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イタリア・トレヴィーゾ県のアーゾロのセッレイタリア本社で行われた2018-19年モデル発表会。その目玉となるロード用ハイパフォーマンスサドル「SP-01」をグランフォンドでテストライド。CW編集部・藤原によるインプレッションと、2019年モデルとして登場した新型をあわせて紹介しよう。

Special Perfomance=特別な性能を獲得したニューサドルSP-01

セッレイタリアの革新を象徴するハイパフォーマンスモデル「SP-01」セッレイタリアの革新を象徴するハイパフォーマンスモデル「SP-01」
ほぼフラットな座面ほぼフラットな座面 唯一無二のイノベーティブなサドルシェイプ唯一無二のイノベーティブなサドルシェイプ

2016年のユーロバイクにて全世界に向けてローンチされたSP-01。セッレイタリアが求めるクオリティに達するまで徹底的に品質管理を行ったため発表より期間が開いてしまったが、2018年にいよいよデリバリーが開始される。それを受け、セッレイタリアは全世界からメディア関係者を招待し、2019年モデルのSP-01の発表を行った。

まずはSP-01のディテール紹介から。シェルが後端部で左右に分割している唯一無二のデザインの目的は、ペダリング時の骨盤の動きに合わせてベースが沈み込む柔軟性を持たせるため。オペレーションダイレクターのジョバンニ・エラルド氏によると「左右に分割することでサドルがペダリングにあわせて動くようになり、脚の動きを妨げることなく、腰をサドルに落ち着けられるようになる」と言う。

エラルド氏は「テストライダーからも他のサドルよりも足の動かしやすさは確かにあると評価を受けています。また、彼らは路面から伝わるバイブレーションもカットしてくれるショックアブソーバーとしての性能もあると言っています」とも。また、「通常のサドルに対してSP-01は3倍の柔らかさを備えています。」と言う。

ショートノーズモデルのSP-01 BOOSTが登場したショートノーズモデルのSP-01 BOOSTが登場した
通常モデルよりもノーズが短く、サドルを前に出すポジション設定が可能となっている通常モデルよりもノーズが短く、サドルを前に出すポジション設定が可能となっている SP-01のアイデンティティであるサドル後端部のスプリットデザインSP-01のアイデンティティであるサドル後端部のスプリットデザイン

座面中央部のホールサイズを大きくした「スーパーフロー」仕様であることもSP-01の特徴だ。前傾姿勢を深くとり、TTのようにサドル荷重を大きくした場合でも、デリケートゾーンへの圧迫を防ぎ、痺れなどが発生しにくくなっている。

快適性に関してはパッドの貼り付け方にもこだわり、性能向上を目指している。一般的なサドルは表皮をベースの裏側まで引っ張り固定しているが、SP-01場合はベースの表面のみに貼り付けるというパテント取得済みの工法を採用している。これにより表皮に強くテンションを掛けずに済み、クッションの性能を引き出せるメリットがあるという。もちろんあらゆる天候に対応させるためのテストを行っている。

このSP-01に2019年モデルとしてBOOST仕様がラインナップに加わる。一般的にBOOSTといえばマウンテンバイクのエンド幅規格だが、セッレイタリアの場合はショートノーズサドルのことを表す。SP-01はロードモデルとしてはNOVUSに続き2番めにショートノーズが採用されたサドルとなった。

セッレイタリア SP-01 ツール・ド・フランスエディションセッレイタリア SP-01 ツール・ド・フランスエディション
世界的なトレンドとなっているショートノーズサドルは、前乗りポジションのセッティングを行い易くしたもの。TTのように深い前傾姿勢でパワーを掛け続けやすくなるため、プロ選手の中でも前乗り派は少なくない。また、腰を落ち着かせることができるスプリットデザインや、デリケートゾーンへの刺激が少ないスーパーフローを備えたSP-01 BOOSTは期待できるはずだ。

また、ジロ・デ・イタリアとのコラボレーションに続き、ツール・ド・フランス版デザインモデルも2018年モデルとしてリリースされる。マイヨジョーヌカラーや大会ロゴを使用した特別なグラフィックを描き、世界最高峰のステージレースを記念している。

