レース主催者RCSスポルトが力を尽くしてナポリで第1ステージを行なったというのに、系列会社であるガゼッタ・デッロ・スポルト紙がイタリア名物のショーペロ(ストライキ)を敢行したため、せっかくの美しきナポリステージ特集がピンクの紙に描かれることはなかった。

フェリーに乗って沖合に浮かぶイスキア島に向かうフェリーに乗って沖合に浮かぶイスキア島に向かう photo:Kei Tsuji
イスキア島はナポリの沖合に浮かぶ島。小豆島の約1/3、伊豆大島の約1/2の面積で、三宅島より少し小さいぐらい。ナポリ港からフェリーで1時間半の位置にある。ジロがイスキア島を訪れるのは実に54年ぶり。

地中海に浮かぶイスキア島の美しさは、日本を含めて世界中にレース映像を通してしっかりと広められた。雨の予報もどこ吹く風で、夏のような太陽に青い海が映える。バケーションには最適な土地。しかしレース関係者にとって「海を渡ること」は厄介そのもの。レース前後の移動が指定&制限されるため、とにかく動きにくくなるのだ。

チームはチームバスとチームカー3台を朝早くのフェリーでイスキア島に持ち込んだ。「指定された時間にフェリー乗り場に到着しなければレースから除外する」という厳しい言葉があったため、どのチームも遅れずにイスキア島に乗り込むことに成功。チームは朝8時か9時のフェリーで、報道陣は朝10時のフェリーでイスキア島に渡った。コースの設営舞台はもちろん前夜から現地入りしている。

全チームがイスキア島にチームバスを持ち込んだ全チームがイスキア島にチームバスを持ち込んだ photo:Kei Tsuji
ローラー台でアップするヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)ローラー台でアップするヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:Kei Tsujiウォーミングアップするダニーロ・ディルーカ(イタリア、ヴィーニファンティーニ)ウォーミングアップするダニーロ・ディルーカ(イタリア、ヴィーニファンティーニ) photo:Kei Tsuji

問題なのはゴール後の移動で、ゴール地点のフォリオ港から本土に戻り、翌日のスタート地点ソレントに1時間かけて移動するチームもあれば、フォリオ港から直接ソレントにフェリーで向かうチームも。しかもそれは選手の話であって、チームバスやチームカーは夜10時半のフェリーで本土に向かう。翌日のスタート地点にはチームバスが来ないという情報もある。

そんなレース運営のロジスティクスはとても「イタリアっぽい」。来年のジロはアイルランドで開幕し、第3ステージのあと休息日を挟まずにイタリアに移動して第4ステージを行なうという。選手たちは空路で数時間の距離だが、チームバスはどうする?チームカーは?果たしてそれが実現可能なのかどうか疑問が残る。

木陰でアップするサクソ・ティンコフの選手たち木陰でアップするサクソ・ティンコフの選手たち photo:Kei Tsuji
決められた時間にコースを試走する決められた時間にコースを試走する photo:Kei Tsujiローラー台で追い込むロバート・ヘーシンク(オランダ、ブランコプロサイクリング)ローラー台で追い込むロバート・ヘーシンク(オランダ、ブランコプロサイクリング) photo:Kei Tsuji

54年ぶりのジロ・デ・イタリアを暖かく迎える54年ぶりのジロ・デ・イタリアを暖かく迎える photo:Kei Tsuji
スカイプロサイクリングの優勝タイムは22分05秒で、平均スピードは47.275km/h。平均スピードが55km/hに達することも多いチームTTにおいてはかなり遅めだ(ジロ史上最速チームTTは2006年にCSCがマークした56.86km/h)。

距離が短いにも関わらず、最速タイムよりも10km/h近く遅い。数週間前に敷き直したというアスファルトは黒々としていて、穴ぼこだらけのナポリ市内とは大違い。遅い平均スピードは、コースのテクニカルさを表している。

風は弱く、雨も降らず、路面のコンディションは一日を通して一定。後半スタートのチームのタイムが伸びなかったのは、単に速いチームが前半に固まっていただけ。モビスターの2位に驚きの声を上げるジャーナリストもいたが、スカイプロサイクリングのステージ優勝は順当だ。

ブラドレー・ウィギンズ(イギリス)は、従来比で空力抵抗を15%ダウンさせたというピナレロの新型TTバイク「Bolide」に乗ってコースを試走したが、その後もずっとメカニックと調整を繰り返していた。DHバーのパッドの感触に納得出来なかったらしく、結局ウィギンズはチームメイトと同じ「Graal」で走った。また、スカイプロサイクリングは背中にジッパーがあるタイプのスキンスーツを使用した。袖から肩、背中にかけて整流効果を狙ったであろう縫い目が入っている。

囚人のようにペダルを回す囚人のようにペダルを回す photo:Kei Tsuji
スカイプロサイクリングのスキンスーツには独特の加工が施されているスカイプロサイクリングのスキンスーツには独特の加工が施されている photo:Kei Tsujiイタリアチャンピオンのダリオ・カタルド(イタリア、スカイプロサイクリング)イタリアチャンピオンのダリオ・カタルド(イタリア、スカイプロサイクリング) photo:Kei Tsuji

スタートに向かう前に落ち着いて深呼吸するリゴベルト・ウラン(コロンビア、スカイプロサイクリング)スタートに向かう前に落ち着いて深呼吸するリゴベルト・ウラン(コロンビア、スカイプロサイクリング) photo:Kei Tsuji
トップタイムをマークしたスカイプロサイクリングトップタイムをマークしたスカイプロサイクリング photo:Kei Tsuji
「まさか自分がマリアローザを着ることになるなんて夢にも思わなかった」。シチリア出身の23歳サルヴァトーレ・プッチォは、母国イタリア最大のレースで総合リーダーについた驚きを隠せない。プッチォは2011年のロンド・ファン・フラーンデレンU23レースで優勝し、2012年にスカイプロサイクリングでプロデビューした。

プッチォはシチリア島南部、世界遺産アグリジェント近くの出身。サルヴァトーレという名前はシチリア特有のもの。「救世主」を意味する。シチリアが舞台の映画「ヌオーヴォシネマパラディーゾ(ニューシネマパラダイス)」の主人公もサルヴァトーレ。ニックネームは共通してトトー。

スカイプロサイクリングがこのままマリアローザを守ろうとするとは思えない。総合リーダーチームはレースをコントロールしなければならないという不文律がロードレースには存在する。一旦他チームにマリアローザを明け渡し、最終週でウィギンズが取り戻すというのがスカイが描く台本だろう。

翌日の第3ステージは雨の予報。雨が降ると一気に路面が滑りやすくなる地域を通過するだけに、まだまだ気の抜けない日が続く。

表彰台のスクリーンで後続チームの走りを見るスカイプロサイクリング表彰台のスクリーンで後続チームの走りを見るスカイプロサイクリング photo:Riccardo Scanferla
スプマンテで派手にファイトするスカイプロサイクリングスプマンテで派手にファイトするスカイプロサイクリング photo:Riccardo Scanferla
暮れなずむイスキア島をあとにする暮れなずむイスキア島をあとにする photo:Kei Tsuji

text&photo:Kei Tsuji in Ischia, Italy

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