3月17日に開催されるミラノ〜サンレモにおいて、23歳ペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)を優勝候補に推す声が強い。チプレッサとポッジオのアタックを切り抜け、サンレモでのスプリントを制するのは果たして誰か。雨の予報が出ており、荒れ模様のレースが予想される。

悪天候続きのヨーロッパ レース当日は低温&降雨の予報

ミラノ〜サンレモ コースマップミラノ〜サンレモ コースマップ image:RCS SportUCIワールドツアー第4戦ミラノ〜サンレモは、今年で開催104回目の伝統あるワンデークラシック。春を告げる名物レースであるためイタリア国内では「ラ・プリマヴェーラ(春)」と呼ばれており、その格式の高さから「クラッシチッシマ(クラシックの最上級)」とも。

ミラノ〜サンレモ ラスト30kmコースプロフィールミラノ〜サンレモ ラスト30kmコースプロフィール image:RCS Sportコースはその名の通りミラノからサンレモまで。フランスの所謂「パリ〜○○○」と呼ばれるレースとは異なり、正真正銘ミラノの中心地をスタートし、リグーリア海岸のサンレモまで線でつなぐ。

テクニカルなポッジオの下りの向こうにサンレモの町が見えるテクニカルなポッジオの下りの向こうにサンレモの町が見える photo:Cor Vosその距離は300kmの大台目前の298km。日本で言うところの、東京〜愛知、大阪〜静岡に匹敵するほどの長旅。現存するロードレースの中で最長距離を誇っている。

内陸部の大都市ミラノをスタートするコースは、平野部を突っ切る前半部が平坦基調。ジェノバ近郊のトゥルキーノ峠(標高532m)を越えると、リグーリア海に沿ったオーシャンロードが始まる。

トゥルキーノ峠は大会の最標高地点だが、レース展開的には重要なポイントではない。勝負の鍵を握るのは、後半に登場するレ・マニエ、トレ・カーピ、チプレッサ、ポッジオの登りだ。

リグーリア海沿いの平坦路をしばらく走った後、204km地点でレ・マニエ峠(標高318m)をクリア。2008年に導入されたこのレ・マニエは、5km弱で標高差300mを駆け上がる。アタッカー有利の展開に持ち込みたいチームは、スプリンターの脚を弱めるためにここでペースを上げてくるだろう。ここから徐々にレースは慌ただしさを増す。

トレ・カーピ(3つの岬)と呼ばれるカーポ・メーレ、カーポ・チェルヴォ、カーポ・ベルタの3つの岬の先、真の勝負どころとして選手たちを待ち構えるのが、ゴール28km手前から連続する2つの登り。高低差234mのチプレッサ(平均4.1%、最大9%)と高低差136mのポッジオ(平均3.7%、最大8%)だ。

このチプレッサとポッジオでは毎年激しいアタック合戦が繰り広げられる。ここで飛び出した選手は、何とかスプリンターチームの追撃を抑え込んでゴールまで逃げ切りを図る。対するスプリンターチームは、登りで縮小した集団を率いて、エーススプリンターのゴール勝負をお膳立てする。

最後のポッジオの頂上からゴールまでは僅かに6.2km。その構成は3km下って3km平坦。ゴール地点はサンレモの町の海側に位置するルンゴマーレ・カルヴィーノだ。

ポッジオ通過後のテクニカルなダウンヒルや、ゴール直前の牽制の中から平坦区間で飛び出す選手も出てくる。アタッカーの逃げ切りか、それともスプリンターの追い上げ&スプリントバトルか。この2通りの展開が絶妙なバランスでクロスするコースレイアウトが、ミラノ〜サンレモ最大の魅力だ。

今年は開催日を土曜日から日曜日に移行。ヨーロッパは低温&悪天候に見舞われており、日曜日の天気予報は雨、スタート時の気温は3度ほど。一日中ずっと雨に降られ続けることも考えられ、距離以上にタフなレースになり得る。暖かな太陽を連想させる「春」のレースだが、寒さと雨との闘いになりそうだ。

ミラノ〜サンレモ コースプロフィールミラノ〜サンレモ コースプロフィール image:RCS Sport

優勝候補筆頭はサガン ジルベールやボーネン、カヴ、カンチェラーラも黙っていない

ティレーノ〜アドリアティコでステージ2勝を飾ったペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)ティレーノ〜アドリアティコでステージ2勝を飾ったペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング) photo:Riccardo Scanferlaシーズン前半の目標にこのミラノ〜サンレモを挙げていたペーター・サガン(スロバキア、キャノンデールプロサイクリング)は、自他ともに認める優勝候補の筆頭だ。

スプリントで競り合うフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)とシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)スプリントで競り合うフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)とシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Kei.Tsuji「カンニバル(人食い)」ことエディ・メルクスの再来とも呼ばれるサガンは、直前のティレーノ〜アドリアティコでステージ2勝。山岳ステージでクライマーを破り、平坦ステージでスプリンターを打ち負かした。チプレッサとポッジオの登りでクライマーたちがサガンを突き放すのは至難の業。仮にビッグスプリンターが集うゴールスプリントに持ち込まれたとしても、フレッシュな脚を残すサガンに勝機が有る。

ティレーノ〜アドリアティコ連覇を果たしたヴィンツェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)ティレーノ〜アドリアティコ連覇を果たしたヴィンツェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ) photo:RCSsportストラーデビアンケで優勝したモレーノ・モゼール(イタリア)とサガンのタッグは間違いなく今大会最強。キャノンデールプロサイクリングを率いる1990年生まれの2人が、サンレモでも猛威を振るいそうだ。

すでにシーズン6勝を飾っているマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ)すでにシーズン6勝を飾っているマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、オメガファーマ・クイックステップ) photo:A.S.O.ポッジオでアタックを仕掛けてくると思われるのは、パンチ力のあるフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)やシルヴァン・シャヴァネル(フランス、オメガファーマ・クイックステップ)、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、アスタナ)、ルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)、そしてディフェンディングチャンピオンのサイモン・ゲランス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)ら。彼らアタッカーのミッションは、スプリンターを振り切って、サンレモまで逃げ切ること。とくにサガンを振るい落とすべく執拗にアタックするだろう。

特にパリ〜ニースの最終スプリントで競り合ったシャヴァネルとジルベール、ティレーノ〜アドリアティコで連覇を達成したニーバリは好調を維持してミラノに向かう。優勝経験のあるファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・レオパード)やフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ランプレ・メリダ)も同じくアタックで活路を見出すタイプだ。

オメガファーマ・クイックステップはシャヴァネルの他にもマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)とトム・ボーネン(ベルギー)という二大スプリンターを擁する。カヴェンディッシュは今シーズンすでに世界最多の6勝を飾っており、登りも登れている。「北のクラシック」に向けて徐々にコンディションを上げるボーネンが心強い存在になるだろう。

2011年大会の覇者マシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)や、登れるスプリンターのジョン・デゲンコルブ(ドイツ、アルゴス・シマノ)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、スカイプロサイクリング)、そしてハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、IAMサイクリング)、ツアー・ダウンアンダーで圧倒的なスプリント力を披露したアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)らが虎視眈々とスプリントを狙ってくる。他にもゲラルド・チオレック(ドイツ、MTNキュベカ)やオスカル・ガット(イタリア、ヴィーニファンティーニ)、ダニエーレ・ベンナーティ(イタリア、サクソ・ティンコフ)ら、世界最高峰のスプリンターがミラノに集う。

text&photo:Kei Tsuji in Milano, Italia