クイーン・オブ・グランフォンド「ノヴェ・コッリ(9つの峠)」距離205km、獲得標高3800mの過酷なロングライドを経て見えたSP-01とは

走行距離205km、獲得標高約3,800mのグランフォンド「ノヴェ・コッリ」でSP-01の真価を試した走行距離205km、獲得標高約3,800mのグランフォンド「ノヴェ・コッリ」でSP-01の真価を試した (c)sportograf.com
SP-01の印象を語る前に、筆者はid match(アイディー・マッチ)の結果から、今回フィーチャーするモデルであるL3カテゴリーのSP-01がレコメンドされていたことを記しておこう。サドルは好みや体型、柔軟性など様々な要因から個人に合う・合わないが存在し、多くのサイクリストを悩ませているパーツの1つであることは誰もが認めるところだろう。

この悩みを解決するためにサドルメーカーの一部はマッチングシステムを開発し、各社それぞれの手法でサイクリストにフィットするモデルを導き出せるように環境を整えている。セッレイタリアもその1つであり「id match」と呼ばれるシステムで、マッチするサドルのカテゴリーを教えてくれるのだ。しかし、実際にフィッティングシステムを活用してサドルを選んでいるという方は多くはないだろう。

私もそのひとりだった。私のサドルに対する今までの認識は、完成車に装備されていたモデルをそのまま使い続け、知人のバイクを借りてみた時などに装着されていたサドルが気に入ればそれを購入する程度。重大な違和感を覚えなければ「フィットしている」と判断していたのだ。

id matchの手順1:大転子の左右の幅を計測id matchの手順1:大転子の左右の幅を計測 id matchの手順2:左右の太ももの幅を計測id matchの手順2:左右の太ももの幅を計測

id matchの手順3:立位前屈時の骨盤角度を計測id matchの手順3:立位前屈時の骨盤角度を計測 導き出されたのはL3(坐骨の幅が広く、骨盤の前傾が大きい)カテゴリー導き出されたのはL3(坐骨の幅が広く、骨盤の前傾が大きい)カテゴリー

しかし、idmatchから導き出されたモデル(ここではL3カテゴリーのSP-01)は、どうしてもっと早くフィッティングシステムを利用しなかったのかと後悔したくなるほど完璧に身体にマッチしていた。誇張表現ではなく、実際にそう思ったのだ。これまで常用していたサドルがマッチしないと感じ始めてしまい、フィットするということはこういうことなのか!と驚きを持ってSP-01を迎え入れた。

先述したように、重大な違和感がなければマッチしていると判断を下していた私の感覚が鈍いだけかもしれないので、念のため異なるカテゴリーであるS2のSLR TEAM EDITIONとL2のFLITE TEAM EDITIONも合わせて試用してみた。しかし、坐骨幅が広い人向けのLカテゴリーであるFLITEはそれなりにフィットし、SカテゴリーのSLRはフィットしなかった。

サドル形状の好みなどにも左右されていると思うが、システムから導き出された答えが最もフィットしていたことを考えると、idmatchの信頼度は高いと言えるだろう。初めてのフィッティングであるため多少の色眼鏡がかかっていることは容赦して欲しいが、サドル選びに悩んでいる方こそフィッティングが助け舟となってくれるはずだ。

SP-01の柔軟性を登り、下り、荒れた路面でテストSP-01の柔軟性を登り、下り、荒れた路面でテスト
セッレイタリアのモデルの多くはSとLどちらのカテゴリーも用意されているため「SLRが良い!」「FLATE一筋!」という方でもマッチする物を見つけやすい。もちろん気軽にフィッティングを受け、導き出されたものに乗ってみるというライトな感じでも良いだろう。

さて、肝心のSP-01の印象を記していこう。サドルの形状はラウンド形状とフラット形状の中間であり、座った時の印象も現行のSLRとFLATEの中間と、見た目から受ける印象通り。

