガゼッタ紙を始めとするイタリアメディアはニーバリを「ドミナトーレ(支配者)」と呼び始めている。

大声援を受けて登りを進むマリアローザのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)大声援を受けて登りを進むマリアローザのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji
雨の中を快走するヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)雨の中を快走するヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsuji下山途中、ファンのテントに立ち寄るフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ)下山途中、ファンのテントに立ち寄るフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ) photo:Riccardo Scanferla

ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)がもちろんマリアローザをキープヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)がもちろんマリアローザをキープ photo:Kei Tsuji
このレポートを書いているホテルの外では、雨がザーザー降り続いている。風も強く、気温は低い。タイムトライアル中に降り始めた雨が、今後2日間ずっと降り続くという予報が出ている。

積雪と低温、悪天候によって、今大会の目玉であった第19ステージのガヴィア峠とステルヴィオ峠がキャンセルされたことはすでにお伝えした通り。レース予定時刻のステルヴィオ峠頂上はマイナス10度まで下がる見込みだと言う。現在はプランBに沿って2級山岳と1級山岳カストリン峠を含む160kmでレースが行なわれる予定だが、「標高1200m以上の山間部は雨が雪に変わるでしょう」とラジオの天気予報はさらりと言ってのける。そもそも第19ステージのスタート地点ポンテ・ディ・レーニョの標高は1350m。スタート時間の気温は1度。

コースの難易度は下がったが、山間部を大きく迂回するため、距離は139kmから160kmに延長されている。スタート時間は5分早まっただけで、レース時間に大きな影響は無い。つまり選手たちが冷たい雨&雪の中を4時間以上走ることに変わりは無い。

一帯には断続的に雪が降り続いている。多くのチームや大会関係者はスタートから距離がある場所に宿泊しており、スタートに向かうためには標高1883mの峠を越えなければならない。果たして、チームカーや大会関係車両が時間通りに到着出来るのかどうか。更なる変更を強いられる可能性もありそうだ。

text&photo:Kei Tsuji in Polsa, Italy