座面は少ない力でもたわませられるほど柔軟性に富むが、いざ乗車してみるとペダリング中に座面が動くことによる不安定さは無い。SP-01に乗車中のライダーを後ろから観察しても、座面が左右にローテーションする量は極わずかであり、このサドルが積極的にしなり快適性を生み出すものでは無さそうだ。

女性のジャーナリストもテストに臨み、快適だったとコメントした女性のジャーナリストもテストに臨み、快適だったとコメントした
SP-01はサドルに腰掛けた時に発生するたわみにより、ライダーそれぞれのサドル荷重にあわせたフィットを生み出していると感じる。サドル上で腰を安定させた上で、太ももの動きを妨げない柔軟性により、快適性を生み出しているのだろう。

ベースの動きのあまりのナチュラルさに「可動していないのではないか」と思い、乗り慣れた別モデルに乗り換えてみたところ、これまで感じることのなかった太ももにサドルベースが存在感を主張してくるようになってしまった。つまりSP-01のベースが柔軟に動いていたということだ。

柔軟性と快適性に富むサドルというと、路面からの衝撃を吸収してくれる物をイメージする方もいるかもしれないが、SP-01はレーシングモデルでありコンフォートモデルのそれとは異なる。ベースのしなりも衝撃吸収を担っているが、誂えられた厚めのクッションが腰へのダメージを軽減しているようだ。

獲得標高3800m超という過酷なグランフォンド「ノヴェ・コッリ」でSP-01をテストした獲得標高3800m超という過酷なグランフォンド「ノヴェ・コッリ」でSP-01をテストした
イタリア・チェゼーナ周辺を走行するノヴェ・コッリのルートは、お世辞にも路面が綺麗とは言えず、ひび割れているポイントが多く現れた。そんな道程でもSP-01は過剰な衝撃はカットしていてくれたようで、205km、11時間のライドでもサドルにこれ以上座れないとなるほどの痛みは覚えなかった。

もちろんフレームやタイヤ、ホイール、シートポストなど各パーツ、ビブショーツのパッドの影響はあっただろう。しかし、実際に自転車と人間が接するサドルが快適性にもたらすものは大きいはずだ。SP-01はロードレースの最終盤までライダーのストレスを軽減する快適性を備えているといえる。

スーパーフローという大型のホールもSP-01の存在を際立たせる部分だ。サドル中央部の穴がもたらすメリットはよく知られたものであるが、まさにその通り。205km、標高差約3800mというサドルに荷重がかかりがちなロングライドでも、デリケートな部分に違和感が発生することは無かった。今までは穴無しサドルを使用しており、しびれも「こんなものだろう」と大目に見ていた部分があったが、穴開きサドルの快適性を味わってしまったら二度と戻れない。とりわけ開口部が大きく開けられているスーパーフローは幅広い人にフィットするだろう。

クイーン・オブ・グランフォンド「ノヴェ・コッリ」でもSP-01のロングライドテストを行ったクイーン・オブ・グランフォンド「ノヴェ・コッリ」でもSP-01のロングライドテストを行った
セッレイタリア  SP-01 Giro dItalia SuperFlowセッレイタリア SP-01 Giro dItalia SuperFlow
また、ノーズ部分が広く作られているため、サドル前方へと腰を移動させた際にしっかりと荷重をかけて座ることが可能だ。ヒルクライムや平地で高速巡航したい場合などで活躍してくれるだろう。ノーズが広いと太ももに干渉するケースは少なからず存在するが、SP-01は形状の妙か、ベースのフレキシビリティによってか判断するのは難しいものの、太ももが擦れにくい。このような細かいポイントでもロングライドするうえでストレスを軽減してくれているのは非常に好感度が高い。

SP-01の価格は一般的なサドルと比較すると高めの設定であるが、これまでのサドルにはないイノベーションが与えられ、ピュアレーシングモデルとしての性能を満たしていることを考えれば妥当なところだと思う。何にも代えがたい唯一無二のシェイプは、求める性能と所有欲を満たしてくれるだろう。

提供:日直商会 photo&text:藤原岳人(シクロワイアード編集部)